第1章 高齢化の状況(第3節 1-2)
第3節 <視点1>新しい高齢社会対策大綱の策定(2)
2 検討会における議論
検討会は「高齢期の活躍の場の創造」、「高齢者の生活基盤の確保」、「高齢化する社会への対応力の向上」をテーマとし、平成29年6月から平成29年10月までに6回開催された。第1回検討会で各委員から以下の課題設定が行われ、その後の回で具体的に検討が重ねられた(表1-3-1-2)。
続く5回の検討会での議論を経て、平成29年10月に報告書がとりまとめられた(表1-3-1-3)。副題の「すべての世代にとって豊かな長寿社会の構築に向けて」は、「高齢者」対策ではなく「高齢社会」全体への対策が必要であるという委員の総意を反映したものである。
報告書の冒頭では、日本の現状がまず評価された。
「我が国は世界有数の長寿国であるのみならず、高齢者には高い就業意欲が見られ、体力や運動能力も一貫して向上傾向を示している。これらは雇用、教育、健康、社会保障などの分野における我が国のこれまでの諸施策も、また国民一人一人の取組も、成功裡に進められてきた証左であると言える。」
そして、新たな課題として「一人暮らし高齢者の一層の増加」、「地域コミュニティの希薄化」、「長寿化に伴う資産面健康面の維持」などに触れ、意欲ある高齢者の能力発揮を可能にする社会環境と、様々な分野における十全な支援やセーフティネット、その両方の整備を図る必要があると指摘した。
報告書には以下のような新しい視点が盛り込まれた。
●高齢者の活躍の支援
- 高齢期にも高い就業意欲が見られる現況を踏まえれば、年金制度をより使いやすい制度とするための検討を行ってはどうか。
- 起業については、壮年期からの副業、兼業経験も含め、高齢期の起業が円滑に行われるような環境を整備することが望ましい。
- 資産活用については、高齢者の保有する豊富な資産が豊かな老後につながるとともに、我が国の経済の成長にも資するよう、資産が有効活用される環境整備が必要である。
- 介護離職ゼロの実現に向けて、①介護労働者の確保、②介護労働者の専門性の「見える化」、③家族介護者への支援の取組を進めるなど現役世代にも働きやすい社会づくりが必要。
- 人生の最終段階の過ごし方については、認知症高齢者や一人暮らし高齢者の増加を背景に、QOL(生活の質)向上の議論を進め、分野横断的な基本方針等を定めることができないか。
●高齢者の生活基盤の充実
- 地域コミュニティが脆弱化しているが、高齢期に地域に支えられるという視点のみならず、子育て世代や若者など他の世代を支えることができるという認識が広く共有されることが望ましい。
- 高齢者の生活の質の向上に先進技術を活用するため、ビッグデータ分析なども効果的に活用しながら、高齢者のニーズを踏まえた研究開発を進めることが必要である。AIを始めとする技術革新によるサービスの創出が期待される。
●高齢化する社会への対応力の向上
- 持続可能な高齢社会を実現するためには、現役世代や高齢者を含めた全構成員が相互に力を発揮し支え合うことができる社会づくりが求められる。そのためには個々人が高齢社会の姿を理解する力を持つことが望ましい。平均的な像を「鳥」の目で見ること、個別のありようを「虫」の目で見ること、どちらも欠けてはならない。
- 社会保障は個人では対応に限界のある状況に支え合いで備えるものであり、その本来意義の理解を世代間で共有することが重要である。社会保障教育を通じて若い世代が高齢社会を理解する力も養うことができる。新入社員向けに社会保障を学ぶ機会を設ける事業主への補助制度の整備など様々な手法も活用することが望ましい。
- アジアの中でも急速に高齢化が進む国が増えている中、我が国の高齢化対策の知見に対する需要は潜在的にも顕在的にも大きいと思われる。各国がよりよい高齢社会をつくることに、我が国が産業面からも貢献し、日本の知見が広がる可能性を存分に活かせるような環境整備が望まれる。