パネルディスカッション「高齢社会フォーラム・イン八戸」
シニアが輝く、シニアを輝かせる地域づくり
- コーディネーター
- 小柳 達也
(八戸学院大学健康医療学部講師岩手県立大学客員准教授) - パネリスト
- 池田 右文
(株式会社池田介護研究所代表取締役) - 今野 千晴
(社会福祉法人白銀会グループホーム八戸グリーンハイツ管理者) - 中里 充孝
(八戸市福祉部高齢福祉課長) - 前田 洋子
(公益社団法人八戸市シルバー人材センター理事長) - コメンテーター
- 藤原 佳典
(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 研究部長)
〈要旨〉
高齢者が住み慣れた地域の中でいつまでも明るく元気で暮らしていくためにはどのようなことに取り組んでいけばいいのかディスカッションが行われた。高齢者の社会参加や孤立させないための施策についてさまざまな事例や着眼点が発表されるとともに、担い手・支え手である高齢者に対する正しい認識と尊敬の念を持つことが必要であるといった意見も出された。
【小柳】 それでは、本日のプログラムの最後になります、パネルディスカッションに入らせていただきたいと存じます。私は、ただいまご紹介いただきました、コーディネーターを務めます八戸学院大学の小柳達也と申します。よろしくお願いいたします。さて、本日のパネルディスカッションは、高齢者が住み慣れた地域の中でいつまでも明るく元気で暮らしていくためにはどのようなことに取り組んでいけばいいのか、これからの高齢者支援のあり方について、『シニアが輝く、シニアを輝かせる地域づくり』と題しまして議論していきたいと思います。
また本日は短い時間ではありますが、議論の最後には、地方都市八戸からなんらかの提言ができればと考えております。さて今回のパネリストは、高齢者がいつまでもいきいきと輝くために支援する立場にあり、また実際に精力的に活動されているかたがたをお招きしております。それでは、先ほど行政施策説明をいただいた中里課長以外の3名の方から、現在取り組んでおられる活動内容についてご紹介いただきたいと思います。それでは今野さんから順にお願いいたします。
【今野】 私は、社会福祉法人白銀会八戸グリーンハイツの今野千晴と申します。当法人では、昨年4月より地域交流の場として、『そよ風』を開設し、地域の人々がつながり支え合えるコミュニティーの拡大を目指した居場所づくりに取り組んでおります。子どもも若者も高齢者も、さまざまな悩みを抱える人も、誰が来ても良い場所、誰のことも線引きしない、心地良い居場所をつくり、つながりから生まれる安心感と支え合いを地域で育んでいきたいと考えました。専門職として、地域づくりの目標はたくさんありますが、まずは外出のきっかけをつくること、多世代のさまざまな人が交流することを目指し、私たちもその一員として、一緒に楽しみながら共に集う場をつくっていきたいと考えています。
多世代が気軽に参加できるようなテーマを5日ごとに設定していますの で、ご紹介いたします。食をきっかけにした交流などを目的とした『みんなの食堂』では、みんなと食べるとよりおいしいと会 話が弾み、和やかな食事風景となっています。調理や配膳の手伝いなど、自発的な行動も見られてきました。回想法を取 り入れた『思い出学校』では、脳活性化や世代間交流の場となっています。『オレンジカフェ』では認知症の方や家族を交 え、自然に交流し学び合い、情報交換がされています。『元気はつらつクラブ』は、自宅でも継続して行えるような運動が工 夫され、健康づくりの意識を高めています。音楽を楽しみながら交流し、脳活性化を図る『ハーモニーの会』も好評です。
『そよ風』を訪れる方の様子にも変化が見られ、私たちの関与がなくても特技を生かし、ものづくりに取り組んだり、活発な 意見交換がされるようになり、地域の方がよりおしゃれに、より元気になっている姿が見て取れます。『そよ風』の留守番を名 乗り出てくださる方も出てきました。「ここに来て皆さんと話すとすっきりする」、「出てくるまではおっくうだけど、やっぱり来て よかった」、「この年で新しい友達ができてうれしい」などの声が聞かれています。
子どもや若い世代の参加はまだ少ないのですが、交流の場面ではとても優しい時間が流れています。今後、地域のかた がたが運営に関わっていくことや、プログラム以外の日もみんなの居場所、多世代がつながりを深める場として、『そよ風』を 自由に活用していただきたいと思っています。また、地域の一人一人が、支える側と支えられる側を行ったり来たりしながら、 地域のおかげさま、お互いさまの関係が自然にできていくこと、さらに一人一人のやりたいこと、得意なことを生かした活動 が増え、地域の中に活躍の場が広がることを目指しています。以上でござ います。
【小柳】 ありがとうございました。では続きまして、池田さんお願いい たします。
【池田】 ただいま、ご紹介にあずかりました、株式会社池田介護研究所代表取 締役、池田右文と申します。皆さんよろしくお願いいたします。弊社の目 的は、高齢者が病気や物忘れによって日常生活が困難になっても、い つもどおり当たり前に、自分の人生を自分で決定し、最後まで地域社会 の一員として自分らしく生きることを目的としております。事業内容は、18 人定員の何でもOK、小規模デイサービス、『かなえるデイサービスまる』、ケアマネージャーの事務所、『居宅介護支援事業所まる』、旅行での介護付き添いサービス、『トラベルヘルパーセンター八戸』を主軸として開設しております。
