第2分科会「高齢社会フォーラム・イン横浜」

「シニアの健康づくり」

第2分科会の様子1
講演・コーディネーター
福永 哲夫
鹿屋体育大学学長
■活動発表
小野崎 研郎
NPO浦和スポーツクラブ理事
松本 弘志
NPO高津総合型スポーツクラブSELF理事

【講演】「貯筋運動のすすめ」

鹿屋体育大学学長 福永 哲夫

福永氏

 皆さん、こんにちは。鹿屋体育大学の福永と申します。鹿屋体育大学は日本で唯一の、国立の体育大学です。鹿屋は九州にあります。九州、本土の一番南端になります。日本全体で見ますと、北は宗谷岬から南は西表島まで、これを結ぶと、ちょうど鹿屋が中心になると言う方がいらっしゃいましたが、本当にそうかと思って、確かめてみました。中心は鹿屋ではなくて、四国徳島のあたりです。私は徳島出身、日本の中心から参りました。

 今日のテーマは「使って貯めよう筋肉貯金」ということです。筋肉は使わないと貯まらない、お金は使ってしまうとなくなりますが。

◎体力について

 筋肉がどうなっているかという話を始めたもとは、文科省が長年にわたって日本人の子どもの体力を測っていたことからです。これは1,500m走のスタミナの計測です。スタミナが1,500mで一番よかったのは、大学1年生、19歳です。大体1980年から1990年の間で、その頃が、日本人のスタミナがピークで、そこからずっと下がってきています。今は平成23年ですが、落ちてきています。一応下げ止まっていますが、まだ1980年代に比べると、本当に少ないです。弱い、スタミナがないです。9歳の子どもは、立ち幅跳びのパワーを見ましても、1980年からずっと落ちてきて、2000年から横ばいになっています。最近の文科省の調査ですと、これ以上下がっていないとのことですが、1985年に比べると10%ぐらい低いです。
このように子どもの体力が落ちています。子どもが20歳代の大人になって、年とともに老化が始まります。子どもの頃の体力が落ちると、ずっとそこからさらに落ちていく可能性があるわけで、これは、実は大変なことなのです。

 先ほどご紹介がありましたが、私は東京大学に1990年までおりました。2000年までの間、東京大学に入ってくる学生の体力測定をしていました。毎年3,500人ぐらいの新入生がいます。その学生たちの体力を見ると、1990年ぐらいがピークです。そこから2000年にかけて、やはり10年間で10%ぐらい落ちています。これは大変だということで、いろいろ始めています。

◎体型について

 これまで私たちの研究室で、2,500人ぐらいの人を測ってきたのですが、身長・体重はあまり変わりません。体脂肪率は、男女ともに20歳代からずっと上がっていきます。脂肪が付いてくるのです。では、腕や足の回りの太さはどうかというと、これは年を取ってもほとんど変わりません。男女とも変わらないのです。前腕囲もそうです。これらの値は、年を取ったからといって、太くなったり、細くなったりしません。男女差はありますが、ほとんど同じです。

 問題は太ももです。太ももは、若いとき、男性は50cmぐらいあったのですが、年とともに細くなっていきます。女性もそうです。45cmぐらいになる。ふくらはぎもそうです。腕の太さはあまり変わらないのですが、足、特に太ももが細くなります。実はこれが問題なのです。

 では、胴体はどうでしょう。バストについて、男性はほとんど変わりません。女性がちょっと大きくなる。

 ヒップがおもしろいのです。これは90cmで、男女ともに、若者も高齢者も、ヒップは一番出ているところですが90cm、あまり変わりません。ウェストは、男女とも若者より高齢者のほうが大きい。割り算をしますと、バスト÷ウェストは、ウェストが大きくなって、バストがあまり変わりませんから、だんだん下がってきます。ヒップ÷ウェストもそうです。つまり、大まかに見てこのような体型をしていたものが、このような体型になるわけです。1以下の人が何人かいるのです。1以下というのは、こういう体型なのです。日本人は比較的少ないのですが、欧米人は非常に多いのです。ちなみに、これは私の値です。バストが99cm、ウェストが75cm、割り算をするとだいたいこのようになっています。ヒップ÷ウェストもこのようなところです。

体型について

◎脂肪について

 では、中身はどうなっているでしょう。今は形でしたが、体の中身です。超音波を使って、全身のいろいろなところを測ります。たとえば肘の後ろで、超音波で見ますと、皮下脂肪、それから筋肉があって、骨があります。この例の場合は皮下脂肪が1cmの半分ぐらい、筋肉が4cmぐらいです。測定ですぐにわかります。皆さん、ヘソの右横、ここをつまんでみてください。それは脂肪です。これをつまんで、腹筋に力を入れてみてください。力を入れても、普通は腹筋があると固くなるのですが、皮下脂肪がたくさんありますと、なかなかそれがわかりません。

 全身にどのように皮下脂肪が付いているか、いろいろ調べてみました。腕、足、胸、胴体、いろいろ調べてみますと、お腹と背中、ここに皮下脂肪が付いているのです。実は、腕などはあまり年を取っても付いてきません。20歳代と80歳代、ほとんど変わりません。男女差はあります。しかし、年を取ってもここに脂肪が付くわけではないのです。多くの人は、そんなことはない、若いときに比べてここに付いていると思う人は、手を挙げてください。別に年を取ったからといって、ここに付くわけではないのです。お腹は付いています。

 例えば、これは私のものですが、お腹のCTを病院で測りました。上向きで寝て、輪切りにしてこちらから見ています。ここがヘソ、こちらが背中です。こうして白く出ているのが背骨、脊椎です。ここに白く写っているのは、腹筋です。ここが背筋です。丸いものが2つあります。これはよく言う大腰筋というところです。あるいは、ヒレ肉と呼ばれるところです。おいしいところです。本当は触れるのですが、背中の後ろからぐっと押すとわかります。この筋肉が太い人は走るのが早いということが、最近わかりました。

 今日の目的は、皮下脂肪です。CTで撮っても見えますが、もっと簡単に見るために、超音波で見ます。皮下脂肪があり、腹筋があり、内臓がある。これは、年令によってずいぶん違います。例えば、これは20歳代の男性です。これは60歳の男性、明らかに皮下脂肪が付いていることがわかります。女性はもっとはっきりしています。これが20歳代の女性、これは60歳代の女性です。腹筋が非常に小さくなって皮下脂肪が付いています。一方で、国体の陸上選手などは、このように、ほとんど皮下脂肪がありません。こういう人は、いわゆる腹筋が割れているわけです。腕や足には、年を取ってもあまり脂肪が付かないのですが、お腹や背中は、年令の影響や、生活の影響を非常に受けやすいということがわかってきました。お腹というのは、人生を現すということです。いい人生を送っている人は、きれいなお腹をしているということです。腹の中の色はわかりませんけれど。

腹部皮下脂肪及び筋の加齢変化

 これはMRIという装置で、先ほどのCTとは違うのですが、MRIで見ますと、皮下脂肪が白く写ります。2人とも50歳代です。腹筋があって、背筋がある。ここにちらっと見えています。ここは内臓です。こちらも同じですが、こちらの人は皮下脂肪が少ない。これはどういう人かというと、こんなことを毎日やっている人です。50歳で、お子さんも旦那さんもいるのですが、よく家事ができると思うぐらい、どっぷりとスポーツばかりやっている人です。右の人は、「明日からやろう」という人です。「明日から絶対にやろう」、しかし明日が来ると、「また明日から」となる。そうするとこのようになるわけです。右の人も、左の人のような生活をすれば、左のようになりますし、左の人も、右の人のような生活をすると、右に行く、これを可逆的と言います。基本的に病気ではないという条件ですが。

50歳女性のMRI写真

 こんなに皮下脂肪がある、こちらもそうです。私のCTもそうですが、ここです。皆さん、ご自分のここを触ってみてください。ここに一番皮下脂肪が付きます。前よりもこちらです。こんなにありますから、多少五寸釘が刺さっても、ここなら大丈夫というわけです。年を取ったときに、体脂肪率が上がると言いましたが、それは結局、お腹と背中に皮下脂肪が付いてくる、その結果、体脂肪率が上がるのです。
もう1つ、皮下脂肪と内臓脂肪というものがあります。その両方を合わせたものが体脂肪率ですが、内臓脂肪も、お腹の脂肪と非常にリンクしています。

