第2分科会「高齢社会フォーラムin東京」

「世界と一緒に考えよう!コロナと高齢者の暮らし」

コーディネーター
松田 智生
(株式会社三菱総合研究所未来共創本部 主席研究員/チーフプロデューサー)
パネリスト
パオラ・カヴァリエレ
(大阪大学大学院人間科学研究科 特任講師)
蔡 慶玉
(作家・コラムニスト)
牧 壮
(牧アイティ研究所 代表)

〈要旨〉
 第2分科会では、「世界と一緒に考えよう。コロナと高齢者の暮らし」をテーマに、イタリア、台湾、日本のパネリスト3名による体験発表が行われました。イタリア人のパオラ・カヴァリエレ様には、91歳で一人暮らしをされているお母様をコロナ禍でどのように支援したのか、イタリア政府の施策や家族の取り組みをお話いただきました。蔡慶玉様は「253日コロナゼロ」を打ち立てた台湾の防疫対策や市民の対応、入院されたお母様のお見舞いに帰省された際の体験を報告いただき、台湾は世界の感染対策に協力させていただきたいと話されました。牧壮様からは、コロナ禍でシニアは孤立し情報が入らず不安になり認知症にもつながるが、デジタルアクティブ層はさほど孤立感や孤独感を感じず仲間を多く作っている。全てのシニアをインターネットでつなぎ、デジタル活用の高齢社会を作りたいと話されました。

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【松田】 皆さんこんにちは。それでは第2分科会「世界と一緒に考えよう!コロナと高齢者の暮らし」を始めたいと思います。

 今日は、イタリア、台湾、日本から素晴らしいパネリストの方を迎えて、この分科会を進めたいと思います。私は今日コーディネーターを務めます三菱総合研究所の松田でございます。よろしくお願いします。

 それでは画面を共有させていただきます。私はアクティブシニア論や地域活性化を専門としていまして、高齢社会フォーラムは2014年からこの分科会を担当させていただいております。国の委員や自治体、あるいは企業のアドバイザーを勤めております。

 今日この分科会のテーマを考えるとき、キーワードを2つ出しました。1つは「生きがい」です。コロナの中でもやはり大切なのは、高齢者の生きがいです。生きがいというと、今日ここで話す私やパネリストの皆さんの意見も大事です。皆さんがしら~っと聞いていると、私やパネリストの方の生きがいは生まれません。オンラインの講演というのは、全く手応えを感じないところにあるので、皆さんにお願いがあります。今日私やパネリストの話を聞く中で、そうだなと思うときは、なるべく大げさにうなずいてください。見えなくてもその気持ちは伝わります。

 それから、次のキーワードは「28%」です。これは何でしょう。先週ある講演で「28%は何か?」と聞いたら、ある方が、「それは自分の体脂肪率だ」と答えていましたけれど、これは体脂肪率ではないんです。これは何かというと日本の高齢化率です。今このスライドのように、日本は世界で一番の高齢化の国です。イタリアは2位ですね。台湾は16%ですけども、どんどん高齢化が進んでおります。今日はこの3カ国で、あるべき高齢社会像を考えていこうということです。

 そしてコロナ禍ですけれども、これが直近の感染者数です。日本は33万人、イタリア237万人、台湾は851人と、こういう状況であることをまず把握したいということです。

 では、今日の分科会の論点ですが、コロナは高齢者の暮らしに非常に大きな影響を与えました。その中で一体海外の国はどうなっているんだということで、イタリア、台湾から報告をいただきます。そして、日本からは、インターネットを使った高齢者の社会参加、孤立の防止について報告をしていただきます。それぞれ20分ずつ報告していただいて、少しの休憩を挟んだ後、後半はパネルディスカッションで、コロナの中での家族や社会との関わり、これから目指すべき高齢社会像についてディスカッションをしていきたいと思っております。

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では、今日お話いただく素敵なパネリストの方々をご紹介したいと思います。

 まずは、パオラ・カヴァリエレさん。イタリアからで、今パオラさんは大阪大学大学院人間科学研究科特任講師をされております。専門はジェンダーの宗教社会学。ヴェネツィア大学日本学科修士取得後、東京大学大学院人文社会研究科に入学。2012年にイギリスシェフィールド大学大学院東アジア研究科・東北大学大学院法学研究科国際共同博士を取得されております。専門は災害レジリエンスとジェンダー研究を行われております。日本在住約15年ということでございます。

 そして台湾からは、蔡 慶玉さん。作家、コラムニストでいらっしゃいます。台湾生まれ、国立政治大学日本文学部、そして南カリフォルニア大学コミュニケーションマネージメント修士。台湾電通、ビーコン外資系広告代理店営業担当をされておりまして、著書はここにあるように多くの日本に関するものがあります。さらに台湾でのテレビ・ラジオ出演多数。日本在住は約20年になります。

 そして、日本からは牧 壮(たけし)さん。アイオーシニアズジャパン代表理事。慶應義塾大学工学部卒業後、旭化成勤務。定年退職後に牧アイティ研究所を設立。マレーシア・ペナン東で13年間インターネットを活用したグローバルなワークスタイルを実践されております。帰国後、IoS:Internet of Seniors構想を啓蒙して、インターネットによるシニアの社会参加を推進。著書に「シニアよ、インターネットでつながろう!」がございます。

 今日はこちらの3名の方からお話をいただきたいと思います。では最初にパオラさん、よろしくお願いします。

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パネリスト パオラ・カヴァリエレ氏のお話

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【パオラ】 これから私の発表を始めさせていただきたいと思います。

 ただ今ご紹介いただきました、大阪大学人間科学研究科のパオラです。よろしくお願いします。今日の高齢社会フォーラムin東京において、私はイタリア人の高齢の方の経験からお話しようと思います。私はこれまで行ったり来たりしながら、日本に15年滞在してきました。専門はジェンダーの宗教社会学ですが、この4、5年に社会学的な災害研究を加えて、より学際的な研究テーマに取り組んでいます。

 そこで、Vulnerability「脆弱性」とResilience「適応力」という概念について考察してきました。人々の脆弱性は、内部状況と外部状況によって、どの程度リスクに対応できるのかの概念です。つまり、そのコンテクストにおける事前のコンディションと個人の事情によります。人々の内部から活かせるリソース「資源」と外部からのリソースによって、その脆弱性のレベルが大きく変わっていきます。個人的なレベルでは、リソースというのは肉体的な資源、つまり病気や障害があるかないか、高齢か子供かなど。社会的な資源とはSocial Capital、つまり社会関係が資本ということです。経済的な資源は個人の経済事情や貧困レベルなど、環境的な資源はつまり人が住んでいるところの安全性とサービスへのアクセシビリティ(Accessibility)のようなことです。例えば、今のパンデミック(Pandemic)の場合、その地域に住んでいる人々が助けを求める病院などがあるか。その病院では ICU、集中治療室があるかないか。そして適切な治療方法を提供しているのかなどを指しています。病気だったり高齢だったりの理由で病院、家族、セーフティーネットというリソースが少なければ、健康リスクや社会的なVulnerability(脆弱性)が増します。逆にそのようなリソース(資源)が多ければ、リスクや危機へのCoping Capacity(対応能力)は高まります。このような概念は、災害社会学ではリスクマネジメント、危機管理とレジリエンスアセスメント(脆弱性の評価)に使えますが、今日はこの1年間以上続くパンデミックのような災害に適用しようと思います。イタリアでの高齢社会におけるパンデミックの影響について、私のItalian familyのライフストーリーから紹介しようと思います。脆弱性とレジリエンスの概念を背景にして、コロナのインパクトについて気がついたことを述べさせていただきます。

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■イタリア社会にもたらしたコロナのインパクト

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 今日の話の主人公は、スライド下部の真ん中に出ていますが、イタリア北東ヴェネト州ヴィチェンツァ市に住んでいる母です。お母さんの今までのコロナの経験、そしてそれに連なる3世代の家族のライフヒストリーからの、コロナがイタリアの社会にもたらしたインパクトについてお話しようと思います。

 スライドはヴィチェンツァ市とその風景です。ヴィチェンツァ市はユネスコ世界遺産に登録されている町で、ルネサンス時代のパッラーディオという建築家の方の建物で有名です。イタリアに行かれるならぜひ一度訪れて見てください。

 さて、母の話ですけれども、Nonna Anna(アンナおばあちゃん)という母で、今は91歳です。来月は92歳になります。イタリアの高齢者の1人です。先ほど松田先生もおっしゃっていらっしゃいましたが、イタリアの人口に占める65歳以上の割合は22.6%と、ヨーロッパではもっとも高いです。日本は26%で、世界中でもっとも高いですが。母は高齢者であるものの元気で前向きです。母によると「ムッスリーニ、第2次大戦、1973年の石油ショックによる経済危機を乗り越えているので、コロナに負けません」と自信を持って今まで堂々と生きています。統計データを見ると、いくつかの理由から母が正しいかもしれません。まず母は高齢者ですが、介護施設ではなく実家に住んでいます。このパンデミックでは高齢者の中でも介護施設などに居住している人々の感染リスクは、とりわけ高いと思われています。

