いまや我が国の65歳以上の高齢者は 1,902万人,総人口の15.1%を占める (平成8年10月1日現在推計人口)。私たちは,既に高齢社会に暮らしている。
我が国の高齢化は急速に進んでおり,現在の高齢化率は,先進諸国とほぼ同程度であるが,急速な高齢化は更に続き,今後,先進諸国を引き離し,世界に例のない高齢社会となる。我が国は,社会の高齢化の経験で世界の先頭に立つことになる。
「日本の将来推計人口」(平成9年1月推計)(厚生省)によれば,高齢化率は,平成7年 (1995年) の14.6%から増加し続け,27年 (2015年) の25.2%まで急増し,その後は緩やかな増加に転じ,42年 (2030年) に28.0%に達する。その後再び増加傾向が強まり,62年 (2050年) に32.3%とピークに達する。
高齢者数は,平成7年 (1995年) の 1,828万人から33年 (2021年) の 3,337万人へと約 1.8倍にまで大幅に増加する。
平成7年 (1995年) には,前期高齢者 (65〜74歳) 1,110万人に対し,後期高齢者 (75歳以上) は 718万人と3分の2程度であるが,今後,後期高齢者は,急速に増加し,ピークの40年 (2028年)には,7年の約 2.7倍の 1,936万人に達する。
生産年齢人口 (15〜64歳) の総人口に占める割合は,平成7年 (1995年) の69.5%から33年 (2021年) の59.4%まで減少を続ける。生産年齢人口は,平成7年 (1995年) の 8,726万人が,32年 (2020年) には 7,381万人へと15%程度減少する。
これまで我が国は,高齢化が進んでいても,生産年齢人口は増加していたが,今後は,生産年齢人口が減る中で,高齢化が進むという新たな局面を迎える。
平成9年1月推計の「日本の将来推計人口」は,平成2年の国勢調査に基づく前回の推計よりも,高齢化が一層高い水準になると予測している。
高齢者数については,今回の推計では,平成7年(1995年) の 1,828万人が37年(2025年) に 3,312万人になると予測しているが,これは前回の推計の予測よりも68万人,2%程度多いものである。
また,高齢化率については,今回の推計は,平成37年(2025年) に27.4%と予測しているが,これは前回の推計の25.8%より 1.6%高い予測である。
一方,今回の推計と前回の推計では,若い世代の方が高齢者よりも違いが大きい。今回の推計では,64歳以下の人口について,平成7年 (1995年) に 1億 729万人であるものが37年(2025年) には 8,780万人まで減少するとしているが,これは前回の推計より 557万人,6%も少ない予測である。
14歳以下の人口については,違いは更に大きく,平成7年 (1995年) の 2,003万人が37年(2025年) に 1,582万人になるとしており,前回の推計の 1,825万人より13%も少ない予測となっている。
我が国の総人口の動向については,今回の推計では,平成19年 (2007年) の 1億2,778万人をピークとして減少に転じる。前回の推計より4年早く人口減少社会への転換を迎える。
平均寿命の伸長や出生率の低下は,高齢化の進行に結びつく。今回の推計において, 高齢化の見通しが一層高い水準となったのは,近年の動向を踏まえ,これらの仮定を修正したことによる。
平均寿命の仮定は,今回の推計では,平成37年(2025年) に男性 78.80年,女性85.83年になると仮定している。前回の推計では,同年に男性 78.27年,女性 85.06年になると仮定していたので,平均寿命の仮定はいくぶん長いものになっている。
今回の推計における中位推計の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む平均子供数を示す指標)は,平成7年(1995年) に1.42であるものが,12年(2000年)の1.38まで低下し,その後42年(2030年) の1.61まで回復するとされている。前回の推計の中位推計よりも, より低いものとなっている。
人口は施策の基礎になっているため,高齢化の見通しが一層高い水準となったことは施策にも影響を与える。今回の推計では,平均寿命の伸長に伴う高齢者の増加はさほどでもないが, 出生率の低下に伴う年少人口の減少が顕著である。そのため,施策についても,高齢者に関する面よりも,若い世代に関する面の方が影響は大きいものと考えられる。
平成7年(1995年) に実施された「第2回人口問題に関する意識調査」(厚生省)によれば,高齢化に対する評価については,「困ったことだ」,「非常に困ったことだ」を合わせ,6割近い人が否定的見解を持つという結果となっている。否定的見解の人は増加しており,高齢化への懸念が広がっていることがうかがえる。
