我が国の高齢社会対策の基本的枠組みは,高齢社会対策基本法 (平成7年法律第129号) に基づいている。
高齢社会対策会議は,内閣総理大臣を会長とし,全閣僚が委員に任命されており,高齢社会対策を総合的に推進するための中心となっている。
高齢社会対策大綱は,高齢社会対策基本法によって政府に作成が義務付けられているものであり,政府の高齢社会対策の基本的かつ総合的な指針となるものである。高齢社会対策大綱は,平成8年7月5日,高齢社会対策会議における案の作成を経て,閣議において決定された。
高齢社会対策は,就業・所得,健康・福祉,学習・社会参加,生活環境,調査研究等の推進という広範な施策にわたり,着実な進展をみせている。一般会計予算における関係予算をみると,平成8年度においては8兆 4,340億円となっている。
これを各分野別にみると, 就業・所得4兆 3,269億円,健康・福祉3兆 9,516億円,学習・社会参加 766億円,生活環境 449億円,調査研究等の推進 340億円となっている。
高齢者の雇用・就業の機会の確保については,継続雇用の推進,再就職の促進,定年退職後等における臨時・短期的な就業の場の確保等に重点を置いて,多様化する高齢者の就業ニーズを踏まえつつ,総合的な雇用・就業対策を推進している。
65歳までの継続雇用を推進するため,継続雇用制度の導入又は改善に関する計画の作成指示,計画の適正実施勧告など事業主に対する指導や相談援助を行うとともに,各種の高齢者雇用関係助成金の拡充を図っている。
平成8年度からは,総合的雇用環境整備推進事業(ネクスト65推進事業)として,都道府県高年齢者雇用安定センターを中心とした相談援助事業を強化するとともに,新たな雇用・就業形態の普及促進を図るためのパイロット事業を実施している。
能力開発給付金の支給等による企業における計画的な職業能力開発の推進,中高年齢労働者等受講奨励金の支給による個人の自発的な職業能力開発の推進などにより,労働者自身あるいは企業を通じての職業能力開発を推進している。
男女共同参画推進本部において,男女共同参画社会の形成を目指した施策を総合的に推進してきており,平成8年12月には,12年(2000年)度までの国内行動計画である「男女共同参画2000年プラン」を決定した。
労働者派遣事業制度については,平成8年6月に,派遣労働者の就業条件の確保のための措置,派遣先における派遣就業の適正化のための措置,育児・介護休業取得者の代替要員に係る労働者派遣事業の特例等を内容とする労働者派遣法等の改正が行われ,同年12月から施行されている。
公的年金制度の再編成の第一段階として,平成8年6月に改正された厚生年金保険法等に基づき,8年度においては,9年4月に日本鉄道,日本たばこ産業及び日本電信電話の各共済年金を厚生年金に統合するための所要の措置を行った。
また,各制度ごとに別々に管理されている個人の年金の加入記録について統一的に把握し複数年金受給権者の併給調整等に適切に対応するため,平成9年1月から,各年金制度に共通して使用できる年金番号として基礎年金番号を導入した。
平成8年度には,簡易保険において,夫婦のいずれか一方が死亡した日から,残された配偶者に対し終身年金を支払う「特別夫婦年金保険」を創設した。
また,勤労者財産形成年金貯蓄については,財形貯蓄活用助成金制度を創設し,財形貯蓄を活用して育児,介護等の費用に充てる勤労者に給付金を支給する事業主に対し,助成を行っている。
生涯にわたる健康づくりを推進するため,栄養,運動,休養のバランスの取れた生活習慣の普及・定着による健康の増進及び疾病の予防を目指した第2次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)を推進している。
地域の保健対策の総合的な推進を図るため,平成9年度から母子保健サービスなど住民に身近で利用頻度の高いサービスは,既に市町村で実施されていた老人保健事業とともに,市町村が市町村保健センター(7年度末現在 1,333か所)等を拠点として一元的に提供し,専門的・技術的サービスは,保健所(7年度末現在 845か所)が提供することとしており,そのため,こうした体制に必要な整備を行った。
高齢者の保健・医療・福祉サービスについては,在宅サービスや施設サービスなど高齢者介護サービス基盤の整備目標,今後取り組むべき高齢者介護サービス基盤の整備に関する施策の基本的枠組みを示した「新ゴールドプラン」に基づき,保健・医療・福祉サービスの充実を図った。
高齢者介護マンパワーの養成・確保については,ナースセンター及び福祉人材センターの設置等を進めている。また,公共職業安定所や民間事業者の労働力需給調整機能の強化を図っている。
国民生活の変化に伴い,健康・福祉サービスに対する高度化及び多様化したニーズに迅速かつ的確に対応し,サービスの効率化を図るためには,民間事業者等の創意工夫をいかし,利用者の選択の幅を広げていくことが重要であることから,民間事業者による健康・福祉サービスの積極的な活用を推進している。
保育対策については,平成6年12月策定の「緊急保育対策等5か年事業」(大蔵・厚生・自治3大臣合意)に基づき,近年の保育需要の多様化に対応したサービスの供給を推進している。
地域における生涯学習の推進体制の整備を図るため,生涯学習担当部局の設置(平成8年9月現在47都道府県, 742市町村で設置),都道府県生涯学習審議会の設置(8年9月現在33都道府県で設置)等を促進している。
学習機会等に関する情報の適切な提供,相談に応じられる環境整備として, コンピュータ等を利用して都道府県と市町村を結ぶ生涯学習情報提供システム(平成8年度現在37都道府県で整備)を実施している。
生涯学習のニーズの高まりに対応するため,大学においては,科目等履修生制度の実施,夜間大学院の設置,昼夜開講制の実施,社会人特別選抜の実施などを行い,履修形態の柔軟化等を図って,社会人の受入れを促進している。
