基調講演「高齢社会フォーラム・イン八戸」

「高齢者から発進!世代をつむぐ、三方よしの地域づくり」

藤原 佳典
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長

 少子高齢化でこれから期待されるのは、元気なシニアの方が、もう一回支える側に回ってきていただいて、周囲の人や地域を支えることで、それにはシニアの方ご自身が元気でいていただく必要がある。健康長寿の必須条件として、生活習慣病対策、老化予防対策(栄養・運動・社会参加)があり、老化予防には新たに地域力が加わり、健康長寿と関係している。社会参加の基本というのは外出と交流、そして役割づくりや小遣いを稼ぐということも非常に重要で、さらにいうと、社会的なつながりが豊かな人のほうが健康には有利である。社会とのつながりとしては世代間の交流がこれから新たな仕掛けづくりとして重要であり、具体的な策として高齢者ボランティアによる子どもへの絵本の読み聞かせプログラム「りぷりんと」のあゆみとエビデンスを紹介した。

藤原 佳典 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 研究部長の写真

 こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました東京都健康長寿医療センター研究所の藤原でございます。初めに、きょうはエイジレス章、あるいはエイジレス社会参加章の受章をなさいました皆さま方、本当におめでとうございます。私自身あっというような、目からうろこの、いろいろなお取り組みを勉強させていただきましてありがとうございました。これから約50分お時間をいただきまして、きょうは『高齢者から発進!世代をつむぐ、三方よしの地域づくり』ということで、おそらく、きょうお集まりの皆さま方にとっては、もう既にやっているよ、という活動も多いかと思うんですけれど、もう一度、ご自分の活動を振り返っていただく一つの機会にしていただければと思っております。


○本日のテーマ「シニアの社会参加による三方よしの地域づくり」

 最初でございますが、きょうのテーマは四つご用意しております。一つが少子超高齢社会。これを乗り越えるには、本当に全ての世代の方がそれこそ一緒に頑張って、日本全体そしてこの青森県八戸市を盛り上げていかないといけないという情勢に関してお話しをさせていただきたいと思います。社会参加といっても本当に多種多様です。仕事もあれば、ご近所付き合いもあり、それぞれが健康面にいろんな効果を持っています。そういった私どもの実証研究の結果を少しご紹介したいと思います。きょうお集まりの皆さんのように、もうすでに社会参加のリーダーとして活動されているかたがたは、もう何も申し分ないんですけれど、おそらく皆さま方の周りにいらっしゃる、まだおうちに閉じこもりがちの方とか、もう少し背中を押す必要がある方もたくさんいらっしゃると思います。そういったかたがたには、まず社会参加の基本というのは外出と交流ですよといったようなことも研究面からお話しさせていただきたいと思います。

 そして最後に、きょうのテーマである社会参加。これは、私は、一言で言うと『三方よし』ということだと思います。実は、私どもの研究所の設立者というのは渋沢栄一でございまして、彼は、本当に有名な幕末、明治の頃の日本の資本主義のリーダーといわれております。青森県とのご縁といいますと、日本で日本鉄道株式会社というのが明治の頃に起こりまして、私鉄で初めて東京から青森までを線路で結んだ会社なんですけど、それを設立したのも彼でございます。そういった資本主義、ビジネスのリーダーであるのと同時に、彼は徐々に福祉のほうへとどんどん入っていったんですね。ビジネスの肩書きはどんどん若い人へと譲り渡していって、今日でいう社会福祉協議会を立ち上げたりとか、あるいは私どもの研究所の元になる東京都養育院という施設をつくったり、福祉とビジネスと両方の達人でございました。

 彼が座右の銘で申していますのは、ビジネスであろうが福祉であろうが、本人、そして相手、あるいはお客さんがハッピーになること、そうすることによって最終的に、地域だとか世の中自体がハッピーになるという、この『三方よし』がないと、ビジネスも福祉もうまくいかないんだというような、そういう理念で彼は仕事をこなしておりました。そういった『三方よし』という今日のキーワードを具体的にしたモデルなんですけれど、私どもが取り組んできましたシニアボランティアの活動に関してご紹介したいと思っております。

○高齢化社会の現状

 最初ですが、ご承知のように、日本は1990年代半ばから高齢人口が子どもたちを追い抜いて、それと同時に働き盛りもどんどん減ってきているという、人口の減少局面になっております。本当にみんなで乗り越えないといけないのですが、そのためには、まずはシニア世代の方が元気でいていただくということが非常に重要だということになります。

 よくこういったお話をすると、社会保障の負担の問題というのが問われております。これは国のほうが出されているホームページから取ってきているものですが、今から50年ちょっと前は、医療費、年金とか、こういった社会保障は、働き盛りの9.1人の現役世代が1人の高齢者を支える時代だったといわれています。これ、一言で言うと、お神輿型社会というんですね。

 2012年には、2.4人で1人。つまり運動会でいう騎馬戦型社会というのがやってまいりました。まもなく1.2人で1人を支えることになりまして、肩車社会がくる。数が減っていく、若い人の支え手が減っていくということと同時に、一つ深刻なのは、同じ支え手である若者も、50年前の若者と今の若者では社会的な元気度が違うと。終身雇用が崩れた今の若者はどうしても社会経済的に元気がないということなんですね。