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 去年の2月から5月までの第1波では、イタリア、ロンバルディア州で最も悪かった状況を示すと、高齢者の死亡数のうちの3分の2は、介護施設に相当する場所で起きました。第2波では19.2%へ減少しました。お母さんのことを考えると、実家に住んでいることがレジリエンスファクターになっていますが、コロナ死亡数を見ると死者の平均年齢は80歳以上で、母の年齢が大きな脆弱性ファクターとなります。80代のコロナ死亡率を比べると、90代のコロナ死亡率は半分ですが、90代の女性の死亡率が男性の数の倍になっています。イタリアの人口では、女性は男性をほぼ3対1で上回っていますので、90歳の死亡率は低いといえますが、コロナ死亡数が平均寿命に大きなインパクトをもたらしていくのでしょう。

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 余談になりますが、ここでコロナ禍がイタリアのLife expectancy(平均寿命)に与える影響について少しお話しようと思います。日本の平均寿命は女性87.3歳、男性は81.3歳です。イタリアでは、女性85.3歳、男性は80.8歳と同じように長寿国です。しかしこれは、コロナ禍の前の状況です。ヴェネト州のパドヴァ大学統計学部のStefano Mazzucco教授は、この1年間のコロナによる高齢者死亡数に大きな影響を与えて、北イタリアの平均寿命は低下したと推定しています。女性の平均寿命が約3年低く82歳に下げて、男性の平均寿命は約81歳から76歳未満へ4、5年短縮されたと予測しています。同じように OECDレポートのHealth at a Glance 2020によれば、平均寿命は、すでに高い国ではコロナ死亡率が平均寿命の短縮傾向につながる可能性がより高いと示しています。この短縮傾向は、将来にもたらすインパクト、そして少子化社会に連なるインパクトについて、これから大きな研究課題になるでしょう。

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 コロナ禍の前のイタリアでは、平均寿命は伸びていましたが、実際にお年寄りが自立して健康で暮らせる、つまり健康寿命ではQuality of lifeの生活の質が重要です。WHO(世界保健機関)によれば健康寿命のQuality of lifeは、社会的経済的状況に関わりなく個人のニーズが満たされているか、幸福や満足を達成する機会が否定されていないか、という個人の認識を反映しています。

 イタリアのパンデミック前の健康寿命は、女性は平均寿命より12年以上の差が生じていることが分かりました。これは介護や病気などによって日常生活が送れない期間があることを示しています。平均寿命は伸びていた一方、WHOの意識調査によれば、約8割のイタリア人が健康に不安を感じています。つまり、自立して暮らせる、健康によるQuality of lifeを送れる介護と、医療制度へのアクセスと対応については心配です。これは、通常の状況における調査結果ですが、通常と異なる状況、パンデミックの中では、より心配でしょう。

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 コロナによる死亡リスクは、医療システムへのアクセスと具体的な対策や治療、医療制度の資源やパフォーマンスとクオリティー次第です。これは健康寿命に大きなインパクトがあります。パンデミックの中でお母さんのQuality of lifeのレベルは、深刻なドロップダウンをしていました。この表を見ますと、お母さんのパンデミックの前とパンデミックの中のQuality of lifeは、非常にネガティブなインパクトがあって、Quality of lifeの根幹は、ほとんどゼロになっています。根幹としては身体面、心理面、自立の程度、社会的関係と個人の精神面です。

 イタリア国立衛生研究所によれば、新型コロナウイルスに感染して死亡した患者では、最も多い併存症は高血圧です。これは、お母さんの一番大きい脆弱性ファクターとなっています。なぜかというと高血圧症での死亡率は69.1%です。一番率が高い併存症です。このようなウイルスに感染する可能性が高い中で、今までよりさらに併存症のコントロールを厳格に行っていくことが大切だし、診療を受ける必要があると考えています。以前お母さんは毎月病院で受診することによってコントロールしていましたが、去年の3月から病院には行ってませんし、定期的な健康診断を受けていません。この1年で、かかりつけ医院の先生と1度も会えませんでした。薬が必要な時、病院に電話をして薬を依頼し、病院から直接かかりつけ薬局へデジタル処方せんを送信してもらうシステムを利用してきました。ほかの年寄りの方と比べれば、母はまあまあ元気にやってきましたので、電話相談などで何とかこの1年間は暮らしてきましたが、発症しても診療を受けられないまま自宅で亡くなる高齢者は多数に上り、電話相談は必ずしも十分に機能していません。この1年間で母の高齢の知り合いが、何人か在宅で亡くなったと聞きました。在宅で患者がすぐに必要な治療を受ければ、多くの死は避けられるかもしれませんが、コロナで医師は既に手いっぱいの状況です。

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■コロナ過でのイタリアの家族の現状

 このような状況の中で、私の家族がどのようにお母さんのケアをしてきたかについてお話しましょう。母はバダンテという介護をするヘルパーと一緒に住んでいます。この方は東ヨーロッパ、モルドバという国から来ました。イタリアでは高齢者を介護するには、介護施設よりできるだけ家庭でケアを行うのを望みます。

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 母は年金で暮らしていますが、私と姉妹で負担しています。このようなアレンジは、北イタリアでは珍しくありません。この30年で少子高齢化社会に進む一方、共働き、社会変化によって、家族によるケア、介護は難しくなりました。そうした中、家事やケアに従事する介護労働者を雇用するのが普通になりました。母のヘルパーが常勤のヘルパーで、月曜日から金曜日まで母と同居して仕事をしています。週末はパンデミックの前までは、4人の姉妹が交代して母の面倒をみていました。右側のほうに出ている、マティルデとテレーザ、2人の姉が実家から30キロ以内のヴィチェンツァに住んでいます。左のほうのルチア姉、妹ミケラは、ヴェネト州以外に住んでいます。ロックダウンの時は、外出制限で市、州をまたぐ移動を禁止されていましたので、ロンバルディア州とピエモンテ州に住んでいる姉と妹が実家に行けなくなりました。つまり、ヴィチェンツァ市内に住んでいる姉2人だけそれが可能でした。しかし、テレーザのご主人が消防士です。消防士は警察、看護師や医療従事者などの方と同じく、ロックダウンの中でも働き続けるので、関係者、家族は、その感染予防のため隔離が必要です。近くに住んでいても消防士と住んでいる姉のテレーザが、母の所へウイルスを持ち込んで感染させてしまう可能性が高いので、週末のケアの役割を控えました。つまり、マティルデ、一番右上の姉が1人だけで、去年の3月からずっと母のケアをしてきました。

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 こうした状況の中で、お母さんをはじめお年寄りの多くが、娘や息子、孫たちに会えなくなりました。私の家族では、今年のクリスマスがご覧のようにZoomで話し合って、クリスマスグリーティングを交換して終わりました。ほんとに寂しいクリスマスでした。コロナに負けないと強く思っているお母さんでも、最近は社会的孤立による不安を口にしています。コロナによる社会的孤立の影響か、もう92歳だからか、最近母は記憶力が弱くなって、あまり動けなくなりました。その新しい日常の中では、どうすれば高齢者は安心できるQuality of lifeの環境を作れるのでしょう。

 例として母が住んでいる町は、社会的弱者である高齢者と障害者の専用の買い物時間を作りました。美容室、図書館や教会でも同じような工夫を導入するトライアルしています。しかし、それで高齢者同士だけの交流しかできない社会的な孤立の問題は解決していません。この1年間の母を見て分かったのは、お年寄りの方は若い世代と接触、交流することが大事です。社会的なスティミュレーション(刺激)を受けることは、生きがいを見つけるだけではなく、認知症の予防や心身の健康維持にも役に立つでしょう。長い目で見ると、このコロナ禍の1年間が、高齢者はウイルス感染のリスクより、そのリスクを防ぐ社会的孤立、社会交流不足のほうがより大きいインパクトがあったことには間違いありません。

 最後ですが、終わりにこの発表の主人公となったお母さんからのメッセージです。どうぞご覧ください。

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 「こんにちは。皆さんにご挨拶させていただきます。皆さん、良いお年を!」

 これで私の発表を終わらせていただきます。ご質問とコメントを楽しみにしています。ご静聴ありがとうございました。

参考資料

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【松田】 カヴァリエレさん、ありがとうございます。非常にインパクトがありまして、僕が印象的だったのは、やはり平均寿命が下がっているということで、男性は特に5歳と非常に驚異的ですね。いいなと思ったのはオンラインの処方箋があるというところですね。一方で社会的な孤立をどうするかということと、コロナ禍での高齢者の生活の質Quality of lifeをどう上げるかということです。ありがとうございます。

パネリスト 蔡慶玉氏のお話

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【蔡】 皆様こんにちは。台湾生まれの蔡慶玉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。これから画面をシェアさせていただきます。私は今作家、コラムニストとして日本の学ぶべきこと、興味深いところを台湾の人に紹介しております。台湾のラジオやテレビ番組にも出演させていただいて、より日本の事が好きになって、一層友情を深めていただけたらなと思っております。

