高齢社会対策は,就業・所得,健康・福祉,学習・社会参加,生活環境,調査研究等の推進の各分野にわたり着実に実施する。
一般会計予算における平成9年度の高齢社会対策の関係予算は,8兆 6,182億円であり,各分野別では, 就業・所得4兆 3,188億円,健康・福祉4兆 1,470億円,学習・社会参加 673億円,生活環境 462億円,調査研究等の推進 388億円となっている。
高齢社会対策は,高齢社会対策大綱の基本的考え方に基づいて, 策定し, 各分野にわたる施策の展開を図る。
大綱の基本的考え方が特に反映されている施策として,平成9年度の新規施策を挙げれば,次のとおりである。
「高齢者の自立, 参加及び選択の重視」については,65歳現役社会推進会議事業,65歳継続雇用に向けた地域におけるモデル事業, 数人の痴呆性老人の共同生活を援助する痴呆性老人向けグループホーム事業等がある。
「国民の生涯にわたる施策の体系的な展開」については, 年齢別・対象別の食生活,身体活動指針等を活用して寝たきり防止やQOL(生活の質)の向上を図る健康増進事業等がある。
「地域の自主性の尊重」及び「施策の効果的推進」については, 公衆浴場, 公民館等の既存施設を活用したサテライト型デイサービス事業 (実施方式の弾力化) ,在宅介護支援センターを核にサービスを24時間体制で一体的に提供する在宅保健福祉サービス総合化モデル事業等がある。
「関係行政機関の連携」については,郵便局, 自治体等が協力する過疎地域における在宅福祉サービスの支援事業等がある。
「医療・福祉, 情報通信等に係る科学技術の活用」については,高齢者・障害者の利便の増進に資する通信・放送サービスに関する技術の研究開発に対する助成制度等がある。
65歳までの継続雇用を推進するため,継続雇用制度の導入又は改善に関する計画の作成指示,計画の適正実施勧告など事業主に対する指導や相談援助を行うとともに,各種の高齢者雇用関係助成金の活用により継続雇用の促進を図る。
平成9年度においては,各種の高齢者雇用関係助成金のうち継続雇用制度導入奨励金及び高年齢者多数雇用奨励金を整理統合し,より効果的に継続雇用の定着を支援する新たな助成金である継続雇用定着促進助成金を創設する。
能力開発給付金の支給等による企業における計画的な職業能力開発の推進,中高年齢労働者等受講奨励金の支給による個人の自発的な職業能力開発の推進などにより,労働者自身あるいは企業を通じての職業能力開発を推進する。
平成9年4月からは,特別措置対象事業場を除き,全面的に週40時間労働制に移行したことから, 週40時間労働制の定着及び労働時間の短縮を図るため,第 140回国会において改正された労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成4年法律第90号)に基づき, 中小企業等の労働時間の短縮に関する指導,援助等を行う。
男女共同参画推進本部において,平成8年12月に決定された「男女共同参画2000年プラン」に基づき,女性労働者の能力の活用を始めとした男女共同参画社会の形成を目指した施策を総合的に推進する。
平成9年度においては,年金に関する情報や考え方を分かりやすく積極的に開示していくため,年金白書を作成することとしている。
被用者年金制度の再編成の第一段階として,厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成8年法律第82号)に基づき,平成9年4月に日本鉄道,日本たばこ産業及び日本電信電話の各共済年金を厚生年金に統合する。
壮年期からの健康づくりについては,「保健事業第3次計画」(計画期間:4〜11年度,平成4年厚生省通達)に基づき,健康診査,機能訓練,訪問指導の充実等を総合的に推進する。
平成9年度から母子保健サービスなど住民に身近で利用頻度の高いサービスは市町村保健センター等を拠点として市町村が一元的に提供し,専門的・技術的サービスは保健所で提供する。
ホームヘルパーを15万 1,908人分(前年度比2万 9,426人分増),ショートステイを4万 4,834人分(前年度比 8,107人分増),デイサービスを 8,923か所(前年度比 1,350か所増),老人訪問看護ステーションを 3,200か所(前年度比 900か所増),それぞれ確保する。
特別養護老人ホームを26万 2,709人分(前年度比1万 5,600人分増),老人保健施設を22万 811人分(前年度比2万 9,000人分増),高齢者生活福祉センターを 320か所(前年度比40か所増),ケアハウスを5万 1,350人分(前年度比1万 3,150人分増),それぞれ確保する。