きょうは、弊社の『かなえるデイサービスまる』の利用者さんも数名来ております。『かなえるデイサービスまる』では、弊社独自のセルフデザイン事業、自立支援システムを活用しており、お仕事・健康と美・趣味活動・生活を組み合わせて、病気や認知症などになっても職員がサポートすることで夢や生きがいを持った自立を目指しております。また、お仕事づくりとして、農業から加工・販売を目指した6次産業化を行っております。6次産業化は、弊社菜園の大根を利用者さんが漬物にしたことから始まり、漬物を試食した利用者さんから「売るべえ」とアドバイスが発信、これが翌年に販売へつながりました。 農業では、春に大豆の豆まき、夏には大根の種まき、秋には大根と大豆を収穫します。大根は漬物に、大豆は地域の味噌加工業者に搬入して味噌を造っております。販売は利用者さんと一緒に東京行商。翌日、観光を楽しむ東京販売旅行を昨年より実施しております。今年は漬物2000食、味噌300食を完売。将来、修了した利用者さんに、給料日に職員と一緒に賃金を渡し、いつまでも高齢者が社会の一員として喜びを持った未来を目指します。
次が、利用者さんと一緒に商品開発するジジババベンチャープロジェクトです。ヒントは介護業界で行っている回想法。利用者さんと座談会した内容の商品化を目指します。一度、試食品を作り、試食会の開催を予定しております。試食会ではアンケートを採り、翌年の内容を組み込んで改良、商品化に結び付けます。そして商品の発案者には、商品が1個売れると1円キックバック。1億個売れると億万長者も夢ではない、ジジババドリームです。
最後に、『まんまるカフェ』についてです。『まんまるカフェ』では、デイサービス利用者さんと職員が一緒に働き、子どもから高齢者まで自分たちの人生を自分で描き、学びと交流から共生社会を目指しております。以上が活動内容となります。
【小柳】 ありがとうございました。では前田さん、お願いいたします。
【前田】 皆さま、こんにちは。私は前田洋子と申します。八戸市内27地区に、地域福祉は地域の手で細やかにということで設立されました、田面木地区社会福祉協議会の会長と、公益財団法人八戸市シルバー人材センター理事長を仰せつかっております。その立場からお話しさせていただきます。
初めに、田面木地区社会福祉協議会の主な活動をお話しします。一つ目はほっとサロン開催です。65歳以上高齢者、特に一人暮らしの方が閉じこもりにならないようにということで開催するほっとサロンです。集まりやすいように、地域集会所、生活館、公民館で、町内ごとに年間3、4回、地区全体では17、18回、開催しております。
次はふれあい食事会、年1回ですが、地区内、全町内会の65歳以上 の一人暮らしの方、75歳以上の夫婦で暮らしている方の食事会を開催しております。約1時間は交通安全についてとか、詐欺に遭わないようになどという講話をいたします。その後は昼食、ゲーム、入浴を楽しみます。バスに乗ってみんなと出掛けるのが楽しいし、地区全体の行事ですので、普段会わない他の町内会の方たちとも会えるのがとても楽しみと言ってもらえます。
三つ目は友愛訪問です。65歳以上一人暮らしの方と80歳以上の方を見守り活動で訪問しております。
四つ目は認知症徘徊模擬訓練です。認知症で徘徊する方に声掛けをして安全な所に保護する訓練です。今年で11回目になります。今年度は11月4日の日曜日に実施することにしております。興味をお持ちの方はどうぞご参加いただければと思います。
五つ目は、健康づくり勉強会です。地区内全体の行事で、みんなが健康で長生きできるようにと実施しております。
六つ目は、小学校との連携。3年生対象のよもぎ餅づくり、4年生対象の認知症サポーター養成講座を開催しております。 次に八戸市シルバー人材センターについて少し話させていただきます。仕事を通じての仲間づくり。昭和54年8月閣議決定された第4次雇用対策基本計画により、シルバー人材センターとして全国に事業が開始されました。八戸市においては昭和55年6月に設立され、高齢者に臨時的、短期的な就業機会の提供がされるようになりました。現在1,300人あまりの会員が長年の経験を生かした仕事をし、さらにはクラブで仲間と楽しく過ごすことで、いきいきとしている、とてもいい生き方だなと思っております。詳しくは、皆さまの資料にチラシを入れておりますので、ご覧いただければと思います。以上です。
【小柳】 皆さまありがとうございました。それでは、私からも少しお話しをさせていただきたいと思います。私は八戸市内にございます八戸学院大学健康医療学部人間健康学科で、主に社会福祉学分野の教育研究に携わっております。地域に出て行う社会活動にも、機会と人、職場の理解などに恵まれまして数多く携わらせていただいておりますが、そのうちの一つが、先ほど中里課長からの行政説明にありました、八戸市生活支援体制整備事業への参画であります。ご縁があって、昨年度できた本事業における協議体である八戸市生活支援体制整備推進協議会の会長を拝命しており、本事業を良い方向に進めるための官民学連携活動の中で、微力ながらご協力をさせていただいております。
官民学連携活動と申しましたが、例えば、本事業推進のための八戸市の取り組みに、住民ですとか学生が主体的に参加をして、これを活性化させるという地域連携関係が見られるようになっております。
この事業では、八戸市内に存在する12の日常生活圏域を、さらに細分化した25地区のうち、地理的地域的に近い数地区にて、その地域における生活上の課題について、当事者であるご高齢の地域生活者ですとか、私の研究室の所属学生を含むさまざまな年代、性別、立場の人たちがワークショップ形式で話し合って、その課題の解決のためのアイディアを出し合って、その実現性を検討の上、協議会で諮られ、生活支援コーディネーターが新たに社会資源の創出ですとか既存の社会資源を有効に機能させるためのコーディネートを実際に行うということがされるようになっております。