 つまり、50年前の若者、おそらくきょうの皆さんがたにもたくさんいらっしゃるかと思うんですけど、汗を流して頑張れば自分も家族も、世の中もみんなハッピーになるんだといった、右肩上がりの時代に頑張っていらっしゃった世代がいた。一方、いま若者は非常に閉塞しておりまして、見掛け上は仕事には就けても、一生会社が面倒を見てくれるかどうかも分かりませんし、長く非常勤になるかもしれない。あるいは、特に若い男性の場合、未婚率も高くなっており、個人的にも社会的にも非常に不安定な状態で、しかも少ない仲間同士で高齢者を支えていかないといけない時代がやってきています。

○元気なシニアが支える側に

 自分のおじいちゃん、おばあちゃんを支えるなら、納得できる方が多いかと思うんですが、核家族化が進んでくると、自分の生活がふらふらなのに、なんで赤の他人の高齢者の社会保障を支えなければいけないのかということで、ともすれば、世代間対立が起こってくるものなんですね。表面上はなかなか見えないんですけど、例えば選挙での投票活動であったり、地域でのいろんな優先順位といったこととか、ふつふつと世代間の対立とか、あるいは世代間の不公平というのが広がってきているというのが事実なんですね。とはいっても、この少子高齢化の難局をみんなで乗り越えないといけないということで、じゃあどうするんだと。いきなりロボットや外国人の労働者の人が全部救ってくれるかというとそれはまだ難しい話で、今残っている地域で活躍している人がみんなで頑張らないといけない。

 その中で特にこれから期待されるのは、元気なシニアの方が、もう一回支える側に回ってきていただいて、周囲の人や地域を支えるということも重要になってくるということなんですね。70越えてまた支えるのはしんどいという方もいらっしゃるかと思うんですけども、そういう方は手厚くケアされるというのが重要なんですが、まだ本人は元気なのに、たまたま年齢で上に無理やり祭り上げられてしまわざるを得ない方もいらっしゃるんですね。そういった方は、なんらかの、いろいろな役割をお持ちになって、もう一回下で支える側になられたほうが、その方自身の生きがいとか役割、健康も、もう一回再復帰するんだということを、われわれはいろんな研究で示しております。こういった人口の変化という数の問題が一つ大きな問題です。

○地域の問題解決の担い手は元気なシニア

 もう一つは、数だけではなくて、地域の問題とか、地域のいろんな課題の質の問題も変わってきたというのがございます。一言でいうと、今、地域の問題が非常に複雑化しています。多問題家族とか、複数の世代にわたって一つの家庭が抱えている課題が多いというようなことがありますね。例えば、子育てだけに専念されていた方が、一緒に住んでいるおばあちゃん、おじいちゃんが認知症になった。ひょっとして、おじいちゃん、おばあちゃん、2人とも認知症になったというようなことで、子育てプラス認知症のケアといったような、ダブルのケアとかトリプルのケア、そういった状況を抱えているような家庭もたくさん増えてきております。

 さらに仕事を辞めないといけないということで、生活苦とか経済的な問題も関わってくるということで、従来の役所がやっているサービスは、高齢者向けのサービス、子ども向けのサービスというように分かれていますので、どうしても発見が遅くなったり、隙間に手が届かなくなったりということがあるんですね。そういった世の中の複雑な課題に対して、どう向き合っていくか。確かに今までは民生委員さん、町会さん、自治会さん、こういったお役のかたがたが、今も頑張ってらっしゃるんですけども、その民生委員さん自身もなかなか後継者がいないとか、もう手一杯になっている。じゃ、誰かまた新たな担い手が必要だということなんですけれども、その担い手といっても、そんなに荷の重い話ではないと考えることもできるわけです。

 つまり、つなぎ屋さんがおられればいいということなんですね。例えばサークル活動でも趣味の活動でも何でもいいんですが、皆さんがたが活動されている中で、ちょっと待ち時間とか行き帰りのときのよもやま話で、「うちの娘の家庭こうなのよ」とか、「この頃旦那がこうなのよ」といったような困り事っていうのはいろいろ耳にされるかと思うんですね。そういったものを、じゃ、支援センターにちょっと聞いたらいいわよとか、保健師さんに相談してみなさいよとか、そういった誰か、ちょっと一言つないでくれるような人がいれば、簡単なことは救われることが多かったり、早く解決できることは多いんですね。

 別にこういったことは、わざわざお役のある方でなくても、友達とか知り合いが一言アドバイスしたりつないであげればいいというようなことが多々ございます。そういった地域のいろんなつなぎ屋さん、あるいはちょっとアンテナを張って耳をそばだてたりとか、あるいは聞いてあげるような役割の方がどんどん増えていく必要があるということでございまして、こういったものは、皆さんがたの日頃のメインのプログラムとは別に、人付き合いの中でいくらでもできることなんですね。ですので、本当につながりが重要になってきているというのが、今、一つの課題でございます。とはいっても、まずは地域の担い手として頑張っていただくためには、シニアの方ご自身が、まずは元気でいただく必要がある。つまり、支え手の元気が何よりということなんですね。

○健康長寿に必要なのは栄養・運動・社会参加、そして地域力

 私どもの研究所は、もう50年近くの歴史を持っておりまして、その間、全国津々浦々で、健康長寿の必須条件というものを、さまざまな実態調査を通して明らかにしてまいりました。古くは2000年の時点で一回、10か条というのを出しているんですね。その10か条は大体大きく分けて五つに分かれます。一つはいわゆる生活習慣病対策です。たばこ、お酒、メタボ対策、血圧、こういったものになります。残りの五つが老化予防。おそらくこの老化予防は、頭を使って、足腰歩いて、人と会話して、プラス思考で楽しんでというところで、おそらく先ほどの名川UUクラブの10か条に続くものがあると思うんですけど、大きくこの二つのタイプというのは、ある意味、相反する部分があるんですね。