出生率の低下に関する国民の意識については,最近10数年間の出生率の低下についての評価は,「望ましくない」,「非常に望ましくない」の否定的見解が合わせて42.3%と,肯定的見解を大きく上回っている。否定的見解は,90年調査よりも上昇している。
国や地方公共団体の施策に関する国民の意識に関しては,まず,「老人の扶養・介護は家族・親族が負担することは困難であるから,家族・親族の助けに頼らずとも老人が自活していけるような仕組みを国や自治体が整備していくべきである」という考え方に対する評価を尋ねたところ,約3分の2の人が賛成している。
また,「出産と子育ては社会を支える次世代を育成するという意味では社会全体の問題であり,国や自治体は両親・家族の負担を減らすように積極的な支援政策をとるべきである」という考え方に対しては,69.9%が賛成している。
一般会計予算における高齢社会対策関係予算については,平成8年度においては8兆 4,340億円, 9年度においては8兆 6,182億円となっている。
施策・事業の主な予算額(平成9年度)をみると,国民年金及び厚生年金保険 (国庫負担分) が4兆 1,517億円,老人医療費の確保が3兆 1,937億円,老人保護事業 (特別養護老人ホーム等) が 4,168億円,在宅サービス事業が 2,320億円などとなっている。
平成8年度における高齢社会対策の主な動きについては,次のとおりである。
全国どこでも高齢者がシルバー人材センター事業により地域社会の日常生活に密着した臨時的かつ短期的な就業機会の提供を受けることができるよう, 複数のシルバー人材センターを会員とするシルバー人材センター連合の制度の創設等を内容とする高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 (昭和46年法律第68号) の一部改正が行われた。
本格的な高齢社会の到来に対応して,国民の共同連帯の理念に基づき,要介護状態にある者等がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むために必要な保健医療サービス及び福祉サービスが総合的に提供されるよう,介護保険制度を創設することとし,介護保険法案を第 139回国会に提出した。
同法案の介護保険制度は,市町村及び特別区が保険者であり,国,都道府県等が共同で支える重層的な制度となっており,40歳以上の者を被保険者としている。被保険者が加齢に伴って介護が必要になった場合,保険者による要介護認定を受け,保険給付として介護サービスを利用する。その際, 被保険者は, 介護サービスの費用の1割を負担する。保険給付に必要な費用は,2分の1を保険料により,残り2分の1を公費により賄うこととしている。
医療保険制度の安定的な運営の確保,世代間の負担の公平等を図る趣旨から,老人医療を受ける者の一部負担金の額の引上げ,薬剤に係る一部自己負担の創設等の措置を講ずることとし,老人保健法 (昭和57年法律第80号) の一部改正を含む健康保険法等の一部を改正する法律案を第 140回国会に提出した。
老人保健法の改正内容は,訪問指導の対象者を心身の状況や置かれている環境等に照らして療養上の保健指導が必要であると認められる者に広げること,外来一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに,1日につき 500円 (ただし,同一の月に同一の保険医療機関等において4回の支払いを限度とする)とすること,入院一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに,1日につき 1,000円とすること,低所得者に係る入院一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに, 1日につき 500円とすること,外来の際の薬剤に係る一部負担に関し,1種類1日分の薬剤につき15円を支払うものとすることなどである。
また,健康保険法 (大正11年法律第70号) の改正により,医療保険制度及び老人保健制度の全般にわたる改革を図るため,その基本的事項について審議会に諮問する等の規定の整備をすることとしている。
少子化の進行等,児童及び家庭を取り巻く環境の変化を踏まえ,児童の福祉の増進を図るため,児童福祉法等の一部を改正する法律案を第 140回国会に提出した。
改正法案は,市町村の措置による保育所入所の仕組みを保護者が希望する保育所を選択する仕組みに改めること,児童家庭支援センターの創設による地域の相談支援体制の強化を図ることなどを内容としている。
高齢社会に対応するため,高齢者の居住の安定,需要に応じた的確な供給,地方公共団体の自主的な政策手段の拡大等を柱とする,公営住宅法 (昭和26年法律第193号) の一部改正が行われた。
具体的には,高齢者世帯等について,地方公共団体の裁量により, 一定の範囲内で, 一般世帯より高い入居収入基準を設定できるものとすることなどである。