第3章 平成30年度高齢社会対策(第2節 1)
第2節 分野別の高齢社会対策(1)
1 就業・所得
(1)エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備
ア 多様な形態による就業機会・勤務形態の確保
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備
地域の多様なニーズに応じた活躍を促す観点から、地方自治体を中心に設置された協議会等が実施する高齢者の就労促進に向けた事業等への支援を拡充し、先駆的なモデル地域の取組の普及を図る。
また、シルバー人材センター事業について、高齢者が人手不足の悩みを抱える企業を一層強力に支えるため「高齢者現役世代・雇用サポート事業」を抜本的に見直し、会員拡大等による企業とのマッチング機能等を強化するなど高齢者の就業機会の促進を図る。特に、平成28年より、都道府県知事が業種・職種及び地域を指定した場合に限り、派遣及び職業紹介の働き方において就業時間の要件緩和が可能となったところであり、平成30年度より就業時間が緩和された地域において高齢者の就業促進を図った場合に補助額を増額する仕組みを創設し、更なる高齢者の就業促進を図る。
また、高齢者を含め多様な人材の能力を活かして、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を表彰することを通じて、ダイバーシティ経営の普及啓発を行う。多様な人材のうち、女性については、企業における取組の加速化を目的に、東京証券取引所と共同で、「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の成長力」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として、選定・公表を行う。有期契約労働者やパートタイム労働者などが、その能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、労働契約法の周知や「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号、以下「パートタイム労働法」という。)に基づく是正指導等により、これらの法の着実な履行確保を図る。
また、パートタイム労働者の雇用管理改善に向けた事業主の取組を支援するため、職務分析・職務評価の導入支援・普及促進に努める。
また、「働き方改革実行計画」を踏まえ、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向け、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正を含む「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」を第196回通常国会に提出した。
さらに、職務、勤務地、勤務時間を限定した「多様な正社員」の普及・拡大を図るため、労働条件の明示等の雇用管理上の留意事項、就業規則の規定例や好事例、助成措置について周知・啓発に努めている。また、所定労働時間が短いながら正社員として適正な評価と公正な待遇が図られた働き方である「短時間正社員制度」について、その導入・定着を促進するため、制度導入支援マニュアルの配布のほか、制度を導入した事業主に対する助成金等の活用、パート労働ポータルサイトでの周知、人事労務担当者を対象にしたセミナーの実施等により、短時間正社員制度の概要や取組事例等についての情報提供等を行い、周知・啓発に努める。
加えて、副業・兼業については、平成29年度に策定したガイドラインや改訂版のモデル就業規則の周知を通じて、普及促進を図っていく。
(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及
テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものであることから、平成29年6月2日に閣議決定された「未来投資戦略2017」「経済財政運営と改革の基本方針2017」等も踏まえ、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係府省が連携して推進する。
このため、テレワークの本格的普及に向けて、平成29年度に改定した労務管理に関するガイドラインの周知を図るとともに、企業等に対する労務管理や情報通信技術に関する専門家の派遣、テレワーク裾野拡大の担い手となる人材の育成、事業主や労働者等を対象としたセミナーの開催、テレワークに先進的に取り組む企業等に対する表彰の実施、テレワーク導入経費に係る支援、企業によるテレワーク宣言を通じての取組の紹介、「テレワーク・デイ」の拡大・強化を実施する。
また、テレワーカーの定量的な実態把握を行う。
イ 高齢者等の再就職の支援・促進
「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては、公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、ジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。
平成29年1月1日に施行した「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第17号)に基づき、65歳以上の労働者も雇用保険の適用対象とすることについて、改正後の法の内容の周知を図る。