このワークショップの正式名称は、住み慣れた地域での生活を考えるワークショップというんですけれども、このワークショップの中で浮上した、高齢者の地域生活継続のためのニーズへの対応策として、障害者福祉機関が力を発揮するなど、旧来からの高齢者福祉ですとか障害者福祉といった分野を乗り越えた支援の展開も見られるようになっております。具体的には、障害者福祉機関がごみ出しの困難になったご高齢の地域生活者のごみ出しを行うという、支え合い・助け合いの社会システムが市内のいくつかの地域で実装されるまでになっております。このごみ捨て支援の利用を希望した高齢者によると、これまでは近隣の人のごみ捨てを頼んでいたけども、その人が引っ越してしまい、他に頼むあてがなく困っていたとの声が聞かれており、現在のところトラブルなく良質な社会資源として、支援の始まった地域に根付きつつあります。
ワークショップに参加した学生たちは、自分たちも協力したことで、実際に地域に社会資源が生まれたことに驚いておりましたが、それが各自の自信にもつながっているようであります。またこのワークショップは、多世代交流の機会などとしても機能をしています。毎回ワークショップの参加者から見られる笑顔ですとか、次回のワークショップを楽しみにしている学生たちを目の当たりにして、その効果の大きさを感じさせられています。この事業の展開に関しては、先ほどの行政説明資料にもありましたが、新聞にも何度か掲載されており、方々から注目され期待されるようにもなってきております。微力ではありますが、私には生活支援コーディネーターのパートナーとしての役割、地域のニーズや事業の取り組みや効果を根拠付けて把握して、適宜それを資料化したりする役割、学生や各自の教育と本事業への参画を結び付ける役割などを期待していただいておりまして、日頃から関係者と連携して一緒に仕事をさせていただいております。
私の話はこれぐらいにさせていただきまして、それでは、これからこのパネルディスカッションのテーマに根差した具体的かつ本格的な話に入っていきたいと存じます。まずは、既存の高齢者の状況からお話を進めさせていただきたいと思います。日本は、世界でも類を見ないスピードで、少子高齢化が進展していると言われて久しいですが、依然として、世間には、高齢者は守られる側であり、支えられる側の人たちであるというように思われがちだとも思われますが、本当にそうなのか。行政の立場ではどのようにお考えになっておられるのでしょうか。中里課長、お願いいたします。
【中里】 確かにこれまでは、高齢者といいますと介護や支援を要する存在というイメージがあると思うのですが、先ほども説明していましたとおり、支援を要する高齢者は約2割で、残りの約8割の方は自立のかたがたでございます。しかも高齢者の元気なかたがたは、これまで培ってきた知識や経験をもとに地域でご活躍され、地域の中でも頼られる存在となっております。実際に日々の生活の中で地域を支えている町内会、民生委員、地区社会福祉協議会等の構成員の多くを高齢者が占めている状況だと思います。そういう意味では、高齢者は支えられる側だけではなく、地域社会を支えている存在だということが言えると思います。
しかし、今、高齢者問題、高齢社会問題といって、高齢なことが悪いように言われて嫌な思いをされている高齢者の方もいらっしゃると思います。しかし高齢者問題といっても、医療や介護の社会保障費の問題もありますが、地域においては、高齢者自体は何の問題もなく、むしろ閉じこもったり、孤立したり、生きがいを見出せていない高齢者を地域の中で担い手として生かせていないことが問題だと思います。現に高齢者なしでは地域は成り立ちませんし、高齢者の活躍なしではこれからの人口減少社会に対応していけないと思います。
今年の2月に改定されました高齢社会対策大綱でも、65歳以上を一律に高齢者と見るような年齢による画一化を見直し、全ての年代の人々が希望に応じて意欲・能力を生かして活躍できるエイジレス社会を目指すとの考えが示されているところであります。そういった意味では、担い手・支え手である高齢者に対する正しい認識と尊敬の念を持つことが重要であると思います。
【小柳】 ありがとうございました。エイジレス社会・共生社会について話し合っていく上でのスタート地点において、本来的に必要なも のの地域社会全体ではあまり知られていないとも言える事実について、政策的な裏付けの存在とともにお話しをいただきまし た。これからの高齢者支援のあり方を考えていく上で、高齢者を支える側だけではなく、支えられる側としても考えていくことが 大切であるとあらためて思いました。他者の支援を行うことが高齢者自身に肯定的な影響を与える旨の研究報告があることを 思い出しておりました。
それでは、先ほどの行政説明の中で、高齢者が明るく元気にいきいきと暮らしていくためには、高齢者を孤立させないこと、 誰かとつながっていることが大事であり、そのためには居場所づくり、仲間づくり、役割づくり、生きがいづくりのソースが必要 であるということが示されましたが、具体的にどのようなことをやっていけばいいのでしょうか。この辺りの点について、今野さん、 いかがでしょうか。
【今野】 先ほどの行政説明にもありましたとおり、地域社会全体で高齢者を支えていくということは、とても大事、重要だと思っていま す。まずは地域で高齢者を支援するためのネットワークをつくるといいますか、今あるネットワークを横に強くつなげて整えて いくことから始めてみてはどうか、と考えます。地域には高齢者を支援する中心的な組織として高齢者支援センターがありま す。そこを中心として、地域での生活を支えてくださっているさまざまな方、組織、町内会ですとか、民生委員、地区の社会福 祉協議会、老人クラブ、その他、高齢者介護に携わる事業所や地域の企業など、まだたくさんあると思うんですけど、そういう かたがたを交えて一堂に会し、ネットワークをつなぎ直したいと思います。
地域全体で情報交換・意見交換をして、まず自分事として高齢者に関わっていく、人と人とがよく関わり合うということが大切 ではないかと思います。さらに言えば、小・中学校のPTAや保育所、幼稚園、子ども会、育成連合会等もそのネットワークに含 むことによって、多世代によるより充実したネットワークづくりにつながると思っています。
