第1章 第3節 2 今後の超高齢社会に向けた基本的な考え方
第3節 「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会報告書~尊厳ある自立と支え合いを目指して~」について
2 今後の超高齢社会に向けた基本的な考え方
健康で活動できる間は自己責任に基づき、身の回りのことは自分で行うという「自己力」を高め、長い人生を活き活きと自立し、誇りを持って社会の支え手や担い手として活躍でき、支えが必要となった時でも尊厳のある生き方ができる社会の実現が重要である。全ての高齢者が、尊厳のある生き方ができるよう、これまでの人生65年を前提とした社会から脱却し、「人生90年時代」に対応した超高齢社会における基本的な考え方を以下で整理する。
(1)「高齢者」の捉え方の意識改革 ~65歳は高齢者か~
「高齢者」は、支えが必要であるとする考え方や社会の在り様は、意欲と能力のある現役の65歳以上の者の実態から乖離しており、高齢者の意欲と能力を活用する上で阻害要因ともなっている。
また、65歳以上であっても社会の重要な支え手、担い手として活躍している人もいるなかで、これらの人を年齢によって一律に「支えられる人」と捉えることは、活躍している人や活躍したいと思っている人の誇りや尊厳を傷つけることにもなりかねない。
こうした認識と実態の乖離を解消し、社会の支え手となり続けるとともに、支えが必要となった時にも、周囲の支えにより可能な限り自立し、人間らしく生活できる尊厳のある生き方を実現させていくことが求められる。
高齢者の意欲や能力を最大限活かすためにも、「支えが必要な人」という高齢者像の固定観念を変え、意欲と能力のある65歳以上の者には支える側にまわってもらう意識改革が必要である。このように、65歳以上の者の捉え方に対する国民の意識変革が不可欠であり、それに向けた啓発が必要である。その際には、楽しく豊かで円熟した人生を送っているという、多様なロールモデルについての情報提供も重要である。
一方、社会保障制度をはじめとする既存の各制度における施策の趣旨及び現在の取扱を踏まえ、国民生活や将来設計の安心の確保等を考慮して、検討は多角的な観点からすべきであり、引き続き中長期的課題として国民的議論を深め、合意形成をしていく必要がある。
(2)老後の安心を確保するための社会保障制度の確立 ~支え支えられる安心社会~
社会保障制度を中心とする、公助と共助のあり方は、国民個人の人生設計に大きな影響を与えることから、人生設計の見直しを可能とする長期的な視点で制度改革を行うことが重要である。
社会保障制度は、国民の自立を支え、安心して生活ができる社会基盤を整備するという社会保障の原点に立ち返り、その本源的機能の復元と強化を図っていくことが求められている。格差の拡大等に対応し、所得の再分配機能の強化や未来世代を育てるための支出の拡大を通じて、全世代にわたる安心の確保を図り、かつ、国民一人ひとりの安心感を高めていくことが重要であり、「全世代対応型」の持続可能な社会保障制度を構築していくことが重要である。
(3)高齢者パワーへの期待 ~社会を支える頼もしい現役シニア~
① 柔軟な働き方の実現
意欲と能力のある65歳以上の現役であるシニアが、本人の希望に応じて働き続けることができる生涯現役社会を実現することは、それらの現役シニアの生活基盤となる所得はもとより、生きがいや健康をもたらす。
高齢期における個々の労働者の意欲・体力等には個人差があり、家庭の状況等も異なることから、高齢者の多様な雇用・就業ニーズに応じた柔軟な働き方が可能となる環境整備を行うことにより、雇用・就業機会を確保する必要がある。
多様で柔軟な働き方の実現は、高齢者のみならず、子育て世代等にとっても働きやすい環境につながる。こうして、職業人生を通じて、子育て、介護など人生の様々なステージにおける仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を促進することが必要である。
また、高齢者の意欲を最大限に活かすことによって、企業の活力維持に不可欠である若い世代への円滑な技能伝承の実現が期待でき、若い世代の能力の向上も達成される。
② さまざまな生き方を可能とする新しい活躍の場の創出
就労以外に、生きがいや自己実現を図ることができるようにするため、様々な生き方を可能とする新しい活躍の場の創出、意欲と活躍できる場のつながりの強化が必要である。
経済的な側面だけではなく、生きがいや社会参加を重視している高齢者も多い点等に着目して、雇用にこだわらない社会参加の機会を確保していくことも重要である。
高齢者の自主性を活かした社会参加を活性化するため、地域の特性を活かした、高齢者の「居場所」と「出番」をつくり、高齢者を含めた住民間の連携を促進することが重要である。
③ シルバー市場の開拓と活性化
今後、高齢者パワーが最大限発揮されるためには、高齢者が活躍しやすい環境づくりが重要である。具体的には、高齢者に優しい機器やサービスの開発を支援し、身体機能が低下しても、その人が求める生活の質が保たれ、安心で快適で豊かな暮らしを送ることができるようにすることが重要である。
高齢者がコミュニケーションや情報の面で弱者となることを防止するためには、携帯電話やパソコンといった機器を活用しやすくし、活用方法の習得を支援するとともに、高齢者の情報機器の利用を促進する取組も求められる。
また、高齢者のニーズを踏まえたサービスや商品開発の促進により、高齢者の消費を活性化し、高齢化に対応した産業や雇用の拡大を支援すべきである。
(4)地域力の強化と安定的な地域社会の実現 ~「互助」が活きるコミュニティ~
① 「互助」によるコミュニティの再構築