 つまりこちらの病気対策のほうは、あれも我慢、これも我慢、節制しましょうというタイプの健康づくりです。一方この老化対策の場合は、それこそUUクラブじゃないですけども、あれもやりましょう、これもやりましょうということで、行け行けどんどんの、積極生活が健康そのものですよといったような、そういう健康づくりになります。

 この両方のバランスが重要なんですね。特に老化予防というのがこれから非常に重要になるんです。栄養・運動・社会参加という三つの柱なんですけれども、特にこの社会参加の部分というのは、いろんな活動されている方は、よく退職後は、『きょうよう』と『きょういく』が大事という言葉をよく使われると思うんですね。何かというと、『きょうの用事』と『きょう行く所』ということなんですね。つまり、きょうの用事、きょう行く所がなければ、いくら体を鍛えて、頭を鍛えて、栄養状態が良くても、宝の持ち腐れで、いつの間にか出なくなって活動しなかったら、その間に心身がさび付いてしまいます。つまり健康づくりをする原動力・目的・目標としての、社会参加が重要で、待ってくれている人がいる、何か自分がやらないといけない役割があるということがその根源にあると思います。

 一方で、時代の流れとともに、昨年度にもう一度、われわれの研究所では、この10か条を見直しました。交通整理したところ、栄養・運動・社会参加という、この3本柱は不動の位置を占めているのですが、新たに登場してきた言葉として、地域力というのがございます。つまり、地域の力というのが非常に健康長寿と関係しているということになるんですね。

○行政サービスを補完する地域の声かけ・場づくり

 私は、地域の研究をしているのと同時に、1週間に1日、うちの病院で認知症の方の診療をしております。一人暮らしの認知症の患者さんが非常に多いんですね。そういった方に、例えば私が、「朝ごはんを食べてから30分後にこのお薬飲んでください」というように二つお薬をお出しします。皆さん、「分かりました」とおっしゃるんですけど、翌朝には忘れてしまうのが認知症なんですね。つまり、気持ちでは分かっていても、そのときは理解していても実行に移せない方が増えてきているということです。

藤原 佳典氏の写真

 つまり、そういう方にはどうするのか。お薬を飲ませるためだけにわざわざヘルパーさんに行ってもらうというのは、これはなかなか無理のある、あまり効率のいいことではなくて、「お薬飲んだ?」ということなどは、お友達ですとか、あるいはラジオ体操のとき、「みんなお薬飲んでいますか」という確認をし合ったら済むことかもしれません。そういった、地域のちょっとした背中を押したり声を掛け合ったりするだけで救われることはたくさんあるんですね。つまり地域の力が重要だということです。これは何も高齢者だけの問題ではなくて、最近、子ども食堂が非常にブレイクしています。お母さんからすると、毎日カップ麺ばっかり食べさせていると子どもに悪いというのは分かっています。分かっているんですけども、いろんな家庭の事情でそれしかできない。もう仕事に行かないといけないから、涙ながらにカップ麺を与えているお母さんがたくさんいるわけですね。そういった子どもたちに対してどうするのかといったときに、今までは役所が全部手厚いサービスをできていたけれど、もうこれは、日本全国、役所が全部のサービスはカバーできません。何とか住民さん同士でも頑張ってもらいたいというところで、出てきているのが子ども食堂なんですね。

 単に給食のクーポン券だけ撒いてそれで終わりじゃなくて、みんなで、地域で定期的に集まって食べられるような所をつくってあげようとか、あるいはそこで集まるときには、子どもだけじゃなくて一人暮らしのおばあちゃんも誘おうじゃないかといったような柔軟な発想というのは、これは住民のかたがたしか、なかなかスタートできないことなんですね。分かっているけどできない人がたくさん増えてきていることに対して、周りの地域の方がちょっと背中を押すとか、あるいは手を引っ張ってあげるということが、長い目で見ると健康長寿に非常に重要になってきているということが、17年間のわれわれの学びでもございます。


○健康長寿に不可欠な高齢者の役割づくり

 また高齢者の方にとっての社会参加は、一言でいうと役割づくりです。人間の生活の能力は七つのステージからできているということを、あるアメリカの老年学者が提唱しているんですね。まず一番基本的な生命誕生。そして、はいはいできたり、寝返り打てたり、立ち上がったりといったような、パーツがちゃんと動くようになること。そして五感が備わってきて、身の回りのことが少しずつできるようになって、ときにはお留守番したりお使いに行ったりとか、あるいは自分で道具をうまく使ったりといったような成長が起こってくる。もう少し成長していきますと、親の言ったことをそのまま右から左ではなくて、自分で機転が利いたり、状況で対応能力ができたり、応用が利くようになってくる。もう少しすると、家庭の内外で役割を持って成人していく。これが人間の発達だというんですね。

 一方、峠を折り返すようにゆっくり下りていくのが老化現象でして、もともと役割を持っていた方とか、てきぱき物事を判断できた方も、その機会がなくなってくると、いつの間にかできなくなって、要支援・要介護にゆっくり下りていくというのが人間のパターンです。