【小柳】 ありがとうございました。現在厚生労働省は、改革の基本コンセプトに、地域共生社会の実現を掲げており、『我が事・丸ご と』の住民同士の支え合いが重要視されておりますが、今のお話の中で、自分事という言葉がありました。そのことが、はっと 思い出されました。先ほどの行政説明でも、地域包括ケアシステムの構築のために高齢者支援センターの機能に期待されて いる旨のお話がありましたが、そこを中心に、関係機関全体で既存のネットワークを見直して行うこと、また子どもたちの教育 機関なども含めた、多世代の交流や助け合いまでが想定されたネットワークづくりの視点についてもお話しいただきました。あ りがとうございます。次に池田さんいかがでしょうか。
【池田】 私も高齢者を支援していく上で、人とのつながりを重要視していくべきだと思っております。そこで地域にある老人クラブなど の各団体への加入、町内会や地区社会福祉協議会などへの役員就任を依頼することで、高齢者自身の居場所や出番をつ くります。そして、高齢者自身の居場所ができることで、担い手の確保や、地域や行動の活性化にもつながると思っておりま す。特に老人クラブについては、高齢化の進行下にありながら会員数が減少しており、どこのクラブでも役員のなり手や会員 の不足が目立っております。そこで地元老人クラブに所属している会員へのニーズ調査を行って、地元会員のニーズを検証 することで、魅力ある地域づくりと魅力ある人づくりを目指します。高齢者を決して孤立させない、社会の交流を保つことは、地域のニーズを高齢者自身が知り、地域関係者で共有することで、新しいニーズからの協力、連携していくことが大事だと思 います。
【小柳】 ありがとうございました。ただいまお話しいただきましたように、八戸でも、残念ながら老人クラブの入会者は減少傾向にあり ますが、ご高齢の当事者のかたがたにとっては、町内会や地区社会福祉協議会なども含んだ各種団体に所属をして、そこで 活動することが役割の保持や出番づくり、はたまた高齢期の居場所の確保につながるということを、福祉実践者の視点からお 話しくださいました。また、老人クラブ会員のニーズの把握を、会員ご本人とその他の関係者が一緒に把握をして、協力連携 体制を築いていくというお考えについてもお話しくださいました。ありがとうございます。次に前田さん、いかがでしょうか。
【前田】 先ほどの池田さんの、人と人とのつながりを重視して高齢者に声を掛け、いろいろなものに勧誘していくという方法にはとて も賛成なんですが、付け加えるならば、例えば、高齢者が小学校で昔の遊びを教えるなど、特技を生かす場にすることで、子 どもたちに高齢者は尊敬すべき存在であるということを認識させることがとても重要だと思います。また地域において、小・中 学校、児童館、町内会、保育園などの行事の手伝いとか、小学生のための交通整理、地域の清掃・除雪など、ニーズはたくさ んありますので、地域における高齢者の果たす役割は非常に大きいと思います。
【小柳】 ありがとうございました。今のお話を伺いまして、わが国の老人福祉法という法律を思い出しました。老人福祉法でいわれて いる、老人は多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として、かつ豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、 生きがいを持てる健全で安らかな生活を保障されるものとするという条文が頭をよぎりました。
さて、今野さんは現在高齢者を中心としたカフェを運営されている中で、そこに参加されている高齢者のかたがたが、自発 的にお手伝い、言わばボランティアをしていただいているということで、数少ない成功例だとも思いますが、ボランティアに対 するご意見、お考えなどございますでしょうか。また地域の中でも同じように高齢者のかたがたにボランティアをしていただくコ ツといいますか何かヒントになることなどございますでしょうか。お願いします。
【今野】 ボランティア活動といいますか、高齢者の社会参加につきましては、生きがいづくり、仲間づくり、人づくりというか人との交流、 全てそういうことにつながっていくので、とても良いことだなと見ています。私の周りにも、地域貢献をしたいと思っているシニア の方がたくさんおられますが、そのきっかけや、場がないことが課題だなと見ています。例えばどういうやり方があるのかなと考 えますけど、各公民館とか町内会でシニアボランティアの人材バンクのような仕組みを作って、ほんのちょっとしたことでもその 方の得意なこと、できること、やりたいことについて、多くのシニアの方に登録をしていただいて、地域のニーズと組み合わせ ていけたらよいなと思います。
シニアの社会参加が増えることで地域活動が活発になり、地域がより元気になると思いますので。あとは人手不足の問題も、 もしかしたら少し解決できるかもしれないなと考えています。そして、結果、その方自身の介護予防にもつながるのではないか と考えています。
【小柳】 ありがとうございました。今、シニアボランティアという旨の話をいただきましたが、前田さんはシルバー人材センターの理事 長をされておられますが、雇用という点で、何かご意見などいただけませんでしょうか。
【前田】 長年仕事をされてきた方が、定年後、何にもしないでいるのは非常にもったいないと思います。担い手不足という中で、これ までの経験を生かしていくということは、非常に大事だと思います。今、定年60歳というと、まだ若く働き盛りに見えますし、現 に20~30年前と比べましたら今の60歳は明らかに若いですから、なおさらでございます。また、一度家に入ってしまうと、時間 がたってしまうと、今度は外に出るのがおっくうになってくると思いますので、そういう意味では、退職した後、すぐにわれわれ シルバー人材センターをはじめ、働く場はいくらでもあると思いますので、介護予防や生きがいを求めて働くということはとって も素晴らしいことだと思いますので、ぜひそうしていただきたいと思っております。
