第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節 4(1))

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第3節 分野別の施策の実施の状況

4 生活環境

(1)安定したゆとりある住生活の確保

ア 良質な住宅の供給促進

(ア)居住水準の向上

国民が生涯を通じて快適で充実した住生活を営めるよう、その基盤となる住宅の質的向上が求められている。また、個人のライフスタイルの変化に対応した住み替えを可能とするため、良質で豊富な住宅ストックの形成が重要となっている。

こうした考えの下、「第八期住宅建設五箇年計画」(平成13年3月閣議決定。計画期間:13~17年度)においては、基本課題の一つとして、「いきいきとした少子・高齢社会を支える居住環境の整備」を掲げている。これに基づき、高齢者等のニーズの多様性等に的確に対応し、加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも基本的にそのまま住み続けることができる住宅の供給及び普及、社会福祉施設との併設の推進等の医療・保健・福祉施策との連携の強化並びに住環境の整備により、安定的で質の高い居住の確保を図っている。また、民間活力を活用し、高齢者が安心して居住できる住宅市場の環境整備を推進するとともに、既存の住宅ストックの活用を図りつつ、高齢者が居住しやすい住宅の効率的な供給を促進している。さらに、住宅性能水準を設け、特に高齢者等への配慮として、住宅のバリアフリー化の目標を設定している(表2-3-35)。

表2-3-35 第八期住宅建設五箇年計画の目標
(1) 居住水準の目標
○誘導居住水準(住宅ストックの質の向上を誘導する上での指針)
→ 平成27年度を目途に全世帯の2/3(15年:52.3%)
平成22年度を目途に全都市圏の半数の世帯の達成
(全都市圏のうち、達成率が最も低い関東大都市圏の場合 15年:44.2%)
○最低居住水準(健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な水準)
→ 早期解消に努める(15年:4.2%)
(2) 住宅性能水準
耐震性、防火性等住宅性能に係る水準を明示。特にバリアフリー化の目標を設定。
○平成27年度の住宅のバリアフリー化の目標
→  「手すりの設置」、「広い廊下」、「段差の解消」を備えた住宅ストック:2割(15年:3.4%)
居住者の個別の事情に応じたバリアフリーリフォームがなされた住宅:2割
(3) 住環境水準
(4) 住宅建設戸数
資料:国土交通省

平成17年9月社会資本整備審議会住宅宅地分科会において取りまとめられた答申「新たな住宅政策に対応した制度的枠組みについて」は、これまでの住宅や住宅資金の公的直接供給を中心とする住宅政策の制度的枠組みを抜本的に見直し、市場機能やストックを重視した住宅政策への本格的転換を図っていくことが提言された。今後は、この答申を踏まえて住宅政策を展開していく。

このため、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、基本理念及び国、地方公共団体等の責務を定めるとともに、国及び都道府県による基本的な計画の策定等を内容とする「住生活基本法案」を第164回国会に提出した。

(イ)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進

良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄、住宅金融公庫の証券化支援事業及び融資並びに勤労者財産形成持家融資を行うとともに、住宅ローン減税などの税制措置を講じている。

(ウ)良質な民間賃貸住宅の供給促進のための支援制度の活用等

高齢者世帯の増加に対応するため、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号。以下「高齢者居住法」という。)に基づき、高齢者向けのバリアフリー化された優良な賃貸住宅の供給の促進を図っている。

また、平成15年度には、高齢者等の住宅資産を賃貸住宅として活用・支援するための預かり家賃の保証制度を創設した。

(エ)公共賃貸住宅の適切な供給

公共賃貸住宅の供給は、民間による賃貸住宅の供給を補完するものであり、公営住宅、都市機構住宅、公社賃貸住宅等それぞれの目的に応じた住宅の供給に努めている。

公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して良質な賃貸住宅の供給を行うことを目的に整備が行われており、平成16年度末のストックは約219万戸となっている。

都市機構住宅は、大都市地域等においてファミリー向け賃貸住宅を中心として独立行政法人都市再生機構(平成16年7月に旧都市基盤整備公団から移行)が供給しており、平成16年度末の管理戸数は約77万戸となっている。

公社賃貸住宅は、地方住宅供給公社により、地域の賃貸住宅の需要状況に応じ、住宅金融公庫融資や地方公共団体融資等の資金を活用して供給されており、平成16年度末の管理戸数は約14万戸となっている。

また、既設公営住宅及び既設都市機構住宅について高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様の改善を推進するとともに、特に老朽化した公共賃貸住宅については、居住水準の向上等を図るため、建て替えを計画的に推進している。

(オ)住宅市場の環境整備

ライフステージに応じた住み替えや買い換えを通じて既存住宅ストックを十二分に活用し得るような市場を整備するため、平成13年8月に策定した「住宅市場整備行動計画(アクションプログラム)」に基づき中古住宅市場、住宅リフォーム市場等の環境整備に向けた施策を展開している。

イ 多様な居住形態への対応

(ア)持家における同居等のニーズへの対応

高齢者の多様な居住形態に対応した住宅供給を促進していく必要があるため、住宅金融公庫において、高齢者同居世帯等に対して住宅建設購入資金の割増貸付けを実施するとともに、親の住宅を子が債務者となって建設する場合等に融資を行う住まいひろがり特別融資(親族居住型)、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。さらに、証券化ローンの対象に平成17年度より親族居住用住宅を追加した。

