第1分科会「高齢社会フォーラム・イン東京」

「高齢者(シニア)が核となる地域創生に向けて」

コーディネーター
川瀬 健介
(高齢社会NGO連携協議会理事、NPO法人生活・福祉環境づくり21参与)
パネリスト
鈴木 隆雄
(国立長寿医療研究センター理事長(総長)特任補佐、桜美林大学加齢・発達研究所長、大学院教授)
澤登 信子
(株式会社ライフカルチャーセンター代表取締役)
鷲尾 公子
(認定NPO法人ぐるーぷ藤理事長)
川瀬 健介氏 パネリストの皆さん 会場写真

 皆さん、こんにちは。多数お集まりいただきましてありがとうございます。ただいまから高齢社会フォーラムの第1分科会を開会いたします。

 私、今御紹介いただきましたように、この高齢社会フォーラムに協力させていただいております、高齢社会NGO連携協議会、高連協の理事を務めております川瀬と申します。本籍はNPO法人の生活・福祉環境づくり21というところで、一応毎日働いているということでございます。

 そこで、本年度の高齢社会フォーラムの全体テーマ、「挑戦するシニアが時代を開く-多世代が支えあう地域社会に向けて-」となっております。日本の高齢化の状況につきましてはあちこちで言われておりますので、皆様よく御存じのことと思いますし、また、現実的に前期高齢者と定義されている65歳以上の方は全て保護される側で、64歳までの生産年齢人口がこれを支えているという概念にとらわれている方は、もうほとんどいらっしゃらないと思います。

 昨今は65歳以上を一応高齢者と定めた定義に、いかがなものかという声も聞こえてくるような状況でございます。そういった状況の中で、人口減少と少子高齢化が進む日本にとって、日本自体の持続可能性というものを考えたときに、やはり高齢者と言われている方々、シニア層の頑張りに期待したいという声が大きくなってきております。

 とは言いながら、一口に高齢者と言っても、皆様方が持つイメージもそれぞれ異なるでしょうし、実際に高齢者と言われている方々の気持ちの持ちようも当然ながら一様とは言えないと思います。そこで、この第1分科会では多様な高齢者像を少しでも明確化し、彼らに期待されること、あるいはその期待を実現化していくための課題解決策等々を論じて、多くの地域で多世代が支え合う、生き生き高齢社会のモデルケースづくりというものが実施されていく機運を盛り上げていければと、こんなふうに考えております。

はじめに・・・SFK21について

 生活・福祉環境づくり21というNPO法人なんですが、ここに書いてございますように、高齢者を中心とした全ての生活者が自立して安心・安全に豊かな生活を送れる環境づくり、こういったことをミッションとしまして、平成10年、実は東京商工会議所が産業界に呼びかけて立ち上げた団体でございます。

したがって、実は私も本籍は東京商工会議所の人間なんですけれども、全国の商工会議所の中で商工会議所がこういったNPO法人を立ち上げたという例はここの1つだけだと思っています。

なかなか商工会議所ということ自体が一般的ではないんですが、もちろん商工会議所と銘打つ以上、メーンの仕事は商工業の振興なんですけれども、もう1つ、あわせて社会一般の福祉の増進に資することというのが商工会議所法という法律で決められていまして、そういうミッションもあわせ持っているのが商工会議所。

その商工会議所が立ち上げたのが、生活・福祉環境づくり21ということで、今年の4月1日現在で、NPO法人といいながら会員のほとんどが企業か団体であるという、ちょっと特殊なNPOでございます。

これまで、例えば福祉住環境コーディネーターという人材育成のための検定試験を企画して、東商に施行させたり、あるいはアクティブ・スクエア2001、これは地域の中で率先的に活動している方々のソフトの展示会です。2001年ですから、当時ちょっと早目の仕掛けだったかもしれないですけれども、幕張メッセにかなり大勢の方においでいただいて、いろいろなブースで、実は私はこの地域でこんな集まりをして活動していますよというような、そんなソフトの展示会を実施したりしました。

あるいは、新宿キャンペーンという形で、新宿のまちを10のブロックに分けて、10人ずつ、高齢者からお子様、あるいは障害をお持ちの方、いろいろな方が入っていただく10人のグループでその決められた地区を歩いていただきながら、その地区が人々に持っている優しい面と優しくない面を探してきていただいて、それを地図に落としていただき、今後のまちづくりを考えるということもやってきました。

○地域コミュニティの今後の在り方

いきいき高齢社会の実現に向けたSFK21のアプローチ(キーワード)

 そういう様々な事業を行ってきた団体でございますけれども、1つ、進めていただいて、今まさに超高齢社会が現実のものとなっている、こういう状況の中での今私どもの団体のアプローチ、3つのキーワードで実はいろいろな仕事を展開しております。3つのキーワード、1つは、「地域力の向上」。安心・安全というものを地域の中で支え合いながらつくっていきたい。あわせて、一極集中みたいなものもここで回避をしていけないだろうかという形で、地域力向上に取り組んでいます。

 具体的に幾つか挙げますと、まさにそこで暮らす生活者同士の共助、互助、これの拠点をつくっていけないだろうかと。新たな地域コミュニティーを構築していきたい。場合によっては、これはまた後ほどの議論になりますけれども、今の団塊の世代等々、企業の中で知識を持ち、いろいろな経験を持っている方々が地域に帰って、何か新たな地域資源を――これまでの地域資源を事業化していくという面もあるんですが、もう1つ、これまでなかったものも、新しい地域資源を見つけて1つの形にしていくみたいなこともできるのではないだろうか。

 そんな形で、地域ごとの新たな個性といったものをつくって明確化していくことによって、ああ、そういう仕事をする地域だったら、私も住まいもそこに移して一緒にやりたいね、みたいな方々を吸引していくような形、多世代住民を誘因して、一極集中を回避していくこともできるのではないだろうかと、そんなことも研究をしております。

 もう1つのキーワードが「協働」です。コラボレーション。持続可能な仕組みづくりということで、今は1つのセクション、あるいは高齢社会対応でもいろいろな団体がございますけれども、1つの団体だけで何ができるという状況にはないと考えています。生活者、行政、企業、団体等のやはりコラボレーションが必要だろうと。その中で、やはり同じ思いを持つ、そういうベクトルを同じくする人々を結集していきたいと。みんなで支え合う形での地域づくりをしていきたい。

 その下に事務局機能の整備、これはちょっと異色ではありますけれども、こういったいろいろな地域の中での動きが展開されていく中で、やはりこれを全国のいろいろな方々に御ご紹介をすることも必要だろうと。つまり、これからの高齢社会の中の地域をどうしていくかということ全体を見渡した事務局的な機能を持つことが、これからは必要になるのではないだろうかということを考えています。実は商工会議所というのが全国で市単位に500近くございまして、こういったところがまさにそういう事務局機能を持てればいいな、なんていうことも考えたりしているところでございます。

 最後のキーワードが「団塊世代活用」ということで、地域活性化人材の育成。今いろいろなところで人材育成が必要だよと、生活コーディネーター的な形で地域の中でまとめていく、コーディネートしていく人材の必要性がうたわれていますけれども、やはり団塊の世代に我々は注目をしていきたい。つまり、これまで実は団塊の世代、日本の高度成長にあわせて、どちらかというと家庭とか地域をないがしろにすると言っては言葉が悪いですかね、どちらかといえば、仕事集中で日本が高度成長で伸びていくのを支えてきた人たちです。

 逆に言えば、そういう人口が増えていき、高度成長の中で地域という1つのコミュニティーは失われていったと思われます。昔の江戸時代の長屋的な感覚。私の子供の時代はまだ隣のうちにおしょうゆを借りにいったりというようなこともあったんですけれども、あるいは、まさに井戸端会議みたいな形で地域の方々がお話をしていて、いつもこの時間になると帰ってくるあの子、どうしたかな、まだ帰ってこないよね、みたいな形で、ある面危機管理をしている、そんなような状況もあったんですけれども、そういうようなコミュニティーも少し壊れていっている。

 であるならば、その団塊の世代の方々が企業、あるいは団体で培った知識、経験を今度は地域に生かして、新たなコミュニティーをつくっていく人材になっていただけないだろうかという思いもありまして、経験と知識を生かした地域資源の開発、事業化に団塊の世代が乗り出していきたい。

 あるいは、地域包括ケアの主役づくりという形でもお願いしたい。ただ、そのためにはやはり健康寿命の延伸ということが1つの大きなポイントになってくるので、この辺も後ほどまた鈴木先生あたりにもお話を伺いますけれども、どうすれば健康寿命と平均寿命を近づけていけるのかみたいなことも、1つの研究テーマになっています。

○地域参画の在り様

 もう1つは、まさに団体の世代の方々が地域に軟着陸していくサポートをどうしていくのか。こういう話をしていると、地域の中で、まさにこれまで企業で活躍した人が地域で来て活躍していただけるのはいいんだけれども、少し早目に動かしていた女性陣からは、どうしても縦社会から抜け切れない人が地域に来ると、かえってなかなかいろいろな動きが阻害される面もあるんだという声も実は聞こえてきます。先ほど午前中、樋口先生のお話もありましたように、やはりワンクッション、新たな勉強といいますか、企業での縦社会から、これから地域の中の横社会の中に行くということも含めて、ワンクッション勉強してから、また新しい地域の中での活躍を進めていきたい、そういうようなサポートみたいなものも仕組みづくりとして考えていきかい。こんなことを実は私どもの団体では今展開をしているという状況でございます。

 という話を1つ、とっかかりにしていきながら、お待たせいたしました。それでは、パネラーの方々から順に御発言をいただきたいと思います。

 初めに、先ほど御紹介がございました、今、桜美林大学の大学院教授、あるいは加齢発達研究所の所長もお務めになっております、国立長寿医療研究センターの理事長(総長)特任補佐、鈴木隆雄先生から、主に例えばプロダクティブ・エイジングとも呼ばれる現在の高齢者像につきまして、これまでの研究のデータ等も取り入れながらお話をいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○日本の高齢者の実像

鈴木 隆雄氏

【鈴木】 ただいま御紹介いただきました、桜美林大学の加齢発達研究所におります鈴木でございます。私のほうは、今日のこの高齢社会フォーラムの中で、特に活力ある高齢社会に向けて、何をまずきちんと決めておいたほうがいいのかというお話で。高齢者とは一体何ぞやというわけではないんですけれども、一般には65歳と言われておりますけれども、皆様、御存じのようにかつての65歳と――かつてというのは20年前、30年前、まだ平均寿命が70歳ころまでの高齢者の方と、今日の高齢者の方とでは全く違う高齢者像になってきております。午前中に樋口先生からも少し御紹介がありましたけれども、今日の高齢者というのは10年前、20年前の高齢者に比べると、10歳以上、いわゆる健康度としては若返っているということがわかっております。

 そういったような若返った高齢者、社会に貢献のできる高齢者、そういう方々が今実は日本の高齢社会を形づくっているわけです。そういった実態をきちんと科学的な目で皆様に御紹介したいなと思います。私はずっとそういう高齢者の健康に関する研究を続けてきたという意味から、少し話がかた苦しい話かもしまれません。できるだけ皆様の実感に沿うような形でお話をさせていただきたいと思っていますけれども、そんなようなことをお話をします。


 今、川瀬さんから御案内がございましたように、地域に実際に軟着陸をしていくために、一体今の高齢者というのは、言ってみれば、地域に密着した能力、あるいは生活に密着した能力をお持ちになるような、そういったことをどうやって測定するのかと、そんなようなお話も、最後に少しさせていただきたいと思います。

高齢者の定義を再考する

○高齢者の定義

 それで、まず、高齢者の定義を再考する。きのう、厚生労働省からまた日本の平均寿命が延びたというコメントがございました。夜7時のニュースを御覧になった方、いらっしゃいますでしょうか。私も実は出て、それに対してどうしてなのかということをちょっとコメントさせていただきました。高齢者の平均寿命が伸びて健康度が上がるということがどういうことを意味しているのかとか、今後も上がり続けるのかどうかとか、いろいろなことを実は聞かれて、コメントして、そのうちの一部だけしか放映はされていませんでしたけれども。

 そういう中で、少し高齢者の定義を最初に御紹介したいと思います。今65歳以上と言っているんですけれども、これはどこで誰が決めたかというと、これは極めていいかげんで、100年以上前にBisMarckという――聞いたことはあると思うんですけれども、その人が、特に最初軍人をイメージしていたんですけれども、国に尽くした軍人に対して、ある一定の年をとったら、あとは何もせんくてもええから、ゆっくりのんびり過ごしてほしいということで、じゃ、何歳にしますかといったときに、BisMarckは、じゃ、65歳以上にしようと決めちゃったんです。

 こんないいかげんなことはないんです。何で65歳にしたかというと、当時のプロイセンで65歳以上の人は1%、100人に1人しかいなかったらしいんです。100人に1人ぐらいだったら、ちょっと言葉は悪い、江戸時代の言葉ですけれども、捨て扶持食らいでいいんじゃないかということのようだったんです。こんないいかげんなことで始まっちゃったんですけれども、今や立派にWHOも高齢者とは65歳以上であるということを基本的に決めています。

 ところが、発展途上国ではいまだに60歳を高齢者として決めている国があります。例えば、隣の中国などはまだ60歳を高齢者として定義しているんですね。ですから、話しているとかみ合わないわけです。まだそういう一部の国々では60歳ということを言っていますけれども。ところが、65歳といっても、BisMarckのころの65歳、今の100年以上前ですから、日本でいうと明治時代ですね。そのころの65歳と今の65歳というのは同じ年齢だとしても、全く違う集団だというのは、皆さん、容易に想像がつくんだろうと思います。

高齢者の日常生活に関する意識調査

 そのとおりで、実際に時代が変われば、高齢者というもののあり方や定義というものは当然ある程度見直していかなきゃいけないんだろうと思うんです。そうしないと、高齢者ばかりが増えている、増えているという話なんですが、健康度から見ても、それから社会に対する貢献度から見ても、100年前の65歳と今の65歳では全然違う

 ということを、まず認識しておかなければいけないんだろうと思います。 これは実際に、午前中内閣府のほうから、内閣府の調査、今年の1月に公表というか、内々で発表されたデータですね。これ、一般の方に、あなたは何歳ごろから高齢者だと思いますかと約4,000名に聞いたところ、ほとんどの方が70歳以上とか、75歳以上と考えておられるんです。それから、年齢では判断できない。これも1つの非常にいい答えかもしれませんが、一応暦年齢でいうと、70とか75歳というのは、皆さん、圧倒的にそういうふうに思っていらっしゃるということです。

 しかし、御存じのように社会の仕組みや何かは、全て65歳以上が、先ほど川瀬さんがおっしゃったように分子になってしまう。全て分子として扱われるということになりますので、何となく実感とずれているなということがわかります。これは、もう2年ぐらい前になりますか、新聞のほうで報告された「体力自慢の70代増加、ジムで汗」と。文部科学省の調査では、12年前より5歳若返っている。ジムに通っている方ででも、そういう若返りが見られるといったようなデータです。

○日本の高齢者は若返っている?