◎筋肉量について

 次に筋肉です。筋肉というのは、体中、たくさん付いています。筋肉がないと動けなくなるのです。世界で初めて筋肉の量を定量しました。量を具体的に測ったということは、世界中まだどこにもないのですが、皆さんに初めてこのデータをお見せします。例えば、肘を曲げると力こぶが出ます。ここの筋肉の量がどれぐらいあるか。先ほどは厚さでしたが、量、ボリュームです。肉屋さんに肉を買いに行きますが、普通、何gぐらい買うでしょう。例えば、300gというのはどれぐらいの量か、イメージできますね。人間の体の肉も、豚や牛の肉と同じです。これは何gぐらいあるか、イメージできますか。皮下脂肪を別にして、自分の腕の中にある筋肉は何gぐらいあるでしょう。ステーキの肉をイメージしながら、肉はどれぐらいかと。そうすると、男性は、腕の前は300gぐらいあります。後ろは350gぐらいです。女性がその70%ですから、200gぐらいです。350gというのは、缶ビールのレギュラーサイズ缶で、あれぐらいの筋肉が男性では、腕に付いています。それが、年を取っても変わらないのです。年を取ったら腕の筋肉がなくなっていくかというと、そんなになくなりません。70歳、80歳になればちょっと落ちてきますが。腕の筋肉は、高齢になってもキープされているのです。

 では、太ももはどうかと見ますと、1.8Lですから一升瓶です。一升瓶が付いているのです。女性はその7割です。腕は缶ビールですが、太ももは日本酒というわけです。これは太ももの前だけです。後ろも筋肉が付いていますから、筋肉は2升分あります。1.8kg×2、それぐらいの肉が太ももに付いています。それが両足もありますから、1.8×4、つまり7kgぐらいの筋肉が付いているのです。腕の缶ビールは年を取っても変わらなかったのですが、太ももを見ますと、落ちていきます。1.8Lあったものが1Lぐらいになるのです。ここの太さが、年を取ると細くなると言いましたが、その理由は、筋肉がなくなっているからです。皮下脂肪はあまり変わりません。筋肉がなくなる、これが一番問題です。連動して、腹筋もなくなるのです。そういうことがわかってきました。

 実は、筋肉を量るのは大変なのです。筋肉の量、これはいい加減に測ったのではありません。超音波でスライスしながら測っていくのです。そういう質量を取っているのは、日本はもちろん、世界的にも例がないのです。最近はMRIで測れるようになりましたが、何千人も測ったことは初めてです。
部位によってどう違うかを見ますと、腕は年を取ってもあまり変わりません。若い時から100%です。一番落ちるのは腹筋です。加齢とともに、一番腹筋の老化が著しいのです。普通、若いときは1cm~2cmぐらいだったものが、もう2mmぐらいになってしまいます。特に女性が妊娠して、お腹が大きくなります。大きくなったときは、皮下脂肪も紙のように薄くなり、同時に腹筋も非常に伸ばされます。ある日突然、子どもが出てきます。2kg~3kgの赤ちゃんがどんと出ますから、膨らんでいたお腹が、一気にしぼみます。風船をふくらませてから中の空気を抜いたときにゴムが波打ってきますが、まったく同じ状況が腹筋に起こります。ある産婦人科のお医者さんと一緒にやった測定ですが、見事に波打っているのが超音波でわかります。筋肉が波打っている、つまりたるんでいるわけで、その状態で数年間いますと、筋肉は一番細くなりやすい状況になります。引っ張っておくとまだ大丈夫なのですが、たるめてしまうと一気に筋肉の機能が低下していくのです。その次が太ももの前です。

◎皮下脂肪について

 このように、場所によって筋肉は付き方がずいぶん違います。皮下脂肪もそうです。ただ、筋肉は、使えばそこの筋肉が付いてきます。たとえば腹筋運動をやれば腹筋は発達します。ところが、皮下脂肪というのは、やったところの皮下脂肪が取れるかというと、取れないのです。例えば、腹筋をやっているから腹筋のところの皮下脂肪が取れるかというと、そうではない。皮下脂肪というのは全身にあります。筋肉は、使ったところの筋肉が反応してきます。お腹の筋肉は付くけれど、なかなか落ちないということを言いますが、そんなことはありません。筋肉は付きやすいし、減りやすいのです。いずれにしても、例えばトレーニングをやると、その部分だけ皮下脂肪がなくなるかというと、そうでもないのです。というのは、脂肪は、血液中に遊離脂肪酸という脂肪酸になって、グルグル回っています。その血液中の脂肪酸を取り込んで運動しますので、全身を回っているものから取っていくわけで、つまり、全身で反応するわけです。筋肉はそうではない、この2つの違いを覚えておいてください。

 特に、膝を伸ばす、太ももの筋肉、一升瓶です。これが問題ですので、ここだけに焦点を当てます。ただ、体重の大きい人、体の大きい人は、この筋肉もたくさん付いていますから、体重1kg当たり何gの筋肉が太ももの前に付いているかを計算しました。これも世界で初めてです。すると、20歳代だと、だいたい体重1kg当たりで25gぐらい、年を取ってくると落ちていくのですが、50歳以降急激に筋肉は落ちて、平均すると1年間に1%ぐらいの割合で落ちていきます。だから、放っておくと50歳~60歳にかけて10%、60歳~70歳で10%落ちます。普通の生活をしていると、このように筋肉がなっていくわけです。
ここに赤いラインで寝たきりラインとありますが、この赤いライン以下の人が60歳以上で何人かおります。現在はもっとたくさんの数のデータがありますが、そういう人たちは全員が車椅子か寝たきりの方々、つまり体重1kgあたり10gを切ると、歩けないという状況が起こります。もちろん、他の状態が病気ではないという条件です。一方で、日頃運動をしている人たちは、70歳、80歳でも20gぐらいあります。そういう人は、若者と同じぐらいです。

膝伸展筋の加齢変化

◎「貯筋」の意味

 私たちが「貯筋」と言っている意味は何かというと、たとえば11gぐらいの人がたくさんいます。60歳以降です。若い時はほとんどいない。年を取ってくると、10gに近づいてくるのです。こういう人が風邪をひいて1週間ぐらい寝込む、あるいは捻挫をして動けない。筋肉というのは使われないと、ずっと下がって、落ちていきます。どれぐらいの割合で落ちていくかというと、2日で1%ぐらいの割合です。1週間ぐらい寝ていれば、風邪は治りますが、筋肉が落ちたために歩けない、あるいは歩いてもすぐに疲れるわけです。そこでずるずると、本物の寝たきりになる、こういう状況が起こるわけです。

 一方で、20gぐらいある人も風邪をひくわけです。風邪をひいてずっと寝込んでいると落ちていくのですが、寝たきりラインまでずいぶん距離があるわけです。この距離が時間に比例します。その間に風邪が治ると、元に戻せるのです。寝たきりラインを切ると動くことが大変になるのですが、こういう体質だと回復が非常に早い。また元に戻す。というわけで、年を取ったときの貯筋というのは、いざというときに時間を稼ぐのです。時間を稼いで、回復の時間的余裕を与えてくれるわけです。お金の貯金も、困ったときに食いつなぐために大事ですよね。時間を稼ぎます。お金の貯金は、お金がなくても借金ができます。信頼できる人がいるなら借金ができる。しかし、筋肉は借金ができません。

 例えばものすごくお金があったとする。100g1万円の肉を食べたとしても、300g食べたとしても、肉にはならない、筋肉にはならないのです。筋肉をつくるためには、使うしかないのです。ここは非常に重要なポイントです。使うしかない。使うということは、筋肉を働かせるしかない、筋肉を活動させるしかないのです。そういう意味で、貯筋をしておけば、困ったときに時間を稼げるということです。

