基調講演「高齢社会フォーラム オンライン」

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『リアルもデジタルも』いきいきとつくる豊かな長寿社会」

近藤 克則
(千葉大学予防医学センター 社会予防医学研究部門 教授、国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 老年学評価研究部長、一般社団法人 日本老年学的評価研究機構 代表理事)

超高齢人口減少社会の到来

基調講演1

現在の中学生の半分以上が100歳を超える「人生100年時代」がすぐそこまで迫ってきている。1940年頃に登場した磯野波平さんは永遠の54歳。当時の日本の平均寿命は61歳であり、定年後6年するとお迎えが来るような人生設計を考える時代だった。

現在、日本女性の平均年齢は約88歳で、85-89歳のおよそ2人に1人、90歳以上の71.8%が認知症になっている。認知症は年齢とともに増えていく現象と言える。このような現実から、認知症の「予防」のみならず「共生」も大事であると認識されてきた。

もう一つの側面は人口減少社会。2004年に1億2000万人を超えピークを迎えた日本の人口は、今後も急激に人口が減少していくことが予想され、少子化対策を強化し成功した場合でも人口減少に歯止めはかからないと推測されている。これに伴い介護人材不足の問題が浮上し、厚生労働省の推計によると37.7万人の介護人材が2025年に向けて不足するだろうと危惧されている。これに対する対策として、介護を必要とする需要を減らす「介護予防」のアプローチが取られてきた。

「予防」にはゼロ次予防から3次予防まであり、個人の取り組みで病気にならないように気をつけるのが1次予防、検診で早期発見、早期治療を促すのが、2次予防、病気になってから悪化を防ぐ、再発の予防というのが3次予防である。それらに対し、ゼロ次予防では個人への働きかけではなく、生活環境や社会環境を変化させることで健康に望ましい行動に変化させていく対策を取る。

基調講演2

坂道が多いある地域で、電動カートのグリーンスローモビリティ(グリスロ)を導入し実証実験を行ったところ、実際に行動範囲が広がり、対象者の行動が変化するという結果が得られた。このように外部環境を変化させ、行動を変えるのがゼロ次予防の考え方である。

基調講演3

まちづくりと社会参加の重要性

アメリカでの研究によると、認知症の人数は増えているが、100人あたりの認知症発症率は10年あたり1割程減っており、この30年では4割以上減っている、という驚くべき事実が明るみになった。これらの要因として社会経済的な環境の変化が関与している可能性がある。

基調講演4

3年に一回、全国の市町村と共同して要介護認定を受けていない高齢者を対象に調査を行っている。認知症、要介護リスクの指標となるIADLが低下した人の割合を53の市区町村で比較したところ、約3倍もの差で認知症になりやすいまちがあることが確認された。これは、前期高齢者である65-74歳を対象にした結果であるため、まちの高齢化に左右されていない。調査の結果、政令指定都市のような都市的な環境に、人々が健康長寿を保つのに有利な条件が隠されていることが示唆された。

社会と関わることの重要性は以前から指摘されているが、今回の研究結果においても、スポーツをしている人口が多いまちはそうでないまちと比較して要介護リスクが抑えられていること、それ以外にも参加している活動の数が多いほど、要介護認定を受ける確率が抑えられていることが確認された。その中でも就労、スポーツの会・地域行事の順に介護予防効果が高いことがわかり、女性では趣味の会やボランティアなども挙げられた。このような結果は、政府が行っている高齢者就労支援や高齢者向けの運動対策などの取り組みが科学的にも評価されたと言える。

また、運動を1人で行った場合とグループでした場合を同じ運動頻度の中で比較した時、グループに属している方が要介護認定を受ける確率が低くなること、役割を持って活動に参加した場合にはそうでない場合と比較して、認知症を発症する確率が約2割抑えられる。さらには笑う機会が多いほどリスクが抑えられるという結果が得られた。このことからも誰かと一緒に社会で活動をすることで認知症発症率は抑えられると考えられる。そして同居家族、友人との交流、地域グループへの参加、就労といったつながりの拠点を増やすことによって認知症になる方が減っていくのではないかと考えた。

健康長寿社会づくりに向けて

基調講演5

ある町でボランティアを募り社会参加しやすいまちづくりのアイデアを出してもらった。集いの場を作り、現在では町の1割の高齢者が参加するようになった。また、そういう場に参加することで心理社会的にも前向きな変化が起きること、通いの場への参加がきっかけとなり運動を始めた人が約半数いることもわかった。社会参加によって生活全般が活発になったことで、要介護認定は半分に、認知症発症は3割程度抑えられた。このまちでは全国や同県と比較しても要介護認定率が減少した。

基調講演6

月に数回以上ネットやメールを使っている高齢者は全体の6割、前期高齢者では約72%にのぼり、オンラインを活用している人のほうが社会参加の機会が増え、健康を保っていることが判明した。また、コロナ感染症流行中にビデオ通話の機会が増えた人たちでは、うつが4割以上少ないことがわかり、手紙やハガキでも一定の効果が得られることが示唆された。
あるまちで実験的に2-3週間タブレットの貸し出しを行ったあとのアンケート結果では助けてもらえば使い続けられそうと答えた人が9割、引き続き活用を続けたいという回答が7割だった。これらの結果から、対面の社会参加に加えオンライン上の交流を増やすことも豊かな長寿社会を作っていく上で有用だと考える。