 本日、お話させていただきたいテーマです。まず簡単な台湾の紹介と現在の感染情報です。実は去年の年末年始に、母が急に倒れて台湾へ帰らざるをえないことになりました。おかげさまで今はリハビリ中です。もちろん母と会う前に2週間隔離しないといけないので、防疫ホテルで過ごしていました。その時の体験をお話いたします。

 そして実際に台湾で見てきた「253日コロナゼロ」の理由について報告いたします。ただの私1人の意見ではなく、台湾生まれの違う職業の友人に取材したので、皆様と共有させていただけたらと思います。

■台湾の紹介と現在の感染状況

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 今台湾では、普通に外出、外食、学校の授業、旅行、デート、コンサートができて、4月に世界野球も開催しました。最小限の経済ダメージで済むことができたからだと思っております。最後に台湾外務省が作ったコロナ防疫1周年記念のビデオで締めくくりたいと思います。

 ご存じだと思いますが、この2つの建物は、台湾コロナと縁があります。下は圓山(まるやま)ホテル、日本の統治時代は台湾神社と呼ばれ、風水的にも台湾の要の場所だそうです。Taipei101は高さ508メートルで、2004年まで世界で一番高いビルで、大晦日の派手な花火が世界中に注目されています。このビルの中は、一時期、ギネス世界最速日本東芝製のエレベーター、時速60キロで走っています。先ほど紹介した圓山ホテルですが、なんと「ZERO」の文字でライトアップしていますね。なぜ「ZERO」かご存じでしょうか。実は4月14日に台湾コロナ感染者数がゼロになりました。このライトアップはそのお祝いです。日本はその時緊急事態宣言でした。ちなみにこの光はハイテクではなく、各部屋のライトをつけているだけです。その後好評で、「平安」や「HERO」バージョンも出ていました。防疫前線の方々や医療現場のヒーローたちに敬意を払っています。本当に感謝です。

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 こちらは昨日1月17日のデータです。本土感染者が1人、病院の医師です。他の3人は海外から帰国した方と台湾へ働きに来た外国人です。どこの国かは関わらず、台湾で感染したら台湾で完治します。台湾のコロナ対策は鎖国の考え方ではなく、むしろ海外には協力的です。昨年の夏、世界中の医療現場が崩壊したころから、どこの国の患者でも台湾に来ていただいて病気を治療することが可能です。少しでも力になれて国際社会に貢献できたらと考えています。

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■防疫経験について

 これから、年末年始の私の台湾での防疫経験をお話いたします。まずオンラインで入国申請をして飛行機降りたら、すぐ国から携帯電話に「おかえりなさい」のメッセージで、バーコードを発行されました。防疫機関が管理を行っています。空港のスタッフは検温して素早く手続きが終わりました。到着口を出たら、すぐ防疫専用タクシーの受け付けがあって、特別価格で約2時間で3,000円でした。トランクも私も全身アルコールを豪快にかけられて消毒されました。まるで自分の庭のバラの消毒みたいで、思わず笑いました。タクシーの運転手は、国に委託された臨時チームです。「感染リスクが高くて嫌がらないの?」と聞いたら「誰かがやらざるをえないでしょう」とちょっと格好つけてほほ笑んでいました。ホテルに着いたら、ホテルと区役所からのケアギフトがあります。体温計、マスク、飲み物、お菓子、カップ麺、ノート、ゴミ袋、いろいろありました。用事があるときにスタッフにLINEや電話で連絡すれば、すぐ対応してくれました。ホテルのお弁当や頼んだUber Eats(ウーバーイーツ)を、部屋の外のテーブルにおいてくれて、私はいつも「ピンポーン」の10秒後にスタッフが去っていくから、ドアを開けて極力顔を合わせないようにしていました。毎日3カ所に体温と体調を報告しないといけません。区役所、中央指揮センター、ホテル側。私の担当の区役所の窓口では「必ず携帯を充電してくださいね。もし電話に3回以上出なかったら、おまわりさんが5分以内に来ますよ」と言われました。こちらは当時の実際のバーコードです。右側は指揮センターが毎日送ってきた健康観察メールで、必ず返信しないといけないんです。テレビのニュースで「8秒間お部屋から出て隔離者同士でしゃべったら約36万円の罰金」と言っていました。罰金だけではなく、ちゃんとルールを守って無事に2週間終わったら、すぐに5万円ぐらいの補助金をいただけます。私今回は、母の見舞いなので、まず病院側に許可を得た上で保健所に申請しました。そして、大学病院でPCR検査を行って、陰性だったら翌日その専用タクシーに乗って看病することが可能です。ただし有効期限が3日しかなくて、1日1回2時間以内にホテルに戻る必要があります。

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 制限時間が過ぎるとすぐアラートメールが来て「早くホテルに戻ってください」という催促メッセージが来ました。2週間はとにかく食べていました。作家としてかんづめの経験がありますが、14日間はさすがに厳しかったです。

 母の状況が心配でも会えないのがつらかったです。でも日本は緊急事態宣言でステイホームの延長戦で、Netflix(ネットフリックス)で映画やドラマを見ていました。温泉の素を入れて長めのお風呂に入ったり、窓際で外を眺めたりしていました。たまには友達とLINEのお茶会で、2時間ぐらいつないだままでしゃべったり、各自自分のことをしていました。あと気になるのは運動不足で、解消するためにヨガやストレッチも心掛けました。

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■台湾の防疫対策

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 台湾に詳しい作家、野嶋剛先生の著書、「なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか」というベストセラーの中で、台湾は世界最速の水際対策とありました。実際は2019年12月31日大晦日、台湾政府は武漢関連の情報を確認して、午後にすぐ緊急会議でWHOに報告を行い、夕方には国民に警戒を呼びかけました。しかしこの2週間後のWHOは、まだ「人から人へ感染する明確な根拠がない」と公式にTwitterしました。1月25日は旧正月、いわゆる中国人の帰省や観光が1年間で一番活発な時期です。台湾はその前に検疫、入国制限などの対策をしました。この時期ヨーロッパへの中国観光客はまだたくさんいたでしょう。

 これから、なぜ台湾の防疫対策ができたか、簡単にまとめさせていただきます。台湾は2,300万人、面積は九州のような小さい島です。人口密度が世界トップ級です。コロナが出た武漢との直行便は週に7回。ほぼ毎週1,000人ぐらいが入ってきます。当時アメリカの予測は、「台湾はきっと中国の次、第2に感染がひどい国になるでしょう」でしたが結果は違っています。2003年約17年前、台湾は中国からのSARS(サーズ)感染という痛い経験がありました。台湾政府は公衆衛生医師と医療専門家がそろって判断が迅速です。教訓としてすぐ緊急組織を作って、中央指揮センターで対策を練って情報を統一しました。首都圏にいたのは感染症の専門家だけではなく、公衆衛生の防疫医師たちです。医療体制を整えてSARSみたいに悲しい院内感染が再び起こらないように感染病棟を分立し、スタッフや患者さんを分入します。戦略物資ともいえるマスクの確保が最優先です。マスクが守るのは口と鼻からのウイルスだけではなく、人の心までもです。マスクが売り切れだと社会や政府への信頼も失いやすいです。台湾のマスクはもともと9割は中国の輸入に頼っていました。台湾政府は急きょマスク製造の関連企業26社による国家マスク隊を結成しました。一気に世界生産力が2位になり、1日1,500万枚を達成しました。その後、他の国の医療現場にも1,000万枚ぐらい寄付する余裕ができました。アルコールの会社も、紹興酒など飲むお酒の生産を止めて75%の消毒アルコールを生産することになりました。

 2番の指揮センターは、毎日午後2時に最新感染情報の記者会見をして公開、透明が原則です。伝染病のデマ情報拡散は150万~1,000万の罰金となります。なぜかというと、ウイルスより怖いのは人、人間の心です。人への軽蔑や未知の病気への限られている知識による不安、恐怖心によるパニックは、ダメージが大きいからです。

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■ITによる防疫対策

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 こちらは台湾のIT大臣、唐鳳(オードリー・タン)です。彼女は最新のIT技術で効率よく対策を考えてきました。台湾の国民健康保険証はもともとICカードです。クレジットカードみたいなもので機械にさしたら、データや診察歴などが追跡できます。このシステムを利用して、必ず誰にでもマスクが有る状況を実現できました。このアプリも薬局の在庫を確認できて並ばなくてすみます。時間の無駄がないだけではなく感染リスクも減ります。各住居、徹底的に毎日健康を追跡して、返信しなかったら5分ですぐおまわりさんが来ます。自宅療養で孤独死のリスクが無いともいえます。一時期、アメリカやヨーロッパから帰国者が5万人ぐらいに至りましたが、この健全なシステムの検疫と隔離管理で、市内感染のクラスターは起きていなかったのです。ITだけだとすごく冷たく感じ不安になりますよね。だから役場の職員さんが、担当者、ご相談役として付きます。毎日「体調いかが?頑張ってくださいね」と励ましてくれました。もし質問があるときは、統一で1922のコールセンターで対応してくれます。体の症状や書類審査などさまざまなことについて正確な情報を得ることができます。