 この方はグレンさんというNASAの宇宙飛行士です。だいぶ前なのですが、70歳で宇宙に行ったことで、一時騒がれました。宇宙に行くと、筋肉は急激になくなりますので、そのためには、筋肉をしっかり貯筋しておかなければ、宇宙へ行けません。貯筋という言葉は、「適切な身体運動を実施することによって、筋量と筋力を増やすことである」という定義です。平成14年に「貯筋プログラム」を商標登録いたしました。来年4月に、この商標登録が切れるのですが、また継続していこうと思います。ヤフー辞書に、これは2005年1月2日に出た「新語探検」というところで「貯筋」という言葉が出ていました。このように解説されています。これは正しい解説で間違いがありませんので、現在、もうこの言葉が一般的になってきているということなのかもしれません。

 先ほどの例ですが、宇宙に行くとどうなるか。無重力というのは、筋肉にとっては非常に楽なのです。負荷がかからないのです。負荷がかからないというと、そんなに疲れないのです。こういう無重力の状態で宇宙飛行士が長時間いると、筋肉はどうなるのだろうということで、日本人宇宙飛行士だけ、いままで5人ぐらいお願いして、測ってもらいました。スペースシャトルで宇宙へ行く前と、戻ってきたあととを調べました。どうなるかというと、これは向井千晶さんの例です。2週間のフライトで、筋肉が15%落ちているのです。ケネディのロケット基地から打ち上がって、ジョンソンスペースセンターというテキサスのヒューストンに宇宙飛行士訓練センターがありますが、そこに戻ってきてまた測りますと、15%落ちていた。このとき向井さんは、何もしないのに、ものすごい筋肉痛があったということでした。それは重力のある状態にいきなり落ちる、無重力から帰ってくるとそうなるわけです。ほかの宇宙飛行士にも測ってもらいますと、皆さんそのような感じで、若田さんは1週間のフライトで7%落ちています。日割り計算をすると1日に1%の割合で筋肉がなくなるのです。

 では、それをなくならないようにするにはどうすればいいのか。無重力である宇宙に行っても筋肉をなくさないようにするにはどうするかというのは、重要なテーマです。いまスペースステーションの、日本のモジュールもあり、そこで日本人宇宙飛行士が1人、いろいろ実験をやっています。日本の場合3ヶ月で交替するようになっています。そのときに筋肉がどんどんなくなって、1日1%の割合でなくなっていくと、大変なことが起こりますので、それをなくさないためのやり方、カウンターメジャーというのですが、それをやりました。そのためには、毎回宇宙に連れて行って実験するわけにはいきませんので、無重力をシミュレーションするのです。

 その方法として寝たきりにすることです。希望者を募って、病院のベッドを借りて3週間、1人50万円で、実験をしました。ほとんどが大学生ですが、夏休みの7月、3週間を取って行いました。何をしてもいい。酒はいけないのですが、それ以外は何をしてもいい、好きなものを食べさせてあげて、勉強をしてもいいし、プレモに出てもいいし、何をしてもいい。ただし、ずっと寝ていなければいけない。3週間寝たきりです。この条件で、排尿、排便も全部寝た状態でやるのです。希望者はたくさんいたのですが、その条件を聞くと、1人抜け、2人抜け、最終的に残ったのは10人ぐらいです。その人たちも、最初の3日間ぐらいは何とかできるのですが、1週間ぐらい経つと、もう勉強どころか、テレビを観る気もしなくなってしまいました。ひょろひょろとなってしまった。意欲が感じられなくなってしまいました。見事に男女差が出ました。女性はなかなかそうならないのです。男性は、途中1週間ぐらいで「もうだめだ、やめます」と。50万円をあきらめても、やめると。女の人は、ずっと最後までやられる人が多いです。終わったあと、「先生、また来年もお願いします」と。それぐらい、女性はそういうストレスに対して強いです。

 その時、やはり特異的に太ももの前の筋肉がだめになるのです。腕はあまり落ちない。平均すると1日0.5%、宇宙に行くと1%でした。そこで、ある年は、このベッドレストをやっているときにトレーニングをしました。トレーニング機器で、寝た状態で、15分やってもらいます。それ以外、つまり23時間45分は寝ているのです。わずか15分だけトレーニングをする。そうすると、太ももの筋肉が落ちないのです。わずか15分です。それでも全然落ちない。もっとおもしろいことは、運動をやったグループは、シャキッとしている。だらりとしていないのです。勉強もする、テレビも観る、昼夜の逆転もしないのです。これはデータにはならない実験なのですが、全身が非常にくっとなる。年を取ると、強い負荷で運動してはいけませんということは、基本的にそうなのですが、やはりある程度以上努力するような、ちょっとでもいいから踏ん張るようなことをやる。このベッドレストで踏ん張る。それをほんのちょっとでもやると、全身の活性につながるのです。頭がシャキッとしてくるわけです。ほんのわずかな時間ですが、集中することが大事だと思います。

 まとめますと、年を取ってくると、1年で1%ずつ筋肉がなくなっていく、太ももの前だけの話です。また、何も運動をしないでいると、2日で1%なくなります。宇宙に行くと1日で1%なくなります。この1%でまとめると、2日間寝ていると1年間年を取ったことになるわけです。60歳で、土日に何もしないで、せんべいを食べてテレビを観て寝ていると、月曜日には61歳になるわけです。宇宙に行くと1日で1年、歳を取るということになるのです。

 浦島太郎が竜宮城へ行って、帰ってきて年を取りました。これは有名な話です。これを考えてみますと、竜宮城というのは海底です。海の中、水の中です。水の中で宇宙飛行士が無重力の訓練をしていますが、水の中に入りますと、ほとんど無重力状態になるわけです。浦島太郎が30歳で亀を助けて、竜宮城へ行って、1ヶ月、乙姫様と楽しい生活をしたとします。そうすると、この計算ですと、ここは宇宙ですから、無重力で1ヶ月、30日いたということは、30年歳を取ったということになるわけです。30歳で行って、30年歳を取ったから60歳、この時代の60歳はもうおじいさんということになるわけです。これは、話が非常にうまいこと合うと思います。もし、竜宮城にトレーニングジムがあって、さっきのベッドレストのトレーニングのようなことをやっていれば、向こうで楽しく遊んでいても、何をしていてもいい、わずか15分でもいいからやっておくと、浦島太郎は60歳ではなくて、玉手箱を開けたとしても30歳と1ヶ月で帰ってこられたというわけです。

 現在の宇宙ステーションの中には、非常に強力なトレーニングマシーンがあって、毎日、けっこう激しいトレーニングをやって、筋トレをしています。そうしていないと、3ヶ月もいると、浦島太郎は1ヶ月でしたからまだいいですが、3ヶ月だと90%もなくなってしまって、使い物にならなくなる。ということが起こっています。

◎力について

 いまの話は筋肉の量の話です。次は力です。力をどう測るか。これは腕を曲げる力を測っています。これは膝を伸ばす力です。このようにして測っていきますと、年とともに力が落ちていってしまうということがわかります。足の力は落ちるのですが、腕の力も落ちてしまうのです。先ほど、腕の筋肉は300cc、缶ビールぐらいあって、年とともに変わらないと言いました。力というのは筋肉の量に比例しますので、筋肉の量がある人は力も強いはずです。ということは、年を取っても量がありますから、力は落ちないはずなのに、実は測ってみるととても落ちるのです。何故でしょう。さっきの話が説明できないわけです。力は筋肉の量に比例するということ、筋肉の太さは変わらないのに、力だけが落ちる。なぜか。