(イ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化

民間賃貸住宅においては、家賃滞納等への不安から高齢者の入居が敬遠される事例が見られることから、高齢者居住法に基づく、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧制度により、高齢者に対する情報提供体制を整備するとともに、登録された賃貸住宅(登録住宅)に入居する高齢者世帯に対する家賃債務保証制度及び登録住宅の共用部分のバリアフリー化に対して補助を行うことにより、高齢者の居住の安定確保を図っている。

(ウ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給

公共賃貸住宅については、高齢者のニーズに対応するため、公営住宅において、高齢者世帯を優先入居の対象とする老人世帯向公営住宅を供給している。また、60歳以上の者については単身入居を認めるとともに、高齢者世帯の入居収入基準を地方公共団体の裁量で一定額まで引き上げることを可能にしている。

都市機構住宅においては、高齢者同居世帯等に対して、募集時に当選率を優遇するとともに、1階又はエレベーター停止階への住宅変更を認めるなどの措置を行っている(表2-3-36)。

表2-3-36 公営住宅等の高齢者向け住宅建設戸数
年度 老人世帯向公営住宅建設戸数 公団住宅(現都市機構住宅)の優遇措置戸数 住宅金融公庫の割増貸付け戸数
賃貸 分譲
平成2年度 937 2,665 684 3,349
3 1,109 2,014 608 2,622 21,498
4 1,324 2,088 221 2,309 27,934
5 2,178 2,096 217 2,313 57,795
6 1,438 1,658 796 2,454 80,365
7 2,032 2,532 572 3,104 20,593
8 1,941 3,146 442 3,588 55,951
9 1,563 3,198 485 3,683 38,689
10 2,057 3,143 571 3,714 34,832
11 2,333 4,349 531 4,880 11,831
    (946)      
12 1,476 8,265 212 8,477 4,951
    (2,317)      
13 1,216 10,344 123 10,467 2,822
    (4,963)      
14 1,203 8,959 149 9,108 1,115
    (4,117)      
15 627 7,574 45 7,619 558
    (3,524)      
16 724 5,510 0 5,510 244
    (3,353)      
資料:国土交通省
(注1)平成14~16年度の老人世帯向公営住宅建設戸数については実績見込みである。
(注2)公団住宅(現都市機構住宅)の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。
(注3)優遇措置の内容としては、当選率を一般の10倍としている。
(注4)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。
(注5)住宅金融公庫の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である。

ウ 自立や介護に配慮した住宅の整備

(ア)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進

加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも、高齢者が安心して住み続けることができるよう、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など住宅のバリアフリー化の施策を積極的に展開している(表2-3-37)。

表2-3-37 高齢者が居住する住宅の設計に係る指針の概要
○ 趣旨
  • 高齢者が居住する住宅において、加齢等に伴って身体機能の低下が生じた場合にも、高齢者がそのまま住み続けることができるような住宅の設計に関する指針を定めるもの。
○ 主な内容
  • 玄関、便所、浴室、居間、高齢者等の寝室等はできる限り同一階に配置
  • 住戸内の床は、原則として段差のない構造
  • 階段、浴室、便所には手すりを設置、玄関、脱衣室等には手すりの設置又は設置準備
  • 通路、出入口は、介助用車いすの使用に配慮した幅員(通路78cm以上、出入口75cm以上)
  • 階段の勾配、形状等の安全上の配慮
  • 便所、浴室は、できる限り介助可能な広さの確保
資料:国土交通省

高齢者居住法に基づき、民間土地所有者によるバリアフリー化された高齢者向けの賃貸住宅の供給促進を図る高齢者向け優良賃貸住宅制度や、加齢対応構造等を有する住宅への改良に対して住宅金融公庫等の金融機関が行う融資について、元金の返済は死亡時に一括償還とすることができる高齢者向け返済特例制度を設けている。

住宅金融公庫においては、高齢者に対応した構造・仕様等をあらかじめ備えた住宅に対して割増貸付けを行うとともに、バリアフリー化工事等を施した住宅の建設・購入及びバリアフリー化工事等を行う住宅改良に対して貸付条件の優遇を行っている。さらに、平成17年度より証券化支援事業(買取型)において、バリアフリー等の性能が特に高い住宅に金利優遇を行う優良住宅取得支援制度を設けている。

(イ)公共賃貸住宅

公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅(不良住宅密集地区の改良等による住宅)及び都市機構住宅について、段差の解消等の高齢化に対応した仕様を標準化している。

この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について補助の対象としている。都市機構住宅についても、中層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準としている。

(ウ)住宅と福祉の施策の連携強化

加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合でも、可能な限り自立かつ安心して在宅生活を営めるようにするためには、住宅設備等のハード面での配慮に加えて、医療・福祉サービスといったソフト面からも生活の支援を行っていくことが重要である。このため、福祉施策との連携を図りつつ、高齢者向けの公共賃貸住宅の整備を積極的に推進している。

シルバーハウジング・プロジェクト事業として、日常生活上自立可能な高齢者単身世帯、高齢者のみの世帯、高齢者夫婦世帯等を対象に、LSA(ライフサポートアドバイザー:生活援助員)による日常の生活指導や安否確認などのサービスが受けられ、かつ、高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様を備えた公共賃貸住宅の供給を推進しており、建設費等の補助を行っている。平成16年度末現在、749団地、2万143戸を管理している。また、民間の土地所有者等 が供給する高齢者向け優良賃貸住宅や高齢者居住法に基づく登録住宅についても、生活援助員の派遣に対し補助を行っている(図2-3-38)。

図2-3-38 シルバーハウジング・プロジェクトの概念図

さらに、高齢者住宅対策など、地域特性に応じた住宅対策の目標、具体的施策の展開方針等を内容とする地方公共団体による住宅マスタープランの策定に対して補助を行っている。

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