 現在ではコロナの予防方法は、マスク、手洗い、うがいだけです。台湾政府はFacebook、LINEなどのソーシャルメディアを使って、正しい防疫対策を宣伝しています。例えば、手洗いの時に「Happy Birthday to you」を2回歌います。そのぐらいの時間が必要だという意味です。なぜ2回かというと台湾の人はせっかちだから、きっと早口なので、2回のほうが確実です。台湾人にとって、昔はマスクをつける習慣がなくて、よく逆さまにしたり鼻を出したりします。そこで、ドイツの政府のポスターを拡散しました。「マスクをつけるとき鼻をかぶせず丸出しだと、まるでパンツをはくときにおちんちんを出しているのと同じですよ」ということです。

■台湾からの声

 台湾で現場の声を取材しました。1人目は私の中学校の同級生です。陳さんの旦那さんは薬局の薬剤師で、マスク実名購入制のとき、毎日家に帰るのが遅かったんです。彼女のご機嫌が斜めになった時、旦那さんは「戦争のとき薬局は前線です」と言いました。陳さんが今一番期待しているのは、東京オリンピックの開催です。

 こちらは、私がコラムを書かせていただいている新聞社の社長です。実は3年ほど前、企画して待ちに待ったロシアのクラシックバレエは、ダンサー4人が2度目の検査で陽性が出たため、主催側は当日に中止することにしました。李社長は「億単位の莫大な損失でも、コロナ感染のリスクを取りません。断腸の思いですが、企業の社会責任で決心しました」と語りました。私はバレエファンの皆様が、文句を言わずに防疫を理解し協力していることに本当に感心しました。

 こちらは、日本に30年以上住んでいる台湾生まれの医師会、前会長の中里先生です。今回が台湾の防疫がうまくいったのは、豊富な経験と過去の教訓によって迅速な対応を展開したからです。また医療システムの保健データ、高度なAIデータベースを利用しています。国民医師としてウイルスに「感染させない」と「感染されない」という自覚を持って、政府の防疫管理に協力しています。

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 こちらは、1年間、台湾が頑張ってきた記録です。どうぞご覧になってください。

 ~動画上映(コロナ防疫1周年記念ビデオ)~

 いかがでしたでしょうか。こちらは、Taipei101のライトアップ「Taiwan Can Help」。台湾は、WHOに加盟していませんが、限られている国際サポートの中で戦ってきました。今回の経験を活かしてグローバルな感染対策のいろいろな面で協力させていただきたいと思っております。Taiwan Can Help。去年このフォーラムで、イタリア人の先生がご教示されたキーワード「Love and Share」のように、コロナには国境がない。ウイルスの拡散が早いけど、人間の愛情のほうがもっともっと早い、もっと広いんです。

 私の報告は以上になります。御静聴ありがとうございました。

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【松田】 蔡さんありがとうございました。非常に印象的だったのは、やっぱり迅速さと徹底的ということですね。8秒間で30万円罰金にはびっくりしました。印象的だったのは「コロナで怖いのは人の心」というキーワードですね。それから、非常に国民が団結したことによって、このピンチをチャンスに変えているというのが印象的でした。ありがとうございました。

パネリスト 牧壮氏のお話

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【牧】 こんにちは。牧でございます。よろしくお願いいたします。今日イタリアと台湾のとても素晴らしい話を聞かせていただきました。今度は日本の話ですけど、日本ではどういうことが起きているのかということを中心に、現状をお話させていただこうと思います。ご存じのように日本は世界一の高齢化社会なんです。今回の世界的に広がったコロナで、世界で一番高齢者が多いといわれている日本では、どういうことが起きたのか。私自身がシニアですから、シニアの目線から見た実際のコロナ、そしてコロナで学んだことがいろいろあるわけです。

 いずれコロナは終わるだろうと思うのですけれども、終わった後のNew Normal SeniorのLifeは一体どういうふうになるのだろう。国によっていろいろ事情や背景が違います。イタリアはイタリア、台湾は台湾、あると思いますが、やはり共通してコロナを克服していく過程、あるいは今後こういうものが起きたときにどうするのかという、たくさんの教訓があるのじゃないか。それを含めて我々日本では今どういうことになっているのかを中心に、お話をさせていただきたいと思います。

 今日のお話は今申し上げましたように、私自身がシニアなのでシニアの目線から見て、この高齢化社会で見えたこと。今やはり1つは、これからは世界的にデジタル時代になっていく、今現状なっているわけです。こういうものの中に、デジタルに弱いシニアが多い日本なので、そういう話も含めてさせていただきたいと思います。

日本のデジタル化社会の遅れ

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 今回、日本では3密。要はコロナが出た時、去年のちょうど2月頃ですか、コロナが言われるようになって、これは大変なことになるんじゃないかと言われた時に、去年の3月に、日本はもう政府としてこの「3密」という標語を掲げたわけです。これは密集、密接、密閉というもので、要は人に集まるな。人に会うな。できるだけ動くな。こういうことが、実はもう1年前の3月に発表になったわけです。ですから、コロナに対する認識がそんなに遅いとは思えないわけです。一方、WHOが発表した「3Cs」というのは去年の7月だったわけです。人が集まる場所、Crowded places、それからClose-contact settings、これは3密と一緒ですよね。こういうのを3Csと称して発表したのが去年の7月でした。ですから日本は決して世界から見てそんなに遅く、このコロナの問題の対応が出遅れたということではないのではないでしょうか。もちろんもっと早い国があるし、台湾もそうだったと思いますが、日本もいち早く対策を取った。そういうことは、比較はいろいろあるけれども、決して遅れてはいなかったと感じたわけです。

 ではどうして日本は今、緊急事態宣言になって東京、神奈川、私が住んでいる所は緊急事態宣言が出て、非常に厳しい状態にいまだになっているのでしょうか。コロナで実際どういうことが起きたのか。コロナで一番我々シニアが「家にいなさい、外に出ないでください、人に会わないでください」ということで、最初は「その程度は我慢だよね」と言ってたんですが、それが運動不足になって動けなくなり、人に会えなくなって人とのつながりがなくなった。そういうことで身体的、肉体的な苦労もさることながら、精神的な苦労が非常に増えてきたわけです。その過程で一番指摘されてきたのが、日本のデジタル化社会の遅れ。非常に顕著に現れてきました。これはやはり先ほどもお話がありましたけれども、ICカードの中に医療情報を持っている国と持たない国では対応が全然違う。日本は非常に旧態依然のいわゆるアナログだけの社会というのが、あまりにも顕著になってきた。

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 一方、その中でもデジタル弱者と言われるシニアの存在が、非常に大きな問題になってきた。コロナの問題で一番被害を受ける、影響を受けるのは高齢者であるとは言われてきましたけれども、ではどうするんだ、情報はどうやって入ってくるんだ、どう対処したらいいんだ。家の中にただ閉じこもっているだけで本当にいいのか。世の中どうなっているんだ。その中で自分の立場はどうなっているのか。特にシニアの場合、情報が入ってこなくなり不安になるわけです。生活上の不安は何を持ち出すかというと、孤立孤独の社会を作って認知症への加速につながるとか、いろいろな余波がどんどん増えてきています。このデジタルに弱い層というのは、デジタルディバイド層、デジタルに縁が無い層。この層の存在が非常に顕著になってきました。一方シニアの中でも、どんどんデジタルは使っているデジタルアクティブ層の生き方がはっきりと分かれてきました。デジタルにアクティブな層は、同じコロナの生活の中にあってもそんなに孤立感や孤独感を感じず、自分の仲間をたくさん作っています。決して落ち込んでいません。ところが、デジタルディバイド層で、デジタルの社会から疎外されている人は、やはり、どんどん孤立孤独化が進んで、生活が行き詰まってきた。

 日本はなんでデジタル社会が遅れたのかということについて、あまり皆さん歴史をご存じない方もおられるかと思いますけど、実は日本のデジタル社会づくりは、2000年に政府が「デジタルをもっと社会につなごう」と宣言し、行政から始まりました。その時はいよいよインターネットで社会がブレイクする年だと私どもは認識して、ちょうど2000年は私が現役をリタイアした年ですから、極めて鮮明に覚えています。「これからはデジタルだよ」というのを我々シニアにも話が出てきたわけです。ですから、デジタル時代に向かってシニアがどういうふうにして新しい時代に解け込んでいくのかということを、私自身も自分が年取っていくということを生涯テーマの一つにして、活動をさせてもらってきたわけです。極めて私は鮮明に覚えています。

 ところが、それから経った20年、実は一向に進んでいない。残念ながら進んでいなかったんです。改めてこのコロナがそれを指摘してくれたわけです。要は、インターネットブレイクが遅れたということで、何が起きたかというと、際限なく社会負担がいろんな意味で増えてきた。コストがかかる。いわゆる紙の世界が残っている。印鑑の世界が残っているはじめ、同じことをあっち行って手続き、こっち行って手続き、シニアライフはまさにそういう意味では、仕事ややらなきゃいけないことは増えるけども、効率が何も進まなかったというのが、今考えてみると極めて残念です。