 1つは、筋肉というのは、先ほど300gあると言いましたが、筋肉は筋繊維という繊維状のものでできています。1本の筋繊維が直径、平均50μぐらいの太さ、ここの筋肉では長さが10cmぐらいです。場所によって違います。50μとすると、髪の毛の太さがちょうど50μです。髪の毛にも、細い髪の毛からゴワゴワとしたものがあるように、筋繊維も、細い10μぐらいから、100μぐらいの太い、ゴワゴワしたものまであります。いろいろあるのです。トレーニングをすると太くなります。運動をしないでいると、うぶ毛のように細くなってしまうのです。それがたくさんパックされてここに来ています。髪の毛ぐらいの筋繊維が、ここに何本ぐらい詰まっているかというと、だいたい20万本から30万本ぐらいです。運動をして、筋肉隆々としてきても、その数は変わらないのです。1本、1本は太くなるのですが、数は同じです。生まれたちょっと後ぐらいから同じです。2、3歳から数は一定です。しかし、2、3歳の幼児に比べて、大人は太いのです。それは、1本、1本がゴワゴワしたものになるからです。髪の毛は何本ぐらいあると思いますか。個人差がありますが、だいたい10万本ぐらいです。ゼロから10万。髪の毛はだんだん少なくなりますが、筋繊維はほとんどずっとキープされているのです。髪の毛の数はトレーニングによって変えることはできませんが、筋肉は運動をしっかりしていると、その太さがキープできるのです。放っておくとだんだん細くなって、筋繊維がなくなってしまう、髪の毛と同じようになくなるのです。その1本、1本の髪の毛に、全部神経が詰まっている。20万本、30万本ある筋繊維、ここは何と100万本あります。前だけ全部合わせると500万本ぐらいあります。その1本、1本に、全部神経が付いています。神経はどこへ行っているかというと、脊髄、背骨を通って、脳まで行っているのです。頭頂、頭のてっぺんで、たとえばここの筋肉はこの場所、腕はこの場所、筋肉を命令する場所が、脳の場所によって違います。ですから、そこに障害が起きると、その場所は、いくら筋肉があっても動きません。命令が行かないのです。よく交通事故で背骨を損傷すると、その背骨の中のある場所によって違いますが、例えばここの筋肉を支配しているところの背骨が壊れると、動かなくなるのです。

 そのように、筋繊維と神経と脳、つまり脳、神経、筋肉というのは、1つのシステムとして働いているのです。筋肉がしっかりしているということは、同時に神経も、脳も、全体がしっかりしているという意味なのです。筋肉だけの話ではないのです。だから、さっきのベッドレスト実験、寝たきりでも運動すれば、頭も使うでしょう。全身を使うでしょう。何もしないで寝ていると、そういうチャンスが何もないから、脳、神経、筋肉が働かないで、3週間もいると、全くだめになってしまうのです。筋肉はある、しかし、集中力がなくなる、脳の集中力がなくなると、この命令量が少なくなり、その結果、筋肉を働かせる筋繊維の活動を十分働かせられなくなります。例えば100万本の筋繊維を全部働かせれば、すごい力が出ます。そのためには、頭が思いきり働いてくれないとだめです。年を取ってくると、頭の機能が落ちてきたために、働かせる量が少なくなって、8割、7割ぐらいになってしまうのです。100万本ある筋繊維の70万本ぐらいしか働かなくなる。30万本ぐらいは寝ているわけです。そうすると、せっかく筋繊維があるのに力が出せなくなるのです。それを続けていくと、その筋はだんだんなくなってしまうのです。

 よく、年を取ったときに散歩をするのも、そんなに速くでなくて、ゆっくりでいいと言われます。それは大事なのですが、もう1つ処方するならば、ちょっとでいいですから、頭で頑張る場所、頑張る時間が必要なのです。頑張るというのはどういうことかというと、頭が頑張らないといけない。そうすることによって、筋繊維も使われるのですが、非常に重要なことは、脳がシャキッとするのです。よく、お腹に電気で刺激をして、気が付いたら腹筋が付いているという機器のテレビコマーシャルがありますね。僕は、それについては大反対です。もし腹筋を付けて、その腹筋を貯めるのならいいのですが、その腹筋は神経が付いていて脳まで行っているわけです。電気で刺激するというのは、神経と脳を全部関係なくしてしまうわけで、そういう筋肉は使えない筋肉です。脳、神経、筋肉があって、初めて使えるわけです。だから、楽をして何かしようというのはだめだということです。朝起きたら英語の単語を覚えていたというようなものがありますが、そういう発想はだいたいよくないのです。それは、つまり、幸せとは何かということになるのです。やはり人間の体というのは、努力することによって成り立つ、生物はみんな同じです。努力がなければ進歩しないということなのです。楽をして金儲けをすると、ろくなことがないとよく言うではないですか。やはり、ちょっとでいい、むちゃくちゃ頑張ることはないけれど、ちょっと頑張るのです。

 パワーという言葉がありますが、こうして動きながら力を出すことをパワーというのです。力とスピードのかけ算です。年を取ってくるとスピードも落ちますから、パワーにすると、急激に、半分ぐらい落ちるのです。日常生活の中で非常に重要なのは、歩く動作です。VTRの2人を比べてみてください。2人とも同じ年令、70歳です。「できるだけ速く歩いてください」と言っています。非常に大きな個人差があります。年を取ってくると、パワーが落ちていくのです。パワーの単位はワット(W)といいます。ワットというのはご存じですか。光の単位です。電球のワットと同じです。若いときには400W、100Wの電球を4個点けられるのです。ところが70歳になると、100W、1個です。4個電球を点けられるのが1個しか点けられなくなる。4分の1です。なぜそうなるのでしょうか。歩いたり、走ったりすることを考えてみますと、1歩、1歩があります。1つは、ピッチということです。ピッチというのは1秒間に何歩歩くか。これは1秒間にだいたい4歩ぐらいです。この数は、若いときも年を取っても変わらない。子どもも同じぐらいです。そんなに変わりません。何が違うかというと、ストライドです。ストライドというのは1歩の歩幅です。若いときはしっかりと歩ける。それが、年を取ってくると、だんだん、足がすり足になるのです。ホンダのアシモ君、あれはこうです。

 ストライドが大事なのです。なぜ年を取ってくると落ちてくるのかというと、ここに筋肉がなくなってきて、膝が上がらなくなるでしょう。筋肉がなくなると上がらないのです。結局、力を付ける、ということは、一升瓶の太ももの筋肉を付けておくということ、貯筋をしておけば、すり足にならなくて済むのです。簡単にそういう能力を上げようとして、私たちがやっているのは、椅子の座り立ちです。10回やってもらうのです。そのときの時間を計っています。この2人を見てください。同じ70歳です。こちらの人は足が短いからと言いますが、足の長さは関係ないのです。測りますと、若いときには10秒を切るのですが、年を取ってくると15秒、もっとおもしろいことに、こんなに個人差が出てくるのです。遅い人は20秒、速い人は10秒を切るのです。これが、生活によって変わってくるということです。だから、足の筋肉が萎縮して、力が落ちてすり足でつまずいて転倒骨折、そして寝たきりになる、このパターンを直すには、太ももだけです。ここさえしっかりしていればいいということです。

力について

◎貯金運動について

 お金は使うとなくなるのですが、筋肉は使わないと貯まりません。「使って貯めよう、筋肉貯筋。使えばなくなるお金の貯金」というわけです。筋肉があって力の強い人は、骨も強いというわけです。私は貯筋のテーマをつくりました。「♪みんなで伸ばそう、健康寿命。使えばなくなるお金の貯金。使って貯めよう、筋肉貯筋。老後に備えて、貯金と貯筋♪」というものです。

 この筋肉が鍛えられて、老化は抑えられる、アンチエイジングになるということです。膝が痛い人や腰が痛い人がいらっしゃると思いますが、そうではない人は、ちなみに一緒にやってみませんか。この時に、歌うことも非常に重要なことです。黙ってしていても、こんなことをやっていると、警察が来ます。歌を歌ってやると、現れないのです。だから、大きな声で歌いながら、私と一緒にこれをやってみましょう。元気な人はドンと落とさないで、椅子にちょっと腰かけてください。では座ってください。大きな声で歌ってくださいね。
「♪みんなで伸ばそう、健康寿命。使えばなくなるお金の貯金。使って貯めよう、筋肉貯筋。老後に備えて貯金と貯筋♪」。どうもありがとうございます。

 いまの運動で、座り立ち16回です。けっこう筋肉を使っている感じになるでしょう。ほんのわずかですが。これは2番もありまして、2番までやると32回です。
実際にやってみますと、筋肉を使うということは単純なことなのだけれど日頃やっていないとけっこう疲れるのがお解かりいただけたと思います。それが大事です。
本当にそれぐらいで効果があるのか、という話があります。そのために確かめる実験をやりました。基本はこれです。バリエーションで、こういうものを組み合わせて、歌いながらやってもらいました。歌は何でもいいのです。たとえばこういうものです。「♪毎日貯筋をしよう♪」とか、「♪幸せは歩いてこない♪」とか、何でもいいのです。要するに歌いながらやるのです。鹿屋体育大学でやった1つの例です。