 われわれは、今まで介護予防とか健康づくりというと、水際作戦のことだけをトレーニングしていたわけなんですね。一言でいうと、例えば45センチ足を上げましょうと。45センチ上げたらお風呂の浴槽をまたげますよとか、そのぎりぎりのことで満足していたわれわれの反省点もございます。

 そうではなくて、役割を持ったりてきぱきする生活をしていると、もっと平易な能力というのは放っておいても維持できるだろうということで、これからの介護予防はやっぱり役割づくりが非常に重要だということを、われわれはもう20年前から提唱していまして、国もやっと最近この役割づくりも重要だということを応援するようになってきてくれているというところです。では、この役割とか社会参加なのですが、確かに全く元気なかたがたも、まずは役割の能力が落ちてきて、それが2年ぐらいたつと状況の対応能力が少し落ちてきて、3、4年すると要支援になってくることが明らかになってきました。

 社会参加には、いろんな形態があるかと思います。例えば若いうちは、働くことが非常に重要です。この社会参加の最上階というか、責任というものも含めると、就労があるかと思います。

 後ほど、おそらくパネルディスカッションでシルバー人材さんの事例なんかをご紹介いただけるかと思うんですが、私は働くということも非常に重要だと思っておりまして、もちろん社会参加としての生きがいづくりとか健康という部分もありますが、やっぱりお小遣いを稼ぐということも非常に重要なんですね。やっぱり軍資金がなければ、出歩いたり、趣味をすることもできませんし、友達付き合いもなかなか無理です。そういう所得が絡むということで、働くことは非常に大事な社会参加だと思っております。

○調査結果から見る社会参加のもたらす効果

 われわれは、過去にさまざまな地域で実態調査というのをしまして、どういう調査かといいますと、東京の小金井市と、秋田県の今でいう仙北郡のほうなんですけど、10年間ずっと続けた調査地域があるんですね。グラフを見ると二つの線がありまして、実線のほうが70歳のときに仕事をしていた方で、点線の部分がすでに引退した方なんですけども、その後の階段の落ち方、つまり、生活の障害が出ているかどうかということなんですが、この階段が早く落ちている方というのは、仕事を辞めてしまっている方で、初めは皆さん自立されているんですけど、かたかたと落ちやすいということは分かっております。

 特に男性は、都市部であろうが農村部であろうが、明らかに仕事している人のほうが生活を維持しやすい。女性も農村部なら同じことが言えまして、当時は都会の女性の場合はがっつり働いている人が少なかったということで、退職の影響は関係なさそうなのですが、男性にとっては、あるいはご主人と同じぐらい農作業に従事されているような農村部の女性ですと、仕事というのは非常に大事にする必要があるんじゃないかと思います。

 仕事はちょっとしんどいな、となってきたときには、引退して、次はボランティア活動とか、あるいは趣味・稽古事といった活動に入っていきます。シニアの方の活動の場合、いい意味でもボランティアと趣味・稽古というのが混然一体としている部分が多いかと思うんですね。例えばボランティアをしている人、趣味・稽古事をしている人、先ほどと同じような考えで、生活の自立を考えた場合には、やっぱり参加している方のほうが自立しやすいということは分かっているんですね。でも、実生活を見ると、ボランティアと趣味・稽古で同じことをやっている場合が多いかと思います。

○学んだことを社会貢献するよき循環

 例えば、フラダンスのサークルの方なんか、初めは自分の美容と健康のためにやっていたと。でもだんだん上手になってくると、人に見てほしくなったり拍手が欲しくなってきたりする。町のお祭りなんかでちょっとお披露目の舞台をもらえたりしてデビューされることがあるんですね。それで1回拍手してもらうと今度は病みつきになって、じゃあ、施設を訪問しようかとボランティア活動へと昇格されていく方が多いかと思います。

 ボランティアをするとなると、やはりある程度の活動の質が求められるので、あんまりモタモタしていると「もう次から来なくていいですよ」ということになります。そういう意味では、日頃ボランティアをするようになって、より稽古をしたり、練習をしたり、鍛錬したりということで、自分自身の技とか芸を磨くことも多くなってきています。

 おそらく、先ほどのエイジレス章のかたがたも、ほとんどの方は人前でボランティアとして参加されていますけど、その裏方で、非常に工夫されたりとか、あるいは練習したり、よそへ見学に行ったりということで、ご自身も勉強しながら良い活動を続けてらっしゃる方が多いかと思います。

 学んでそれを社会貢献して、という良き循環を繰り返す相乗効果が健康にもいいんだろうと思っております。こういう活動なのですが、後ほど一つの『三方よし』の事例としてご紹介したいと思います。

○外出と交流の重要性

 社会活動なのですが、趣味・ボランティアは、基本的には多くの方が単独でやっているというよりも、なんらかのグループで参加されている方が多いと思うんですね。実は、この趣味・稽古というグループ活動自体が非常に高度な社会参加活動なんですね。つまり、1人気ままにやるのではなくて、周りの人と何か一緒の団体活動をする、協調して動くとか、ルールに則る、あるいはスケジュールに則って動くということは、他の人と一緒にやる活動ですね。それ自身が実は高度に頭も体も使うということで、人と一緒にする活動はちょっとしんどいなとなってくると、今度は自由気ままなご近所付き合いということになってきます。