シニアもデジタル時代

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 先ほど来から議論されていますように、そういう意味では日本だけが高齢化が進んでいるのではなくて、世界も同じだが特に日本は高齢化率が今28%です。これからも高齢化というのはどこかでサチるのかと思っていたら、これは政府のデータですけれども、予測では際限なくまだまだ増える。ですから、早く手を打たないとますますこの問題は大きくなる一方である。これがずっといくと、孤独孤立化のシニアで社会負担を増大し、今でも社会負担が増えて、いわゆる医療に関わるコストがかかるとか、どんどん社会負担が増えていく。すでに問題になっている認知症が、社会負担の増大の原因になっていく。これに対して、我々は大きな反省をしていきながら二度とそういう方向にならないような、まだまだ世界が若い、特にアジアの若い国は平均年齢も若いですけれど、すぐ高齢化時代になっていくと言われていますから、そういうものも含めて世界の方に日本から情報発信をすべきじゃないか。

 私もいろいろ興味があるので、できるだけ海外のシニアと比べているのですが、日本の場合は極端な高齢化、70歳を境にネットの需要が極端に落ちるんです。この辺がやっぱりシニア自身の問題として、社会がそういうシステムを作ってくれるのも大きな問題なんですが、まずはシニア自身がもう少し何かやらなきゃならないことがあるんじゃないか。これで見ると80歳になるとネットの利用率は2割しかいない。平均年齢が男でも80歳を超えましたし、女性はまたその上をいっています。80代がそんなに珍しい話じゃない時代に、現実シニアのインターネット活用率はこの程度である。

 一方、これからのシニアはもっとデジタルを使わなきゃいけないということが言われて、いわゆるデジタルシニアという存在、こういう言葉が出て、シニアもデジタル時代だと言われてきている。確かに私の身の回りを見ても、ネットで買い物をする人は増えていますし、スマホの利用者も増えていますが、海外に比べると、はるかにこれが遅れているということが、新聞でも指摘されるようになりました。ですから、そういう意味で我々シニアはまずは自分たちの問題として、こういう問題に関する関心を持って、自分たちの、あるいは自分たちの仲間とどういうふうにしていくか、というのが大きな問題ではないかということで、今回コロナで我々のシニアライフはどういうふうに対処したかということです。

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全てのシニアをインターネットで繋ごう

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 先ほど来、マスク着用の話が出ていましたが、日本では昔ながらにマスクの着用には全然違和感がないのです。私の小さな頃は戦時中だったんですが、ちょっと風邪をひくとすぐマスクをかけさせられましたし、教室の中でマスクをかけていても全然違和感がない。「お前、なんでマスクしてるんだ?」なんてことにもならない。そのおかげか、マスク着用は日本では違和感なく広がった。逆にマスクをしていないと「お前、なんでマスクをしていないのか?」というぐらい、マスクに対する認識はもともとあった。一方コロナで違和感がものすごく増えたのは、聞きなれない言葉がいっぱい出てきたこと。特にカタカナ用語です。テレワーク、リモートワーク、オンラインビジネス、ソーシャルディスタンス、ステイホーム、Zoom。こういう分からない言葉がいっぱい出てきてしまった。これを誰もシニアに分かりやすくしてくれるところがなかなかない。だもんですから、シニアは何が起きているのかということの認識が非常に遅れてしまったということが言えるんじゃないかと思います。

 「もうデジタルは無理だ」「俺たち、私たちの年齢には無理だ」「今さら…」という概念が一方である。言葉がよく分からないのですが、現実の生活の中に、外出自粛、在宅でビジネスをやる。今までご主人が家にいないのに、急に家に24時間いるようになる。学校に行っているはずの子供が学校に行かなくなって、24時間家にいる。要するに家族のライフ、家の中のライフがものすごく急に変わっちゃったものですから、変換ができないのが現実だったわけです。日本の家というのは、居間と食事する場所を兼ねているような部屋が多いんです。ビジネスをする環境のための設計ができていない。そこに突然そういうものを持ち込んできて、コンピューター、やれネットワーク、Wi-Fiもやらなきゃいけない、プリンターも入れなきゃいけない。いろいろなものが突然入ってきて家中が混乱する。これは多くの高齢者が感じたことで、ビジネスの世界ではオンラインがそんなに珍しくなくても、高齢者にとってみるとそこでの社会生活の状態は想像できなかったりする。一方で、仲間とつながれないというストレスだけがたまってきた。会えない、行けない、集まれない。ですから相談相手がいないということです。病院に行けない医療への不安。私もそうですけども、ちょっと具合が悪くても病院に行けないのですよね。だから、自己責任で判断する。

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 結局、居場所がなくなったシニアの塊ができちゃいまして、今デジタル後進国と私は思うんですけども、やっぱり日本は世界の先進国の中で最もデジタル後進国になっているのではないか。そこで今私が提案しているのは、何か世界に向かって我々高齢者も仲間に入る新しい高齢化社会。要するにコロナもいずれは一段落するだろう。しかし昔の状態には戻らないだろう。だから、新しいデジタル高齢者社会を作りたいということで今私自身が提唱しているのが、まず、すべてのシニアをインターネットでつないでいこうじゃないか。孤立孤独なシニアをなくしていこう。みんなでそれをカバーして助け合う。そこがファミリー間の、あるいは友達間のつながりをキープする最大の元になるんじゃないか。ただ、これはシニアだけではできないものですから、全てのシニアをインターネットでつなぐのに、世代を超えた社会にしていかなきゃいけない。とにかく我々の目的は、コロナを経験して孤立孤独のシニアを作らないようにする。シニアの持っているいろんな知識・経験をよくもう一度社会に戻していく。やはり社会とのつながりを作る。そのためにこれからはネットしかツールがないのではないかと思っています。こういうことやりながら、長く続いたアナログ社会を超えたデジタル活用の高齢化社会を作りたいということで、いろいろ活動を始めています。

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コロナがくれた新しい社会づくり

 こうやってシニア同士の勉強会を持っていますし、我々の活動がCNNでも世界に報告されています。90歳代と20歳代がつながって、いわゆるネットを通じた新しい社会作りにチャレンジしたい。世界は一つである。日本だけの問題じゃないということで世界から学ぶこともたくさんあるでしょう。

 実は、コロナが我々シニアをいろいろ痛めつけてくれたんですけれども、一つ大きなプレゼントがシニアにもあるんじゃないかと、私は思っています。それはZoomです。去年の1月頃には、まだZoomというのが全然社会的な大きな言葉ではなかった。去年の2月頃から全世界的にZoomが言われるようになってきた。ご存じのようにビジネスの世界では別に珍しいことではなかったのですが、このコロナで突然現れてブームになった。ではシニアはどうするんだということで「Zoomを使ってみないか?」と私が提案した。当時Zoomなんてシニアの世界ではほとんど知らない。結論から言うと、Zoomはシニアの味方だったわけです。いわゆる孤立孤独だったシニアが、もうZoomでインターネットでつなぐようになってきたわけです。その中で出てきたのは、オンラインのおしゃべり会。今までできていなかったシニア同士のおしゃべり会。お誕生日会もオンライン。同窓会、長年会えなかった昔の仲間とやっと会える。お通夜。実はこの1年間でやっぱり亡くなった方がおられる。行けないのですね、シニアは危ないから。で、結局オンラインでお通夜をやって、一緒にお祈りができた。施設同居者のパートナーと会えないのをZoomで状況確認した。お正月は日本では親族家族が集まるのですが、集まれないということで、おせちを見せ合いながら新年会をやる。要はこういうデジタル活用が、シニアの世界にも非常にポピュラーになりつつある。これはやっぱりZoomのおかげじゃないか。コロナがくれた新しい社会づくり、これをアンパイアしてデジタルライフの転換期ととらえて、せっかくZoomというのができましたからまずはこういうものをうまく使って、弱者同士も力を分かち合いたいと思っております。ですから、すべてのシニアがまずインターネットでつながってみたいなと思っております。

 ということで私の実際のシニアの目線から見たコロナ問題でございました。ご静聴ありがとうございました。

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【松田】 牧さん、ありがとうございました。やはり、社会的孤立をどう防ぐかという課題に対して、インターネットでシニアをつなぐ、Internet of Seniorという発想、それから活動、非常に興味深くうかがいました。

パネルディスカッション

 それぞれの報告についてそれぞれのパネリストから気づきや質問をいただきたいと思っております。次は大変だったこと、どうやったら解決策があるかということ、これをしたらいいんじゃないか、もっと良くなるという、ホップ・ステップ・ジャンプというか、起承転結というか、あるべきコロナ禍での高齢者社会像について、ディスカッションをしていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。まず最初にパオラさんから、気づきや質問をお願いいたします。