各種の介護サービスの量的な充実,質的な向上を図るため,ホームヘルパー,寮母・介護職員,看護職員等,OT(作業療法士)・PT(理学療法士)等の高齢者介護マンパワーを確保し,その資質を向上させる。
民間事業者等の創意工夫をいかし,民間事業者による健康・福祉サービスを積極的に活用する。
「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン,文部・厚生・労働・建設4大臣合意)に基づき,子育て支援施策を総合的・計画的に推進する。
地方における生涯学習の推進体制の整備を図るため,生涯学習担当部局,都道府県生涯学習審議会等の設置を促進する。
平成9年度から生涯学習情報提供体制整備事業として,生涯学習情報の全国的な提供体制を国立教育会館に整備するとともに,都道府県段階において,コンピュータ等を活用して各種の学習機会に関する情報を適切に提供し,学習の内容や方法について助言・援助する体制の整備を推進する。
放送大学においては,地域学習センターを整備するとともに,放送大学の対象地域の全国化を推進する。平成9年度においては通信衛星を利用して全国に視聴の機会を提供する。
社会教育施設や教育委員会が開設する各種の学級・講座を始め,地域住民の多様な社会教育活動を総合的に推進するため,市町村が実施する地域社会教育活動総合事業に対し補助を行う。
地域において,ボランティア活動などを始めとする社会参加活動を総合的に実施している老人クラブに対し助成を行う。
平成9年度から高齢者の地域社会への参加の推進及び世代間の理解の促進のための各種交流事業等を実施する高齢者の学習・社会参加活動推進事業を展開する。
ボランティア活動入門講座の開催,情報誌の発行,登録・あっせん・相談等を行う市区町村ボランティアセンター活動事業,地域の特性に見合ったきめ細かな福祉サービスが効率的,総合的に提供される体制をつくる地域福祉総合推進事業に対し補助を行う。
公営住宅については,老人世帯向公営住宅の供給を推進するとともに,高齢者の単身入居を認める。また,公団賃貸住宅においては,高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行う。平成9年度には,特定優良賃貸住宅において,高齢者向けの設備の設置等に要する費用を新たに補助対象とする。
住宅金融公庫においては,高齢者に対応した構造・仕様等をあらかじめ備えた住宅に対して割増貸付を行うとともに,高齢者用の設備設置を行う場合に割増貸付を実施する。
市町村の高齢者向け住宅の整備指針に従い,シルバーハウジング・プロジェクト事業を推進する。
鉄道駅,旅客船・空港ターミナルにおけるエレベーター・エスカレーター等の施設整備を促進するとともに,乗合バス事業者が行うリフト付バス,スロープ付バス等の導入を促進する。
病院,百貨店,銀行等の不特定多数の人が利用する特定建築物のバリアフリー化を推進する。官庁施設についても,身体障害者対応エレベーターの整備等を実施する。
高齢者等が利用する社会福祉施設を中心市街地等の利用しやすい場所に適正に配置するため,市街地再開発事業及び土地区画整理事業等における社会福祉施設等の円滑な導入のための補助を行う。また,福祉・医療施設と一体となった公園の整備を推進する。
第6次交通安全基本計画等の考え方を踏まえ,高齢者への交通安全意識の普及徹底,高齢者等が安心してくらせる道路環境づくり,高齢者の安全運転対策及び高齢者の交通行動等の調査研究を推進する。
高齢者を犯罪や事故から保護するため,交番,駐在所の警察官を中心に,巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問するなどの施策を推進する。
病院,老人ホーム等の施設を守る土砂災害対策の重点的な実施,高齢化率の特に高い地域等が激甚な水害,土砂災害を受けた場合の再度災害防止を図る。
快適な都市環境の形成については,都市公園等の整備を行う。また,活力ある農山漁村の形成については,農村総合整備事業(高福祉型)等を推進する。
痴呆疾患,骨粗しょう症等の高齢者に特有の疾病については,長寿科学総合研究事業等において調査研究を進める。
福祉用具及び医療機器については,医療や福祉に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進,多分野にわたる福祉機器技術開発の横断的基盤技術の研究の強化等を行う。
老人性痴呆の研究等については,長寿医療研究センター等において推進するほか,平成9年度には,人工臓器や在宅医療機器等の高度な治療機器の研究開発について,補助制度を創設する。
国立大学等においては,老化等の長寿関連の研究を行うほか,科学研究費補助金等により大学等の研究者に対し研究費等の補助を行う。