【小柳】 ありがとうございました。ただいま、前田さんより雇用についてのお話をお聞きできましたが、これからの高齢者の介護のあり 方につきまして、仕事の面を重視されている池田さんはどのように思われますか。
【池田】 前田さんがお話ししたことはその通りだと思います。働くことは賃金を得るだけでなくて、人とのつながりや生きがいにもつな がると思っています。今後の課題として、少子高齢化が顕著になりまして、労働力の減少も心配されます。現在、働き方改革 として定年制度の延長などもありますけども、個人で生涯現役世代を目指した再雇用や、趣味活動を生かした活動の拠点が できれば、地域の活性化にもつながると思います。
【小柳】 ありがとうございました。以前、国内で実施された、高年齢者を対象とした調査で、対象者の約8割は、少なくとも70歳まで働 きたいと回答していて、約4割は、働けるうちはいつまでも働きたいと回答していること、その結果を、ある研究者が、高年齢者 の就労意識は高い、生きがいの一つは仕事ではないかと解釈しておられたことを思い出し、池田さんが言われたことにはき ちっと根拠があるのではというふうにも考えました。
一方で、藤原先生の『就労支援で高齢者の社会的孤立を防ぐ』という、ミネルヴァ書房から出ている本があり、私も研究分野 が近いことで購読させていただいたのですけど、その中に、実際には就労を希望していても諸事情から就労していない高齢 者が多数潜在していると考えられるということも書かれておりまして、多角的に現状というものを見極めていくということ、また地 域性についても考えていくことも必要ではないかと考えておりました。
それでは、ただいま生きがいという言葉が聞かれましたので、今度は生きがいづくりという点で考えていきたいと思います。 前田さん、何かありますでしょうか。
【前田】 生きがいといえば、やはり趣味活動が大きいと思います。八戸市でいうと、老人クラブとかがありますね。またでは、学友会という卒業生の組織がありますが、われわれシルバー人材センターにも、就業の他に互助会というものがありまして、互助会は、名所めぐり同好会、グラウンドゴルフの会、卓球の会、手踊りのスミレ会、手づくり輪の会、ボーリングの 会と、六つの同好会がありまして、趣味活動を盛んにしております。
そういった高齢者の組織・団体の連携を図ってみるというのも面白いのではないかと思っております。運動会や美術会を 合同で開催するとか、まずは交流を持つことで両者の活性化につながると思います。の卒業生は地域のリーダー としての活動が期待されておりますが、生きがいとして地域貢献を目的に活動しております老人クラブとの連携、そしてシル バー人材センター会員との交流においても、仲間づくりから始まり、お互いを行き来したり、相乗効果が現れてくると思って おります。もっと言えば、老人クラブ、、我がシルバー人材さんとも一緒に連携して、新たなサークルとか趣味の団 体などができればいいな、面白いんじゃないかなって思っております。
【小柳】 ありがとうございました。既存の組織・団体や、イベントの連携や、それによる新たな組織・団体をつくる方法もあるというこ とまでお話しいただきました。またそれらの組織・団体での活動が、仲間づくりや交流、生きがいの醸成、地域貢献につな がる可能性のあることを経験的にお話しいただきました。それでは中里課長、高齢者がいきいきとするための生きがいづくり という点で、行政としての新たな施策として何かお考えのことはございますでしょうか。お願いします。
【中里】 高齢者の生きがいづくりにつきましては、支援策いろいろあると思いますけど、大事なのは、まず高齢者が何を求めている かを把握することであると思います。そういう意味では、高齢者にアンケートを取ったり、高齢者によるワークショップを開催 したりということが有効ではないかと思っております。あとは、高齢者に喜びや楽しみ、生きがいを持てるための各種イベント の開催であったり、そういったものを検討したいなと思っておりました。高齢者の中には元気な高齢者、体を動かしたいと 思っている高齢者が多数いらっしゃると思います。運動は食事と並んで元気になるための二大要素でございます。高齢者 にとって運動はとっても大事だと思うんですけれども、運動する機会や運動する場所、そして何より運動するきっかけという ものがないというのが現状だと思います。そこで誰でも楽しめるような、気軽に参加できるようなシニアスポーツフェスティバ ルみたいなものを企画しても面白いのかなと思っております。
今、私どもで開催しております敬老会は、毎年高齢者の皆さんが楽しみにして参加いただいております。そういった楽し みにできるような施策をこれから考えていきたいと思っておりました。
【小柳】 ありがとうございます。当事者が求めていること の把握、地域で生きがいづくりの支援策について 考える上でも大切ですよね。当事者を置いてけ ぼりにしないための攻略としてのワークショップの 開催ですとか、アンケート調査、そしてシニアス ポーツフェスティバルの企画というところまでお話 しいただきました。それでは次に、先ほどの行政 説明の中で、つどいの場の創出が必要だというこ とが示されましたが、その点につきましてお話しししていきたいと思います。つどいの場の創出について実践されておられます、池田さん、何かご意見ありますでしょうか。お 願いします。
【池田】 高齢者のつどいの場という点においては、現在、各社協が中心となって行っている高齢者向けのほっとサロンという活動が あります。その他、各集会所での健康予防教室や、趣味活動での交流、地区公民館での活動などさまざまあります。これは、 月1回程度集まってお茶を飲みながらお話ししたりとか、あとは、健康体操や活動をしたりということで、参加者にとっては月1 回の楽しみになっており、回数を増やしてほしいという要望も聞いております。皆さんはいかがでしょうか。