【パオラ】 2人とも素晴らしい発表を聞かせていただいて、ありがとうございました。まず、蔡さんの発表内容ですけれども、どれぐらいイタリアと違っているのか、台湾のケースにびっくりしました。まず1つ防疫対策については、トップダウンだから政府の政策と実際の国民のボトムアップの協力、効率的な協力があることを強く感じました。2つ目は感染の数がゼロでずっと防疫対策にみんな自信を持って続いていくのか、これも素晴らしいことでびっくりしました。イタリア人はそこまではどうでしょうか。去年の夏休みの時に一旦ゆるめて、みんな海へ行ったり山へ行ったり全然防疫対策を守らないままで続いていました。この2つが発表の中で気が付いた素晴らしいことです。それに関して感染の多い国には、台湾のモデルを、イタリア、USA、イギリスへどのように移行していけばいいのでしょうか。

【松田】 今の質問に対して、蔡さんからお答えいただけますでしょうか。

【蔡】 国によってそれぞれの民族性があると思います。台湾は多分歴史的にずっと島だし、あまり国際的な応援がなくてSARSの時に誰も助けてくれなかったので、自立しないといけませんでした。そして、本当に情報がないと大変だと痛感したので、今回はできるだけ国際社会に貢献できたらと思います。「いくら厳しいルールでも人間は人間。人間の基本の権利を守らないといけない」ということをすごくイタリアの方々、ヨーロッパの方々から感じました。その辺は大切だと思っております。

【松田】 ではパオラさん、牧さんの報告についてはいかがですか。

【パオラ】 牧さんに関しては、シニアの方たちにインターネット、デジタル化を進めているのが素晴らしいと思います。私が大賛成するのがきっかけ。「コロナがもたらしたプレゼント」です。いつも悪いことを見るだけでは全然良くならないので、コロナがきっかけでもたらしたプレゼントを活かすことが大事です。子供もそうですしシニアの方もみんな、インターネット、デジタル世代になれるようにいろいろな工夫を考えないといけないです。牧さんも様々ご経験されてきたと思うんですけれども、シニアに教えておられる中で、シニアにしてもらうのが一番難しいのは何でしょうか。理解することか実際に操作に関することか。

【松田】 牧さん、お願いします。

【牧】 確かにそう簡単じゃないのですよ。だけど一番やっぱりシニアが心配なのは、やはりインターネットに先入観があるのです、いろんな意味で。インターネットは怖いとか、この年では無理だとか。そういう長年の先入観がこびりついている面が非常に多いので、それをどうやって除去するかという安心安全を第一にして、高度な技術から入るのではなくて、一番困っていることをこれを使ってやってみようと。日本はまだ「ガラケー」です。分かりますか?スマホじゃないやつを70後半から80の人は、非常に多く使っています。ですから、難しいことよりも先入観をなくす。それをやるためには身内の人のちょっとしたアドバイスがあれば安心感がある。インターネットが怖いとか、何かあったらどうしようかというのを、周辺の人でやっていただく。もちろんシニアでも自分でできる人はどんどんやりますけれど、そういう人は2割ぐらいしかいない。6割~8割はやはり何かきっかけがないと。個人差も非常にありますから、分かっているシニアが分からないシニアに寄り添ってあげる。

【パオラ】 確かにきっかけを作るのが大事ですね。モチベーションがないと、なぜスマホを使うのかの理解もできない、その必要性が感じられない。私もそう思いますけれども、今の時代で3密を守らないといけないので、どうすれば人々と交流できるのか、それがもっと理解してもらえるように、インターネットやスマホなどの便利さを分かってもらえるように。

【牧】 それと楽しさね。

【パオラ】 もう1つですが、ガラケーの携帯は、例えば古いシステムだと、コロナ追跡アプリとかトラッキングアプリがダウンロードできないですね。なので、古い携帯を使ったら必要な操作もできない。もしかしたらZoomも使えないかもしれない。なので、できればシニアの方にどこかプレゼントとしてスマホを受け入れるように、いろいろな便利なアプリを使えるようになったらいいんじゃないでしょうか。台湾のケースを見たら、結構政府がアプリや管理モニタリングをいろいろ考えているので、効率的に今のコロナの状況を管理していると思います。できればイタリアも日本もそうですけど、それができればいいんじゃないかと私は思っています。

【松田】 なるほど。ありがとうございます。どうやったら使ってもらえるかですね。義務じゃなく楽しいからとか、何か良いきっかけがあるといいですね。続いて蔡さんからお願いします。

【蔡】 順番でパオラ先生のほうから。アンナおばあちゃんはとてもおしゃれです。イタリアの女性は本当におしゃれです。

【パオラ】 ありがとうございます。伝えておきます。喜んでもらえると思います。

【蔡】 パオラ先生からレジリエンス、対応力を分析していただいて、ほんとに興味深いと思います。災害のときに私がいつも考えているのは、宗教はあまりないですけど、神様を一応信じています。なぜ神様はこんなことを起こすのか。きっと神様はそれなりの理由があるんじゃないのかとずっと考えています。今日のcoping capacity(対応能力)とレジリエンスの話を聞いたら、もしかしてまるでイギリスに17世紀ダーウィンさんの進化論、自然選択説のように、私たちが今生きているという意味は、私たちは強い方です。なので、人類もこのきっかけでどんどん強くなっていく。心身も強くなっていくのでないかと、実は考えています。

 再度質問です。台湾の人にとってヨーロッパやイタリアはすごく憧れです。生活の芸術家、アーティストみたいという印象がずっとあります。さっきパオラ先生にQuality of Lifeの話をしていただいた。質問させていただきたいのは、パオラ先生ご自身やアンナおばあちゃんに、この1年間コロナで厳しい状況の中でも、Quality of Lifeのいい例がもしあれば、教えていただけたらと思います。

【パオラ】 ありがとうございました。いい質問だと思います。脆弱性とレジリエンスの概念を考えると、私たち1人ひとりが外部状況を変えるのかどうか、それが難しいですね。なので、1人ひとりができるだけ内部状況、つまり家族の中にあるリソース、資源を活かすしかないです。まずそれが一番最初のステップですね。なので、私たち家族としてはこの1年間、できるだけ母と交流する、話す。だから、仕事のような感じになっているんですけど、姉妹5人で毎日誰かが電話をして、せめて30分は母と話します。それが毎日毎日習慣になっているので、母もZoomなどに慣れてきましたし、全然怖くない。先ほどの牧さんからの話のように、母も最初は「できない、できない。怖い。あれを押すとどうなるのか?」と心配をしてきましたが、毎日刺激を受けたので、今はもう逆に電話がかかってきます。

【松田】 今までお母さんはZoomは使ったことなかったんですか?

【パオラ】 なかったんです。いつも固定電話か対面で。私たちの経験をみると、できるだけネットワーク、家族の中にある資源を活かすのが第一で、次に牧さんみたいに、中から外に必ずそれが可能というメッセージを伝える。広く「こういう生活が可能です」というメッセージをみんなに知らせておくのが大事だと思います。

【松田】 蔡さん、牧さんに対してはどうですか。

【蔡】 まず、牧さんありがとうございます。1つうれしいのは、牧さんもカタカナ用語が苦手です。同じです。外国人の私は、カタカナは全部同じように見えて、例え日本に20年住んでいても、カタカナが苦手です。クラスターって何だっけ?集団感染と言えばいいじゃないですか。要するに、1人感染したら学校に行って、学校の生徒全員が感染しちゃうという話ですね。本当に、たくさんのカタカナ用語が出ないように、皆さん協力していただきたいと思います。

 それと、日本で幸いなことは、マスク着用に違和感がないことで、本当にありがたいです。小さい頃からそういう教育をされているのが、本当にありがたいんです。フランス人と結婚した友達やアメリカ人と結婚した友達は、例えば今の状況でもマスク無しで空港に迎えに来ているんです。マスク無しで抱き合ってチューチューしてるんですね。友達を見てどうすればいいか分からなくて、日本人と結婚して日本で生活して良かったと思います。牧先生のデジタルの機械の活用の話がありますね。私が思うのは、機械はきっとどんどん使いやすくなってきます。なので、今の時点では心配しなくて大丈夫なんじゃないですか。きっと明日とか明後日とか、アプリを開発してシニアの方々の知恵とか、どちらかというと世界の頂点に立ってきたリタイアした方々なので、その知恵は機械より何より宝物です。この辺をきちんと記録していきたいと思います。おばあちゃんのレシピとか、古来の知恵など、いわゆる庭の話とか自然の話とか、世の中の人の話、全部知恵です。そこは誰かそういうアプリを開発していただきたいです。

 最後ですが、牧先生が言っていた「コロナがくれたプレゼント」に私もすごく共感です。神様はなぜこういうことを起こしたのか。きっとそれなりに意味があります。私が頂いたプレゼントは、まずこのZoomで活用できました。今まで会ったことない方に会えてうれしいです。それで、台湾も、世の中みんながマスクして、アルコール消毒して、誰もインフルエンザになっていないんですよ。コロナ以外はみんな元気元気、健康です。これは、コロナのプレゼントです。そして、コロナのおかげで私は自宅を大掃除しました。本もいっぱい読んで、今までできなかった断捨離は、ステイホーム期間に終わりました。