主要なハローワークにおいて、特に65歳以上の高年齢求職者を対象に、本人の状況に即した職業相談や職業紹介、求人開拓等の支援を行う窓口の増設を行う。
あわせて、地域の事業主団体等と公共職業安定機関の協力の下、雇用を前提とした技能講習、面接会、フォローアップ等を一体的に行う事業を実施する。
また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用する事業主に対する助成措置(トライアル雇用助成金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施する。
さらに、再就職が困難である高年齢者の円滑な労働移動を実現するため、労働移動支援助成金により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主や、高年齢者等を早期に雇い入れた事業主、受け入れて訓練(OJTを含む)を行った事業主に対して、助成措置を実施する。あわせて、中途採用者の能力評価、賃金、処遇の制度を整備した上で、45歳以上の中高年齢者を初めて雇用した事業主に対する助成措置を実施し、労働移動の一層の促進を図る。
また、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、その能力の活用を希望する事業者に対してこれを紹介する「高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業」を(公財)産業雇用安定センターにおいて実施し、高年齢者の就業促進を図る。
ウ 高齢期の起業の支援
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)により開業・創業の支援を行う。
また、中高年齢者等の雇用機会の創出を図るため、中高年齢者等が起業(いわゆるベンチャー企業の創業)する際に必要となる、雇用の創出に要する経費の一部を助成する措置を引き続き実施する。
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては、当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続する。
エ 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号)は事業主に対して、65歳までの雇用を確保するために継続雇用制度の導入等の措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)を講じるよう義務付けており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するとともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の高年齢者雇用アドバイザーによる技術的事項についての相談・援助を行う。
「雇用対策法」(昭和41年法律第132号)第10条に基づき、労働者の一人ひとりにより均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行う。
また、企業における高年齢者の雇用を推進するため、65歳以降の定年延長や継続雇用制度の導入を行う事業主、高年齢者の雇用環境の整備や高年齢の有期雇用労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対する支援、継続雇用延長・定年引上げに係る具体的な制度改善提案を実施し、企業への働きかけを行う。
あわせて、企業を退職した高年齢者にとって身近な存在である業界団体や企業OB会等を、高年齢者に就業機会を提供する団体として育成するため、その実施モデルを作成する就労支援団体育成モデル事業を実施する。
公務部門における高齢者雇用において、国家公務員については、現行の国家公務員法に基づく再任用制度を活用し、65歳までの雇用確保に努めるとともに、特に雇用と年金の接続を図る観点から、「国家公務員の雇用と年金の接続について」(平成25年3月閣議決定)に基づき、平成29年度の定年退職者等のうち希望者を対象として、公的年金の支給開始年齢まで原則再任用するなどの措置を講じる。
地方公務員については、同閣議決定の趣旨を踏まえ、引き続き地方の実情に応じて必要な措置を講ずるよう各地方公共団体に対して必要な助言等を行う。また、専門家による講演の実施等を通じ、各団体における再任用制度の適切な活用の取組を推進する。
また、公務員の定年の引上げについては、高齢期の職員の知識、経験の一層の活用等の観点から、組織活力の維持、総人件費の在り方などの点も含め、人事院の協力も得つつ、引き続き具体的な検討を進める。
オ 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発
職業生涯の長期化や働き方の多様化等が進む中、勤労者がその人生において、必要な学び直しを行いライフスタイルに応じたキャリア選択を行うことができるよう、人生100年時代を見据え、リカレント教育の抜本的な拡充等、誰もが幾つになっても、新たな活躍の機会に挑戦できるような環境整備について、検討する。
また、職業生活の全期間を通じてその能力を発揮できるようにするために、労働者の段階的・体系的な職業能力の開発・向上を促進し、ひいては人材の育成・確保や労働生産性の向上につなげることが必要である。
このため、職業訓練の実施や職業能力の「見える化」のみならず、個々人にあった職業生涯を通じたキャリア形成支援を推進する。