地域の人々、友人、世代を超えた人々との間の「顔の見える」助け合いにより行われる「互助」を再構築する必要がある。
また、高齢者の多様な経験や知恵を活かし、高齢者が子育て世代等の若い世帯を支えるなど世代間の交流を促進させていくなど、「地域力」の強化を図ることが重要である。
地域に根差した助け合いを推進するにあたっては、自助・互助・共助・公助のすべてが必要となる。自助や互助が行われやすくなるように、国や地方公共団体をはじめ関係機関・団体による、地域力や仲間力を高めるための環境づくりが望まれる。
② 孤立化防止のためのコミュニティの強化
高齢者、とりわけ一人暮らしの高齢者については、地域での孤立が顕著であることから、見守り等を通じてそうした高齢者と地域とのコミュニケーションづくり、絆づくりに加え、そのニーズに応じた支援が必要である。
地域における高齢者やその家族の孤立化を防止するためにも、いわゆる社会的に支援を必要とする人々に対し、巡回しながらニーズを把握するといった積極的にアウトリーチする仕組や、個別の相談支援を通じて、閉塞感を払拭することも重要である。
③ 地域包括ケアシステムの推進
高齢者が安心して生活できるためには、高齢者本人及びその家族にとって、何かあった時に対応してくれる人がいないことへの不安を払拭し、いざという時に医療や介護が受けられる環境が整備されているという安心感を醸成する必要がある。地域で尊厳を持って生きられるような、医療・介護の体制の構築を進める必要がある。
日常生活圏域内において、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく、有機的かつ一体的に提供される地域包括ケアシステムを確立していくことが急務である。
(5)安全・安心な生活環境の実現 ~高齢者に優しい社会はみんなに優しい~
① バリアフリー・ユニバーサルデザインの深化
高齢者をはじめ、多様な人々が利用しやすいよう、住宅や都市、生活環境のデザインをより拡張するという、ユニバーサルデザインの考え方を一層推進する必要がある。
このような全世代型で多様な人々が安心して暮らせるまちづくり、自立した生活ができる環境づくりを実現することが重要である。
② 日常生活圏域の生活環境の保障
心身の機能が低下した高齢者にとっては、中学校区程度の日常的な生活圏域で、安全・安心かつ快適に最後まで住み続けられるための環境整備を図る必要がある。
日常生活に必要な買い物等ができる生活利便施設に加え、医療、介護等に関するサービスが日常生活圏域において適切に配置され、不便なく利用できる生活環境の保障が求められている。
また、これらの高齢者の生活を支援する様々なサービスが地域内でネットワーク化され、相乗的に機能する環境を整える必要がある。
③ 犯罪・消費者トラブルからの保護及び成年後見等の拡充
高齢者を虐待、犯罪、消費者トラブル等の被害者にしないために、成年後見制度や消費者被害防止施策等を推進する必要がある。とりわけ、認知症高齢者の増加に伴い、成年後見制度の必要性は一層高まってきており、一般市民からなる「市民後見人」を中心とした支援体制や「法人後見」をはじめとした組織的な後見体制を構築する必要がある。
また、社会全体で認知症の人とその家族を支え、見守り、ともに生きる地域を築いていくことが重要である。
さらに、高齢者が悪質業者の被害者とならないように、的確な情報提供、業者の指導・取締に取り組むことも求められる。また、犯罪、消費者トラブル等の被害者にしないために、地域で孤立させないためのコミュニケーションの促進が重要である。
(6)若年期からの「人生90年時代」への備えと世代循環の実現 ~ワーク・ライフ・バランスと次世代へ承継する資産~
① 人的資本の蓄積とその活用
技術革新等により、企業内における働き方にも変化が生じ、企業において働き続けるためにも、能力開発や生涯学習が重要となる。同時に、男性にとっても女性にとっても、仕事時間と育児や介護、自己啓発、地域活動等の生活時間の多様でバランスのとれた組み合わせの選択を可能にする、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が必要である。
年齢にかかわらず意欲に応じて働くために、技能や人脈等も含めた仕事能力を蓄積させることが重要であり、非正規労働者も含めて、若年・中年期からキャリア形成を図ることができるよう、キャリアに関する相談・援助により自己啓発・スキルアップができるような環境を整備していくことも重要である。
さらに、高齢期においても、個人の生きがいを探求し、これまでの多様な社会経験を活かして能力を発揮できるようにするとともに、自立した生活を送れるよう生涯学習の機会を充実させることが重要である。
同時に、高齢期に向けた健康管理、健康づくりが重要であることの啓発を図る必要がある。
② 資産形成とその活用による安定した老後生活の実現
高齢期における経済的自立という観点からは、就労期に実物資産や金融資産等のストックを適正に積み上げ、引退後はそれらの資産を活用して最後まで安心して生活できる経済設計が求められる。
したがって、資産形成が困難な若・中年の非正規労働者に対しては、雇用の安定や処遇の改善に向けて、公正な待遇の確保に横断的に取り組むことが重要である。
また、高齢者が残した資産が次世代に適切に承継されるよう、相続や寄付の仕組を通じた、適切な資産移転や社会に還流できる仕組を構築することが必要である。また、既存住宅を適正に評価し、流動性を高める中古住宅市場の整備も重要である。
高齢者が築き上げた資産を次世代が適切に継承し、住宅、住環境及びその資産価値が世代を通じて循環する仕組みが不可欠である。