そういった中、高齢者が自分たちで力を合わせてのカフェの開催は、大変興味深く面白いと思います。場所は歩いていけ る距離にある集会所、公民館、老人いこいの家、地域にある高齢者施設、小・中学校など、その他さまざまあると思います。 そういう所に誰もが通える身近な存在になればと思います。特に集会所は市内にかなりの数がありますので、公民館よりは 近く、親しい人たちが集まれるのではないでしょうか。また老人いこいの家も市内に7カ所あります。地域の資源を活用して、 今、今野さんが社会福祉法人で行っている地域の貢献のために、場所の提供を含め、積極的に協力していただけることが これからは理想かなと思っております。
【小柳】 ありがとうございます。それでは続いて、今野さんのほうからもお願いできますでしょうか。お願いします。
【今野】 地域の中には、これまで培った経験と多くの知恵を持っているお元気な高齢者というかシニアの方がたくさんおられますの で、高齢者によるというかシニアによるカフェ、シニアカフェのようなものが実現できればよいなと、今の話を聞いて思いまし た。カフェを入口に、つながりをつくるということです。カフェという名でシニアがいろんな活動をする場ということです。初めは いろんな方にバックアップしてもらいながらだとは思いますが、そこで集う高齢者が仲間をつくって、自主的に活動していくと いうことを目指していければいいなと今思いました。カフェといっても自由な雰囲気でお茶菓子を食べて会話するだけでも本 当にいいと思いますので、できるところから少しずつ始めて、回数を増やすだとか、自分たちのペースで形を作りながらその 輪を広めていければいいのではないかと思います。
実際にデパートとかショッピングセンターで、高齢者の方が、ただベンチに座っているという姿を目にすることがありますよ ね。そういった、外出はするけれども行った先で交流のない高齢者や、行く場所があまりない高齢者に対しては、気軽に集 える場というものを提供して、そこで仲間をつくって楽しく過ごしていただきたいと、いま『そよ風』の活動を通して本当にそう 感じています。あとは、中心街の一画にも設置すれば、市民の皆さんにも認識してもらえる機会になるのかなと思います。高 齢者が仲間とわいわい楽しくしている所に、別の高齢者が来てそれを出迎えて、コーヒーやお茶菓子を低料金で、100円ぐ らいで提供して、高齢者だけではなくて、そこには子どもとか家族連れなんかも来て、いろんな世代が集まって交流し、にぎ わいがつくっていけたらいいなと思っています。
高齢者が楽しく輝いている姿を見て、若い世代は高齢者に対するイメージとか偏見を持つことなく、高齢者の人たちって 楽しそうだ、なんかうらやましいなと、年を取ることって悪いことばっかりではないんだなと感じてもらうこと、そして誰でもそこ に立ち寄って、支える側と支えられる側の垣根を取って協力していければいいなと思っています。このシニアカフェが多世 代交流の場になって、街づくりにもつながることが期待できるのではないかなと思います。
【小柳】 ありがとうございました。シニアカフェについて、近い将来実現できそうな大変具体的なお話を、池田さんと今野さんから賜 りました。皆さんからいろいろな意見が出てきておりますので、もっとお話を聞きたいところですが、お時間の関係上、そろそ ろ終わりとさせていただきたいとも思います。それでは最後に、八戸市高齢福祉課の中里課長から本日のディスカッションを 踏まえて今後の方向性や展望について何かお話しいただければと思います。中里課長お願いします。
【中里】 本日は高齢者が住み慣れた地域の中でいつまでも明るくいきいきとした生活をしていくためにはどのようにしていけばいい のかということで、いろんな具体策が出されましたけれども、総じて目指すところは、地域社会全体で高齢者に対し、居場所 づくり、人々との交流による仲間づくり、役割づくりをしていくことだと思っております。ただ、高齢者がいつまでも元気でいる ためには、一番大事なことはまずは高齢者が自ら生きがいや趣味を見つけること、そして積極的に地域社会との交流を持ち、 元気に活動することだと思います。地域の役割はその高齢者の活動を協力連携し合って支援すること、また自ら活動できな い高齢者、そして趣味や生きがいを見出せない高齢者もいると思いますので、そういうかたがたに対してはさりげなく手を差 し伸べること、それが居場所づくりであったり役割づくりだったりすると思います。
また高齢者の皆さまは、知識や経験という点におきましては、他のどの世代にも絶対負けておりませんし、どの世代からも 尊敬される頼りになる存在でございます。これからも明るく元気に過ごしていただきたいと思いますし、地域にそして社会に、 これまで以上に貢献していただきたいと思っております。
また本日は、内閣府から、これからの高齢者支援のあり方について考える貴重なきっかけをつくっていただきました。今回 のフォーラムを単なるイベントとしてではなくて、これからの高齢者社会の支援のあり方について考えるきっかけとして、これ から関係者の皆さまや、高齢者をはじめとする市民の皆さまと一緒に考えていきたいと思っております。
【小柳】 ありがとうございました。それでは最後に、藤原先生から今回のディスカッションについて、ぜひご感想をいただきたいと思 います。藤原先生、どうかよろしくお願いします。
【藤原】 ありがとうございました。きょうは、パネリストの皆さん方の日頃の取り 組みで、私自身勉強になったことが多々ございました。お三方で特に 一つ一つ印象に残ったことを、感想を述べさせていただきたいと思い ます。