【牧】 素晴らしい。

【蔡】 ありがとうございます。牧先生は本当に素晴らしいプラチナの方で、台湾の同じプラチナの方々に一言メッセージを頂けたらと思います。

【牧】 分かりました。ほんとにいいコメントを頂きましてありがとう。「災い転じて福となす」ということわざが、中国にもあるのかもしれない、台湾にもあるのかもしれないです。やはり良い方向にものを考えないと、どうしても心が小さくなっちゃうものですから、ぜひそういう意味でいろんな人の話をまず聞いて、やっぱり自分が小さなことでもいいからできることがあればそれを提供するという。やっぱりそういうのもネットで知り合えたんですよ。リアルの世界はどんどん狭くなっちゃうものですから。台湾の方へのメッセージ、いい質問なんですけど答えようがない。台湾と日本はそんなに距離が離れてないんですけども、なかなかお互いを知るチャンスがない。ぜひこういう機会を使って、お互いにシニアじゃないと分からない悩みを提供し合えないかと思っているんですがどうでしょうか。

【蔡】 ありがとうございます。実は今台湾は、日本語がしゃべれなくても日本の演歌がはやっています。オンラインカラオケ会もやれたらいいなと思います。

【牧】 やりましょう。演歌なら私提供できます。

【松田】 いいですね。ありがとうございます。牧さんはパオラさんと蔡さんに対していかがですか。

【牧】 パオラさんの話で、やっぱりイタリアは、家族主義的な社会じゃないかなと私も聞いていましたし、今回のお話を伺っても、やっぱり家族で助け合うことができている。本当にうらやましいです。日本は少子高齢化社会の延長上もあって、なかなか家族同士がつながらない、つながりが薄い。そういう意味での一人暮らしがどんどん増えているということで、これは大問題なんです。私はそこにネット活用が解決の一つの大きな方法になるんじゃないかと思っています。こういう心配はイタリアの国の中で、あるいはヨーロッパの中で、議論があるのかというのを質問したい。

【パオラ】 ありがとうございました。イタリアでも、高齢者が1人で暮らす数がどんどん増えていますね。1つの方法が、1人で住んでいる方々がどこかのマンション内で一緒に1人1人の部屋で暮らすという方法があります。これももしかしたら、イタリアの文化につながっているんですけれども、教会から発信するボランティアの団体グループで、1人で暮らしている方を訪問するグループが町のあちこちにあります。教会が中心になっています。教会に行っているシニアの方々が、一人暮らしの方を訪問する制度があります。もちろんこれは、母が住んでいるちっちゃい町ですと、まだこういうような方法が効率的に進んでいるんですが、ミラノやトリノ、ローマなど大きな町ではあまり。難しいですよね。確かに仕事で引っ越している方もいるし、実家から離れている方もいるから、なかなか大きな町ではそんなに進んでいないと思います。コロナでニュースになったのは、イタリアで1人で亡くなった高齢者の数がより多いので、それを見るだけで、どれぐらいイタリアの社会が、高齢者の孤立について悩んでいるのかが分かります。

【松田】 だからそれをきっかけに、独居老人、1人暮らしの高齢者の見守りだとか、助け合いがより大事になってくるということですよね。牧さん、蔡さんにいかがですか。

【牧】 とにかく素晴らしいのは、台湾の実績ですよね。ゼロが何日続くかというのは、もう驚きしかないんです、はっきり言って。どうしたらそういう社会ができるのかお聞きしたんですけど、その中に「速戦即決」という言葉があった。これはやっぱりぐさっときました。日本はどうしても速戦即決じゃなくて、時間かけて時間かけて少しずつやるという文化の一つみたいなもので、即戦即決がないんですね、いい意味でも悪い意味でも。それで、これは本当に台湾の本質的にそういうのがあるのか。以前SARSを経験された体験から、即戦即決が違和感なく社会の中にあるのか、この辺はどうなんでしょうか。

【蔡】 まず民族性があると思うんですね。台湾の人は本当にせっかちだから、「そうなんだね。はいはい分かりました」みたいに。でも、たまには失敗することもあると思います。今回やっぱりSARSとコロナは同じウイルス災害ですね。ウイルスは地震など天然の災害と違って人を待たないんです。待ってる間にどんどんひどくなっていく。それは、多分17年前の一番大きな教訓です。本当に人を待たないんです。1秒ですぐ拡散してきます。早く止めないと今までのゼロを維持できるか、穴をあけようにみんなの理解がないといけないのです。誰も文句、あまり言わないですね。

【松田】 なるほど。分かりました。ありがとうございます。それぞれお互いの気づきを踏まえた上で、今課題としてはやっぱり孤立への対応があると思います。

 このスライドを見ていただきたいんですけれども、これは75歳以上の高齢者300人を5年間追跡調査したものです。左から男性の一人暮らし、次が男性の夫婦で暮らしている人、右から2番目は女性の一人暮らし、一番右が女性の夫婦で暮らしている人の死亡率と機能低下率を見たものです。やはり一番左の男性の一人暮らしは、死亡率、機能低下が一番高いということを考えると、男性がやはり問題だということです。一方で女性の一人暮らしを見ると、面白いことに、女性の死亡率はゼロなんです。機能低下率も一番低いということで、男性の孤立が課題だということです。

 牧さんの話で、どうやって男性を社会参加させるか。どうやってネットを使いたいと思わせるかということなんですけども、僕は基調講演であった「多世代交流」がキーワードだと思っています。ここに写っているのは実は私の父親です。4年前ぐらいの元気だった頃ですが、地元の小学校でゲストティーチャーというのがあって、町の歴史を地元のおじいちゃんおばちゃんに教えてもらうということ。ここに空襲と書いてあるんですけども、東京大空襲の話を小学校6年生にすると、翌週小学6年生が集まって「おじいちゃんの話は、こういうことだったんですね。私たちは町の未来についてこう思います」というプレゼンをしてくれた。ちなみに今の小学校の6年生は、パワーポイントを使ってプレゼンをするらしいんですけど。そうするとやっぱりうちの父親が「うれしい。またやりたい。お前ちょっとパソコンを教えろ」というふうに言うわけですね。貢献欲求とか承認欲求。誰かに「ありがとう」とか「おかげさまで」と言われるような貢献する欲求とか承認する欲求が、ネットやパソコンやスマホに近づくきっかけになる。それが多世代交流であり、貢献や承認だなということです。

 あとは、男が問題だという話をしましたけども、これは三菱総研が実施した調査で、5,000人を対象にコロナ禍における生活の実態を調査するとやはり満足度が低下している。特に女性の精神健康度の低下が、男性に比べて実は顕著であることが問題です。一方で女性のストレスというのは、これは数年前にした調査で60代女性のストレスは何かということで、5位病気、4位地震・天災、3位子供の問題、2位が経済問題ですけども、60代女性のストレス1位は何でしょうか?ということです。蔡さん、1位は何だか分かりますか?

【蔡】 夫です。

【松田】 夫ですね。パオラさんは何だか分かりますか?

【パオラ】 そうじゃないですか。夫でしょうか。

【松田】 その通り。牧さん何か分かりますか?イタリア語では夫はMarito(マリート)。台湾語ではラォ・ゴン(老公)。高齢者女性の最大のストレスは夫なのです。一方でコロナになっての意識変化というのは明確で、高齢者は誰かと交流したい、オンラインサービスを使いたい。これも女性の方が多いんです。これはチャンスじゃないかということですね。女性のストレスというピンチを、オンラインとか交流というチャンスに変えるというふうに思っているんです。

 どうでしょう。ジェンダーで見て、パオラさん専門家ですけども、男性と女性のコロナでの意識変化というのは、イタリアではどうなんでしょうか。男性の方が大変?女性の方が大変?

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【パオラ】 イタリアではまだ男性が仕事、女性が家の中という考え方がまだまだ強いと思うんです。一番今の時期で不安を感じているのが男性です。仕事を失って家族を支えられない状況になっているので、非常に不安になっています。松田先生がおっしゃったように、家の中にずっとご主人がいるとか急に家庭の中の生活が変わってきましたので、女性にとっては不安。男性も女性も別々の理由で不安を感じているんですけども、どうやってそれを乗り越えるのか。

 1つは次の世代を考えないといけないんです。なので、もちろん今つらいですけど、母がずっとそう言っているんです。いろいろの経験があったんですが、「コロナに負けない。乗り越えよう」とずっと言ってるんです。最近は私もちょっと分かるようになりました。確かにいつも特にイタリア人は孤立だから、自分についてずっと考えているんですが、実際に自分より外から見て、次、外に出て何かしようということが大事だと思います。

【松田】 いいですね。次の世代を考えるというのは、新しい発想になりますよね。牧さんはいかがですか。この今の課題を解決する、こういった解決方法がある、ヒントがあるというところ。インターネットそれだということなんですけども。僕が牧さんの報告で印象に残っているのは、教える人がシニアの男性と、シニアの女性とで教え方が違う。男を相手にすると「そもそもインターネットとは…そもそも WiFiとは…」から教えるけれども、女性の講師が教えるときは「孫との写真を共有しましょう」とか「孫とやりとりをしましょう」とか、非常に教え方のアプローチが違うということです。そこら辺については今までの取り組みで、シニアへの教え方、男性女性の違いというのはどういったものがありますか。