 3日間、何もやらないときはマイナス500円です。そうしてやっていきます。これはある人の例ですが、この人は1万5,900円貯まっています。この人の1日の平均貯筋が1,647円で、最初に貯筋をやる前、腹筋が1回もできませんでいたが、「頑張れ」と言ってもできません。こういう人が多かったのですが、3ヶ月貯筋をしました。1万1,200円になったときにどうなったか。ほら、全然違うでしょう。こんな風に椅子の座り立ちができるようになるのです。11回です。平均すると最初は5回もできない、ゼロからの人がたくさんいたのですが、皆さんできるようになって、平均15回、一番少ない人でも10回です。椅子の座り立ち、この人は、いま10秒になっています。倍速くなっています。16秒かかっていたのが、皆さん10秒です。鹿屋体育大学で、大学の事務局にやってもらいました。学生室の隣に総務課という事務局があるのですが、そこでやったものです。

 12時になると、大学の校歌をいっせいに流します。それに合わせて椅子の座り立ちをやるというわけです。その結果どうなったか。全員の力が上がりました。財務課は私の言うことを聞かないで何もやらなかったら、変わりませんでした。

 去年、鹿屋市民を対象に、そのほかの項目をいろいろ測ってみました。これは血圧です。134あったものが129に下がりました。また、生活活動能力、ATLという測定項目があるのですが、それは全員が向上しました。生活満足度、ADS1Aという測定ですが、「気分はいいですか、悪いですか」というような項目があります。その全員の満足度が向上しました。また、主観的幸福感、PGC、「あなたは幸せですか」という測定項目があるのですが、それが増しました。そして、認知機能が上昇しました。軽度認知症の疑いがある、その項目の人が減少し、正常な人が増えていきました。結局、力やパワーが上がると同時に、心、脳の機能もよくなったという例です。

 同じことを、デイサービス施設、これは東京北区の施設ですが、やってもらいました。

 最初は皆さん椅子に、もう少し浅く椅子に腰掛けて、お腹に手を置いて、腹筋を入れて、ぐっとお辞儀をします。もとに戻します。それを10回ぐらいやると、けっこう腹筋にくるのです。筋肉も付いてきました。このデイサービス施設の人たちは、半分ぐらい寝る人がいたのですが、もう寝なくなりました。Aさん、85歳ですが、ほとんど上がりませんでしたが、椅子の座り立ちをやってもらいました。私は、10回はできないと思ったのですが、3ヶ月経ったときにどうなったか、同じAさんです。このように全然違います。最初60秒かかっていたものが、何と20秒でできました。もっと驚くべきことは、Aさんに「できるだけ速く歩いてください」とお願いしました。9月の状況はこんなゆっくりな感じです。3ヶ月経ったときどうなったか。もう小走りぐらいになります。皆さんよくなりました。

 年間ビール消費量が17万5,000cc、これはそんなにたいしたことはないのですが、毎日のデータ、毎朝起きたときにこのようにマニアックに付けています。これはおへそ回りとウェストです。血圧も、上がったり、下がったりします。体というのは、毎日のように変わっているということです。力もそうです。「ウェストサイド物語」がありますが、もじって「ウェストサイズ物語」です。ウェストサイズは大事です。ぜひお勧めしたいのは、毎日体重とウェストを測ってほしいということです。体重も、デジタル体重計で、毎日カレンダーに付けていってください。そのときにウェストを測るのです。自分のお腹は見たくないという人もいますが、3日も見ていると、見にくいものも見やすくなります。そして椅子の座り立ちの時間を計る。この3つをやっておけば完璧です。自分の体がどっちを向いているのか、いい方向に行っているか、悪い方向に行っているか、わかります。

 たとえば体重がキープされていても、ウェストが大きくなっているということはよくないことです。それは体重が同じでも、筋肉がなくなって、脂肪が付いている結果で、そうするとウェストが大きくなります。この2つは絶対に必要です。教養ということがあります。これは単なる学識とは異なります。いろいろなことを知っているということとは違います。「一定の文化理想を体得し、それによって個人が身につけた創造的な理解力や知識」ということです。私は、身体教養が大事だと言っています。理想的な体を意識することです。長さは変わりません、変えられません。鼻の高さなどは変えられない。変えられないものはどうしょうもない。しかし太さと重さは変えられます。太さと重さを変えてあげればいいのです。体重とウェストはまさにそうです。それはいくらでも変えられますので、自分の太さと重さの理想の目標値を設定して、そこに到達していくために工夫する知識と技術です。今日は、その知識と技術を皆さんに伝授したつもりです。

◎追加のお話~日常できる運動

 それでは、ついでにお話しします。運動する機会は、工夫すればいいのです。電車に乗っているときでもいいのですが、その場で、床から足を10cmぐらい上げてみてください。そのままでいてください。普通山手線ですと1駅が3分、止まっているのが1分です。たとえば3分、椅子から足を上げていて、駅に着いたら下ろす。1分休憩です。動き出したら、また上げる。これをやれば、通勤中に15分、ウェストサイズ物語です。多くの人は運動不足だと思いますが、そう思う人は手を挙げてみてください。ほとんどの人が運動不足だと認識していると思います。1つ、一番イメージするのは、いわゆる散歩、ウォーキングです。あるいはジョギング、これはけっこう激しい運動です。汗をかきます。テニスをやる、卓球をやる、こういうことを運動と考えますけれど、そうではなく、筋肉を使えばいいのです。筋肉を使うというのは、日常生活のいろいろな場面でたくさんあるのです。♪貯筋のテーマ(椅子の座り立ち)は、わずか16回です。食事をするときに16回やるのです。あっという間に終わります。それが体にとって運動することになるのです。身体教養です。それは教養ですので、たとえば犬や猫と散歩するのは、どうなりたいかなどと考えないのです。これは教養なのです。生活を工夫する。自分の生活がよりエンジョイできるような質の高い、クオリティ・オブ・ライフ「QOL」というものです。私はそれにHを付けます。「HQOL」、ハイ・クオリティ・オブ・ライフです。これからは、ハイ・クオリティ・オブ・ライフ、高い生活資質を自分でつくっていくのです。それはお金も財産も、何もいらない。こうやればいいのです。それが本当に積み重ねで、ウェストサイズ物語なのです。皆さん、ぜひ、今晩から試してください。

貯筋のテーマで楽しく貯筋

〔各発表者からの報告〕

◆小野崎 研郎 (NPO浦和スポーツクラブ理事)

小野崎氏

 浦和スポーツクラブという、地域のスポーツクラブの運営に携わっています。自分がスポーツをしたくて入ったクラブなのですが、活動をしているうちに、いろいろ関心が広がりました。今年86歳になる父と同居しており、最近では、高齢者の方の健康づくりが気になり、取り組んでいかなければいけないと思うようになりました。長く元気でいてほしいということもあって、高齢者向けの運動を進めていこうと考えています。

 地域でどう広げていこうかという視点から、今日はご報告させていただきたいと思っております。

◎浦和の紹介

 浦和スポーツクラブという名前でお分かりいただけるように、浦和市、今は、合併してさいたま市にあります。さいたま市は何かと横浜と比べられ、横浜に追いつけとよく言われています。

 もう50年、そこに住んでいるのですが、非常に古い住宅街です。京浜東北線で横浜とつながっておりまして、今日は京浜東北線に1時間半ほど座ったまま乗ってきました。足を上げないで来てしまいましたが・・・。

 横浜にも地域のスポーツクラブがたくさんあると思いますが、総合型地域スポーツクラブは、まだまだ知名度が低いので、どんな活動をしているのかということで、お話しいたします。

 周辺の地図をみていただくと、3km四方ぐらいの四角の中に、たくさんの学校や、市のスポーツ施設があります。私どもの事務所の他に、公立学校や市の体育施設があります。こういった公共施設を、抽選を経て利用するなど、活動の拠点にさせていただいています。