 じゃ、若返っているから、定義も変えましょう、あるいは何しましょうという前に、若返っているというのは、一体何をもって若返っているかということをきちっと考えておかなければいけないですね。決めておかなければいけないです。ただ漠然と、何か若返っているんじゃないのということで、勝手に高齢者の定義を変えられてしまうと困る人もたくさんいるし、逆に何でそこが新しい定義なのという、科学的な根拠とは何があるのということになってしまいます。
ちょっとかた苦しい話かもしれませんけれども、科学的根拠があるかどうか。実際に日本の高齢者というのは今どのように年をとっていっているのかということを、少し紹介させていただきます。これは、ある特定の地域で20年以上測定されているデータの一部を紹介したものです。

○加齢効果-歩く能力

わが国の高齢者の健康状態について━高齢者は若返っているか?━

 ここには、加齢効果と書いてある、一番大事な1つの高齢者の能力の中に歩く能力というのがございます。これは、皆さんから左側の壁から右側の壁、ちょうどこのぐらいの距離を歩いていただくんですが、そのときの真ん中の10メートルぐらいのところを普通に歩いていただいて、それを測定するだけの非常にある意味では簡単なデータです。しかし、このデータというのは非常に意味があります。高齢期の様々な能力やその後5年後、10年後の健康度を推定するときに、一番予知能力の高い能力というのはこの歩行スピードになるんです。実はこれは年齢に関係がないんです。80代の方でもしゃきしゃきと歩かれる方というのは、データを見る限り、その後3年たっても、5年たっても、あまり生活の機能は衰えないということがわかっています。

 一方で、60代であっても、かなりくたびれたという感じで歩く方は、やっぱり3年後、5年後を見ていると、例えば要介護認定をお受けになっている割合が上がってくるとか、そういったようなことがわかっているために、歩くスピードというのはすごく大事なんです。

加齢効果

 これは、同じ集団、同じ人を10年間老い続けたときのデータです。そうしますと、こちら側は男性のデータ、こちら側は女性のデータですが、ブルーの線は比較的若い65歳から74歳のいわゆる前期の高齢者。その方々は10年、年をとると少し落ちていきます。その落ち方というのは非常に少ないというのがわかりますね。

 しかし、このピンクのほう、これは75歳以上の高齢者の方ですが、やはり同じ10年追跡をして、その方の歩行スピードを調べてみると、やっぱり前期の男性の方よりも落ち方が大きいということがわかります。これは女性でも大体同じようなことが言えるんです。この歩く能力というのは非常に大事な能力なんですが、中でも1秒間に1メートル歩ける能力が基準になります。

 1秒間に1メートル歩けると、横断歩道をすたすた渡り切れることになります、青信号のうちに。そうすると、これをずっと横棒に戻していきますと、男性の場合だと80歳を過ぎてくるとちょっと厳しい。ところが、女性のほうは、もともと筋肉や骨の老化というのは男よりも少し早目に進むんです、骨粗鬆症とか、あるいは筋肉量減少症とかですね。そのためにもともとのスピードが少し遅いんですが、中でも、75歳を過ぎていくと、その約半数が横断歩道を渡れないというデータが出てきております。ただ、これは少し古いデータなので、最近のデータではもっと速く歩けるようになったという報告もありますけれども、そんなような落ち方をしていくものなんですね。

 この「1秒間に1メートル以上」をいつまでも保って歩けるかどうかということを、どうやって保障するかということもとても大事です。

 一方で、例えばこれは太り方の変化を見ています。太り方の変化というのは歩く変化と全然違って、どんなに年とっても男も女も変わらないんです。これは、逆に言うと、皆さん、65歳を過ぎてから急に太ったり、急に痩せたりすると、生き延びれないということです。生き延びていくためには、やっぱり少し小太りの体格をずっと維持していくということがとても大事なんだなということがわかるデータです。少し先を急ぎます。これはちょっとスキップしますけれども、握力とか、そういったものも大体似たような傾向を示しているということがわかります。

○歩行速度の重要性

歩行速度の重要性

 次に、この棒グラフのデータはまたちょっと別な視点から見たものです。これは同じ地域にずっと何年も暮らしている方々を、私ども25年以上にわたって調査をずっと続けています。そういう中で得られたデータですけれども、この黄色いバーは、ちょっと古いんですが、1992年に65歳以上だった人たちのデータ、それから、この赤いエビ茶のバーは、それから10年たって10歳若返った65歳以上の集団のあるデータを示しています。

 これは、上は今申し上げたように、とても大事な歩くスピードを見ています。歩くスピードを見ていきますと、こちら側が男性です、こちら側が女性です。どうですか、皆さん、古い時代の65歳以上の高齢者に比べて、新しい時代に入ってきた高齢者は、男性でも、女性でも、そしてどの年齢階層でも、全て速く歩けるようになっています。速く歩ける能力を持っている方というのは、先ほど言ったように障害を受けるリスクも低いですし、お亡くなりになるリスクも実は低いんです。

 ということは、このデータを見ると、この10年間でこの地域にいる全ての高齢者を全部調べています、男性、女性、合わせて約1,000人いるんですけれども。この方々は、1988年からずっといまだに調べられています、65歳以上の方々ですけれども。最初に65歳以上だった方々の約6割の方が、今お亡くなりになっていますが、まだ4割の方はお元気です。この方々をずっと今後も追跡して調べていくことになるわけです。

 いずれにしても、古い時代の高齢者、新しい時代の高齢者、そしてもっと新しい時代の高齢者、実はこの新しい高齢者になればなるほど歩くスピードというのは速くなっているというのがわかっています。ということは、新しい高齢者というのは、イコール、健康度が上がっているということです。確かにこの10年間を見ますと、1992年から2002年の間に、日本全体では平均寿命が3.5歳延びています。ここの地域でも同じことが起きています。

 ということは、皆さん、とても大事なことがあります。日本は確かに高齢社会です。高齢者の方がすごく増えています。しかし、増えている高齢者というのは、かつての障害をお持ちになりやすい高齢者の方ではなくて、健康度が上がって、歩くスピードが速くなって、そして生き生きとした高齢者が増えているんだということを、このデータは如実にあらわしているということになります。この歩くスピードというのはまさに非常に重要なデータなんですけれども、こういったようなことがわかっているんです。

○高齢者の体力向上

 それから、少しまたデータを飛ばしていきますが、握力の変化、これも、男性に比べると、女性というのは筋肉がすごく弱いんですけれども、それでも女性の方は10年たつと、新しい高齢者集団でいずれもものすごく握力、要するに筋肉の力が強くなっているということが読み取ることができます。これについてはもうちょっと後でお話しします。

 こういったように歩くスピード、ものを握る力、バランスをとる力、どの能力を見ても、古い時代の65歳以上の高齢者に比べて、日本の場合、新しい高齢者になればなるほど、生活を裏づけていく体力的な、身体的なデータはいずれもよくなっているということです。その間に平均寿命が延びているわけですから、平均寿命が延びて高齢者が増えていくということは、決して障害をお持ちになる虚弱な高齢者の方が増えるのではなくて、より健康度の高い高齢者というのが増えていくんだということを、まず1つ、ここで繰り返しですけれども、ご理解いただけるとありがたいと思います。

92年コホートと基準分布として

 このデータはちょっとわかりづらいデータですが、時間もあまりないので少しはしょってお話をさせていただきます。これは、この赤いつり鐘型のグラフはある測定値で、1992年の65歳以上の全集団の平均と分散というんですが、そういう散らばり具合を示したデータです。私たち人間は、生物は全てある測定値を測定しますと、必ずこういうふうにつり鐘型の分布をいたします。これは正規分布というんですけれども。

 それに比べると、2002年の新しい10年若返った高齢者集団というのは、当然測定値は右側にずれて、ここにこういうふうに分布いたします。では、2002年の新しい高齢者の中で、一体何歳以上が古い時代の高齢者のこの赤いグラフにぴったりと重なるかということを調べてみました。それはどういうことかというと、何歳若返ったかということを調べたということです。

 それで、例えばこれは横文字で申しわけないんですが、握力というものを見ています。Mというのは男です、Fは女ですが、M、男を見てみますと、1992年の65歳以上の全体の集団では、平均値が30.2キロだったんですね。でも、分散が6.9。それとぴったり重なる2002年の高齢者の集団は何歳以上かというと、69歳以上になったんです。新しい高齢者、2002年の高齢者の69歳以上の人が、古い高齢者、1992年の65歳以上の握力とぴったり重なった。すなわち握力に関して言う限りは、この10年で4歳若返ったということを意味します。わかりますでしょうか。ちょっと急いで御説明しているから、わかりづらいかもしれません。

○歩くスピードと若返り

 先ほど大事だと言われた歩くスピード、これを見ますと、男も、女も、76歳に相当しています。 すなわち古い時代の高齢者に比べて新しい時代の高齢者は、76歳以上の歩くスピードが、古い時代の65歳全体とぴったり重なったということを意味します。すなわち、このデータで見る限り、高齢者の歩くスピードは10年間で11歳若返ったということです。これはものすごく大きな若返りなんです。こういったようにして、高齢者の少なくとも身体機能というのは上がっているというのがわかります。

生活機能の時代差

 もう1つ大事なデータ、これは20年にわたってとられたデータをここに御紹介します。これは、生活機能と呼ばれるもので、後でちょっと御説明しますが、20年でどのぐらい高齢者の生活機能――生活していく上での自立の度合いが向上しているか、改善しているかということをお示ししたデータです。こちら側は男性です。こちら側は女性です。女性のほうがわかりやすいので、女性を御覧ください。

 縦軸は13点満点になっています。これは後でちょっと出てきますが、13点満点のある測定値で測ったということです。それから横軸は70歳から74歳、75歳から79歳、80から84歳のそれぞれのときの13点満点の平均点を調べているんです。そうすると、一番古い1988年に70歳以上だった女性の生活機能の平均点というのは、70から74歳で9.5点ぐらいです。わかりますね。75歳から79歳でちょうど8.0になっています。80歳を超えると、さすがに大分平均点が落ちてきて、13点満点でいうと半分を割り切った、6.5点ぐらいまで落ちています。ういったような集団だったんですが、同じ地域で同じような暮らしをしているんですよ。それが、今度は10年たった1998年の平均点のプロットを見ますと、ものすごく上がっていますね。13点満点中、約1.5点ここで上がっています。70から79歳もほぼ1.5点上がっています。80歳を過ぎても、ほぼ1点近く上がっています。この10年で、生活機能で見る限り、女性はものすごく高くなっているということです。

○高齢化 女性特有の変化

 さらに、今度は2008年のデータ、これをさらにこの上にプロットします。そうしますと、もっと高くなっているんです。要するに歩くスピードが上がり、自分で生活する能力がものすごく高くなっているということです。男性もほぼ似たようなデータを示します。最近の2008年のデータで男と女を比べてください。男も女も、いずれも年をとると確かに減るんですけれども、男のほうの減り方に比べて、女のほうの減り方のほうが大きいです。なぜ女の人はこんなに生活機能が失われていくんでしょう。もう1つ、皆さんは介護保険というのを御存じだと思います。介護保険の中には、要支援とか、要介護1という軽度のサービスを受ける部分があります。これを申請している人の実は75%から80%は後期高齢、75歳以上の女性なんです。このデータはまさにそういうことを示しています。一番の最大の理由は、男というのは血管が老化します。血管が老化するんです。だから、脳卒中も起こしやすいし、それがもとで心臓病なんかで死ぬということが挙げられますけれども、女の人は、若いときは女性ホルモンがたくさん出ているために、血管の老化は男に比べると少ないんです。

 じゃ、なぜこんなに生活の機能が落ちるのか。それは、筋肉や骨が男よりも異常に早く老化していくからです。そのためにこういった男と女の生活機能の落ち方の差というのが今日的にもまだ残っています。これはいたし方のない部分があります。男と女という性的な違い、2形によるどうしても改善できない、もともと持っている、そういう差ということになってしまいます。

 いずれにしても、私がここで申し上げたいのは、男性と女性の違いはあるにしても、しかし、特に女性においては非常に生活機能が上がっている。歩くスピードも速くなっている。握力も高くなっている。血液の中のアルブミンという大切なたんぱく質がありますが、それも今皆さん、ものすごく高くなってきています。ということは、くどいようですけれども、たかだか10年前、20年前の日本の65歳以上の高齢者と今の高齢者、皆さん、私どもも含めて日本の高齢者というのは健康度がものすごく高くなっているんだということになるわけです。だったら、もう1回定義を見直してもいいのではないですかという議論があっても、おかしくないのではないのかなと私は考えています。

 これは、あなたのやったデータはそうかもしらんけれども、ほかのところは違うデータが出ているかもしれませんよと言う方がいるかもしれません。これは、この間も私が勤めていた国立長寿医療研究センターはまた別な老化の研究をやっているんですが、そこでも歩くスピードをちゃんと測っています。そうすると、これは1997年と2006年の同じような10年たったときの日本人の集団を見ているんですが、やっぱり新しい高齢者のほうが男も女も非常に速く歩けるようなっていることがわかります。

 これは決して、私が携わってきた東京都老人総合研究所という板橋にあった研究所ですが、そこが出したデータだけではなくて、国立長寿医療研究センターという愛知県の大府市にありますが、そこを中心とした一般の高齢の方々を調べたデータでも同じように出ている。すなわち、このことは全日本的に起きているということです。日本であまねく同じような、この高齢者の健康度が増加しているんだということが起きているということになるわけです。

○前期高齢者と後期高齢者の生活機能

前期高齢者vs後期高齢者

 こういうふうに見ていきますと、日本では高齢者といっても、もう高齢者を一くくりにすることはできません。非常に健康度の高い前期高齢者、そして、どうしても虚弱や心身の機能の減衰が明らかとなってくる後期高齢者と、2つの集団というものを考えて、いろいろな健康施策や取組というものをやっていかなければいけないと思います。

 今日は、活力ある高齢社会に向けてというのがテーマですから、その前に、もちろん後期高齢にあっても非常にアクティブな方もおられますけれども、100%、非常に健康度の高くなった前期高齢者の方々について、少し日本でも取組を変えようということが始まっています。それは、例えば新しい生活指標をちゃんとつくって、どういう人が最も今健康というふうに言っていいのかということを、新しく変えましょうということがあります。

 これは、さっき13点満点の測定値を御覧いただきましたね。これは1986年に開発された老健式活動能力指標という13点満点で、今までは日本の高齢者の生活能力をはかっていたんです。それは、例えばバスや電車を使って一人で外出できるか、日用品の買い物ができるか、自分で食事の用意ができるか、ずっと。自分の生活ができるか、知的能動性がちゃんと保たれているか、社会的な役割がちゃんとあるかと。こんなような形で、今まで調べていたんです。

 ところが、今前期の高齢者、若い高齢者の方にこれをやると、みんな満点をとってしまいます。みんな満点とっちゃいます。小学校のテストで、ある学年に算数のテストをやったときに、みんな満点とったら、そのテストは意味ありますでしょうか。ないですね。みんな満点とるようなテストは、やっても意味がないんです。