 自由気ままなご近所付き合いですが、その基本は外出と交流でして、極端に外出をされない方のことを、われわれの領域では閉じこもり状態と呼ぶんですね。

 ちなみに皆さま方の中で、昨日一日、全く一歩も外へ出なかった方はいらっしゃいますか。さすがにいらっしゃらないですね。じゃ、2、3回出たり入ったりしたかなみたいな方、いらっしゃいませんでしょうか。ちょこちょこおられますね。昨日忙しくて、ほとんど家にいなかったという方はいらっしゃいます? さすがですね。おそらくそういうかたが標準的に多いかと思うんですが、大体1割ぐらいの方は、1週間に1回外出するかしないかぐらい。特にその中で、半分は体が原因で外出できない人。そして残りの半分は、気持ちの上で外出できない人、いわゆる引きこもっている方なんですね。

 この両方とも健康に悪いのですが、この引きこもっているタイプの方も、それ自身で健康に悪さをしているということを、後ほどデータでお示ししたいと思います。一方で、じゃあ外出だけしていたら安心なのかというと、そう簡単なものではない。やっぱり交流が重要です。われわれは、交流の非常に乏しい方のことを、社会的孤立とか、孤立状態と呼んでいるんですね。どういう基準かといいますと、同居家族以外との接触頻度が週に1回未満。これは、直接お会いしたり、電話とかメールも全部ひっくるめて、週に1回未満しか同居家族以外とは接触のない方のことを申します。

 なぜここで同居家族以外と限定しているかということなのですが、ここで一つ面白いデータがあります。これは、以前われわれが川崎のある地域で調査したのですが、これはグラフが長ければ長いほど精神的に健康ということです。同居者あり、一人暮らし、女性、男性、高齢、中年、若年と見ているのですが、この中で、一番精神的に健康だとおっしゃるのが、実は一人暮らしの高齢の女性なんですね。

 なるほど、とにやにや笑われる方も多いかと思うのですが、一方で一番心配なのが、世代を問わず一人暮らしの男性ということで、確かに男性というのは1人にしておくと、落ち込むか、爆発するかどっちかしかないような、われわれ自身も非常に気を付けないといけないところです。どうしても地域のサロンとかお茶の間というと、一人暮らしのか弱いおばあちゃんが何とか通って茶話会するみたいなイメージがありますが、多くのおばあちゃまは、もう既にたくましくそういう所へ通ってらっしゃって、もう守られている。

 むしろそれ以外の、同居家族がいるかいないかより、大家族であっても、1人でずっと孤立しているような状態の人はもっと悪かったりというようなことがありますし、一人暮らしでも周りとつながっている方は全然ハッピーということもございます。そういう意味で大事な基準は、同居家族以外とつながっているかどうか、ということなんですね。

○統計の裏付け

 外出も交流も両方重要なのですが、これは一つのデータで、埼玉県のある地域で調査したのですが、初回の住民調査のときに、毎日外出していますし交流もちゃんとしていますよという方を基準に取った場合に、男性は4年間経って、見掛け上は毎日外出していたけれども孤立している人というのは、生活の機能が2倍ぐらい落ちやすいというのが分かったんですね。例えば、よく一人暮らしの高齢の男性が、コンビニとかスーパーの店員さんからすると「あのおじいちゃん毎日お弁当買いに来ているけど、私、声も聞いたことないし目線も合ったことないよ」というような人もいるかと思います。

 あるいは都会ですと、黙々とトレーニング、ウォーキングしている人がいるのですが、もうサングラスしてマスクしてヘッドフォンして、一切声掛けてくれるなみたいな感じで黙々と修業されているような方もいらっしゃいますが、やはりそういう方よりは、みんなで和気あいあいとウォーキングされているような方のほうが長い目でみると健康にいいんじゃないかなと思います。そういう意味で、男性は外出よりもむしろ交流のほうが非常に重要です。

 一方、女性は交流していて当たり前なのですね。交流だけで外出しないと1.6倍ぐらいリスクは高い。中には90歳を超えても田舎の妹さんと電話でつながっている方とか、訪問に来てくれたお客さんと玄関でずっとお話ししたりという方もいらっしゃいますが、女性はともかく一歩またいで外へ出ることが重要で、いつもわれわれは、男性は交流なき外出、女性は外出なき交流に要注意ということを申し上げております。

藤原 佳典氏の写真

 一方、閉じこもりがちで外出もしてない人、実はこの人が一番危ないんじゃないかなというような気もするんですけど、実はこのかたがたというのは、4年後に、ちゃんとアンケートに答えるだけの機能が落ちてしまった方とか、あるいは亡くなっている方もいらっしゃいまして、その死亡を見ますと、明らかに閉じこもりの傾向があって孤立している人は、やっぱり一番早く命を落とされているということが分かるんです。

 そういう意味で、命という部分と生活の自立という部分と、二つ尺度を見る必要がありますが、いずれにしても、孤立していることも閉じこもっていることも両方要注意だということが言えるんじゃないかと思います。

○社会的なつながりがストレスを緩和する

 この孤立ですが、健康になぜ影響を及ぼすかということです。因みに、皆さんのなかで、今ストレスなしで全く天下泰平、怖いものなしみたいな方はいらっしゃいますか。「はい」と手を挙げると、この人何者かと思われるので、ちょっとにっこり笑っていただけますか。全く今もう心配なし、ストレスなし、天下泰平という方、ちょこちょこいらっしゃいます。ストレスが全くないのか、感じてないのかどちらかだと思うんですけど。両方大事ですね。