 駅から1kmぐらい離れているところなのですが、古い町なので、非常に住宅が密集している地域です。さいたま市は比較的若い市だと言われていますが、私どものところは比較的古くからある町で、「眠れる町」と言われるぐらい、実は中高齢者の方が多い地域です。さいたま市全体で、65歳以上のいわゆる高齢化比率は15.9%なのですが、浦和区は17%です。あと数年経つと一挙に高齢化が進む地域だと言われています。その備えが、うちの地域ではまだまだできていないのではないかと、普段、スポーツなどの活動に携わっていて、感じているところです。

クラブの紹介 周辺施設と主な活動場所

◎クラブの紹介

 クラブの紹介をします。浦和ということで、ご多分に漏れず、サッカーをやろうというクラブで始まりました。Jリーグを目指そうというクラブで始まったのが91年でした。2004年に、自分たちで活動していくために、NPOの法人格を取得しました。

 現在、クラブの会員、プログラムに参加してくださる会員の方が1,300人ほどになっています。5歳から86歳まで活動しています。

 職員は、常駐の職員が3名おり、事務アシスタントは2名です。理事は会社員など様々です。指導者は、学生さんも含めて、いろいろな方が関わってくれています。

 職員は、サッカーの指導者を兼ねている者が2名になります。こうした地域のスポーツクラブは、十分な給料を出せていないので、もう少し安心して活動していける環境にしていきたいと考えているところです。

 具体的に、どんなことをやっているかと申しますと、大きく分けてサッカーでは7つのプログラムがあります。幼稚園児から高齢者まで参加できるプログラムがあります。スーパーシニア広場は、60歳以上の方々が、毎週木曜日の1時から3時ぐらいまでサッカーをおこなっています。最高齢は80歳前後の方がいらっしゃいます。このプログラムが、一番出席率が高いようです。1時~3時頃という時間は誰も使わないということで、うちのシニアのコーチが、「よし、60歳以上を集めてみよう」といったら、40人ぐらい集まりました。真夏(7月、8月)は、幼稚園児はお休みにしており、シニアの皆さんにも「休んでください」といっても、毎週のリズムでやっているので、いやだとおっしゃいます。「おれたちは、ここで死ねたら本望だ」と。私たちは、「死なれてしまうとクラブが潰れてしまうので、絶対に無理をしないでください」と言いながら、水分摂取の勉強などをお願いして、毎回AEDも持ち込みながら(笑)、真夏も活動していただいています。

 その他、自分たちで借りている事務所の中にも、100平方メートルほどのフロアがあり、そこで、いろいろな健康運動や、お母様方のフィットネスプログラムなどをやらせていただいています。

 事務所と合わせて20万円を毎月払って、お借りしています。そのお金は、だいたい安いプログラムで、月に1,500円ぐらいから、サッカーは少し高く、5,000円ぐらい払っていただき、その会費でこういった施設を借りたり、指導者の方に謝金を払ったり、職員の給料を出したりして、運営しています。

 先ほど申し上げましたように、もともとはサッカーから始まったのですが、このような活動をする中、高齢者の方の運動なども考えていかないといけないということで、太極拳や、シニアヨガという名前を付けて、少し強度の緩いヨガを入れたりしてきました。

◎ 貯筋運動の実践について

○教室の開催

 前置きが長くなりました。実は、貯筋運動につきましては、去年と今年、それぞれ教室を開催しています。去年は、9月から12月の、毎週月曜日と木曜日です。なるべく多くの方に体験していただきたいと思い、月曜日のクラスと木曜日のクラスに分けました。本当はもう少したくさんの方を受け入れたかったのですが、会場の広さの都合がありました。また、健康・体力づくり事業財団さんの講習会で福永先生の講習を受けた健康運動指導士に、貯筋運動の指導をしていただいています。サポートは付いているのですが、1人の指導者が見られる人数に限りがあります。目が届かないところで無理をされたり、間違ったことを教えたりしてはいけないということで、20名前後で始めました。

 とにかく多くの方に知っていただきたいと考えました。本当は、民生委員の方とか、行政に協力を求めて、高齢者の方へご案内をするのが一番確実なのかもしれませんが、今は、いろいろと難しい時代になってきています。私どもにそういった情報をくださいというのも個人情報の観点から大変ですし、私たちがやる事業にいきなり協力してくださいというのも組織的には簡単に対応できないということになります。そこで、周辺の2万世帯に新聞の折り込みチラシを入れることでPRと募集を行いました。駒場体育館というところでやったのですが、その近くの自治会さんに回覧をさせていただくなどして、全部で約40数名の方が集まりました。チラシを見て申し込んでくださった方は、2万世帯に配って、30人ぐらいですので、ものすごく確率が悪いのです。2万世帯に配ろうとすると20万ぐらいかかりますので、非常にもったいない。クラブのことや、こういったことを知っていただく、目にしていただくという一つの手段だとは思いますが、こういう取り組みへのPRの方法がもっと有効になるといいと、今でも感じています。

 昨年度は12回やらせていただきました。中身については、先ほど福永先生からたくさんお話がありましたので割愛させていただきますが、健康運動指導士のインストラクターが、栄養士の資格も持っており、いろいろな話題を入れてもらいました。

 会場は準備から片づけまで含めて2時間取っているのですが、少し時間に余裕ができますので、ちょっと変わった器具を使った運動をするとか、少し栄養学の講座のようなことを入れたりしながら、やらせていただいています。

○参加者アンケート

 12回の講座が終わったあと、アンケートを採りました。回答をくださったのは30数名でしたが、「来るのはどうでしたか」と聞くと、「楽しかった」と答えた方が19名、「楽しくできました」というかたが15名、「楽しくなかった」という方が1名いらっしゃいました。この方はどういった方かとお聞きしたら、少し膝を悪くされてしまって、これだけの影響ではないのですが、ただ、「せっかくみんなで始めたから行かなければ」と思って来ていたけれど、ちょっとしんどかった様子でした。

貯筋運動への取り組み 平成22年度 1

 「運動の強さはどうでしたか」とお聞きしたら、「ちょうどいい」という方が30名、「少し弱め」という方が5名、「強い」といった方はいらっしゃいませんでした。こういったことに関心をお持ちの方は、自分でいろいろ取り組まれていて、同じレベルでやっていると、少し弱めかなと感じていらっしゃる方もいたようですが、多くの方がちょうどいいということでした。先ほど、先生からもご紹介がありましたが、運動の強さ、速さを変えたりする中で、自分でも調整できますし、そういった中でやっていったようです。

 実は先ほどご紹介しましたように、1回目の去年は、財団さんでプロジェクト費用を持っていただいたので、私たちはほとんど経費がかかりませんでした。会場費や保険代などいろいろ現場で直接使うために、参加費は12回で2,000円を集めたのですが、継続して開催していこうと思うと、NPOなので、運営側はボランティアでいいのですが、指導者の方にはしっかりと謝金をお支払いしないといけないということがあります。

 そこで「お金がかかっても続けたいですか」とお聞きしたところ、大半の方から「はい」とお答えいただきました。「その他」「いいえ」の方はどんな方かというと、「自分で目標を持って続けられる自信がついた」「会費と関係なく、自分で続けられそうだ」と、通われるのがちょっと遠かった方などは、自分で続けられると考えた方もいらっしゃったようです。

貯筋運動への取り組み 平成22年度 2

 「続けるときの、教室の内容はどうですか」とお聞きしたところ、「もう少し強くしてほしい」という方が3分の2、「これまでと同じでいい」と言った方が3分の1ぐらいでした。私たちも担当者がずっとサポートに付いていたのですが、参加者の方がお互いに声を掛け合いながら和気あいあいと取り組んで、毎回非常に出席率が高かったということと、先ほど申し上げましたように、指導者が栄養士の資格を持っていたので、いろいろなプログラムからお話ができて、参加者の皆さんも満足してくださったと思っています。

○今年の取組

 継続を希望したいという声があり、また、多少お金を払ってもいいという形でしたので、今年度始めようと思っていたのですが、ご存じのように大震災があって施設が使えないなどの問題があって、途切れてしまいました。しかし、今年も頑張ろうと、厚労省の実践的な予防活動支援事業に応募したところ採択されました。