 しかもこれは、今日の私たちの生活とちょっと離れた、1986年の生活のレベルを聞いちゃっているんです。ここにはパソコンもなければ、携帯もないです。それから、ここには銀行の預金、郵便貯金の出し入れを自分でできますかと。今皆さん、通帳と判子を持っていちいち行きますか? 大抵はみんなキャッシュカードでやりますね。ということで、ちょっと古くなっていました。

 そこで、ようやく去年の10月に、新しい高齢者のこういう生活機能を測定する新活動能力指標(JST版)というものが3年かけてようやくできました。先ほどの老健式も、このJST版も、一晩寝て作ったものではないんですよ。これだけ作るだけでも大変なんです。

 私ども、これはJSTという、文科省から研究費をいただいて、全部で5,000万ぐらい、3年かけて作りました。そうしますと、これは今日的です。社会参加の部分、新機器利用の部分、情報収集の部分、生活マネジメントの部分、いずれも4つずつあります。町内会・自治会で活動しているか、地域の行事に参加しているか、ボランティアをやっているか。そして、一番大事なのは、グループ活動などで世話役や役職を引き受けているかということですね。

○ヘルスリテラシーとは

老研式活動能力指標

 それから、新機器の利用を見てください。携帯電話やパソコンのメールができるか、携帯電話を使えるか、ATMを使うことができるか。ATMって、皆さん、わかりますね。大丈夫ですか。わからない方、ちょっと残ってください。それから、ビデオやDVDプレーヤーの操作ができますか。それから、情報収集。教育や教養番組を見ているか、外国のニュースに興味があるか、美術品、映画、音楽を鑑賞しているか、健康に関する情報の信憑性について判断できるか。

 これ、とても大事ですね。信憑性について判断できるか。これ、横文字で言うと、ヘルスリテラシーと呼ばれています。これが大事なんですね。コマーシャルの中に皆さん、いっぱいありますでしょう、何とか食品が出している何とかサミンは、飲んだら膝の痛みが一発で消えましたと。みんな、ほとんど大体眉に唾つけたほうがいいようなものがいっぱいあります。でも、よく見ると、右上に、これはあくまでも個人の感想であり、効果効能を示すものではありませんと出ています。あれが出ているものは、科学的根拠がないと見ていいです。そういう信憑性について判断できるかどうかというと、とてもレベルの高いことを聞いているんです。

 そのほかに、病人の看護ができるか、孫や知人の世話ができるか、生活の中の工夫ができるか。そして、詐欺、ひったくり、空き巣の被害に遭わないようにしているかという、まさに今日的なことを聞いています。

 皆さんの考え方は、「夢、希望、継続」だよという気持ちで、こういう言葉を書いていただきました。

 皆さん、ここでどうですか、何点ぐらいとれていますか。私、上から目線が偉そうに言っていますけれども、私は実は満点とれていないんです。ビデオやDVDの操作を私はできないんです。ですから、作った本人ができないという。でも、こんなようなことで、今日のアクティブな皆さんが地域で活動していく、そして活力ある高齢社会をつくっていくというのは、実はこういったことがしっかりできるかどうかということのやり方なんです。

○若返る高齢者―高齢社会の担い手として

 これ、ちょっと難しいんですが、こんなような難しいきちんとした統計的な手法を通じて確定されていますよと。それから、老健式のものと一緒にして全部で測定することができますよとかですね。

 それから、これは平均点です。例えば全体の平均点はまだ……。先ほどの老健式というのは全員満点とると言いましたが、これをやりますと、平均点は大体16点中の10点です。だから、10点とれていると平均点だということがわかります。ただし、この隣に書いてありますように、前期の高齢者は11点です。しかし、後期の高齢者になりますと9点です。男性は11点です。女性はちょっと落ちて10点です。こういったような、大体の平均点も今わかってきています。これが今日本で高齢者の生活機能を測定する1つの新しい、そして重要な指標として用いられています。こういうことができるようになれば、活力ある高齢社会、そして前期の若々しい高齢者の活動度というものを測定していくことができることになります。

 今後、こうやって、個人向け、専門向け、研究向け、社会組織向け、企業向けというふうに多様な作り方で、多様な利用のされ方でいくんではないかというふうに考えています。こんなふうにして、私のほうからは1つだけ、今日元気になった、元気になったと言いますけれども、実際にはものすごく健康度が上がっているということですね。生活の機能も上がっているということ。かつての古い時代の生活機能を測定するようなやり方では、とてもじゃないけれども測定できないくらい活力の高い人が増えている。

 でも、そういった人たちが、これからの活力ある高齢社会の中核を担っていくわけですので、高齢者の定義も含めて皆さんで一度お考えになったらいかがでしょうかということを、ちょっと私のほうから報告をさせていただきました。私の報告、これで終わりたいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)


澤登 信子氏

【川瀬】 それでは、次に、株式会社ライフカルチャーセンターの澤登社長から御発言をいただきます。澤登さんは長年ソーシャルビジネスのプロデューサーとして御活躍されていますけれども、本日はその様々な御経験から、地域づくりの具体的な形と、それを動かす人材づくり。特に、先ほど私が申し上げました、高齢者が地域に軟着陸していく形の仕組みづくりとか、今また御本人がまさに携わっている具体的なプロジェクト等についても御紹介いただけるのではないかと思っています。

【澤登】 澤登です。今鈴木先生の整理されたお話から、私、楽天的で、おてんば娘と昔々言われましたが、そのまま樋口先生の10年後を走っております。そういう意味で、私もまさしく当事者として、どうやってこれからの自分が楽しく、明るく生き続けていけるかということを、真剣に考えなければいけないというところに当面しながら、挑戦を続けていきたいと思います。

○高齢者の社会参加欲求

 高齢者を捉えるときに、弱い者、庇護しなければいけない者と言われておりますが、私が5年前に長寿社会文化協会にいたときに扱った調査から、高齢者の捉え方をまず変えなければいけないと考えております。

 それは、誰しも人間が根源的欲求として持っているものとして、誰かに承認してほしい、誰かに認めてほしい、あるいは何かの役に立ちたいという参加欲求、それから、誰かとつながっていきたいという欲求を根源的に持っています。幾つになっても持っている。

 たとえ身体が不都合なことがあっても、この欲求は持ち続けているのではないかということを前提としております。であるならば、高齢者と言っても何かをしたい、どういうことをしたらいいのかというものがあると思います。でも、一人ではできなくなってきた。支え合う関係づくりをどうするのか。それから、日常の暮らしをどういう形で地域の中、あるいは仲間としてのコミュニティーの中でつながりを持ち続けていられるのか。

 今鈴木先生のお話では、確かに元気な高齢者は増えましたが、50代、60代、70代、それぞれの気持ちと肉体がついていくところがどうも少しずつ違ってきている気がします。例えば地域のコミュニティーの中で活躍しなければいけないと言われても、そうだよなと思いつつ、ついついおっくうだとか、自分が出ていいのか、ちょっと体がどうかという状況が変わってきているような気がします。私も70代に入って、ついつい自分にむちを打たないとなかなか出ていきにくい。

 そういう意味で、非常に一人一人、それぞれの高齢者は一概にはかなり変化している。と同時に、そこに一緒にいてくれる仲間がいたり、お互いに支え合っていくことで気持ちも明るくなったり、出やすくなったり、じゃ、行こうという気になります。こういう気持ちと肉体と環境というものが、それぞれ違ってきているのではないか。その中で、この根源的欲求というものを、それぞれがどう社会に参画しながら還元、還流できるのかということを考えてきております。

 幾つかの基礎データは用意してきているんですが、あまりこれを詳しく言うよりは、今高齢者と言われている人々が一番不安に思っているのは、やはり健康問題と、先ほどのデータにも出てきましたが、経済的な問題です。あと、どういう場があるか。私は、あえてここで、経済的な面をあまり高齢者が本音で、実際的にはあるんですが、こういうところでお金に関して、あるいは生活をどうしていくかという経済面での論議があまりなされていかないような気がしております。

挑戦するシニアが時代を開く 高齢者の捉え方の基本的な考え方 其々が支え合いながら「暮らし・働く」自立型地域社会を共に築く

○老後の経済的課題

生涯現役生活をおくるための「地域密着サービス」のいろいろ

 それは、アクティブなシニアの前期なら、前期の高齢者のときには何となく、そしてまたそのまま行けばいいんですが、短く、あるいは長くかは、それぞれの状況によりますけれども、動けなくなったときの経済的な保障、あるいは自分がどうやって稼いで収入を得ていったらいいのかという、やはり最後までの経済的な課題というものをそれぞれが自分のこととして本当に計画を立てられるのかという、大変ハードルの高い問題がそこにあるような気がしております。

○女性企業家の悩み

 私の周りには女性が多いわけです。しかも、私も20代半ばに就職が機会均等ではなかったために、じゃ、えいやっと会社を起こしたわけです。それで、もう40年以上たっています。私の周りにはそのような女性たちが非常に多いです。マーケティングをやったり、あるいは編集をやったり、小さな個人事業、あるいは小さなグループで会社をつくったり何かしております。この人たちは退職金もなければ、あるいは年金もほんとうに少ないんです。家を持つことは、会社が保証してくれてローンを組み立てられればお金を借りられこの人たちは退職金もなければ、あるいは年金もほんとうに少ないんです。家を持つことは、会社が保証してくれてローンを組み立てられればお金を借りられましたけれども、女性の多くはそういう状況にない。しかも、何か自立してやっていこうと考えて40年、あるいは20年、30年やってきた人たちは、今大変切実な問題として受け取っています。

地域密着サービスの課題

 それで、現在50代になった女性たちから、去年、このままでいったら、本当に生涯現役で暮らしていくんだろか、どうやれば収入の道があるんだろうかということを真剣に考え出しました。今私の周りには、若いときから個人事業者になった女性たちが集まって一緒にプロジェクトを組んだり、この指とまれして仕事おこしをしていくと。世の中の大企業や何かを中心にした大通りにいることはなかなかできなくなってきますね。高齢者だからと、横丁に寄せられてきています。

○スマートエイジングネット― 自分を変える

 その横丁、脇道だとか、路地のおもしろさ、小さいからおもしろい、小さいから通じ合える、一緒に仕事できるという関係を自ら作りたいと思って立ち上げたのが、スマートエイジングネットというものなんです。これは、生涯現役で働き続けていくためには、今までの自分が培ってきた様々な有形無形の資源をまず出して、それから受け取ろうと。ギブ・アンド・テイクでいこうと。お金というものは、商品を作らない限り回りませんから、まず自分たちの商品を作ろうじゃないかと。

挑戦 その1<自分を変える>

 それは、当事者である50代、60代、70代でも、どんなものが不足しているのか、どういうものがあれば安心できるのか、そういうことをそれぞれが得意なものを出し合って、商品を作って、その後お金を取ろうという、ギブ・アンド・テイクの関係で、互助の仕組みをベースにしながら、世の中では高齢者の雇用創出だとか、就業だとか、いわゆる雇われるというところから発想していますが、私たちはもう雇われないだろうと。自分の思ったことをなかなか認められない。だったら、作り上げたほうが早いと。自分の得意なものでお役に立って、しかも、小さなお金でも回り続けていられればいいのではないかということで、挑戦のその1として、自分を変えてみると。
多分男の人たちも多いと思います。やはりこれまで経済社会で活躍なさった方が、頭の中では地域の中に入って何かやろうとは思うんですが、なかなか時間だとか、いろいろな状況の中でわかっていてもできないのが、ある面地域社会ではないかと。入れればいいんですけれども、変わらないと、今コミュニティーは女性カラーで染まっていますから、男性は多分居にくいと思います。男性たちがバックヤードに入って、それで地域社会、あるいは、小さな仕事を全うするために新しい関係が作れればいいと思っています。

 企業社会で得た文化で、女性の前を歩いて事の決定を男性たちに任せたくないというのが女性の本音です。なぜならば、男の人たちが悪いというわけではなくて、生活者としての非常に日常的な家事だとか、いろいろなものがつながりながら俯瞰して、総合的に判断しなければいけない状況に立ったときに、男の人たちは訓練を受けていないです。まだ女性のほうがよほど介護をしながら食事を作る、いろいろなことができる。

 わからないことを、ただただ男だということで決定してほしくないというのが、それは男の人と女の人の戦いではなくて、これからの高齢社会はどうなっていくかということが見えていないじゃないかということなんです。ですから、男性たちの培ってきた知恵とか、マネジメント力というのは大いにこれからの社会、コミュニティーの中では必要ですし、また、プロジェクトを作るときには大変重要な役割を果たしますが、昔の沽券にかかわるという形で先頭を切らないほうがお互いのためになるということから、私たちはスマートエイジングネットということで、いろいろな自分の持っているもの、お金もそうですし、家とか、あるいはふるさとに残してきた田畑含めて、社会にこれから還元していく1つの資源として提供していただけないかなと。それで、お役に立つ小さな小さな仕事を、お互いに作り上げていくと。小さいほうが非常に質の高いものができると思っています。

○社会に還元する暮らし方

 東京のこの消費の文化が蔓延し、消費の文化を基盤とした中で、お金を得る額が少なくなってきた高齢者が生き続けていくことは、かなり私はしんどいことだと思っています。自給自足を原点にしながら、もう1回、消費の文化ではなくて生産の文化、何かを生み出す文化に時間と今まで培ってきたものをお互いに還元できれば、もっと動物としての野生も、もう1回目覚めてくるでしょうし、都会の中ではマンションの1室でクリエーティブなことをしようといっても、出ていく場がないわけです。 一緒に汗を流して作り上げるということが、環境的には私は東京の中ではかなり厳しいなと。何事でもお金に換算され、お金でなければ非常に不安が大きくなるということを含めて――国が高齢者を外に出すのかよと怒っている方もいらっしゃいますが、これをチャンスにいいようにとって、お金がなくても、もう一度暮らしというものを作り上げていくには、東京にしがみつくことなく、ちょっと郊外のほうに行けばいろいろなものが余っていると思います。それを今まで培ってきた知恵とか技術を生かしながら、楽しく、しかも、そこには年齢を超えた人たちが集まってくるのではないかと思っております。

○お金が回る仕組みづくり

挑戦 その2<仲間と共にお金が廻る仕組みづくり>

 私たちが今挑戦のその2として動いておりますのが、仲間とともにお金が回る仕組みづくりをどうやったらできるのかなと。おっくうがらずに、昔の仲間やいろいろな知人と情報交換をしながら、今ITだとすぐそっちの世界に行くんですが、リアルな場がどうしても私は必要だと思います。

 気持ちを確かめ合ったり、ああ、これだったら自分は得意とするから提供できるだとか、いろいろなものをリアルな場で、小さくてもいいから、必ずしも地域のご近所さんとともにでなくても、昔の仲間たちともつくれるのではないかと。そういう意味で、新しい高齢者のライフスタイル、あるいはワークスタイルをこれから生み出していくには、どうしても共助というか、つながっていく、シェアできる関係をどう作ったらいいのかと。すぐ国に対して公助という形で考えがちですが、まず、身近にいる仲間たちと何ができるのか。認め合っていくためには、得意としたものを出していくと。そういう形で、やはり挑戦その2としては、自分自身に投資しなければだめなような気がします。何も投資しないで、どこかいいものが落ちてこないかという受け身の姿勢だと、何も生み出さないのではないかなと。誰しも、どこか何か培ってきたものがあるわけですから。