今野さんの仕掛けといいますか、手立てというのは、社会福祉法人 というお立場で地域のいろんな団体さんをつないでいきたいと、それ は町会さんであったり、自治会さん、民生委員といったような地縁組 織で活躍されている方もおられれば、一般のボランティアの方もい らっしゃったりとか、あるいは真ん中には民間のいろんなお店なんか も含めてだと思うんですけども、今この地域包括ケアにおいて、地域 づくりをしながら、その地域の福祉を広めていくという方針は、国も、もう口酸っぱいほど申しておられるのが、多様な担い手による一つのプラットフォーム、土俵といいますか、それを作っていきましょう号令を掛けております。
これ、非常に重要なことなんですけども、言うは易しですが、実際は非常に難しいことなんですね。というのは、それぞれの団体が、違うバックグラウンドで違う重荷を背負って一つの土俵に入ってくるために、なかなか連携というのは、口で言うのは易しいんですが、実際はどこまで連携できるのかとか、それぞれの関心事は何なのかをまとめていくのは、一番重要なところだと思います。そういった視点で、きょうのいろんな事例を考えていましても、共通して一つの土俵に立てるというのが、それが『三方よし』なんじゃないかなと思うんですね。例えば、高齢者の方のサークルがあったと、それ自体の活動はいいけども、新しい団体であって、例えば場所を取るとか、あるいは何か子育ての団体とか他の団体さんの妨げになったりとか。これは都会のほうですと、例えばゲートボールの大会を優先するのか地元の少年野球のチームの練習を優先するのかといったところで、結構ぎくしゃくしたりするようなこともあるんですね。そういった、お互いがうまく共存してメリットがあるようにするにはどうしたらいいのかということを考えていくことが非常に重要です。例えば『三方よし』、それぞれが関わることでのメリット、あるいはどうすればお互い共通の関心になるのかを、議論しながら土俵をつくっていくことが非常に大事なんじゃないか、今そのキックオフをされたところだと思います。
実際、カフェとかサロンを運営されているところでも、多世代の人が集まるとか、いろんなバックグラウンドの方も気軽に集まれる所をつくっておられるというのは、その土俵に乗せる第一歩かなと思うんです。そのプログラム一つ一つも、おそらくどの世代にもどういう人にも、いろんなプログラムを受けるのにどうしたらいいのかという知恵の絞りどころだと思うんですね。 きょうおっしゃったような押し花であったり、生け花の先生、これは市外からいちいち来てもらうのは大変だと思うんですけども、そういう人材をどう発掘するのかとか、あるいはどうコーディネートするのかというのが次の課題かなと思うんです。
そういった中で、今野さんは、中間支援の情報を集めてくるような所とか人材バンクですね、こういうことならできるよという人を集める所をつくっていったらどうか、ということをおっしゃったと思うんですが、これから非常にそういう所が大事だと思います。全部主催者ができることじゃないので、そういう人材とか情報を集めておいて、それぞれ必要な団体さんが共通利用できるような、所をつくっていくことが大事だと思いました。
お二方目の池田さんのお話ですけど、先ほどの多様な担い手さんが参加されて、いろんなアイディアを出されるというところの中で、非常に私が印象に残っていましたのが、GGBBですかね。少しお小遣いになる仕組みを発案されていましたけど、これは非常に大事なことだと私は思います。もちろんシルバー人材センターさんのように、正々堂々とちゃんと賃金が発生するようなところは、それはそれでいいんですけども、やることがちょっとお小遣いになるというのは非常に大事な発想でして、以前、私どもが都内の高齢者の方に、どういう活動を好みますかというのを調査したときに、特に男性は、やっぱり自分のやったことがお小遣いになって戻ってくるというところに値打ちを感じられる部分もあったりするんですね。そういう意味では、無償ではなく、ちょっとお小遣いになるという重要性というところを、うまく押さえておられるんじゃないかなと思います。
この点は、池田さんが株式会社池田介護研究所の代表ということで、やっぱりビジネスの感覚を持ってらっしゃる。いいことだと思うんですね。どうしても、もっと堅いお立場の組織ですと、あんまりお金が動くようなことをしたらまずいんじゃないかみたいな発想もおありになるところを、ぎりぎりのところでいろいろアイディアを出されている。これも一つの大きな土俵の中で、民間の株式会社の方が、地域でどう福祉的な発想で仕事を展開されるかという非常にいい事例をご紹介いただけたのではないかと思います。
最後、前田さんのシルバー人材さんですが、こちらは本当に地域の団体としては老人クラブとともに高齢者の活動の老舗 中の老舗だと思うんですね。逆にいま、老舗であるがゆえに老人クラブもシルバー人材さんも、全国的になかなか人不足に なってきている。後継者が育ってきてないというのは、そういう共通の課題を抱えてらっしゃるんだと思います。そこできょう おっしゃっていた中で、私が非常に印象に残りましたのは、介護ですとか福祉とか生活のお助けといったような、そういう福 祉系のお仕事にどんどん進んでいかれているというのは、これは非常にいいところだと思います。
先ほど、小柳先生のほうから私の書物から引用していただいて、まだまだいわゆるミスマッチといいますか、仕事をしたいけ ども、やりたい仕事とやってほしい仕事があんまり兼ね合ってなくて、埋もれている方が多いというようなことをご指摘いただき ましたけど、まさにそのとおりなんですね。
高齢者も、こういう働き方がいいんじゃないかとか、こういう仕事をしたらいいんじゃないかということで、結構アイディア豊富 に、あるいは、昔現役のときにコンピューターをいじっていて、かなりのとこまで行っていたとか、ビジネスではぶいぶい言わ せていたような方が、じゃあそれを再就職でもう一回、仕事を切り換えてやり直せるのかというと、残念ながら、特にコン ピューターとかICTなんかは、もう世の中の流れのほうがどんどん早いわけですね。