公民館を始め,図書館,博物館,婦人教育施設等の社会教育施設や教育委員会において,青少年から高齢者まで幅広い年齢の人々を対象とした多くの学習機会が提供されている。この中には,高齢者を直接の対象とするものや高齢社会についての理解を促進するための学級・講座も開設されている。
高齢者自身が積極的に社会参加できる各種社会環境の条件整備を図るため,地域においてボランティア活動などを始めとする社会参加活動を総合的に実施している老人クラブに対し助成を行い,その振興を図っている。
高齢者の持つ豊かな知識・経験や学習の成果をいかした社会活動を支援する観点から,高齢者が地域の指導者として社会参加活動を行う際に必要な基礎的要素を養うためのセミナー等の開設に対して補助を行っている。
ボランティア活動に対する興味・関心は年々高まっており,平成7年におけるボランティア活動者総数は 505万1,000 人,ボランティアグループ数は6万 3,400グループに達している。
ボランティア活動の基盤の整備については,市区町村,都道府県・指定都市,中央の各段階における社会福祉協議会のボランティアセンターの活動等を支援している。
学校教育において,ボランティア教育を充実させるため,教員等による研究協議会の開催や指導資料の作成を行うとともに,平成8年度から児童生徒が一定地域において様々なボランティアの体験等を行うボランティア体験モデル推進事業を開始した。
公営住宅において,老人世帯向公営住宅を供給するとともに,高齢者の単身入居を認めている。また,公団賃貸住宅においては,高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行っている。
住宅金融公庫においては,高齢者に対応した構造・仕様等をあらかじめ備えた住宅に対して割増貸付を行うとともに,高齢者用の設備設置を行う場合に割増貸付を実施している。また,平成8年10月から,高齢者に配慮した住宅等一定の良質な住宅の購入に対して基準金利を適用して貸付けを行っている。
シルバーハウジング・プロジェクト事業として,ライフサポートアドバイザー(生活援助員)によるサービスが受けられ,かつ高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様を備えた公共賃貸住宅の供給を推進している。
鉄道駅,旅客船・空港ターミナルにおけるエレベーター・エスカレーター等の施設整備を促進している。また,乗合バス事業者が行うリフト付バス,スロープ付バス等の導入に対して,低利融資,補助を行っている。平成8年度より,低床スロープ付バス及び超低床ノンステップバスを新たに補助対象に加えることとした。
高齢者等が安全,快適に,また不便なく歩行できるよう,各種施設の整備を推進している。平成8年度は新たに,コミュニティ・ゾーン形成事業を実施した。
高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律に基づき認定を受けた建築物については,補助,税制上の特例措置及び低利融資を実施している。官庁施設については,平成8年度において,28施設でエレベーターの新設・改修, 150施設でスロープ,階段の手すり,視覚障害者用ブロック等の設置を実施した。
高齢者等が利用する社会福祉施設を中心市街地等の利用しやすい場所に適正に配置するため,市街地再開発事業,土地区画整理事業等の面的な都市整備と併せて,社会福祉施設等の適正かつ計画的な立地を推進している。また,福祉・医療施設と一体となった公園の整備を実施している。
第6次交通安全基本計画,第6次特定交通安全施設等整備事業五箇年計画等に基づき,高齢者への交通安全意識の普及徹底,高齢者等が安心してくらせる道路環境づくり,高齢者の安全運転対策及び高齢者の交通行動等の調査研究を実施した。
高齢者を犯罪や事故から保護するため,交番,駐在所の警察官を中心に,巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問するほか,痴呆症等によってはいかいする高齢者の発見,保護する体制づくりを地方公共団体等と協力して推進している。
病院,老人ホーム等の施設を守る土砂災害対策の重点的な実施,高齢化率の特に高い地域等が激甚な水害,土砂災害を受けた場合の再度災害防止を図っている。
第6次都市公園等整備五箇年計画に基づき,都市公園等の緊急かつ計画的な整備を行った。
平成8年度においては,地方公共団体が行う高齢者・障害者アメニティの里づくり計画の策定に対し補助を行うとともに,農村総合整備事業(高福祉型)を実施した。
痴呆疾患,骨粗しょう症等の高齢者に特有の疾病については,長寿科学総合研究事業等において調査研究が行われている。平成8年度からは長寿医療の専門家で研究班を組織し,老年病の成因,診断,治療,予防等に関する基礎的,臨床的研究を推進している。
福祉機器に関しては,使用者ニーズに対応する新しい技術の可能性(シーズ)の発掘やニーズ・シーズ適合調査の実施,国立研究所を中心に福祉機器基盤技術開発の横断的基盤的技術の研究を強化するための研究の実施を行っている。
情報通信等の新たな技術の活用は,高齢者の生活の様々な局面に利便をもたらすものと考えられることから,ハード及びソフトの両面において研究開発を推進している。
長寿科学研究を推進するため,国立療養所中部病院に設置された長寿医療研究センターを中心に老人性痴呆症や寝たきり予防の研究等に取り組んでいるほか,長寿科学総合研究事業等において,自然科学から人文社会科学に至るまでの幅広い分野の研究を行っている。
科学技術の進歩は,研究開発に携わる人々の能力や創造力に依存する面が多く,科学技術の振興を図るために人材の養成,確保,資質の向上及び流動化に努めている。