 と同時に、例えば健康に対しても投資をすると。勉強に対しても投資。元気なうちに自分に投資をすることを、まずしたらどうなのかと。高齢者は誰かがどうしてもやってくれると思いがちですが、そうではなくて、根源的欲求から見ても、自分が生き生きとするためには、まず自分がつながりたいんだと、自分が何かして、ああ、お役に立ったなという満足感を得たいですね。仲間が増えることで、気持ちの上でも明るくなりますね、不安がなくなる。それから、少しおしゃれもしたいなと思い出します。

○「投資」から始まる

 私どもが言っているのは、おしゃれをしましょうと。みんなおしゃれをすることで、ちょっとおしゃれをする、ちょっと買い物をしてみたくなる。どんどん善循環になっていきます。だから、大きなお金でなくても、投資から始まったら何かが見えてくるのではないかと。

 先ほど鈴木先生のお話の中からも、やはり女性は骨とか筋肉がというんですが、私の仲間から聞いた情報ですと、アメリカでは足の大学というのがあるらしいんです。いわゆるしっかり歩くために3Dで足をはかって、インソールというか、中敷きをつくって、どの靴にもそれを入れかえて履けばいいんですが、ものすごく安定して歩きたくなるんですね。つえをついている方も歩けるようになると。それは少々高いんですが、その歩けるために、じゃ、インソールをオリジナルにつくってもらうんです。そうすると、また全然気分が違ってくるんです。例えばですね。

○小さな投資が大きな潮流へ

 そういう意味で、自分に投資をして仲間と一緒にお互いさまで、小さな仕事をすることでお金が回っていく。あるいは、小さな渦がいろいろなところで始まることで、全体にお金が回ると。私どもが女性を主体として30年間の女性たちが、家を持っている人たちも多いもので、最後、おばあさんが家を持つとすると、30年間の人たちの1割の住宅を動かすことで100兆円が動くという計算を、私たちはしました。いわゆる、その家をストックされているものからフロー化するにはどうしたらいいか。持っちゃって、孤立して、困っちゃうと。国の施策としても、住まいは非常に日本の高度成長を遂げた非常に大きな要素だったわけですが、それが余っちゃっているわけです。2,000万ぐらいのものを結構細かい計算をして、それで我々、中高年の女性が言い出したときに、中高年の女性が言ってもなかなか耳を傾けない経済界の人とか、行政の人たちが、100兆円が動くのよと言ったら、目の色が変わってきたんですが、積もり積もっていけば、そのぐらいの話の世の中を変える力になるのではないかと思っております。

○仕事場を作る―生産のための拠点づくり

私の挑戦 <人の輪の中で生きる一終の棲家と仕事場を創る>

 最後に、それでは、私が今これから本気で挑戦しようと思うのは、私自身も財産も何もない立場なんですが、やはり人の輪の中で生きてきた。これからも生き続けていく。そのためのついの住みかと仕事場をつくるといことで、今夢を描いております。これは、世代、性別、国、障害を超えてつながれる暮らしと仕事、この仕事を入れるということが、私が強調したい点なんです。暮らしと仕事の楽園。

 今たまたま富士山の1号目にひまわり村という農事組合をつくっている方がいらして、農業をすればいいという話はよく言われるんですが、農業をしながら業としてお金を稼ぐのは大変だろうと。そこで、キクラゲというものを今生産し始めております。これは、酵母のような……。キクラゲは今中国が主な生産。でも、生のキクラゲをつくって、ものすごくおいしいんです。体にはすごくいいわけです。キクラゲから始まってキノコだと、いわゆる野菜工場としても違う形であるということから、これで確実に経済基盤をつくると。

 これは、2月に1回とれて、年間六毛作で、それで2か月で30万の利益があると。自分がもうちょっと働ければ、もうちょっと収入を得られるらしいんですが。そんなような、メーンの食べていく商材があって、そのほかに畑があったり、ハーブガーデンを作ったりしながら。

 それで、もう1つは、シェアハウス型のサ高住、サービス付き高齢者賃貸住宅を作ろうと思っております。最後に、お墓まで、富士山の見えるところで、そこは非常に広いところなので、樹木葬までできたらいいなと。今とりかかったばかりなんですが、住まいもロッジ風のを自分たちが作りながら、センター機能で食堂だとか、お風呂場だとか、あるいは図書室はみんな本を持っているでしょうなんていうので、足せるもの。今までの住宅関係は、サ高住でもそうなんですが、最初に住宅産業として金融業的にお金を動かすんですが、そうではなくて、小さな自分空間をそれぞれよければ足していく、作り上げていく。いわゆる消費の経済活動ではなくて、生産のためのできるところから、多様な参加のできることをやってみたいと。まだそこのプランニングをして、何回か現場に行きながら考えているときなんですが、これは初め女性たちから始まったんですが、実は私の本音は、是非、退職した男性たちが、ここですと、マンションの一室で奥さんに邪魔がられなくても済むし、いろいろな意味でずっと生産行為もできるし。まずは自然豊かなところで包まれながら、自分のちっぽけだった人生をもう1回元気に取り戻せていけるんではないかと。

○女性の役割

 私自身がちっぽけな人生を歩いてきているわけですが、最後まで1人ではなくて、そこに仲間がいてくれたり、何かすることがあったり、お金がそう大きくは動かなくても、月に5万でも収入があり続けていくと。これは1例として、今私が力を注いでいるプロジェクトの1つなんですが、そういう意味で動かなくなったときにでも、何とかお金を得続けていくということをそろそろ本気で、皆さん、お金のことに対してはなかなか言いにくいんですが、やはり本気で考えないとまずいのではないかと。

 私たちはこういうことをしながら、女性の場合には、特に日本の文化をつなげていく役割があるような気がしています。着物にしても、食べ物にしても、やはり日常の生活文化を次世代につなげていくために役割、責務が今あるような気がしています。私どもの親がぎりぎりで持っていたものを、どうやって文化をつないでいったらいいのか。

 各地の生活記録を普通の女の人たちが記録するということも、私どもではこのスマートエイジングネットの、今まで独立してきた女たちが最後まで、20年、30年生き続けていくために、本気で動き出してきました。是非、御一緒にいろいろなことをさせていただけたらうれしいと思います。

【川瀬】 澤登さん、ありがとうございました。我々が期待すべき存在として、高齢者というキーワードのほかに、新たにやはり女性というキーワードも加えていかなければいけないのではないだろうかというお話です。

 お金の問題につきましては、なかなかこういうところでの議論になりにくいところですけれども、やはりそれぞれの人生、要するに100年生きるとして、どうしていくんだと。例えば私も家内と二人暮らしなんですけれども、どちらかがこれから20年、30年の間に介護状態になる可能性というのは当然あるわけで、そのときのために幾らお金を用意していたらいいのかというのは、今全く見えない状況にありますからね。そういうことも、後ほどまたこのお金の問題についても議論になろうかなと考えています。

 それでは最後に、認定NPOぐるーぷ藤の理事長をお務めの鷲尾公子様から御発言をいただきたいと思います。今、藤沢というまちは、新たな福祉のまちづくりという点で様々な活動が展開されていまして、非常に多方面から注目を浴びています。そんな中で、民間主導型といいますか、藤沢で長年活動をなさって、様々な成果を上げていらっしゃいます鷲尾さんから、実際の活動事例を中心にお話をいただきたいと思います。

鷲尾 公子氏

【鷲尾】 皆さん、こんにちは。ぐるーぷ藤の理事長をしております鷲尾でございます。今のお二方の発表を聞いていて、私のは各論だと思って聞いてください。実際に地域で実践していることを今日はお話しさせていただきます。私自身は、30代で親の介護を7年間続けまして、母を送り出したときにもう40代になっていたんですが、これは大変なことだなとしみじみ思いました。

 5人兄弟で私は末っ子で、女3人と兄嫁2人、全員が専業主婦で、しかも母が住んでいる家の周りにほとんどの者がいるという、母にとって大変恵まれた環境にありながら、私たち介護をした人間は大変つらい思いをしました。それで、これは母の時代はよかったけれども、私のときになったらどうなるんだろうかというふうに問題意識を持ちました。私自身はちょうど団塊の世代真っただ中の人間で、いつも厚労省が発表される2025年の超高齢化の私たちのために、これは発表されているなと思うような立場に今おりますので、活動を続けています。

○ぐるーぷ藤の沿革

ぐるーぷ藤の取り組み 藤沢市の概況 「ぐるーぷ藤」のあゆみ

 私たちは、活動を始めてからちょうど今24年になります。ここ、東京なので近いので、皆さん、藤沢はすぐわかってくださると思いますが、神奈川県の中のここにあります。藤沢は縦に長い、人口42万の都市なんですね。東京のベッドタウンというような位置づけにあるかと思います。これは、ちょうど15周年のときに私が書いたものです。私たちは5人の主婦で立ち上げたんですが、5人の主婦がまるでボートで荒波にこぎ出したようだったと。嵐にも遭いながらさまざまなことがあって、今はこの一番館という福祉マンションを作ったときに、これ、「飛鳥」と呼んでいますが、ちょっとの雨風ではびくともしない船になりましたと。多分今年中には二番館の土地の契約ができると思いますが、二番館を建て、長期目標としては3番館まで建てるという目標を持っております。

 3番館まで建ったときには、この飛鳥がクイーンエリザベス号になるというふうにみんなで目指して、活動をしております。当初5人の主婦が、全員が専業主婦でしたが、私自身の体験からみんなに呼びかけて、何か地域に役立つ働き方をしないと、自分たちの老後はないよということで始めた活動でした。

 最初はワーカーズ・コレクティブという組織から始まり、99年にNPO法人格をとり、2000年に介護保険に参入して、私たちはいつも助け合いから始めていますが、地域の中で福祉の最前線にいると自負しております。様々な活動の御利用者のもとに支援に行っているときに、たくさんのニーズをつかむ位置にありました。そのニーズをつかんだところが、やはり最終的にみんなが安心して住める――安心して死ねる場所が欲しいと、すごく言われましたが、みんなで死ぬまで安心して生きられる場所を作ろうじゃないかということで、福祉マンション、「ぐるーぷ藤一番館」というものを作りました。

 これ、2007年に作ったんですが、このとき1階にコミュニティーレストランがあり、ここに子供たち、幼稚園があり、2階に精神障害のグループホームがあり、3・4階に高齢者住宅というように、1つ屋根の下に子供から、障害から、今ちょっと元気な私たちから、今人の手を借りたい高齢者まで、みんなで1つ屋根の下に住むのが私の理想だった。そういうのを実現したのが福祉マンションでした。

○子供と障害者と高齢者と

 2007年にこれが建ったときに、本当に私たちこそ驚いたんですが、日本で初めてと言われたんです。子供から、障害者から、高齢者までが1つ屋根の下で。新聞、テレビ、雑誌、ラジオ、全てのメディアに出まして、何かすごくそのときにメディアにさらされちゃったんです。それで、実は今、今年で丸9年目を迎えますが、いまだにここの見学者が後を絶たないんですね。今はこのようなマンションが幾つもできています。だけれども、「どうしてこんなマンションができたんですか」と自治体の方からも質問されたりするんです。

 「子供と障害者と高齢者が一緒に住むことができるんですか」というような質問を受けるんですが、私たちは、先ほども言いましたように全くの素人で、専業主婦で、言うなれば温室の中にずっといた私たちは怖いもの知らずなんです。障害者と高齢者がどうして一緒の建物の中に住んじゃいけないのか、そんなこと考えてもいなかった。私たちが理想とする住まいを作りたかっただけなんですね。なので、私たち、ほとんどが今メンバーが130名いますが、男性は5名ぐらいです。ほとんどが女性です。そういう中で、私たちは、でも、じゃ、女性だけでやってきたのかと言ったら、そんなことはないです。私たちの周りにいる夫たち、息子だったり、娘だったり、これを全て社会資源というふうに私たちは呼んでおりまして、その社会資源をフルに活用して今の藤があります。じゃ、何に一番社会資源を活用したか。私たち、このマンションを作るときに資産ゼロでした。お金、一銭もなかったんですね、助け合い活動と、介護保険の活動はしていましたが。

○すまいづくり研究会

 ただ、これを作るために、すまいづくり研究会を立ち上げました。全くの素人の自分たちが夢だけ追っていて何もできないじゃないかと思って、ここに自分たちが理想とするマンションに関係する、必要と思われる人15名、ピックアップさせていただきました。ドクターだったり、公認会計士だったり、一級建築士だったり、ケアマネジャーだったり、障害者御本人だったり、障害者を持つお母様だったり、それから子育て中の人。私たちが作りたいと思う理想の、それにかかわってくれそうな人をみんな集めて研究会を作りました。

○福祉マンションの設立

 研究会を立ち上げて、2年間、調査をしたり、見学、意見交換して、丸2年でその研究会を閉じるときにフォーラムを開いて、お金を一銭も持っていない普通の主婦たち、市民が理想とするマンションを作るにはどうしたらいいかという1つの答えを導き出しました。私は、その答えを手に、すぐに福祉マンションづくりに取りかかったわけです。

「認定NPO法人 ぐるーぷ藤」事業内容

 そのときに出た答えは、土地を持っている高齢者か、高齢者を抱えていらっしゃる方で、相続税対策でその土地に銀行から30年間借金をして借りて建ててくださったら、私たちがそれを30年間はお借りして運営しますよというプランでした。それで、すぐに福祉マンションに取りかかったんですが、実際は様々な出会いがあって、私たちは土地を買うことができました。

 「花どけい」という私たちの機関紙を今日配らせていただいていまして、その表紙の下に私たちの事業が全部書いてございます。それが今やっている私たちの事業内容です。この助け合いは24年間ずっと赤字ですが、自分たちの「本来事業」と呼んで大事にしています。

○藤たすけあいサービス

 特にこの藤たすけあいサービスといいますのは、ワンコイン、500円ぽっきりで、子育て支援に行きます。赤ちゃんが1歳になるまで、ワンコインで1時間500円、交通費もいただかない。これが私たちNPOの心意気だと思って、高齢化のほうで、介護保険事業でしっかりとお金を稼がせていただくと。でも、少子高齢化とワンセットで考えるべきなので、子供たちのためにそのお金を使うという形で、御利用者からは1時間500円しかいただきませんが、うちで働くスタッフは時給をそのまま払うという形で、ここが私たちが認定NPOとしての心意気を示すということでやっています。

 これが組織形態ですね。今は私、60代、ここですね。もうすぐこっちに入るんですけれども、団塊の世代です。立ち上げたときのメンバーがほぼ20年たっていて、24年たっている。みんなこの年代、私、40代で立ち上げましたので。でも、特筆すべきは、うち、40代が39名もいるんですね。