【牧】 教え方は全く違いますね。シニアにスマホを教える教室を僕は何十回も作ってきたんですけども、参加する人の8割は女性なんですよね。7~8割はね。男はなかなか出てこないんですよ。女性が出てきて最後に何を言って帰るかというと「うちの主人をどうやったらここへ引っ張り出せますか?」という質問が来るんですね。使ってもらえないで家の中でも困ってるらしいですよね。ところが男の場合は「今さら…」と。もともと偉い人、学歴が高くて偉かった人ほど駄目ですね。消極的です。

【松田】 その通りです。

【牧】 それで、やっぱり自分で自活してきた人、自分で商売やってきた人とか、そういう意味で自分でリスクを負ってきたような人は、こういう新しい情報技術とかツールだというと、真っ先に興味を持つのもやっぱり男なんですよね。ですから、そういう意味で、男の考え方が縦社会でプライドばかり高いような状態をいかに崩すか。やっぱり「リタイアしたらもう普通の人よ」と過去を語らせないんですよ。過去を語らせると「俺は○○会社の…」そんな話ばっかりするんですよね。だからこういう新しい技術の話をする時に「みんな平等なんだよ。誰も専門家いないんだよ」という感じで壁を取ってあげないと、「あいつがこれぐらいできるのに、俺ができないのは恥ずかしいから出てこない」と。

【松田】 男あるあるですね。

【牧】 だから、私が苦労してるのは、男性にそういう壁を感じさせない、何かを共有化してその人が分かる話題を作って「こうした方が面白いぞ」とか「どうせ飲むならこうやって飲もうよ」とか、何か新しい楽しみ方に寄り添ってあげないといけない。

【松田】 なるほど。いいですね。蔡さん、もっと良くなる高齢者の暮らしを考えるときに、そういうアイディアとかヒントはありますでしょうか。

【蔡】 さっきのデータですが、女性の方が多分繊細ですごく影響されやすいんじゃないのかな。だからコロナの中で精神面や身体面がぐっと下がっていく。でもどちらかというと女性の方が誠実です。「助けてください」とちゃんと言うし、さっきの牧先生みたいに、できないことを学びに行くのが多分女性のほうなので、そのデータは、男性が意地を張って「要らないよ」みたいな部分もあるんじゃないでしょうか。

 台湾は実はほとんどの家が共働きです。要するにお父さんお母さん2人が働かないと、生活できないという状況がほとんどです。そうすると子育ては誰がやるかというと、おじいちゃんとおばあちゃんですね。おじいちゃんおばあちゃんが育ててくれた子供たちの特徴は、やっぱり温厚で性格がやさしい。お父さんお母さんも生活でいっぱいいっぱいだし、成績表出したら「何やってるの」みたいにいつも怒っている。特にお母さんはいやいや言っている。パオラ先生、笑ってますね。

【パオラ】 そういうことがよくありますから。

【蔡】 私もそうなんですよ。でもおじいちゃんおばあちゃんは、やっぱりいっぱい知恵があって、数学や日本の国語もゆっくり教えることができて、子供はおじいちゃんおばちゃんが大好きというのをよく聞くんですけど、お父さんお母さんが大好きというほうが少ないんじゃないですか。なので、本当に今日の話を聞いた一番大きな感想は、この世界はやっぱりおじいちゃんおばあちゃんの力がとても必要です。生活面でいろいろ助けてください。

【松田】 確かに多世代交流というのは、極めて大事なことですね。

 あともう一つの視点は、コロナ禍において、個人で頑張ることと、国や自治体や行政が頑張ること、あるいは社会や企業で頑張ることがあるとすると、国や自治体が頑張ることは、今日の台湾の事例は極めて僕は良い意味でのカルチャーショックというか、すごいことだと思っています。どうでしょう牧さん、今の取り組みで国や行政がより頑張ること、個人が頑張ることは何だと思いますか。

【牧】 これだけ日本が世界一の高齢化社会でありながら、私は高齢化問題に対するいろんな世の中でのプライオリティが低いと思うんですよ。もっと真剣になって、世代を超えてみんなが高齢化社会の問題を深刻にとらえて真面目に考える。

 今度デジタル庁ができますね。デジタルで一番恩恵を受けるのはシニアなんです。シニアが最大のユーザーなんです。シニアこそ僕はインターネットとかデジタルがないと、もう社会のお荷物になっちゃうだけ。でもまだ行政とか社会全体にそういう問題を取り上げてもらえていない。我々が努力するのももちろんなのだけど、やっぱり行政とかそういう政治的な動きが後ろにちょっとでもあると、コロナのおかげでそういうのができるんだと、そういう社会になっていくんじゃないでしょうか。だから、捨てたものじゃないんですよ。これは絶対必要なんだけども、もうちょっとそういう意味の共通認識を日本は持って、そういう意味では全世代型の重要性ですよね。

【松田】 国や自治体が頑張る中で、個人がもっとやれることは何かありますでしょうか。

【牧】 やっぱりまずは一番近いシニア同士がつながる、孤立孤独させないことですよ。シニアを孤立孤独にしないことだと思います。だから、あくまで手法はデジタルでもいいしアナログでも構わないと思うんですけども、少子高齢化でほんとに孤立孤独の独居老人、特に男は増えちゃってる。ぜひそこを皆の力で。

【パオラ】 1ついいですか。

【松田】 どうぞ。

【パオラ】 さっきの蔡さんと牧さんの話を聞いて1つ気がついたのは、確かに女性が強いらしいんですよ。レジリエンスなので、平均寿命であれ健康寿命であれ、台湾とかドイツ、ニュージーランドの例を見ると、女性がリーダーシップを取ると、確かにサクセスのケースになるので、女性からもっと力を入れてほしい。個人レベルから国のレベルまで。

【松田】 大事ですね。今日は男女分かれていますけれど、よくこういうパネルやると大体日本だと男のおじさんばかりじゃないですか。

【パオラ】 確かに。

【松田】 偉そうな感じのおじいちゃんばかり出てくる。やっぱり女性、ジェンダー、あとは多世代、若者視点も大事ですよね。

【パオラ】 そうです。

【松田】 分かりました。ありがとうございます。蔡さん、どうですか。これからもっと良くなるということでほかにアイディアがありましたら。

【蔡】 コロナである政治家がもともと公衆衛生のお医者さんなんですけど、彼が言っているのは「コロナは心理戦で長期戦」です。日本と台湾の両方で過ごしてみて、日本の政府、行政や企業や個人、ほんとに皆さん頑張りすぎないように、空回りになっちゃうんじゃないかなと少し心配しています。

【松田】 なるほど。それをどういうふうにやって前向きに解決していくかということですね。分かりました。ありがとうございます。まだまだ話したいことたくさんあるんですけども、そろそろ総括に入りたいと思います。

 今日「世界と一緒に考えよう!コロナと高齢者の暮らし」ということで進めてきましたけれども、気が付いたことを書いています。

 1つは、やはりピンチじゃなくチャンスだと考える逆転の発想ということです。

 それから求められるのは3つの安心。カラダの安心、オカネの安心、ココロの安心。カラダの安心というのは、介護や病院のサポート。オカネの安心というのは経済的なサポート。ココロの安心というのは誰かとつながる、先ほど言った貢献欲求や承認欲求が満たされるということです。

 あとは、やはり集う場や学ぶ場が大事だということで、僕が今提唱しているのは「第二義務教育制度」。最初の義務教育は小学校の6歳の時からですから、「50歳、60歳、70歳でももう一度学校に行かねばならない、行かないと住民税が上がります」みたいな程よい義務です。そうするとおじいちゃんたちも「しょうがないな。めんどくさいな」と言いながらも行く。行けばネットが学べる、あるいは地域の医療や介護が学べる。あるいは、今どうせ少子化で教室が余ってるので、小学生や中学生と交流できる。給食が出れば独居老人の食事問題も解決できる。体育の時間は転倒防止運動をするみたいな、集う場と学ぶ場が必要です。日本人の国民性はやっぱり、ほどよい強制力といいましょうか。「めんどくさいな」と思いながらでも、結局行くと楽しめるような、一歩踏み出せない人の背中を押す「仕掛け」が必要です。

 それと多世代の視点というのが大事だということですね。高齢者だけでなくミドル層や若年層。それは、高齢社会は高齢者だけのための社会じゃなく、多世代のための成熟者社会ということ。

 これはシルバー社会じゃなくてプラチナ社会。さびることのないプラチナのように輝きを失わない社会だということです。

 そして最後の、「続けること、深めること、広げること」というのは、これを今日だけのイベントとせず、次回はこれをイタリアでオンラインで開催する、その次はオンラインで台湾で開催するというのをやっていきたいというふうに思っております。

 今日、素晴らしいお話をしていただきました。カヴァリエレさん、蔡さん、牧さん、本当にありがとうございました。ぜひこれを機会に引き続き、明るい高齢社会について一緒に考えていきたいと思います。ではYouTubeで視聴の皆様、今日素晴らしいお話をしていただいたパネリストの皆様に、もう一度大きな拍手をお願いいたします。どうもお疲れ様でした。

【パネリスト】 ありがとうございました。

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