だから、仕事するにしても、あんまり昔の実績にこだわるというよりも、やっぱり働く側も発想の転換をしていただくということ が重要なんじゃないかなと思います。われわれもいろいろな調査や検討会をしたんですけど、最終的に高齢者の方に適し た働き方とか仕事っていうのは、例えばコンピューターは駄目とか、体をむちゃくちゃ使うようなハードなものも駄目とか切っ ていくと、最後残るのが、福祉型の就労だと思います。
最近はAIといって、人工知能が仕事を奪うというようなことがいろいろ取り沙汰もされていますけども、そういう中で最後まで 残るのが、対人的なコミュニケーションの仕事とか、きめ細かい人間らしい仕事が残るというふうに言われているんですね。そ ういう中では、今後の時代の動向を見ても、福祉的な仕事の中で、シニアのかたがたのニーズっていうのはまだまだ高くなる と思っておりまして、ぜひそちらの分野で活路を見出していただくということを、われわれも応援したいと思いますので、よろし くお願いいたします。
最後ですが、きょうのお話を聞いておりますと、本当に地域の課題っていうのがどんどん複雑化していったり多くなっていく 点で、地域の課題が複雑なら、こっちも複雑な体制で対応しないと、単純に、えいやっと切り込むだけでは、多分、解決でき ないと思うんです。相手が複雑で非常に混み入って、課題自体がものすごくしたたかになってきていますので、われわれ側 もしたたかに対応していかないといけない。そのためには、いろんな解釈ですけど、ぎりぎりのところをつついていかないとい けないと思うんですね。
というのは、一言で言いますと、先ほどの介護とかあるいは健康づくりといったいろいろなところでお金がどのくらい動いて いいのか、お小遣いになっていいのかどうかといった議論なんかも、おそらく拡大解釈すれば全然それもOKだろうという時 代になっております。そういった、今まではお金と福祉というとちょっと二の足を踏んでいたものが、やっぱりどんどん拡大解 釈していくところは拡大解釈していくべきとなっていると思います。その辺り、今回国のほうが主催で、内閣府さんにやってい ただいていまして、国のほうは逆に今はもう地域に委ねて、地域の実情でぎりぎりのところまでいろいろやんちゃしてください よというようなメッセージを出されているんだと思います。
一つ、最近の例ですと、デイサービスとかでカジノをやっていいのかどうかというようなことが新聞でばーんと出ていたことが あるんですね。あれは、市町村によっては禁止している所もあったり、どんどんやっていいよという所もあったり、あくまで国の ほうは静観されていると。もう地域の実情で判断してくださいと。国がえいや、という話ではないという。あえて静観という英断 の姿勢を国は取っているんですね。というのは、地域の実情で、どこまでがぎりぎりでどこまで思い切ったとをやっていい、でもここまではルールを守らないといけないと、もう地域で考える時代になってきているという一つの例だと思います。 そういうことで、今後、この複雑怪奇な世の中に対して、この八戸市、あるいは青森県がどう解決していくかは、皆さんのよう ないろいろな実践家のかたがた、あるいは学者のかたがた、そして一般の市民のかたがたが、ぎりぎりのところの知恵を出 し合って、みんなで作戦を練って、戦略を出して対応していくしかないんじゃないかなと、きょうはそういった情報源をいた だきまして、私自身非常に勉強させていただきました。どうもありがとうございます。
【小柳】 藤原先生、大変専門的ながら、現実がよく捉えられたイメージのしやすいお話を賜り、本当にありがとうございました。それでは、コーディネーターとして締めのお話を私から一言二言させていただいて終わらせていただきたいと存じます。
本日は、『シニアが輝く、シニアを輝かせる地域づくり』をテーマに、高齢者が住み慣れた地域の中でいつまでも明るく元気に暮らしていくためにはどのようなことに取り組んでいけばいいのか、またこれからの高齢者支援のあり方について議論してまいりました。
私が専門とする社会福祉分野においては、戦後いち早くから、特に知的障害児ですとか重症心身障害児の福祉を牽引した、社会福祉実践家であられ る糸賀一雄先生という方がおられます。この糸賀一雄先生による『この子らを世の光に』という福祉理念・思想が、大変大きな影響力を持っております。生きづらさを抱えている知的障害を持つ子どもたちの福祉において、『この子らに世の光を』ではなくて、『この子らを世の光に』なのです。近年までの福祉実践の積み重ねの中で、この福祉理念・思想は磨かれて、多様な議論を経て拡大化・普遍化されておりまして、知的障害児や、重症心身障害児のみではなく、広く社会福祉全体の福祉の基盤となってきております。
例えてみれば、『このお年寄りに世の光を』ではなくて、『このお年寄りを世の光に』という心情からの福祉理念・思想に基づく高齢社会の見つめ方が大切という解釈ができるようになってきております。この視点に立つと、本パネルディスカッションでお話しくださったパネリストの皆さんの取り組みやその視点は、当事者である高齢者の自己実現をも照射した最新の社会福祉理念や思想と合致したものでして、豊かな高齢社会をつくる上で大変示唆に富む素晴らしいものであったと言えようかと存じます。
このようなことも踏まえつつ、これからの高齢者の将来像として3点。まず高齢者が自らの生きがいづくり、健康づくりのために積極的活動をして、それが介護予防にもつながっている。また、高齢者がいきいきとしており、若い世代から頼りにされている。そして、高齢者が地域で高齢者を支え、地域社会全体まで支えている。そのような社会の実現に向けて八戸市民全体で取り組んでいければと思います。それでは、本パネリストの皆さまからいただいた貴重なご意見とこの将来像を、地方都市八戸からの提言にしたいと思いますが、皆さまいかがでしょうか。
【小柳】 ありがとうございます。それでは時間になりましたので、以上でパネルディスカッションを終わりたいと思います。会場の皆さま、長時間にわたりご清聴くださり、誠にありがとうございました。