開催挨拶「高齢社会フォーラム・イン東京」堀田共同代表

堀田 力
高齢社会NGO連携協議会共同代表
公益財団法人さわやか福祉財団理事長

堀田 力 高齢社会NGO連携協議会共同代表 公益財団法人さわやか福祉財団理事長の写真

 樋口恵子さん命名のこのフォーラムのテーマタイトル(「高齢者(シニア)の社会参加が世の中を変える」)は、本当に勇気づけられるタイトルです。

 今、内野審議官から『高齢社会対策検討会』の報告書の説明がありましたが、この副題も素晴らしい、“尊厳ある自立と支え合いを目指して”、本当にそのとおりです。
 一人ひとりが尊厳を持って、その人らしく最期まで暮らしていく。体が不自由になっても精神は自立して、支え合いの中で最期まで自分を生かせる社会をつくりたい。私どもの願いであり、その議論が今年もさらに深まることを願っています。

 この1年間、我々福祉の分野は相当激しく動いています。高齢化がどんどん進み、認知症の方々も増えている。そういう現実に対応して、私どもの活動も政府の対応も進歩していると認識しています。今年の3月私たちは、NPOによる市民後見人の形をしっかり固めて全国でつくっていこうというフォーラムを行いました。

 これが新しい一つの節目になって、市民後見人、つまり我々が我々の仲間を支える仕組みがしっかり広がっていくことを願っています。政府もそれを受けて市民後見機構をつくって、ワンストップサービスで各市町村が認知症に対応できるように仕組みを整えています。これは手あげ方式なのですが、手をあげる市町村が、残念ながらまだ少ないのです。我々が自分の住んでいる地域の自治体に働きかけて、我々の仲間である認知症の方々が最期まで、その人らしく自立して生きられる社会を実現していきたい。

 市民後見人制度の進歩は目を見張るものがあります。

 福祉関係のいろいろな動きの中では、一つは日常生活支援総合事業です。お聞きになったことがあるでしょうか。そういう名前の事業を国が提唱して、今年の4月からこれも手あげ方式で政策実施されています。簡単にいうと、我々がやっているような平素の活動をそのまま行政に持ち込めば日常生活支援事業として認定して、財政的な支援を含めて自治体としても支援していく。そしてそれを介護保険の仕組みと連動させようという制度です。これは画期的です。

 内閣府の「新しい公共」は、我々の活動をバックアップしてくれる仕組みです。それから厚生労働省では3年前から、地域支え合いのトンプラン(ton plan)。これも我々の活動をバックアップしてくれる活動です。

 いままでは行政の理解で我々の支え合いの活動、助け合いの活動を支援する動きがかなり出てきていましたが、いずれもそれぞれ独立した個別の活動でした。

 今度の日常生活支援総合事業は、ケアと連動させていくという大きな輪の中での支え合い、生きがいの活動を支える、その中身は仕切られていません。我々が行っている活動を自治体が「それは地域にとっていい」と認めれば、そのままそれを実行させようという柔軟な、従来の例にない新しい政策です。これも今年の4月から実施されています。

 しかし、驚くべきことに、この日常生活支援総合事業に、あまり手があがっていないのです。高連協(高齢社会NGO連携協議会)の全国の仲間はどうしたのだろうという前に、さわやか福祉財団の仲間は何をしているのだと、今月はじめの全国会議で喝を入れたところです。

 自分たちの活動をそのままバックアップしてもらえる。しかも、大きなケアの流れの中でしっかり連続的なものとして位置づけようと、国としても大きく進歩したものです。仕切る方式から力を生かす方向に転化したのだから、これはしっかり受け入れる。行政は何をやるということを言わないわけだから、放っておくと自治体は何も言いださない。だから手があがらない。こういう構図になっています。私たちは、この流れをしっかりつかまえて活動に生かしていきたいと願っています。

 もう一つの試みは、包括ケアの仕組みです。地域包括ケアの仕組みは、介護保険が始まって5年目に、樋口恵子代表と私が入った研究会での提言を行政が取り入れて、「尊厳」を介護保険の中に最終目的として打ち出したのです。

 最期の大切な時期に、病院あるいは施設に入って、不自由なままに人生を終えるのは尊厳に反するのではないか。どんな状態になっても、最期まで自分らしく暮らし人生を全うするためには、やはり住み慣れた地域や自宅で最期を迎えられるようにしないと、我々の夢、目標は実現しないのではないか。

 それには介護保険で1日に1回来てくれるだけのサービスではできない。たとえ自分一人になり、一人で食事ができなくなっても、あるいは調理ができなくなっても、一人で暮らすには、1日に何回も、朝起きたとき、朝食、昼食、3時頃の排泄、夕食、お風呂、就寝時、の時々に支援をしてくれるヘルパーさんが、家に来てくれないと自宅での暮らしがままならない。

 そういう仕組みに変えていき、最期まで地域で暮らせるように包括的サービス、つまり医療からインフォーマルサービスまで、全部ひっくるめたサービスが自宅に届く地域包括ケアを実現しよう、というものです。

 この考えについては、理想主義者である、と批判を頂戴しているところもありますが、国民・市民の皆さんは最期まで自宅で暮らしたいというのは望みです。どこで聞いても、それが本音です。

 しかし、それが実際にはできないという現状がある。これを変えなければいけないということで、5年目の介護保険の改正で地域包括ケアが入り、10年目の改正で24時間巡回サービスが入りました。この対応は難しい言葉で「定期巡回随時対応型訪問介護・看護」となっていますが、この4月からやっと実施できることになりました。

 これも手あげ方式なのですが、手がなかなかあがりません。1年前から試行に入ったときに30自治体程度、その後やっと60自治体近くになりましたが、本格的実施になってもその数がほとんど変わりませんでした。いま180程度の自治体の手があがっていますが、まだまだ実施されていません。せっかく我々の夢が実現できる仕組みができたのに、自治体が尻込みして手をあげない。

 自治体としては仕事が増えるという認識があるようです。この包括ケアは、ヘルパーさんには、常時行ってもらわなければいけない。そういうことができる事業者をつくらなければいけない。しかし、事業者はそんなことをしても儲かりそうもないと尻込みする、それを説得して行くのは大変な作業です。

 けれども、尻込みする一番の原因は、高齢者の声が足りないからではないか。もっともっと本音で「こうしてほしい」「こうしたい」、という本音を発しなければならない。この仕組みができたら、最期まで地域や自宅での暮らしができるのです。「ケアは24時間体制で、一人になっても体が不自由になっても、自宅で暮らせるようにしてほしい」、「頑張ってほしい」という声が、まだまだあがらない。地方自治体に高齢者の声が十分に伝わらない。そのために手があがらない。それが現状です。

 これら福祉の仕組みは、相当進歩しました。我々の活動が十分に生かせるところまで来ています。それを生かすのが我々、そしてその仲間の力です。いかに自治体を巻き込んで、我々の活動をしっかり社会と連動したものにしていくか。そういう課題が突きつけられています。

 我々が答えを出すのはこれからです。来年もこのフォーラムがもし催されたとしたら、私は胸をはって「去年はだいぶ厳しいことを言わせていただいたけれども、さすがに各地域で素晴らしい成果があがっている」という報告ができることを祈っています。

 厳しい挨拶になり、申し訳ありません。
 皆さん、私たちのためです。みんなで頑張っていきたいと思います。
 ありがとうございました。