○ミッションと事業性を両立させる組織運営

ミッションと事業性を両立させる組織運営

 年代からいって、ほとんどのNPO、私たちと一緒に歩みをともにしてきた20年選手のNPOというのは、働く人が今ほとんど60代、50代が中心です。唯一ぐるーぷ藤は40代がこんなに増えている。30代もいるんですね。これは、まさに私たちが、上に書かせていただきましたように、ミッションと事業性を両立させる組織運営をずっと心がけてきたからだと思っています。先ほど澤登さんのお話の中で、ああ、まさにこれが出てきたなと思いながらずっと聞いていたんです。やっぱり高齢者が働いていくには、人と金とその場が必要だよというお話がさっき出てきて、急いでメモりました。まさに私たち、それを実践しているかなと思いました。  その場づくりを、今日は一番最後にお話をさせていただきたいと思います。私たちは組織として、全くの素人、主婦が集まった組織ですが、その中でだんだんと自分たちなりに勉強して、成長して、いつも考えていることはミッションと事業性の両立です。自分たちの目的だったり使命、思いだけではNPOは続きません。みんな今50代、60代で、後に続く人がいないところは、やっぱりミッションだけを頭に載せて、私たちはいいことをしていますと。

○組織の中核「3つのプロジェクト」

ミッションと事業性を両立させる組織運営 -三本の柱-

 もちろん、それも1つのやり方だとは思います。ただ、私たちはまちづくりということを目指しているからには、自分たちだけで終わるわけにはいかないんです。次の人にバトンタッチするためにどういう事業運営が必要かということを絶えず考えて私たちは組織運営をしてきました。私たちの3本柱があります。1つが評価プロジェクト、もう1つが研修プロジェクト、最後に役員報酬検討プロジェクト、この3つのプロジェクトを2005年から発足させて、中心的にやっています。

 この評価プロジェクトは、評価シートの名前をDBUと、Dialogue For Brush-Upなので、自分磨きの対話シート、評価シートと言っていますが、これは自分自身の振り返りシートですよというふうにみんなで名前をつけて作りました。これは、1期3年で6年間かけてみんなで作りました。NPOらしい評価システムを作りましょうと。なぜこれを作ったかといいますと、最初私たちは全員賃金が一緒でした。働く価値は一緒ということで、全員が同じ時給でした。

 でも、だんだんみんながおかしいよね、介護福祉士という国家資格を持っている人と、今日子育てが終わって、週に2時間だけ働きたい、そういう人がどうして同じ時給なんだろうというふうに、1つの壁にぶち当たったんですね。そのときに、じゃ、誰が時給に差をつけるの。そうしたら、そのための物差しがなければいけませんよね。そのためにつくったのが評価シートです。働く人の励みになりながら専門性の評価をしたり、異議申し立てができるシートを作りましょうと。今11シートでき上がっています。

 これは、スタッフがまず1月に自己評価をします。5点法です。1月、自己評価。2月に他者評価、これは主任クラスがその人の評価をします。3月に、管理者が最後の評価をして、一人一人全員と評価面接をして、ほぼこれで来年度のボーナスが決まるという評価システムを作っております。

 2つ目が、研修プロジェクトです。私たちは実はおびただしい数の研修をしています。昨年度の研修が、内部研修が130回、外部研修64回、合わせて194回の研修です。なぜこうなったかといいますと、最初全員が素人の主婦でした。しかし、家事援助をしたり、最初のときはちょっとしたお手伝いから始まりましたが、介護保険が始まる少し前あたりからかなり高齢の方が増えてきて、お世話がたくさん必要になってきました。高齢者のケアをするために働く人の体を守るためにも、知識と技術が必要なんですね。もちろん、藤の私たちのスタッフは、受付に座っている者まで全員福祉職という位置づけで福祉の資格を持っております。その人たちがより御利用者に寄り添うために、特に私、女性はすごく真面目だなと思うんですけれども、また勉強がすごく好きです。なので、研修プロジェクトで1年間の研修を組んで、後はその都度、その都度必要な研修を組んでいくと、大体1年にこれぐらいになります。

 「サンデー毎日」だったかな、新聞記者の方が来て、研修の多い福祉事業所は離職率が非常に少ないと言われましたが、私たちは大変離職率が低いです。

 今もずっと見学者がたくさん来ると言いましたね。先日、宮崎県のほうからの見学者を受け入れたときに、どうしてぐるーぷ藤を知りましたかと言ったら、ネットで離職率が低いということで、ぐるーぷ藤が一番に出てきた。2番目が東京にある株式会社というふうに言っていましたが、その人たちの研修で3か所、トップ3を回るんですと言ってうちに見えた方がいらっしゃいましたが、うちはほとんど辞める人がいません。

 それは、市民事業で、自分たちの働き方を自分たちで考えて作っているからです。後で幾つかの事例を話せるかな。例えば、うちは福祉事業所で、特に子育てと親の介護をやっていますので、今も親の介護と子育ての場合は優先的にお休みをとっていい。絶えず10名ぐらいがお休みをとって、今地方にいる親御さんのところに帰って、また戻ってくるということをしています。

 それから、例えば有給休暇は1日も無駄にしないように全日消化してくださいと。だけれども、有給というのは、何かあったときのために、自分のために残しておくという側面もありますので。それから、休みがたまたまとれない部署もあります、たくさんのお仕事をしていますので。そういうところは無駄にしないで、全て買い取ります。これも労基署に相談に行って……。何とか無駄にしないけれども、買い取ることは法律違反だとうちのスタッフが言ったんですね。

 うちの主人が言っていました、主人の会社では、前全部買い取ってくれたのに、途中で法律が変わって買い取れなくなったと言っているからと言っている人がいました。なので、私たちはいつもパイオニアだと思って前に進んでいますので、誰かのうわさをうのみにするということはしないんです。わかりました、じゃ、私が労基署に行って聞いてきますと。労基署に相談に行ってきました。そうしたら、そんな法律はないですよと。ただ、働いているときと同じ賃金で買い取ってはいけません。それをすると、暗にお金で買い取るから、休みをとるなよと、働く人の権利を侵す。なので、適正な価格で買い取ってくださいと言われました。その適正な価格もみんなで決めて買い取っています。

○女性が働きやすい職場と子供ボランティア

 というふうに、女性がすごく多い職場ですので、その女性が働きやすいように。例えば、今もう入っていますが、夏休み、うちのさっきの福祉マンションの中は子供たちの声でいっぱいです。子供は、子供ボランティアという位置づけで連れてきてもよいという決まりにしています。そのかわり、親子関係を引きずらないように、子供にはしっかりボランティアというカードを首から下げてもらいます。1日来ると1つずつスタンプ、いっぱいになるとご褒美が出るというシステムです。先日も、小学校3年生ぐらいになった子が、ああ、この子、3歳のときから来ていたなという子が、今小学校2年か3年生で、もうボランティアの指導者になっているんです。「おトイレはこういうふうに使いなさい」とか、「飽きたら、上で塗り絵やりましょう」とかね。子供たちも、そこで小さなコミュニティーを作っているかなと。

○藤ファンド 1億円を集める

市民の協力による組織運営

 役員報酬というのは、私、理事長、あと常務理事とか、専務理事とかいますね。その報酬はプロジェクトが決めます。ということは、全部がガラス張りだということです。私たちは、いつも市民の力による市民事業という自負を持っていまして、先ほど福祉マンションを作りましたと。このときに私たち、資産ゼロ。一銭も借金もないけれども、貯金もなかった。この費用をコミュニティーファンド、「ふじファンド」というのを立ち上げて、市民から1億円を集めました。

 この時点ではファンドは合法でしたが、その先、ファンド、いろいろな悪いことをする人が出るので、市民はほとんど作れなくなりました。今は擬似私募債、全くシステムは同じです、名前が変わっただけ。でも、きっと制度ってそんなものですね。「ふじファンド」を、当初9,950万円にしたのは、1億円未満を50人未満で集めると、このファンドは届け出義務がなかったんです、匿名組合方式という。それで、立ち上げました。これも、「花どけい」で市民の皆さんに1,500部ぐらい地域に配っているんですが、それで出しただけで、2か月間で9,950万円が集まりました。

 1回これをやめて、お金を皆さんにお返しして、今度は擬似私募債、先着順ですと言ったら、わずか3日間で1億円が集まりました。私たちは銀行からもお金を借りていますけれども、私は、やはり市民がお金を出してくれる、ここがとても大事だと。私たちを応援してくれる、またはステークホルダーとして監視もしてくれる、そう思って、この制度はすごくいい制度だなと思っています。

○NPO地域生活支援センター

福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」

 こういう福祉マンションを建てました。1階にレストランがあります。それから幼児園があります。それから今は看護小規模多機能型居宅介護といいまして、日本の介護保険制度の中でたくさんの管がついている人も預かれる、最も重度の人の施設があります。それで、相談窓口、ここを私たちはNPO版地域包括支援センターと呼んでおります。例えば、今地域包括に行くと何でも相談に乗ってくれますよというのが、日本中津々浦々でき上がっています。

 藤沢でも今14か所あるんですが、ほとんどが社福です。医療法人が1か所。私たちも実は手を挙げようかなと思ったんですね。でも、ここの制度を聞いたら、土日やっていない、夜も電話を受け付けない。それでは、市民の安全は守れない。私たちは福祉マンションを作ってから、24時間、電話も公開していますし、365日相談を受け付けているので、私たちが一歩も二歩も先を行っているので、わざわざ国の指定を受けて後戻りするような制度には乗りたくないということで、あえて市民版の窓口を持っています。

 2階にこの看護小多機の泊まり……。ごめんなさい、複合型というのは、この間の3月までの表現です。これ、看護小多機です。このショートステイがあります。それから、訪問看護ステーションと、障害者のグループホームと、高齢者住宅、ここでみんなで助け合って、私たちが活動をしているところです。これがその絵です。さっき言いました、ここに出っ張っている、ここがコミュニティーレストラン。外にはわんちゃんも一緒に食べられるテラスもあります。近所のお母さんたちが中で様々なこともします。

福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」 福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」

 お食事しているのはこんな風景です。それから、これが1階の看護小多機で、先ほど「しがらきの湯」という題名がついていたと思いますが、その由来は、信楽焼の湯船を特注して高齢者のおもてなしにしようと思って、これ信楽焼の湯船です。ちょっと信楽焼のタヌキが見えて坪庭で、南側にこれは面しています。幼稚園の子供たちとみんな、中学生の職場訪問で毎年中学生とか、様々な看護学生とかを様々なボランティアを受け入れています。この方は器官切開をしていて声が出ないんです。でも、子供たちは何の違和感もなく、こういうふうに一緒に交流をしたりしています。

 これが2階の看護小多機の泊まり、ショートステイですね。看護師がいたり、これが障害者のグループホーム。これはみんな許可をもらって写真を撮っています。これが有料ホームです、私たちがここで一番しっかりと収益を上げようと思ってつくった。しかも、理想を追求しています。将来私がここに入ろうと思って建てていますので、すごく広く見えていますけれども、こんなに広くはないです。これ、プロのカメラマンが取材にいっぱい来て、すごくきれいに撮れた写真をいただいたので、プロのカメラマンが撮ったんですが、真ん中にリビングがあって、こういうふうに各お部屋は1部屋12畳です。お部屋の中をちょっと見せてくださいと、こういうふうにお住まいの方もいます。様々なサービス。これ、モデルルームだったときの。今は空いたお部屋がないので、お写真がなかなか撮れないでいます。

 ここはみんなで、夜はコミュニティーをつくっていただくということで、夕食は必ず管理栄養士が立てた食事を食べてくださいという決まりがあります。

福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」 福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」 福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」

○藤沢市との協調

行政・社会福祉協議会及び他団体との連携

 これは、私たちはどういう活動をふだんしているか。NPO活動だから、市民がやっているからといって、いつもいつも行政を批判する活動はしていません。行政へずっと24年間一貫して政策提言、ちょっと格好つけて言っていますが、こういうことを一緒にやりませんかということを、毎年行政と定期的に――行政が呼んでくれるんじゃないんですよ。私たちから、ちょっとお話を聞いてくださいと言って、話しています。藤沢市とのかかわりというのは、いつも、いつも市民と行政は対等である。どちらが上でも、どちらが下でもない。互いに助け合っていきましょうということで、24年間歩調を合わせてきました。

 社会福祉協議会とは非営利団体として連絡会を作ったり、後でお話しします地域ささえあいセンターをつくるときには大変綿密な打ち合わせをして、社協はたくさんの居場所を作っていますので、私たちが作るところと、例えば働くお金があまり違っても、市民にとって混乱を招くんじゃないかということを話し合いながら、まちづくり、協働して行っています。

○地域包括ケアの実現

市民による地域包括ケアの実現

 地域包括センター、さっき言いました、私たちはNPO版、こちらは行政の依託のところとは、地域密着の会議を頻繁に、地域ケア会議に参加したりしながら今進めています。ここに協議体を視野に入れたふじさわ福祉NPO連絡会の立ち上げというのは、昨年私が市内のNPOに呼びかけまして、この4月から介護保険法が改正になって、皆様御存じのように要支援1と2の人が地域に戻されますね。そのときに、受け皿になるのはまさに私たちだろうと。こここそNPOの出番だろうということで、連絡会を立ち上げて、今そこには社協も、それから藤沢市も是非参加させてくださいと、毎回市も参加しています。

 私たちは、先ほど樋口先生のお話の中にも、地域包括ケアというお話が出ました。私たち、これからの日本はみんなで協力し合わなければ、この超高齢社会は乗り切れないんですね。その中で、じゃ、地域包括ケアとは何なのといったら、厚労省の説明によりますと、住んでいるおうちを中心にして、30分以内でほぼ全てのサービスが行き渡るまちづくり、世の中にしていこうと言っています。その中心になるのが、私たちNPOだろうと自分たちで自負しています。

○福祉と医療の両輪

 私たちは、先ほど言いましたように、24時間体制の総合相談窓口を持っています。これで夜中の電話も対応しています。これはまさに市民の安心を守るための活動です。

 それから、先ほどありました看護小多機、そこで最後まで看取りができる体制を整えました。福祉と医療の連携、これを大変強化しています。というのは、福祉と医療がなかったら、人の最後は看取れないんですね。医療だけではQOLが保てない。福祉だけでは、死亡診断書がないと埋葬できない。とにかくここがとても大事なんですけれども、実は口で言うほど簡単ではないんです。非常に医療の壁が厚いです。

○人材養成制度

 私たちは、ここのところで、ぐるーぷ藤の中で養成制度をつくりまして、人材育成こそお金をかけています。准看1人と正看1人を養成しました。この正看護師、3年間全部の、もちろん奨学金はうちで出しただけではなくて、トップリーダーでしたので、トップリーダーの給料を保障して、ボーナスも出して、3年間で千数百万円を投資しました。この3月、途中社会人入学で一番年長者だったそうですが、卒業のときは総代になって卒業して、今立派にもう一人前の看護師として働いていますが、そういう強化を進めています。