また、就業に向けた高齢期の能力形成にも資するよう、有給教育訓練休暇制度の普及促進を図るとともに、教育訓練給付制度の活用により、勤労者個人のキャリア形成を支援し、勤労者の自己啓発の取組を引き続き支援する。さらに、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第14号)に基づく専門実践教育訓練給付の給付率の引上げ等(平成30年1月施行)について、着実な施行が図られるよう、引き続き周知徹底を図る。
カ ゆとりある職業生活の実現等
仕事と生活の調和の実現のため、企業における働き方・休み方の改善に向けた検討を行う際に活用できる「働き方・休み方改善ポータルサイト」の普及など、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた労使の自主的な取組の支援を行う。
また、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日仕事と生活の調和推進官民トップ会議決定、平成28年3月改定)等を踏まえ、高齢者も含めた全ての労働者の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図る。
(2)誰もが安心できる公的年金制度の構築
ア 持続可能な公的年金制度の構築
公的年金制度については、平成28年に成立した年金改革法の円滑な施行に取り組むとともに、次期(平成31年)財政検証を踏まえた制度改正に向け、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(平成25年法律第112号)等で掲げられている様々な課題についての検討を進めていく。
イ 高齢期における職業生活の多様性に対応した年金制度の構築
65歳より後に受給を開始する繰下げ制度について、積極的に制度の周知に取り組むとともに、70歳以降の受給開始を選択可能とするなど、年金受給者にとってより柔軟で使いやすいものとなるよう制度の改善に向けた検討を行う。
また、在職老齢年金については、高齢期における多様な就業と引退への移行に弾力的に対応する観点から、年金財政に与える影響を考慮しつつ、制度の在り方について検討を進める。
ウ 働き方に中立的な年金制度の構築
働きたい人が働きやすい環境を整えるとともに、短時間労働者に対する年金などの保障を厚くする観点から、被用者保険の適用拡大の施行状況、個人の就労実態や企業に与える影響等を踏まえ、更なる適用拡大に向けて、今後も検討を進めていく。
エ 低年金・無年金問題への対応
老齢基礎年金等の受給資格期間を25年から10年に短縮する措置が平成29年8月1日に施行され、これにより年金が支払われた者は、平成30年3月までで約51.8万人となっている。年金請求書を送付したにもかかわらず未請求である者に対しては、改めて、日本年金機構より再勧奨のハガキを送付する等を行い、引き続き対象となる方の請求につながるように周知を行う。
また、将来に向けて、年金の保障機能を一層強化し、老後の所得保障を厚くする観点から、被用者保険の適用拡大を進めているところであり、引き続き制度の周知広報に努めていく。
(3)資産形成等の支援
ア 資産形成等の促進のための環境整備
勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。
確定拠出年金について、iDeCo(個人型確定拠出年金)の普及を引き続き進めるとともに、平成30年5月から施行される簡易企業型年金制度や中小事業主掛金制度といった中小企業が私的年金を利用しやすい制度の導入や、年金資産として高齢期の所得確保に資するべく加入者等の運用指図を支援するため、運用商品提供数の上限の設定や継続投資教育の努力義務化などの確定拠出年金の運用の改善にも取り組む。
確定給付企業年金については、リスク分担型企業年金制度等の周知を行うとともに、平成30年4月以降に実施する運用の基本方針及び政策的資産構成割合の策定の義務化などを内容としたガバナンスの見直しを実施するなど、私的年金制度の一層の普及・充実と適切な運営の促進を図る。退職金制度については、中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進のための施策を実施する。
また、勤労者が資産形成を開始するきっかけが身近な場で得られるよう、職場環境の整備を促進することにより、つみたてNISA等の普及や利用促進を図る。その際、国家公務員がつみたてNISAを広く活用するよう、職場つみたてNISAを導入するなど、政府として率先して積極的なサポートを行うことにより、地方公共団体や企業における同様の取組を促していく。
イ 資産の有効活用のための環境整備
高齢社会における金融サービスの課題として、資産を計画的に運用しながら取崩す金融商品・サービス、資産や事業の円滑な承継及びフィナンシャル・ジェロントロジーの進展を踏まえた高齢投資家保護のあり方等について検討を行い、高齢者の多様性やそれぞれのニーズに対応した金融商品・サービスの提供が促進されるよう努める。
リバースモーゲージの普及を図るため、住宅金融支援機構において、公的保証による民間金融機関のバックアップ等を行い、資産の有効活用のための環境を整備する。
また、低所得の高齢者世帯が安定した生活を送れるようにするため、各都道府県社会福祉協議会において、一定の居住用不動産を担保として、世帯の自立に向けた相談支援に併せて必要な資金の貸付けを行う不動産担保型生活資金の貸与制度を実施する。