 ストレスの源は、病気とか死別・離別が起こってくると。それをどう受け止めるかというこの二つが相互作用で、その人にとって吉と出るか凶と出るかということなんですけれども、病気とか死別・離別は残念ながらいつ誰に起こるか分からない。受け止め方、いきなり性格は変えられるものでないですよね。ということは、じゃ、なすに任すしかしょうがないじゃないかということになるのですが、ストレスにさいなまれたときに助けになる、つまりクッションになってくれるのが、このつながりなのですね。

 例えば私は、診療のとき、認知症の方のご家族にお話しすることがございます。認知症というのは長丁場の病気で決して良くなるものではないので、患者さんが倒れる前に奥さんが倒れると元も子もないので、奥さんに元気でいただく必要がある。そのためには、奥さん自身が孤立せずに、同じような認知症の方を抱えた先輩とか近所の人と関わってもらって、そういう仲間をつくってくださいということを申し上げますね。

 われわれ医療者は、医療に対して、認知症に対して、病気の知識とかあるいは技術というものは提供できますが、本当に寄り添うことはできません。われわれが10回いろいろ指導したりアドバイスするよりも、同じ境遇を持っておられる近所の方が「あんた大丈夫よ、こうしたらそのうち良くなるわよ」と言ってくれたほうが、よほどスッと理解できたりとか、心が安定したりということがありまして、ストレスにさいなまれたときにクッションになるには、そういうつながりが豊かである必要がある。

 また、体は正直なもので、ストレスを感じていないと思っていても、孤立している方というのは、頼れるものは自分だけだと思うと、自然にストレスホルモンが慢性的に高くなって、気が付いたらいつの間にか血圧も上がったり、体の中で不具合が密かに出ていることが多いのです。

○つながりが豊かな人のほうが健康に有利

 また、つながりが豊かな方というのは、周りから健康とか安心・安全の耳より情報をもらいやすいということがあるんですね。孤立している方は、逆にテレビとかマスコミの情報しかありません。私も時々健康番組のお手伝いをするんですけど、どうしてもメディアは視聴率を取るために怖い情報へと盛り上げようとするんですね。やっぱり孤立している方っていうのは、そういう情報を鵜呑みにされたり、あるいはそれを大丈夫かしら、と相談する人がいないんですね。

 誰しも健康番組は見て当たり前なんです。健康番組というのは中高年に視聴率が取れるから、ゴールデンタイムにやっているわけで、孤立している人もしてない人も見るのは当たり前なんです。ところが、普通は「昨日の夜、たけしさんがこんな怖いこと言っていたわよ」とか、あるいは「林修さんがこれがいいと言っていたわよ」ということでもやもやしていても、次の日にラジオ体操のときに、「あんた昨日見た?」「私見た、怖かったね」で済むんです。で、次の日は、別の健康番組へと、どんどんテーマが変わっていって当たり前なんですけど、孤立している人はずっと何カ月も、同じテーマの怖い情報が気持ちの中に残ってもやもやして、最後は病院とか保健師さんに相談みたいな形になってしまうように要は発散できない場合があるのです。

 しかし、海外の怖い難しい病気よりも、地元でどういう体操教室が始まったとか、あるいはインフルエンザの予防接種がいつから始まるよといったような情報のほうが実は非常に重要なんですね。こういう情報をもらえるかどうかというのは、やはりつながりが豊かかどうかということで、この3本の経路で、つながりが豊かな人のほうが健康に有利だということになります。

○弱体化した社会の縁を代替する仕掛けとは?

 今の日本社会は、これまで血縁、地縁、そして社縁に守られてきました。しかし、これが全て弱体化してきております。

 じゃ、この弱体化した縁を、古き良き時代のように復活させるということは、プライバシーの問題とか、町が開発されたり、あるいは過疎化が進んだりでなかなか難しいものです。そう考えると、自然発生的な交流は難しい。交流が生まれるような、何かうまい仕掛けとか仕組みが重要になってくるのですね。おそらくそのヒントが『三方よし』、つまり主催者もハッピー、参加者もハッピー、そして地域全体もハッピーというつながりが一つの仕掛けだと思います。その一つの共通したプログラムというのが、ボランティアにその秘訣があったり、あるいはグループ活動にあったり、あるいはお仕事にあったりということだと思います。

○次世代支援こそが成熟した大人のすべき活動

 特にこの中で、きょうご紹介したいのは、この『三方よし』のプロジェクトで、世代間交流に注目したいと思います。きょう、皆さまの受章事例を聞いていますと、必然的といいますか、不思議なぐらい世代間交流とか、次世代支援というものをイメージした活動が多いな、とあらためて思いました。これは、アメリカの有名な心理学者でエリクソンという人がいっているのですが、人間の心理的な発達というのは、ある程度熟年期になってくると、いつまでもわが事だけの人は、その人自体がその先成長しないので、いつの間にか停滞してストレスが溜まるんだそうです。ある程度のところで次の世代を応援するとか、バトンタッチすることを考えて、初めて成熟した大人の道をたどるんだ、という理念を申しています。つまり、次世代継承ということなんですね。

 何を伝えていくかは、それはその人その人、多々ございます。知恵であったり思いであったり、技術であったり経験であったり、文化、環境。きょうの受章事例のかたがたも多岐にわたりまして、お茶を伝えたい方もいらっしゃれば、押し花を伝えたい方、あるいは学校そのものを残したい、あるいは自然環境、そういった何か次の世代に残したいというそれぞれの思いは、これはもう成熟した立派な大人のすることだろうということで、世代間の交流は、これから新たな仕掛けづくりとして重要だということが言えます。