 例えば、ちょっと前まではたんの吸引というのは看護師さんしかできなかったんです。でも、看護師さんだけではできないんです。福祉職がやらなきゃいけない。そういう喀痰研修も、非常に私たちを支援してくださる病院で全部させていただいて養成しました。

○地域ささえあいセンター ヨロシクまるだい

 介護保険改正は、今こそNPOのチャンスだという位置づけです。これが「地域ささえあいセンター、ヨロシクまるだい」、介護保険改正が決まったときに、すぐに藤沢市に提言に行きました。市も、うわっ、すごいね、これはということで、市のモデル事業に指定されました。今ここが全国から見学が相次いでいるところです。ここは、子供たちも、子育て中のママも、障害者も、みんなで寄れる。先ほどの説明の中に、澤登さんのレジュメの中に、最後いろいろなことができるというのがありましたね。真ん中にレストラン、食堂というのがありましたね。ここの、厚労省が言っているのは、生活支援コーディネーターを置きなさいと。

藤沢市地域ささえあいセンター ヨロシクまるだい 藤沢市地域ささえあいセンター ヨロシクまるだい

 これ、うちは置いています。だけれども、この中心は300円のご飯です。孤立しがちな高齢者、民生委員さんも嫌、それから自治会も来ないでくださいという高齢者の方が今ものすごく増えています。そういう方たちを、こちらから訪問してもだめなら来ていただく方策、それを市に提案して、300円の食事で実現しています。

 今1か月、1,300人もの御利用者がいて、私たち、すごく驚いています。去年の10月オープンして、まだ1年たっていないんですけれども。ここでは、生活支援コーディネーター、そこは40代の常勤1名と、65歳から70歳の非常勤3名。これは3名とも、男性1人は新聞社にお勤めしていて、今初めて地域デビューを果たした男性。それから、国家公務員だった女性が1人、70歳、それから、69歳の女性は元校長先生。そういう人たちでみんなで力を出し合って、これこそが高齢者が高齢者を支える互助社会の実現と思って、ヨロシクまるだいを立ち上げています。

 こんなスペースで、食堂があって、ここが相談コーナーで、ここでミニデイのサービスをします。これから介護保険が総合事業に変わっていきますと、藤沢は来年の10月からなんですが、ここでミニデイをやります。そのために、今様々な仕掛けでたくさんのデイをやっています。これがさっきの300円で、このおわんの中に全ての栄養が入っています。手づくり品3品がつきます。おにぎりにしたのは、高齢者の方で1つしか食べられない方は、お茶わんで汚れてしまったら持ち帰れないので、最初からおにぎりにして、持ち帰ることを前提に作っています。

藤沢市地域ささえあいセンター ヨロシクまるだい 藤沢市地域ささえあいセンター ヨロシクまるだい 「ぐるーぷ藤」の地域支援マップ

 ところが、ほとんど持ち帰る方はいらっしゃいません。ここの御利用は女性が多いと思ったんですけれども、今現在は女性と男性が半々ぐらいの利用ですちょっとお顔が見えないんですが、この間100歳を迎えられた方が裏千家の先生、そのお子さん、お孫さんという3代、全部名取さんが来て、ここでボランティアをしたりしています。保健師、管理栄養士、薬剤師、介護福祉士、これが日がわりで無料で相談に当たっています。子供たちも来るような、そういう施設です。これがぐるーぷ藤の地域支援マップ。藤は様々な活動をしています。今ここに一番館とありますが、多分、今年中には二番館に着手できるのではないかと。

 私たちの理念です。私は、年をとっても、病気になっても、障害があっても、いつまでも自分らしく過ごせるまちをつくりたい。なので、藤沢のまちづくりで地域密着型に固執しています。福祉マンションをつくってから、様々な自治体からお誘いの声がかかっていますが、藤沢を一歩も出る気がないんです。そこの地域は、そこの地域に住んでいる人こそがニーズもわかるし、作るべきで、私はその支援に今日本中駆け回っているところです。

【川瀬】 先ほど申し上げましたように、後半は皆さん方との質疑応答、意見交換等も入れながら展開をしていきます。最初に申し上げましたように、この第1分科会のテーマ、「高齢者(シニア)が核となる地域創生に向けて」ということで、私どもの狙いとしては、多様な高齢者像を少しでも明確化して、彼らに期待されることと、その実現のための課題解決策を論じて、多くの地域でモデルケースづくりが実施される機運を盛り上げていきたいと。

 実は、コーディネーターとしては、先ほどちょっとお話ししたように、やはり今高齢者と言われる方が非常に元気で、特に団塊の世代の方々にこれから少しリーダーシップをとっていただけないだろうかという思いを持って、今日はパネラーの方にもお話をいただいたんですが、どうも流れがどちらかというと、女性の力がかなり中心の話になってきまして、思惑が少しずれてきたかなという気がしないでもありません。

 コーディネーターの特権として、私のほうからまずお三方に1問ずつ質問を振らせていただきたいと思います。まず、鈴木先生、お二方のお話を聞いて、鈴木先生なりの何か御感想というか、あればいただきたいんですが。

【鈴木】 感想というか、もう完璧に女性に押されているというのが、やはりほんとうにすごい、しっかりしたパワーと、しっかりした計画をお立てになられてお進めになっているなという気はほんとうにいたしました。

○足の健康の重要性

 ちょっと澤登さんが御紹介しておりましたけれども、アメリカのほうで足の大学とおっしゃいました。あれは、大学こそありませんけれども、日本でも実は全く同じビジネスが展開されております。これは、女性の足の特有な問題なんです。女の人というのは、先ほどちょっと私のスライドでもお話ししましたが、女性ホルモンがなくなりますと、筋肉や骨がだめになると申し上げました。筋肉と骨だけじゃなくて、靱帯も緩んでくるんです。どこの靱帯が緩むかというと、足の靱帯が緩むんです。足というのは、皆さん、アーチ状になっていますね。土踏まずというところがあるでしょう。べたっとついている人はちょっと勘弁してください。普通、土踏まずがあるんです。ところが、土踏まずが、女性は閉経以降、靱帯が緩むために、このアーチの構造が崩れてきて、それこそだんだん土踏まずがなくなって、全部土を踏んでしまうんです。これを偏平足と言います。偏平足になると何が起きるかというと、足の指が開いて開帳足というものになってきます。開帳足になったところに無理やり靴を履くものですから、足の親指は外側に曲がりますし、小指のほうは内側に曲がる。これが有名な外反母趾というやつなんです。

 これは、別にアメリカの女性だけじゃなくて、世界中、日本の女性もものすごく外反母趾が多い。それから、高齢期60ぐらいになってきますと、女性ホルモンの影響が、女性ホルモンが非常に枯渇するものですから、偏平足がすごく多くなります。気づくチャンスは幾つでもあるんです。偏平足になると、この足の裏側の指のつけ根のところに、うお・たこの目がやたらとできてきます。このときに気づけばいいんです。ところが、これに気づかないで放ったらかしておきますと、それこそ歩くのがしんどくなってきます。

 このときにどういう治療をするかというと、先ほど澤登さんが御紹介されたときに、靴にインソール、中敷き、これを人工筋肉――筋肉と同じぐらいの硬さのインソールを入れてやるんです。その人、一人一人のオーダーメードになります。これをやりますと、人工的にもう1回土踏まずができるものですから、ほんとうに歩くのが楽になるんです。それまで5分しか歩けなかったのが、20分以上歩けるようになります、痛みを感じずに。

 これは、アメリカでは足の大学と言われていると言いましたけれども、日本では――ちょっと名前を言っていい? 足の大学というより、ビジネスを展開しているところもあります。これは、正直名前言っていいのかどうか、タルサスと言われる女性靴をつくっているところの商品部が、人工筋肉のソルボを使って全国的に展開しています。

 これは、先ほどおっしゃられたように少しお値段が高いんですが、驚くべきことにこれはリピーター率がものすごく高いんです。1度これを使ってしまうと、ほんとうに快適に歩けるということを女性の方はわかるものですから、靴自体としては2、3千円高くなりますけれども、しかし、オーダーメードで個人の足に合わせて。シューフィッターといわれる人たちが中心に今やっています。これは、すごいビジネスとして成功しているモデルです。ですから、そういうことをちょっとコメントとしてつけ加えさせていただきました。

 鷲尾さんのほうは、ほんとうに地域包括ケアシステムという、国が打ち出している中で、どこの自治体もみんな、それどうやって実現するのかという社会的なインフラができていないときに、急に生活圏域の中でどんなサービスも全て手に入るというような。住まいを中心として、医療、福祉、介護、生活支援、そして予防、それらが一気に手に入るという夢のような社会を目指してはいるんですが、実際にそれに悩んでいる自治体ってものすごく多いです。3年かけてそれを実現すると言っていますけれども、とてもじゃないけれども、今年初年度で手上げしている自治体というのは1割ぐらいだと思うんです。だけれども、それをほんとうに一番適した、フィットした形で展開されていて、ほんとうにお見事というふうに思います。ただ、澤登さんも、鷲尾さんも、女性パワーで頑張ってくれて。でも、私はちょっと男性として一言というか、決して男もめげる必要はないと思っております。ただ、皆さんも御存じのように、男はなかなか定年後の地域デビューが下手くそだというふうに言われております。いつも額の真ん中に名刺をくっつけて、マルマル会社の営業部長をやっていましたということを最初に言っちゃうと、ほかの人がドン引きする。特に女性の方はやっぱり、もうそういうのはそろそろ卒業したらというふうに思われるようですし。

 先ほど澤登さんが、全く家事もトレーニングされていない人が決定権があるような発言はちょっといかがなものかと思いますという苦言を呈されておりましたけれども、確かにそういう面はあるかもしれません。だけれども、やっぱりこれからは男の人も、昨日の平均寿命のあれじゃないですけれども、日本でも80歳を超えました。そうすると、やっぱり定年後20年、25年は、やっぱりどうやったって一人だけでは生きていくわけにいかないわけですから、そのときにどうするか。

 これは、勤めてもう定年が見えてきてというあたりから、やっぱり少しずつ地域に参加する。あるいは、自分が職業から引退した後にどんな生き方をするのかということは、もっともっと真剣に問うべき、問われるべきだろうと、私自身もやっぱりそれはよく考えます。

 私事で申し訳ないんですが、私はこういう高齢社会の老年医学をやる前は、もともとのスタートは骨を研究しておりました。特に古い時代の骨にあらわれた病気をずっと勉強していたんです。是非、それをまたいろいろな日本全国の縄文時代の遺跡を駆けめぐって、そこから異常な病気で死んだ人たちをきちっと、3,000年たってから正しい診断のもとにもう一度土に返そうという、そういう夢を持っておりますし、それは絶対にやりたいなと思っております。今行っている大学ではなかなかそういうことはできないものですからあれですけれども、それは卒業したらですね。

 だから、そういったことを、男のほうも、私としては是非男性頑張ろうというエールを送りたいなというふうに思っております。以上です。

【川瀬】 ありがとうございます。澤登さんも、たしか地域密着サービスの課題というような形で、人、金、場所。特に人のところでは、リタイア後の男性の地域参加の障壁が問題になっているよというお話をなさったと思うんです。これまでいろいろなところで、いろいろな方とお会いしていると思うんですが、やはり実際的にそういう状況というのはあろうかと思うんです。ただ、やはりこの団塊の世代を中心とした方々に地域で活躍してもらいたいという思いはやはりあるので、この辺の解決策というか、何かお考えありますかね。

【澤登】 私、男性を排他的にしているんじゃなくて、やはり人生の終りまで現役でいていただきたいと。そのときに、あまり無理してコミュニティー、今の地域社会に入ることばかり考えなくてもいいんじゃないかと私は思っているんです。というのは、自分は入り切れないんです、はっきり言って、男性と同じようにずっと仕事をしてきていますから。だから、やはり人は絶対何か得意なもの、好きなことがあるので、自信を持ってできることを、まず自分はこういうことができるということを含めて、今日もこういうところに出てきて、新しい情報とか出会いがあるかもしれない。そういうところの積み重ねでいいような気がしています。そこが、私は自分への投資という言葉で言ったんです。ちょっとつらいけれども、このお金、交通費がということを含めて、それを超えてお金を守ることを考えるんじゃなくて、お金って、私はずっと苦労しているからわかるんですけれども、出してからしか入らない。守っちゃうと、いつまでそれを守るのという感じがしますから、出せば、小さく、小さく回ってまたもとに戻ってくるんじゃないかと。

 長く生きることがリスクにならないことを、お互いに考えたいと。ですから、私は女性だけでやろうと全然思っていないです。バックヤードに入って支えてほしいということを、エールを交換したいわけです。

【川瀬】 どんどんコーディネーターの思いから離れていくような気もしないでもないんですが、もちろん、澤登さんもミッションとサービス、いわゆる志と事業の両立というところも1つの大きな問題だよと――特にNPOとかと書かれているんですけれども。

 鷲尾さんのところは、この辺をきっちりと両立をさせているということで。ただ、その中で、やはり一番最初は、先ほどのお話だと、完全に専業主婦の方がお集まりで、そこでこれだけほんとうに隅々にまで目端のきいた形を、いろいろな仕組みをつくられた、この中に男性の力というのはなかったんでしょうか。

【鷲尾】 うちの場合は、男性を雇用しないわけではなくて。もちろん、うちのシステムとして、一度もハローワークに出したことがないんです、働きませんかというのを。というのは、私はやはり元主婦で、いろいろな社会経験も少なくて、人をどういうふうに判断するかというのがすごく、あまり自信がないんです。なので、私たちは仲間が仲間を連れてくる。自分がいいと思った人をうちに紹介して会を大きくしてきたんです。

 それで、たまたまですけれども、私は夫がものすごく協力的だったんです。私は今、6代目の理事長をやっていますが、理事長と言われたときに、真剣にやらなければいけないので、福祉マンションをつくるときに理事長の6代目を受けましたので、もう主婦できないけれどもいいかなと言ったときに、夫が「いいよ、僕が全部やる」と言って、ほんとうに食事から何から、下宿人にしてくれたんです。

 ものすごく夫のサポートがあったんです。そうしたら、うちのスタッがみんな、鷲尾さんは御主人の協力があるからできるんだねと言ったので、いや、それは違うって。私たちと一緒にぐるーぷ藤の仲間、私はメンバーと呼んでいるんですが、メンバーでいられるのは、御主人が文句を言わないからでしょうって。黙っていて、足を引っ張らないことはどれほどの応援かわからないってずっと言い続けていたんです。

 そうしたら、ここに来ても、私たちの年代が仲間はいっぱいいますので、御主人たちがどんどん定年になってくる。第2の定年、65歳を超えてきたら、今、もうすぐ二番館という話をしましたけれども、そこで今度はサ高住、高齢者住宅をつくるんです。今50戸ぐらいの高齢者住宅、お部屋をつくるというんですけれども、そこの支援にその退職した御主人たちが手を挙げているんです。なので、二番館ができると男性の占める割合が多くなると思います。