 近隣自治会と連携して、3ヶ月のプログラムを6教室で始めることにしました。昨年と同じように募集をかけようと思ったのですが、自治会さんにせっかくお話をしたので、全部回覧で回していただきました。参加費の方は、今回厚労省の事業費をいただけたので、本当はあまりよくないと思うのですが、無料で始めました。

 実施内容は、同じようなことです。今、まだ1ヶ月半が終わったところで、結果が出ているわけではないのですが、早くも、参加している方からは、「3ヶ月後の受け皿をちゃんと用意しているのか」「このまま、せっかく習慣になってきたのに、終わってしまったら、いい時間が崩れそうだから早く考えてくれ」というお叱りをいただいております。

 参加していただいている方が、ご近所の方を誘ったところ、「会場が遠いから行きたくない」「大きな道路を渡っていくのが大変だ」という方がいらっしゃったということで、このあたりは課題として難しいところだと思っています。

 実は、このことを言っていただいたのは、隣の町会の町会長さんで、70歳代の女性の方です。先日お会いしたら、いきなり「ほら、私、こんなに太ももが丈夫になったのよ」と、足を出されました。私は、どうしようかなと・・・女性に太ももが太くなったと自慢されても、困ったなと思ったのですけれど(笑)。ご本人は実感されていて、喜んでいただけてよかったと思いました。

 また、いろいろな測定をしていることが、本人の励みになっていらっしゃるようです。筋厚、筋の厚さを測ることなどめったにないですから、そういうものを示すことで、ご本人たちにとっては関心が高く、続けていらっしゃるようです。

 福永先生から、貯筋通帳のご紹介がありましたが、いまはこんな形をしています。このままコピーをして銀行に持って行けそうな貯筋通帳です。いろいろなものが書けるので、歩数計もお渡しして、毎日の歩数を記録してもらうなど、楽しく皆さんに続けていただいているようです。先ほどの歌も、最初はみんな声が小さいようなのですが、だんだん声が出るようになってきて、発声という意味でも非常にいいと思います。

○今後の課題

 これからもどんどん続けていきたいと思っているのですが、問題と思っていますのが、指導者の確保と、行政のどういったところでこういったことを所管してくれるのかということ、それから公共スペースの不足を感じています。

 今回、調整が大変だったのが、貯筋運動の指導者です。私どもの指導者は、、昨年、講習会に参加してくれており、やれるようになったのですが、今回は6教室をやるということで、なかなか大変な状況です。

 参加者がもっと増えたときにどうしようかと。「来年も続けてね」と言われている人たち向けに、どうやって調整していこうかと思うと、これを教えられる方をどんどん増やしたいと思います。

 一方で、私が他の高齢者向け事業に関わったときに、正しい知識を持っている指導者がいないと体をこわされてしまう方も出てくるので、やはり指導者の方をちゃんと増やしていかないといけないと感じたことがあります。指導者の養成は、私たちだけではできないので、財団さん、行政さんにお願いしたいと思います。

 この運動をしようとしたときに、地元のさいたま市に「こういうことをやるから、ぜひ、見に来てください」と、最初に保健センターに言いました。しかし、「うちはメタボ予防はやっているけれど、介護予防はやっていない」というので、介護系は高齢者課というので、そちらに行ったら、「介護予防はうちではない」と。また、「地域スポーツクラブは教育委員会でしょう」と言われました。別に行政を頼って、やっているわけではないのですが、行政の中でも、介護予防の運動に対する理解があまり進んでいないということを実感しました。

 もう1つは、公共スペースが足りないことです。先ほど「通えない」という方がいらっしゃることを紹介しまましたが、身近でできる場所がないということが悩みです。

 先ほど、いろいろな健康状態があるというお話がありましたが、どうも医者に行くと治療で、治ってきたらすぐ現場でスポーツができるかというと、できるわけではなくて、中間段階の曖昧な状態の方がたくさんいらっしゃるのですが、そういった方々に対応している教え方や場がないと感じています。

 また、身近な場所を確保しよう、指導者を確保しようというと、うちはたまたま健康運動指導士で栄養士の資格を持っている人がいましたが、彼が本当にちゃんと、そういったものを職業としてやっていこうと思うと、しっかりと収入を確保していかないといけないと思います。そうすると、健康行政やスポーツ行政の連携も必要だと感じています。また、施設の確保でも、公民館や自治会館だけではなく、たとえば空き店舗を使ったら、もっと近くでできるかもしれません。そうすると、健康行政の方からそういったところに声を掛けていただくとか、コミュニティの行政の関係の方、商業関連の行政の方と連携していただくことで、活動がもっと広がっていくのではないかと感じています。これからは、そういった地域の中での連携をやっていきたいと思っています。

 先ほどのように、スポーツとか医療、リハビリ以外に、ちょうどいい具合の運動を続けられる場所がまだまだ少ないと思っているので、いろいろな方々と連携しながら、いろいろな方が自由に健康状態に対応できる土台のところをつくっていきたいと、私どもは活動しています。

 以上で終わらせていただきます。

◆松本 弘志 (NPO高津総合型スポーツクラブSELF理事)

松本氏

 これからこういうクラブを展開していきたいという目標のある方にお集まりになっていただいていると思いますので、精一杯お話しさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○クラブの紹介

 私どもは、川崎の高津区で総合型の地域スポーツクラブを始めて7年ぐらいになります。当初は高津の久本小学校と高津中学校で、夜、各施設など公の施設を借りて、子どもたちにスポーツを通じて楽しさや達成感を伝えるという目的で設立しました。しかし、だんだん、高齢者が4分の1から3分の1に増えて行きます。そうしたときに、地域で、私共ができる、きちっとした高齢者に適した健康づくりがどういうものなのかということを考えました。私も民間のスポーツクラブを約38年運営しています。 様々な団体・大学等の各研究機関で、いろいろな運動プログラムが発表されています。どういう健康づくりの運動プログラムを高齢者が望んでいるか、そうした状況下、何年か前に貯筋運動に出会い、この運動だったらいけると、現場の指導者レベルで判断をし、うちの総合型の地域スポーツクラブ内で、これをどういうふうに展開し取り入れ、定着をさせていくかという形を考えました。その取り組みについて、ご紹介させていただきたいと思います。

○平均寿命と健康寿命

 貯筋運動の利点は、まず自習でできるということ、道具がいらないことです。自宅で手軽にできます。残高チェック、貯筋通帳などのツールを用いて、自分たちの記録を残していく。毎日体重を量ることもそうですが、そういうことできちっと実践することで、自分の体力が向上していくことがわかるのです。
2020年ぐらいの人口を見ますと、だいたい65歳以上の方が3,500万人ぐらいになります。だいたい4分の1から3分の1ぐらいの人口が高齢者になっていきます。

 平均寿命と健康寿命の話をさせていただくと、今言われている、俗に言う平均寿命というのは、いまゼロ歳の子が79.29歳まで生きられるということで、これに一番関わってくるのは「余命」という言葉です。余命というのは、平均余命<1>と書いてあるものが、60歳の方が、男性の場合22.58歳まで生きられる、60歳まで生きた方がここまで生きるということです。65歳までの方が18.60歳ですから83歳まで生きると。健康寿命とは自分が自立した生活ができるということを出した数字なのですが、この差が女性も男性も10年以上あります。その10年以上の間が、病気になったり、介護の世話になったりする期間ではないかと思います。

平均寿命・健康寿命(平成21年)

◎貯筋運動の実践について

○実施までの道のり

 次は、常に運動をしている人の表です。60歳から69歳は、女性の場合で、だいたい3割近くの人たちが何かしらの運動をしています。つまり7割の方は運動をしていらっしゃらないのです。ときどき運動しているという方は、44.5%、35.0%という数字ですが、この方を定期的に総合型スポーツクラブの中で、地域のスポーツクラブで取り入れることができないだろうかということが議題として出ました。取り入れるために、私たちは貯筋運動というツールを選んで、これを普及しようとしています。先ほど小野崎さんに発表していただきましたが、私たちでもチラシをつくって、歩いているだけでは健康にならない、歩いているだけでは不十分であると言っています。