 確かに子どもというもの、次世代というものはいろんな社会的な課題もありますけれども、特にその中でも重要なことは、すでにいろんな地域で、世代間の交流活動はやっていらっしゃいますが、往々にして、年に1回のイベントで終わっているようなケースが多い。でもきょうの発表事例を見ていますと、定期的にやってらっしゃったり、長いお付き合いされているというところが非常に多く、私は感銘を受けております。これがイベントですと、1年に1回、サンタクロースで呼ばれるおじいちゃんもおられますけど、付けひげをしていると12月25日に外で会っても誰か分からないわけです。それは本当になかなか難しい話で、やっぱり地味な活動であっても続ける、あるいは頻繁にやることで、本当の意味での信頼関係ができるので、きょうの活動自体、私は素晴らしいものだと思っておりました。

○シニアの読み聞かせプログラム「りぷりんとプログラム」

 われわれのプロジェクトを一つご紹介しますと、これは、入り口がご自分にとっての健康づくりにもなっています。特に、いわゆる脳トレでスタートしています。内容は、シニアの方が、まずは自分の脳トレのために絵本の読み聞かせの手法を勉強してもらって、それをマスターして脳トレ教室を卒業した後に、地域でボランティアとして活動されるというプログラムです。「りぷりんとプログラム」といいまして、これは15年前からスタートしているんですけど、初めは首都圏だけを中心にずっとやってきましたけど、昨年から北秋田市でもわれわれの仲間が誕生したんです。

 これは、一つのきっかけ、入り口は、わが事、自分の健康づくりですよと、敷居を下げたプログラムなんですね。われながら、絵本というのは交流を生み出す一つの仕掛けだな、あるいはシニアの方にウケる仕組みだなと思っているのは、絵本には、主人公がシニア世代を扱っているものが非常に多い。また、一冊一冊の絵本にメッセージがございます。子どもが見たら、聞いたら、楽しかった、面白かっただけで済んでも、大人が見ると、あ、これは平和のことを言っているんだとか、あるいは自然環境のことを言っているんだとか、あるいはこれは家族愛のことを言っているんだといったようなメッセージが多様にある。

 図書館を1周回れば、ネタが尽きることがないぐらい、もう一生かかっても読めないぐらいの絵本がありますし、みんなの前で読んで返せばお金もかからないといった利点もありまして、この絵本の読み聞かせプロジェクトを進めてまいりました。これ自体、図書館とか公民館が育成しているようなボランティアの読み聞かせプログラムとはちょっと変えまして、あくまでシニアの方の入り口の脳トレであり体力づくりということで、中には発声練習、『あえいうえおあお』とか、『ぱたからぱたから』などの滑舌も上手にしてもらったり、あるいは時間を計ってきっちり読むとか、情景をイメージしながら読んでもらうといったような、いわゆる認知症予防・介護予防の部分も入れたプログラムを3カ月間勉強していただきます。

○プログラム修了後は地域で読み聞かせのボランティアへ

 実際に、こういうトレーニングを受けて卒業された後は、地域の幼稚園ですとか保育園、学童、小学校、中には中学校、特養においてボランティアをされているわけです。モデル研究として以前実施したときに、実際に受講されたボランティアさんにいろいろな健康調査にご協力いただきました。体・心・頭にどういう効果があるかをわれわれは見てきたんですけど、確かに3カ月間の講座を受講していただくと、ほとんどの方が記憶力の検査の成績が上がるんですね。後から第2期で同じプログラムを受けられた方も同じだけの成績が上がるということで、これはどうも養成講座を受けるだけでエンジンがかかるんだろうということになったんです。

○老化予防に長期的な効果

 ここで大事なのは、普通は3カ月受講して修了証をもらって終わりなんですけど、終わってしまうとじわじわ落ちてくるのが老化現象です。やはりこれを維持するためにどうしましょうかと皆さんで相談するんですけど、せっかく勉強して仲間ができたのなら、自主活動に、これがボランティアに移ればねと、地域のいろんな読み聞かせの場で、ボランティアとして活動される。そうすると、今度は2年経った後も、良かったときの認知機能の成績が維持できているということが分かりました。

 高齢者にとっての健康づくりというのは、もう5年、6年、7年、10年と長く続けないと意味がないですし、長期にどれだけ頑張れるかということが老化予防で重要になってきます。先ほどのボランティアを6年間続けている方に、一度うちの研究所まで脳のMRIを取りに来てもらいました。すると、海馬という記憶に関係している脳の部位が、6年間たってもほとんど萎縮しないことが分かりました。一般の老化現象だと落ちてくるんですけど、そういう意味で長期の効果もあるだろうと。

 なぜ、この長期の効果があるかということなのですが、これは、ボランティアのかたがたの1週間にその秘訣があるんじゃないかと思っています。つまり、子どもの前で実演するのは週に1回であっても、その前に頑張っておうちで練習されているわけですね。声も出して、どういう本を選んだらいいのかと図書館通いもして、その後で反省会とかミーティングもしたりということで、ここの部分が社会貢献で、残りの部分が自己修練・練習・稽古の部分ですね。それが混然一体としながら、ずっと同じサイクルで6年間続けているということに、長期の効果があるんじゃないかと思います。しかも、読み聞かせだといっても、毎回桃太郎ばっかり読んでいるわけにはいきませんから、毎回絵本は変えていくというように、内容は少しずつ微修正、マイナーチェンジしながらもペースは崩さず、生活に密着したような形で継続しているから、おそらくこの長期の効果が望まれているんじゃないかと思います。