 それから、来る者拒まず、去る者追わずというのを貫いています。去る者を追わないのはちょっとつらいときもあるんですけれども、全ての人を受け入れています。なので、うちは男性も何人も来るんです。だけれども、こんなことを言っていいかどうかわからないけれども、能力のある女性は地域にいっぱい落ちているんですけれども……。だから、能力のある、例えばここにいらっしゃっている方たちは、きっとみんな企業に行っているんですよ。だから、私たちが必要とする、それから、御利用者の方が必要とするような男性がなかなか落ちていない。

 ほかにみんな行っているんです、お役所とか、学校の先生とか、会社とか。だからこそ、この地域に戻ってこられたときに、私たちは両手を広げて待っていますので、そこで活躍していただきたいと思っています。

【川瀬】 ありがとうございました。少し見えてきたような気がします。

 それでは、お待たせしました。会場の方々で、是非パネラーの方々に聞いてみたいとか、こんなことを実は私も考えているんだよということがあろうかと思いますので、御発言をいただきたいと思います。

【質問者】 小田急センユウ会のヒラヤマと申します。私は要介護の生活不活発病、鈴木先生のされていた部分についてちょっとお伺いしたいんです。1つは、その話を置いておいて、今日のお話の中で古い高齢者と新しい高齢者の違い、非常に興味を持って聞いたんですが、じゃ、加齢とともに発生するがんとか、そういった病気に関しても同じようなことが言えそうなのかどうかについて、1つお伺いしたいと思います。

 それから、このコホート基準というのは、同じ村の、同じ市の、そのときの70歳代を見ておられるんですね。それやったら結構です。

 それで、比べたときにそういう病気の違いとか、あるいは生活不活発病の発生の違い、それも出てくるのかどうか、その辺をお伺いしたいんです。

【鈴木】 今のご質問は、そういう高齢者の健康水準が変わっていったときに、病気がどう変わっているのかと。変わっているのか、変わっていないのかという御質問です。変わっています。

 例えば、皆さん御存じでしょうか、今日本で一番たくさん亡くなっているのはがんです。それから、心臓病です。そして、第3位は、2年前まで脳卒中だったんです。今、第3位は何になったか御存じでしょうか。第3位は今肺炎なんです。それを見ても、間違いなく変わっているということ。

 それから、例えば第1位のがんですが、これは高齢者人口が増えていますから、粗死亡率や、死亡者人数は増えています。しかし、例えば1990年を基準とした人口の変化をちゃんと調整した人口調整の調整別死亡率と言うんですけれども、その調整死亡率にすると、がんはずっと死亡率が下がっています。だけれども、高齢者が増えているから相対的にがん死亡が増えているんです。だけれども、逆に言うと、だから、がんの死亡というのも下がってきている。

 一方で、何が死亡を上げてくるのかというと、これはやっぱり後期高齢になって増えてくるのは、やはり肺炎です。皆さんは、肺炎というと何かインフルエンザを思い浮かべるかもしれませんが、全く違います。後期高齢になって増えてくる肺炎というのは、誤飲性の肺炎、誤嚥性の肺炎というものなのです。これがものすごい勢いで増えています。なぜ誤飲性、誤嚥性の肺炎を起こすのか。それは、口の機能が悪くなるからです。ものを正しくかんで、ものを正しく飲むという能力は、私たちは若いときにはごく当たり前のこととして受けとめていますけれども、やはり高齢になってきますと、この機能が落ちてきます。落ちてきたときに、そのサインがあります。

 先ほどの偏平足、開帳足のときにもサインがあると申しましたけれども、これもちゃんとサインがあります。そのサインは何かというと、まず食事のときに食べこぼしが出ること。食べこぼしが出るということは、口の機能がきちんとかみ合っていないということ、かむ能力が衰えてきているということを意味しています。

 もう1つ、皆さん方は夜寝ているときに突然自分が飲んだ唾でむせることがないかどうかです。手を挙げなくていいです。そういう、夜中に突然自分が飲んだ唾が食道に行かずに気道に入ったために、突然夜中にううんと言って起きる経験がだんだんと増えてきます。これは何かというと、飲み込む能力が衰えているサインなんです。こういったようなことが起きてくる人がすごく多くなってきます。

 ですから、そういった意味で、日本の人口構造が変わり、前期の高齢者が元気になってきている。しかし、後期になってくると、どうしても心身の機能の低下というのは、これは防ぐことができないんです、人間というのはいつか亡くなりますから。そのときに出てくる病気というのは、もちろん、がん、心臓病、脳卒中、そして肺炎というのは多いんですが、そういう中で死亡のパターンが変わってきている。

 それから、もう1つ見逃せないのは、後期高齢者がこれだけ増えてきて、今何が増えているかというと、前期の高齢者が中心であった時代に比べて明らかに増えているのが不慮の事故死です。不慮の事故というのは3つあります。転倒、転落による死亡、そして溺死、溺水、それから窒息です。こんなものは若いときには発生しないんですよ。40代、50代の人が、いや、あの人、餅詰まらせて死んでねって、それはよっぽどおっちょこちょいです。

 しかし、70代、80代に入ってきますと、毎年お餅を何人詰まらせましたという新聞記事が出るほどに増えてきます。同じように、熱いお風呂に今までは何ともなく入っていたのに、一番風呂にざぶんと飛び込んだのに、今それをやると、もうその場でちーんという形になっていくというように、この死亡のパターンというのはやっぱり大きく変わっていきます。それが私の1つの答えです。

 それから、生活不活発病、これは全く別なものというか、確かに動きが悪くなっていくと、筋肉がやっぱり衰え、膝、関節が衰えるんです。特に筋肉の衰えというのは、女性の場合は早く出ますけれども、男性もやはり75歳を過ぎてきますと、そういった日々の活動能力、身体活動が減ると同時に、加齢性筋肉量減少症、英語のほうが今有名になってきたかな、サルコペニアと呼ばれる状態になってきます。

 これが起きてきますと、生活空間がものすごく狭まって、QOLが衰えることがわかっています。これもやっぱりサインがあります。つまずきやすくなるといったような一番出やすいサインですけれども、そうなったときには、そのサルコペニアの衰えというのをできるだけ自助努力で、ある程度は先延ばしするようにやらないといけないんだろうということがありますね。

 そんなところでよろしいでしょうか。

【川瀬】 ありがとうございました。

【質問者】 ミヤザキと申します。ぐるーぷ藤さんの、長年にかけて、工夫して、工夫してここまでやっていらした。特に評価制度と、それから子供ボランティアにはすごい感銘を受けました。そこで質問なんですが、できましたら、今残っている課題は全くないのかということと、それから、地震、火事、いわゆる天変地異に対するリスクマネジメントの工夫はどのようにされているのか、お聞かせください。

【鷲尾】 いつも、いろいろなところでお話しさせていただくと、何かいいことばかり言っているんじゃないのって言われるんです。課題は、あるとしたら人材です。私たちは、誰でもいいと思っていないんです。例えば今、海外から人材が足りないのでいろいろ入れていますね。先ほど、午前中お話のあったスウェーデンなんかは、介護の現場というのは移民の人がすごく多いんです。そういう現場も見てきたんですけれども、やはり、私たちの中にもフィリピン人の人もいますし、いろいろな多国籍軍なんです、うち、来る者拒まずで。だけれども、認知症の方に対しては、やはり同じ文化と同じ過去を共有できる方、そういうケアってすごく必要なので、やっぱり外国人の労働者というのはできるところと、できないところがあるなと。私たちが専門性を発揮するところはかなり厳しいなと。

 そういう中で、人材がいかに私たちのところに定着してもらえるか。今は、ぐるーぷ藤は3億5,000万ぐらいの事業高で、働く人にとってもとてもよいので、すごく人材は集まっているんですけれども、ちょっと前まで、稼がなきゃいけないという人は、「ごめんね、うちではお金払えないから、よそで働いて」と言って何人もの人を送り出した。すごくいい人材を、お金をそんなに払えないという理由で送り出した悔しさがばねになっています。何とか事業を成功させて、その人、うちで欲しいと思っている仲間をもう絶対手放したくないというのが、今の私のばねです。

 だから、事業も、二番館も作ると、今度はサ高住で50室作るつもりで、ほぼほぼ事業が安定するんです。一番館で夢を全部入れ込んだので、ちょっと赤字部分がいっぱいあるんです。それで、スタッフに、二番館ができたらボーナスが倍と言っていますので、やりたいと思っています。

 それから、リスクマネジメントに関しては、様々なところから、できていないことはいっぱいあります。例えば、うちは藤が岡という丘の上にあるんです。そこを中心に災害マップというのもつくっていまして、5分以内に駆けつけられる人は何人、10分以内は何人というのを全部中心にして、輪を描いて、全員の名前を落とし込んでいて、それを行政に見せたところ、行政からこのたび100万円の補助金が出て、何かあったときに福祉拠点になってくださいねと。私たちの中では、逃げるなら丘なので、絶対に私たちは津波が来ても、あそこまでは来ないという想定もしているので、家族全部で逃げていらっしゃいと。この間、震度5ぐらいの地震があったときに、2家族が御主人と子供を連れて来ました。来た時点で、うちのスタッフになってもらうという約束をしていて、その人たちの食料も全部一応備蓄をしています。

 ちょっと前まで、3日間の食料があれば何とか支援が来るという話でしたけれども、うち福祉施設なので動けない方がいっぱいいますね。なので、今は、ほんとうは備蓄の理想は1週間だそうです。でも、ちょっと場所とお金もないので5日間で、1階をどういう人に開放して、2階を何人地域の方を入れて、3・4階に何人というふうに、そういうのも一応考えてつくっています。

 あとは、スタッフを守るためには、かなりいろいろな保険に入っています。その中で特筆すべきは、ふじ保障。ぐるーぷ藤がつくっているふじ保障。保険の対象にもならないものは、自分たちでお金を用意して、働く人を守るということをやっています。その程度です。

【川瀬】 よろしいですか。ありがとうございます。 ほかに、いかがでしょうか。

【質問者】 ホンダ技術研究所から来ましたツチヤと申します。今日は、非常に興味深いお話を聞かせていただいて、どうもありがとうございます。高齢化社会ということで、弊社も例えば電動カートだとか、あと、それから福祉車両だとか、いろいろその辺に関係した車両というのを提供させていただいているんですけれども。今日の議題で、高齢者がやっぱり元気にこうやって活躍されているという、その現場の方々から、物流、それから人を運ぶこと、そういうモビリティーに対して何か困っていることとか、いろいろあるとは思うんですけれども、それぞれ科学的な見地からと、それと実際の現場の方々から1点ずつで構わないので、そういう要望みたいなものがあったら、ちょっと教えていただきたいなというふうに思います。

【川瀬】 いかがでしょうか。何かモビリティー方面に対するご希望というか、こんな形のものがあったらいいなとか。

【鷲尾】 今まで、思いはたくさんあるんです。例えば、私たちも福祉車両とか、いろいろなものを申し込んで、1回申し込むと、もう何年間申し込めなかったりとかいろいろあったりして、希望はいっぱいあるんですけれども、できる限り何でも自力でやりたいんです。ずっと市の委託を一切実は拒否してきたんです、23年間。そういうのも、全部自分たちの思いでやりたかったというのがあって。

 それは、もしかしたら、ある面から見たらすごく思い上がりだったかもしれないんです。それで、今回初めてまるだいのときに、市に補助金をくださいと。補助金がないと、300円でご飯が提供できませんと言ったときに、副市長に会ったんですけれども、鷲尾さん、初めて補助金が欲しいと言いましたねというふうに言われました。私としては、補助金が欲しいと言ったんじゃありません、市が出すべきだって言ったんですって、最後までこだわったんですけれども。

 でも、今回業務委託、補助金と委託金をもらって、やっぱり自分たちもちょっと成長したなという思いがあるので、外からのそういういろいろな支援も怖がらずに、自分たちだけでやろうなんて、それではとても力が足りないので、いろいろなことをこれからは積極的に外に向けてもアピールしていこうと思っているところ。まだ発展途上です。

【澤登】 私は発想を変えて、速いとか、何かそういうことだけじゃなくて、とってもおしゃれな、かわいい、ゆっくり走るのでいいと思うんです。自転車や何かはびゅーびゅー走ると、とても怖い。本来は、道路と車の関係がすごく重要な仕組みのお話としても必要なんですが、とりあえずかわいい、例えば足が不自由でも、外に行けるようなきれいな色だとか、そういうものをまず、そんなに難しくないだろうなということと。

 やはり、仕事柄、よく山村に行ったり、遠いところを歩いて地域に入ってみると、車がなければ生活できないという人がほとんどで、80幾つでも運転しているんです。ここら辺をどう対応できるのか。コミュニティーバスとか、いろいろとありますが、あれももうちょっとかわいらしい、小さな対応のできる、ソフトとシェアする発想で何かできないのかなと、買い物も不自由している人たちもいますから。どうしても車社会で技術が進展すれば、そこら辺の問題は超えられるような気がしているんです、素人で。ですから、発想を変えて、何かいいものをつくっていただきたいなと思います。

【川瀬】 先生、やっぱりご高齢者の運転ということになると、反射神経のお話になるんですかね、危ないというのは。

【鈴木】 ええ、今運転でやっぱり問題になるのは、多分認知症の方が免許をどうするか、これは大きな社会問題になっています。これは、これでまた多分議論すれば1時間も2時間もという話になるんだろうと思います。今の御質問をされた方は、すごく私は大事なことをお話しになっているなと思うんです。それは、私は地域の高齢者の方々がいつまでも健康で、自立して、きちっと生活を営めるようにするためにはどうしたらいいのかというのを科学的な視点からデータをきちっとやろうということで、ずっと20年、30年ぐらいやっています。そういう中で、これはいたし方のないことなんですが、私も含めてそうなっていきますが、やっぱり人間の、特に高齢期のいろいろな機能が衰えていくときに大きな関門が3つあるんです。

 最初に起きる障害というのは何かというと、これは移動能力の障害なんです。移動能力の障害を、何とかそこで自助努力ででも食いとめていく。すなわち、これは介護予防の一番最初の部分だと思うんですけれども、自分で足腰の筋力を鍛え、バランス能力を鍛え、先ほどちょっと私のスライドで出しました、歩行能力を何とか維持する、これが最初の第一歩なんです。

 しかし、いずれかはやっぱり人というのは最後に向かって衰えていきます。そのときに、移動能力の中で、最後までそれを保つというときになってくると、これは助けを。だから、いわゆる車椅子であれ何であれ、こういったものの助けを求めるしかありません。それでも、移動するということの重要性というのは変わらないので。

 それに対する個別のニーズというのはあると思うんです。今、澤登さんがおっしゃったように、もっとかわいいのをつくれとかですね。私も速いことが必要だと思っていません。100メートル競走ではないので、100メートルを何秒で走るかではなく、100メートルをちゃんと移動できるかどうかということの視点、安全に移動できるかという視点が、恐らくそういうアシスタントデバイスでは大事な問題なのかなと思っています。