 私がスポーツクラブをやっている中で、お医者さんに「歩け」と言われて、歩いて膝が痛くなって、水中運動に来る方がけっこう多くいらっしゃいます。その前に、やはり筋力トレーニングのようなことをやって、きちっと筋力をつくらなければいけないことも、現場レベルではある程度自覚をしています。そういう方向できちっとやっていただくことが一番いいと考えています。

「老人いこいの家」での運動の様子

 横浜市も、タウンページという広告があると思うのですが、このチラシをまきました。無料ということもあったと思うのですが、25名の定員で、10時から募集を開始し、電話を受けて、お昼ぐらいまでに50人ぐらいまでになりました。52名で、そこからはカウントしなかったのですが、これだけの方がいるということは、高津区の中できちっとした運動をしたいということに対して、高齢者の方の意識が高いのではないかと思っています。我々の設立メンバーは、学校のPTAや中学の校長先生、それから体育指導員、民生委員、ライオンズクラブ、ロータリークラブのメンバーなどです。そこで、地元の設立メンバーのネットワークを生かして、会場について、どういうところにセッティングしようかと話をしました。結論的には、だいたい築40年以上経つ「老人いこいの家」です。高齢者の方々が来やすい場所、集会所や老人いこいの家など、身近な生活圏、歩いて5分10分のところでやったらいいのではないかということで、健康・体力づくり事業財団さんのご協力をいただき、最初にやった会場が、下が畳で、これは多分築45年以上経っていると思うのですが、25名の定員でやりました。老人いこいの家や町内会の施設など、高津区にはたくさんありますので、今後はそういうところでの展開を、考えています。指導者は、こちらから派遣するという形です。そこの町内会の方々などにいろいろな方へ依頼をして、会場を開いていただくことを考えています。

 余談ですが、2008年神奈川新聞で、横浜市が初めて65歳以上のひとり暮らしの高齢者の孤独死について実態調査をしたところ、その前年の4月から12月までの9ヶ月間で、約130人が死亡していたことがわかりました。孤独死した人の男女の比率は、男性が7割、女性が3割でした。発見に至るまでの期間は、死亡当日と翌日が43%、死後3日から1週間が39%、8日以上が18%でした。発見について、近隣の住民が見つけたのは24%、次に介護サービス業者が17%、ケースワーカー、保健師、警察が6%、アパートの大家さんが4%でした。こんなことを新聞で見ると悲しくなってしまうのですが、町内会などで開催するということは、こういう方たちを1人でも減らすことができるのではないかと思っています。

 いま、私も高津区の事業に携わっていまして、公園体操などを高津区内の何ヵ所かでやっています。しかし、確かに出てきてくれるのですが、後ろでおしゃべりをして何もやらないで帰るのです。それでは、体力、筋力が育っていきませんので、そういうことを町内会の老人いこいの家や町内会の集会所、公民館等で展開していくことを、私たちは主眼にしてやっています。指導者は、私ではなく、別の男性が指導をしています。貯筋運動の詩が書いてある歌があって、みんなで大きな声を出して、やっています。

○安全な活動について

 私たちが次に考えたことは、貯筋運動の指導者の必要性ということです。現場で高齢者の指導、特に私は、脳梗塞で倒れて片麻痺の方やパーキンソン病の方を指導しているのですが、それ以外にも膝痛、変形性膝関節症の方もいらっしゃいます。NHKの「百歳バンザイ」という番組がありまして、101歳1ヶ月の男性の方がインタビューに応えたときの語録があります。ちょっと読ませていただきます。

 「どこへ行っても、「無理をするな。無理をしないでくれ」とみんなが言うのですよね。ところが、無理をしないということは、楽をしろということでしょう。楽になるということは、体力がなくなるということでしょう。萎縮してしまうということでしょう。だから、体を鍛えなければいけない。鍛えるということは、ちょっと無理をせなあかん。だから、無茶はやれないけれど、適当に無理をする。ちょっとずつ無理をして積み重ねていって、初めて健康になれる」と言うのです。早い話が、無理をしていただかないといけないわけです。ところが、指導者は無理のさじ加減が非常に難しいわけです。そういうさじ加減ができる指導者が付いていないといけないと、私は考えています。

 高齢者の健康体力の教室をやったときに、医師に運動制限をされていない方といって集めると、こういう方が集まってきます。高血圧の方が6名、高脂血症が14名、糖尿病が2人、腰痛が4人、膝痛が7名です。中には、脳梗塞後遺症、胃潰瘍の方々もいます。こういう方々に、私どもがどういう指導をしているかというと、まず薬の処方箋、これは個人情報保護法対処しないといけませんが、こういう処方箋を見て、この方はと思う方には、その人の承諾も得て、こういう処方箋を出してもらうのです。この事例の方はカルシウム拮抗剤を飲まれてアンジオテンシンIIのお薬を飲まれていますから、高血圧症です。また、狭心症のお薬も処方されています。そして、αグリコスターゼ阻害薬という糖尿のお薬を飲まれています。不整脈のお薬も飲まれています。参加者の中には、心臓に不具合が生じたときの、ニトロールを処方されている方もいます。こういう方たちも、医師に運動制限されていないという条件下で募集をしたら参加してきます。ですから、その方たちの運動中のお薬の副作用ということを考慮し運動指導を行わなければなりません。飲まれている薬によっては、運動をしていると血圧が下がってくる方もいるわけです。利尿剤を飲まれている方は脱水症状に気を付けなければいけない。βブロッカーのような薬を飲まれている方は脈拍が上がってこない。先ほど言ったαグリコスターゼ阻害薬というのは糖尿病のお薬ですが、この薬を飲まれている方はブドウ糖にしか反応できない。低血糖になって倒れたときに甘いものを採らせればいいと思って、缶コーヒーなどをあげてもだめで、ブドウ糖しか作用しないのです。こういう知識を持った指導者がそこにあたらないと、すごくいい雰囲気でやっていても、誰か1人でも事故が起きたりしたら、そこの教室は終わってしまいます。そうならないために、私たちはお薬の処方箋を本人の承諾を得て提出していただきます。「運動制限や、内科的にはどうですか、お薬を飲まれていますか」ということを聞き取ります。それでも危ないと思われる人は、担当医にこういうものを送って、運動するときにどういう制限や注意を払えばよいかということもお聞きします。

○今後の展開

 今後の展開として、いま無料体験でやっているのですが、今年は、いま町内会の方、こういう方の意向で、年内中に100名集めて、有料で受益者負担を考えて展開していこうと思っています。現在、100名をちょっと超えました。目標は達成してきました。3年先は、20会場でやるつもりです。いまは3会場ですが、年内に5会場を考えています。今、無料体験教室を3会場でやっていますので、そこも加わってくれると思いますので、年内には5会場、来年は10会場、再来年は20会場での展開を考えています。

○今後の課題

 今後の課題ですが、この会場をどういうところで、どういうふうにしたらいいかということです。有料事業になると、老人いこいの家や集会所はなかなか(私たちのような受益者負担で有料事業の展開を考えている団体には)貸してくれません。私たちが言って借りるのではなく、そこでお仲間にサークルを作っていただいて、その人たちが借りて、その人たちが私たちを呼んでくれるという形を取ろうとしています。そうすれば、そこで有料事業をやっているわけではありませんので、展開していけると考えています。
クラブの運営について、私は受益者負担を一番に考えているので、行政の補助金もありがたいのですが、その補助金が止まると、事業が止まってしまうので、やはり半永続的にやりたいのは、受益者負担で続けていくということです。ですから、きちっとした指導者の下で、受益者負担で地域の方が健康になって、元気で明るい地域社会ができれば、クラブの、地域における存在も向上するのではないかと思っています。

 最初に集めた方々の中に、町内会の役員の方が3人いらっしゃいます。「こういう事業をやるので、最初に来てください」とお願いしましたら、いろいろな関係で来てくださり、その方たちから口コミで広まって、今の状況になりました。今後の展開をまた考えていきたいと思っています。

 ご清聴ありがとうございました。