○文化活動だが体力維持にも効果が

 『三方よし』の活動なので、見掛け上は文化活動に見えるんですけど、実際に活動されている方の体力を測定すると、体力も維持しているということが分かってまいりました。やはりボランティアをするだけで日常生活がきびきびされるんですね。何時にはここへチャイムまでには滑り込んで、次は昼ご飯の準備があるから行って、図書館に何曜日までに返さないといけないというように、メリハリがある生活をされていて、それがおそらく自然に体力のアップにもなるのだろうということで、ボランティアさんに一回、万歩計を持っていただきましたら、ボランティアをやっているときは、知らない間に1日1万歩ぐらい歩くということが分かりました。

 今までわれわれは介護予防・健康づくりというと、ウォーキングのためにウォーキングしましょうとか、体操のために体操しましょうと、なんかそれが最終目標みたいに思っていたんですが、そうじゃないんですね。その日その日の自分の役割、自分の出番をうまくこなして、帰りにみんなで楽しくお茶飲んで帰れたらそれでいいわよと。気が付いたら、1日1万歩も歩いていたし、どうも頭も冴えているみたい、と健康がおみやげとして後からついて来ているんじゃないか、ということをボランティアさんからのメッセージとして伺うことができました。

 『三方よし』ですから、子どもとか保護者、教職員への効果も、われわれは実証してきました。子どもにとっては、読んでもらった絵本を、5年生、6年生も含めて、もう一回図書館で借り直したよという子が増えたり、あるいはお年寄り全体に対して豊かな、優しいとか温かいというイメージが長期に維持できたりということが分かりました。また保護者の方も、学校にボランティアであるシニアの方が入ってくれて、心身面で負担が取れたと感謝されていることが分かりまして、地元の教育委員会などからも感謝状をもらっている状況です。

○支えることで、支えられる

 こう考えますと、これからのシニアの活動は、まずやはりシニアのかたがたからキックオフをしていただく。そして、もう一回支える側に回れる人は、初めは支えるといっても自分のための健康づくりとか、自分の楽しみでも何でもいいんです。でもちょっと見方を変えると特に子どもであったり、あるいは自分たちよりも先輩のかたがた、高齢のかたがたであったり誰でもいいと思うんですが、なにか支えることによって、誰かの役に立つんじゃないかと。それが回り回って、この地域全体を良くしていくんだという発想が重要だと思います。

藤原 佳典氏の写真

 この方は、東京の大田区という羽田空港の近くで読み聞かせのボランティアをやってらっしゃったわれわれの仲間なんですけど、当時86歳で、要介護1の認定を受けながらボランティアをされていた方です。奥さんに先立たれて、家に閉じこもってらっしゃいまして、そこを地域包括支援センターのスタッフが、今度絵本の読み聞かせの脳トレ教室をやるから参加しませんかということで、引っ張ってこられたんですね。80過ぎの自分が絵本なんて今さらちゃんちゃらおかしいみたいなことをおっしゃっていたんですけど、そのスタッフへの義理で参加された。3カ月間、とりあえずは絵本を使った脳トレ教室に参加されて、最終日に隣接している保育園でお披露目をできる機会がありました。そのお披露目が始まる前は、きょう、もうこれで修了証もらってお役御免だというふうに、「あとはのんびりするぞ」とおっしゃっていたんですけど、読み終わった後に、今の子どもはよくできていますので「また来てね」って言ってくれたわけです。「ほなら、来週ね」と言って、また来ました。3年間ずっと続けられたんです。

 この方、実は活動を通して「80を越えて独り者になって、まさか絵本と出会うとか、子どもを見守る目ができるなんて思わんかった」とおっしゃっているんですけれども、この方自身が、実は非常に虚弱な方でして、入退院を繰り返されているんですね。よく転ばれる方で、ヘッドギアをしたり、手押し車を押したりしていることがあります。

 「僕も子どもを見守る目が何となく備わったけども、子どもも僕を見守ってくれているんだ」と言っているんですね。ひょっとしたら、いつどこで自分がひっくり返っているかどうか分からないけど、子どもが通報してくれるかもしれないし、保育園の保育士さんが声を掛けてくれるかもしれないし、保護者が声を掛けてくれるかもしれない。

 この活動をしていなかったら、自分は狭い世界で誰にも見守られることもなかっただろう。入り口は脳トレであっても、それによって自分も人のお役に立つこともできた。しかも見守ったり見守られたりというキャッチボールもできたんだと、そういう名言を残して2年前に天国へ召されました。

○お互いができることを補完し合いながら地域をつくる

 今から140年前に渋沢栄一さんが、これからは福祉もビジネスも、両方が補い合って世の中を良くしていくんだということを申しておりました。これから人生100年時代でございますので、例えば介護保険のサービスを受けながらも、自分ができることを、世の中のために少しでもボランティアとかお手伝いをできるわけですので、相反するような、ボランティアする人、してもらう人、介護保険受ける人、提供する人ではなくて、お互いができることを補完し合いながら地域をつくっていくということが、これから人生100年時代に求められるのではないかなと思います。ちょうど時間になりましたので、この後のパネルディスカッションの前座として、どこか少し頭に残していただければ光栄かと思います。どうもご清聴いただきましてありがとうございました。