 それから、ちなみに言いますと、移動能力の後に衰える大きな障害、第2の関門は排泄なんです。移動能力が衰えていきますと、これは介護する側にいうと1人の介護者がつきます。しかし、今度は排泄がうまくコントロールできなくなって、排泄の障害が出てきますと、おトイレの問題が出てきますから、介護者は2倍の2人になります。

 ちなみに申しますと、第3の大きな障害というのは摂食障害になります。摂食障害になりますと、これはほとんど寝たきりという形になりますので、介護者は3倍の3人が必要になっていきます。そのときに胃ろうをつけるかどうかというのが、今の一番大きな実は終末期の問題というふうに御理解ください。

 そこの2番の関門、3番の大きな障害に行くところをどれだけ長く食いとめられるかというのが、実は移動なので、そういった意味では、いろいろな様々なニーズに応えられるような、小規模多機能のそういったモバイルシステムというものを何とかつくっていただければなという、これもエールになりますけれども、私のコメントです。

【質問者】 町田市で在宅サービス支援センターの支援の活動を続けて15年、支援のセンター自体も、NPOも15年の歴史と。まずまずの活動を続けているんですが、私はそれ以外のいろいろな活動をやっておりますけれども、全体として、今の高齢者の問題だけではなくして、個人個人が言うならば不活発症状になっていくということではなくして、社会として不活発症状になってはいないかというふうに思うんです、非常にいろいろな団体の中でね。

 要するに、グループの中で、俺もやりたい、私もやるよというような人が少ないと思うんです。それは例外なく言えると思うんです。ということは、社会自身が、我々の年代、それに続く年代、必ず続くはずなんです。必ずあり得るはずなんだけれども、50代、60代――大方は60代の人たちが続いてこないという意味でのグループの不活発は、社会の不活発の影響かなと思うことがあります。

 その点から、皆さん方がいろいろ活動しておられて、そのようなお考えをお持ちでないかどうか、現象的にお考えでないか、ひとつお聞きしたいと思うんですけれども。社会の不活発病ということを背負っていないかと。1例として申し上げますと、学校の問題、高等教育の問題です。つい最近、私が日本の大学生が海外で留学するという数の少なさが、OECD20か国の中の17番目であるという数字は、非常にその意味での社会の不活発の現状ではないのかなと。若者もまた不活発症ではないのかと、そういう意味で特に気になっている現象と思います。以上です。

【川瀬】 ちょっと大きな枠組みになりましたけれども。澤登さん。

【澤登】  社会は個々人によって成り立っていると思います。個々人から、一人一人から始める以外になくて、それで社会全体なので、やはり気がついた人間が自分のできることからすること、そして、何かグループで――私もNPOを幾つかやっておりますが、後から来る人に照準合わせることなく、やりたい人間、先頭を走っているところに照準は、私は置くべきだと思います。それで、どんどん気がついた人間、行動的な人間が――人によってタイプはありますから、そこからいろいろな動きが出れば、また気がついて、ああ、おもしろそうだといって、この指とまれに出てくるような気がします。

 例えて言うならば、冬眠している熊がいたとします。眠っている人間は、歩いているよさはわからない。眠っている人間は、目を覚ました熊が眠っている人間を揺り動かし、目を覚ましたら何か見えてきたよと。じゃ、目を覚まして立ち上がって、穴から首を出している熊は、目を覚ました熊に、穴から首を出したら新しい風景が見えるよと。歩き出した熊は、歩く楽しさを伝えるという、何かそういう形で行かないと、やはり社会全体がどうのこうのと言っていても世の中は動かないと私は考えております。以上です。

【川瀬】 はい。やはり動く人がいるときに形というか、ある程度仕組みをきっちりつくって、次の世代が逆にその背中を見て、こういうことをやっぱりやっていくんだというふうに思っていただくような形のものをつくっていかなければいけないんじゃないだろうかと。

 先ほどから、私もしつこく団塊の世代、団塊の世代と言っているのは、まさに彼らが企業等々でそういう厳しい状況の中でいろいろな成果を上げてきた人たちなので、こういった方々がまさに新しい発想、新しい知恵で、少し地域の中で新しい仕組みをうまくつくってもらいたい。逆に、その方々が、先ほど言ったように、うまく地域に軟着陸できる仕組みもまた必要なんですけれども、やはりそういうものを1つずつ丁寧につくっていくしかないのかなという気はするんですが、いかがでしょうか。

【質問者】 ちょっと私も、堀田さんと一緒にちょうど20年前に立ち上げまして、青葉台さわやかネットワークという介護の仕事をしておりまして、20年になります。今日お聞きして、実は私のほうも学童保育なり、それから今一番初めのボランティア活動という、子供、老人の送迎、それから、ちょっとした家の剪定とか、いろいろなことをやってきたんですが、今日のお話の中で鷲尾さんが非常にすばらしいことをおっしゃったんです。

 実は、我々の活動もちょうどいろいろなことをやっているんですけれども、ちょっと頭打ちになってきたなと。というのは、20年間やって、我々の活動も会員の人が約800名になっております。それも、お互い助け合いということをやっております。ただし、今、話に出た一番館というような、そういう建物は我々の初めは理想だと思っていたんですが、今日お聞きすると、どうもできそうだなという感じがしています。

 ただ、一番問題なのは、やっぱり地域の中で、1つ、どれだけ認知されるかということだと。そのために、今日の図解を見て、初めのうちは小さい船から大きな船になっていったと。あれは非常によくわかりやすくて、ああそうかと。じゃ、自分はどこら辺のところだかと、こう見ながらお聞きしていたんです。一番問題は、我々は自分でいろいろ努力をしているんですけれども、介護保険も始めて、それから学童保育もやって、年間約1億円ぐらいですけれども、今、おたくらのように3億とかいうのを聞くと、いや、これはまだまだだと思ったんです。

 どのようにして、一番問題なのは、市民を巻き込んでいったか。それから、行政といろいろな形でいろいろかかわり合いを持たれたと思うので、やっぱり政府も今盛んに地域創生ということを言っておりますけれども、一番真ん中、やっぱり核になる地域そのものが活力を出しませんとだめだと思っている。

 そういう意味で、一応おたくでやった、市民の方をどういう形で巻き込んでいったのかということが我々として非常に興味がありますので、非常に難しいかと思いますけれども、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。以上です。

【川瀬】 地域の方の巻き込み方ということで、鷲尾さん。

【鷲尾】 私たちは、すごく簡単です。仲間が1人、仲間を連れてくる。自分のやっていることを、1人隣に話す。なので、先ほど悩み、課題は人材だと言いましたけれども、今現在で、福祉職でうちは困っていないです。これから常勤の人が来たいと言われたら困っちゃうなというぐらい、一貫して――福祉は今人材が足りない、足りないと言っていますけれども、うちは足りないことは1つもなくて、全部地域の人が働いています。

 なので、ちょっと笑い話のような困った現象は、小学校の卒業式とか、中学校の入学式、卒業式というと、働いているお母さんたちがこぞって出るんです、子供の行事って優先的に休んでいいと言っていますから。

 そうすると、60代、50代がそこで出番になるんですけれども、地域密着型で働いているので、隣近所の人がみんな働きに来るわけです。自分の友達を連れてくる、同じ学校の人を連れてくる、それで自然に広がっていって。だから、マンションを建てるときに、うちは資金ゼロだったんです、あのとき。でも、あのときはファンド、今は疑似私募債を、お金って集まるのかなと思って1億円を集めようと言って、2か月で集まったことが一番の力になりました。ああ、こんなに地域が信頼してくれているんだと。

 その後、いろいろな取材を受けたときに、やっぱり1億円を集めたということで、銀行もきちんと応援をしてくれたし、建設の会社の方も、後で聞いたら3,000万持ち出したんだよという社長さんの話を聞いたんですけれども。地域の信頼を得るということは、地域の人が働く、地域同士で助け合いをする。そうすると、地域の人たちが、あそこに頼めばいいんだわというふうになってくるのが信頼につながり、人が増え。

 事業は、いつもミッションと事業性と、片手にミッション、片手に事業というふうに、両手に持って前に行っているんですけれども、最初にお金をもうけようと思って始めた事業は1つもないんです。多分さわやかさんも、みんなそうですね。助け合いで、安いお金でボランティアすると。

 でも、先ほどまるだいをやるときに、藤沢市で社協といろいろなことを相談したって言ったじゃないですか。社協さんのデータをもらったら、藤沢もたくさん助け合いがある中で、無料でやっているところというのは全然事業が伸びない。ただでやってもらうことというのは、一見何かすごく尊いことなんだけれども、ちょっと申し訳ないといって。

 きっちりとお金――社協の言うきっちりと、というのは1時間600円で、私たちの言うきっちりとは違うんですよ。だけれども、600円、社協でやっているところが一番事業が伸びていますというふうにおっしゃっていたのが、私は印象的です。うちは事業体ですから、1時間1,200円に消費税をもらって助け合いをやっています。ほんとうに大変なところは500円で行っていますけれども、通常は1,200円に消費税で行っています。

 やっぱり、ある程度お金になると、まるだいで82歳の方がお料理をつくっているんです。今、それでウエイティングリストができています、まるだいのご飯づくりには。皆さん、おっしゃるには、70代、80代で、そこは自給600円なんです、まるだいは助け合いなので、でも、どこもそんなお金を払ってくれる働き場がない。だから、すごくいいというふうに言われるので、幾つになっても、お金を稼ぐということがすごく大事で、それで仲間も増えていくかなというふうに私は思っています。

【川瀬】 ありがとうございます。

【質問者】 高齢社会をよくする女性の会のイナバと申します。今日はいいお話をありがとうございました。鈴木先生にお伺いしたいんですが、日本の女性の平均寿命は86歳なんですけれども、健康寿命との差が非常に女性は多いですね。日本の女性の健康寿命と平均寿命の差を縮めるためには何が一番必要か、是非よろしくお願いいたします。

【鈴木】 ありがとうございます。御指摘のとおりです。女性の場合、平均寿命も長いけれども、不健康寿命も長い。健康寿命が男性に比べて短いです。その理由は、先ほど申しました筋骨格系が過剰に老化していくからです。男性の場合は、血管系が過剰に老化しますから、生活機能があるうちに脳卒中で亡くなる。亡くなると、だから、死んじゃうんだけれども、健康寿命としては比較的保たれているという形なんです。

 女性の場合は、やっぱり筋骨格系の衰えというのはものすごく大きいんです。だからこそ不健康寿命が長く、健康寿命が短いという特性がありますから、これを予防するためには、いわゆる今ロコモと呼ばれていますね、ロコモティブシンドローム、そのロコモを対策することがまず一番大事だろうと思います。

 ロコモというのは、運動器の障害ですから、要介護認定に至るリスクが上がる状態だというふうに考えられています。ロコモの成分というのは3つあって、骨と関節と筋肉です。それぞれに、やっぱりケアをしなくてはいけません。骨というのは、何かというと、骨粗鬆症です。これは、閉経で50歳ぐらいになって、それ以降に大体55、60ぐらいになってきますと、骨の量がやはり落ちてきます。高齢になりますと、転んで骨折しやすいという状態になりますが。

 もう1つは、関節です。これは変形性関節症と呼ばれるものが一番有名な病態です。これは、なかなか防ぐのは難しいですけれども、少なくとも適正体重が必要になります。オーバーウエイトの人はどうしても関節に負荷がかかりますので、そういう状態になりますから、あまりにもしっかりした体をお持ちの方は、ある程度ダイエットは頑張ってやらなきゃいけないということになります、健康寿命を伸ばすという視点からですよ。

 それから、3番目の問題は筋肉です。筋肉は今まであまり大きく取り扱われていなかったんですけれども、これだけ女性が長生きしてきますと、平均寿命が86ということは、おぎゃあと生まれた女性の半数が86に行くということです。86歳の女性は、さらに平均余命が最低でも5年から6年ありますから、ものすごい長生きの生物集団なんです、日本の女性というのは。

 だから、それはほんとうにしっかりと自分のことだと思って、今御指摘のようなことを大事にしないといけないだろうと思います。筋肉の衰えというのは、しかし筋肉というのは、これは非常に原始的な臓器で、100歳になっても、簡単に言うと、筋トレをやると戻ります。有名なのは、金さん、銀さんという、お二人とも亡くなりましたけれども、あのおばあちゃんたちがものすごいメディアにもてはやされたときに、金さんが毎晩テレビ局に呼ばれるので、ベッドに腰かけて、足に500グラムのベルトを巻いて、そして毎日足首の筋トレをやって、これはほんとうの金トレだって、金さんが自分で言ったという、そういった笑い話もありますけれども。

 それから、もう1つ、どうしても膝、腰が痛くて筋トレができないという場合には、今はアミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸と呼ばれるロイシンという成分なんですけれども、これはサプリメントでも売っています。それをお飲みになると、筋肉が収縮するのは少し予防されます。ですから、アミノ酸の類ですね。お肉をしっかり食べられる、口の機能がしっかりしていて、お肉を食べても全然違和感のないという人は、やっぱりお肉、たんばく質をとっておくというのがすごく大事です。それが筋肉に対するケアです。ですから、まず女の人の場合の不健康寿命をいかに短くするかということから言うと、まずターゲットにすべきはロコモだろうと思います。もう1つは、実は認知症なんです。これもアルツハイマーという病気がすごく今多くなっているんです。女性の方にはちょっと申し訳ないんですが、性比がありまして、やっぱり女性のほうが1.5倍、発症率が高いんです。

 もう1つは、実は認知症なんです。これもアルツハイマーという病気がすごく今多くなっているんです。女性の方にはちょっと申し訳ないんですが、性比がありまして、やっぱり女性のほうが1.5倍、発症率が高いんです。ただ、これも最近ようやく認知症予備軍の段階で、適切な頭を使ったエクササイズ――我々はコグニサイズと呼んでいますけれども、そういうことをすることによって、認知症の発症を少なくとも1年半ぐらいは先延ばしするということがわかってきています。1年半先延ばしすることによって、1年間で発生する認知症の患者数33万人を削減することができる。それから、医療・介護費で大体9,700億円をセーブできるというふうに推定されています。

 ですから、これからの高齢女性、70歳を超えていった場合には、やはりこの2つ、自分の筋骨格系をしっかりいつまでもケアをするということが大事です。もう1つは、認知症対策として、少しでもウォーキングをして頭を使うというようなこと。しかも、科学的な根拠である程度先送りできるということがわかってきていますので、是非自信を持ってというんでしょうか、信頼感を持ってやっていくような世界になっていくんじゃないかなというふうに思います。

【川瀬】 長時間ありがとうございました。おかげさまで、当初の狙いである多様な高齢者像というのが少しは明確になってきたかなという気もします。まさに元気な高齢者の方々がどんどん活発に動かれれば、それはまた当然健康寿命の延伸にもつながりますし、そういうことによって、地域でのいろいろな仕組みがまた新たに出てくればいいなと、こういうふうに感じました。

 今日、パネラーの先生からいろいろお話を伺いましたけれども、また、場合によっては個別に是非いろいろお伺いいただいて、皆様方のこれからの活動の御参考にしていただければと思います。

 本日は、どうも大変ありがとうございました。