第2章 令和元年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 2)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(2)

2 健康・福祉

「健康・福祉」については、高齢社会対策大綱において次の方針を明らかにしている。

高齢期に健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、長寿を全うできるよう、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する。

今後の高齢化の進展等を踏まえ、地域包括ケアシステムの一層の推進を図るとともに、認知症を有する人が地域において自立した生活を継続できるよう支援体制の整備を更に推進する。また、家族の介護を行う現役世代にとっても働きやすい社会づくりのため、介護の受け皿整備や介護人材の処遇改善等の「介護離職ゼロ」に向けた取組を推進する。

高齢化の進展に伴い医療費・介護費の増加が見込まれる中、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供し、人口構造の変化に対応できる持続可能な医療・介護保険制度を構築する。また、人生の最終段階における医療について国民全体で議論を深める。

(1)健康づくりの総合的推進

ア 生涯にわたる健康づくりの推進

健康寿命の延伸や生活の質の向上を実現し、健やかで活力ある社会を築くため、がん等生活習慣病の一次予防に重点を置いた対策として平成12年度から進めてきた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が平成24年度で終了したことから、平成23年10月に取りまとめた最終評価を基に「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会」等で議論を行い、平成25年度から10年間の国民健康づくり運動を推進するため、健康を支え、守るための社会環境の整備に関する具体的な目標等を明記した健康日本21(第二次)を平成24年7月に告示した。平成29年度は健康日本21(第二次)開始から5年目にあたり、平成30年9月に中間評価報告書をまとめた。

健康日本21(第二次)に基づき、企業、関係団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施していく。

さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が「健康増進法」(平成14年法律第103号)に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図った(表2-2-6)。

表2-2-6 健康増進事業の一覧
種類等 対象者 内容 実施場所
健康手帳の利用
  • 40歳以上の者
  • 特定健診・保健指導の記録
  • 健康教育、健康相談、健康診査、訪問指導等の記録
  • 生活習慣病の予防及び健康の保持のための知識
  • 医療に関する記録等必要と認められる事項
 
健康教育
  • 個別健康教育
  • 40歳から64歳までの者で特定健康診査及び健康診査等の結果、生活習慣病の改善を促す必要があると判断される者(特定保健指導又は保健指導対象者は除く)
  • 疾病の特性や個人の生活習慣等を具体的に把握しながら、継続的に個別に健康教育を行う
    • 高血圧個別健康教育
    • 脂質異常症個別健康教育
    • 糖尿病個別健康教育
    • 喫煙者個別健康教育
市町村保健センター
医療機関等
  • 集団健康教育
  • 40歳から64歳までの者
  • 必要に応じ、その家族等
  • 健康教室、講演会等により、以下の健康教育を行う
    • 一般健康教育
    • 歯周疾患健康教育
    • ロコモティブシンドローム(運動器症候群)健康教育
    • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)健康教育
    • 病態別健康教育
    • 薬健康教育
健康相談
  • 重点健康相談
  • 40歳から64歳までの者
  • 必要に応じ、その家族等
  • 幅広く相談できる窓口を開設し、以下の健康相談を行う
    • 高血圧・脂質異常症・糖尿病・歯周疾患・骨粗鬆症
    • 女性の健康・病態別(肥満、心臓病等)
市町村保健センター等
  • 総合健康相談
 
  • 対象者の心身の健康に関する一般的事項に関する指導、助言
健康診査等 健康診査
  • 健康診査
  • 40歳以上の者で特定健康診査及び後期高齢者医療広域連合が保健事業として行う健康診査の対象とならない者
  • 必須項目
    • 既往歴の調査等(服薬歴・喫煙習慣の状況に係る調査含む)
    • 身長、体重及び腹囲の検査等
    • 理学的検査(視診、打聴診、腹部触診等)
    • 血圧測定
    • 肝機能検査(血清GOT、GPT、γ-GTP)
    • 血中脂質検査(中性脂肪、HDL-コレステロール、LDLコレステロール)
    • 血糖検査
    • 尿検査(糖、蛋白)
  • 選択項目〔医師の判断に基づき実施〕
    • 貧血検査(ヘマトクリット値、血色素量及び赤血球数)
    • 心電図検査・眼底検査
    • 血清クレアチニン検査
市町村保健センター
保健所
検診車
医療機関等
  • 訪問健康診査
  • 健康診査の対象者であって寝たきり者等
  • 健康診査の検査項目に準ずる
  • 介護家族訪問健康診査
  • 健康診査の対象者であって家族等の介護を担う者
  • 健康診査の検査項目に準ずる
保健指導
  • 健康診査の結果から保健指導の対象とされた者
    (40歳から74歳までの者)
  • 動機付け支援
  • 積極的支援
市町村保健センター
保健所
医療機関等
歯周疾患検診
  • 40、50、60、70歳の者
  • 検診項目
    • 問診
    • 歯周組織検査
 
骨粗鬆症検診
  • 40、45、50、55、60、65、70歳の女性
  • 検診項目
    • 問診
    • 骨量測定
 
肝炎ウイルス検診
  • 当該年度において満40歳となる者
  • 当該年度において満41歳以上となる者で過去に肝炎ウイルス検診に相当する検診を受けたことがない者
  • 問診
  • C型肝炎ウイルス検査
    • HCV抗体検査
    • HCV核酸増幅検査(必要な者のみ)
  • B型肝炎ウイルス検査
    • HBs抗原検査
市町村保健センター
保健所
検診車
医療機関等
訪問指導
  • 40歳から64歳までの者であって、その心身の状況、その置かれている環境等に照らして療養上の保健指導が必要であると認められる者
  • 家庭における療養方法等に関する指導
  • 介護を要する状態になることの予防に関する指導
  • 家庭における機能訓練方法、住宅改造、福祉用具の使用に関する指導
  • 家族介護を担う者の健康管理に関する指導
  • 生活習慣病の予防に関する指導
  • 関係諸制度の活用方法等に関する指導
  • 認知症に対する正しい知識等に関する指導
対象者の居宅
総合的な保健推進事業
  • 他の健康増進事業の対象者と同様
  • 健康増進法第19条の2に基づき市町村が実施する各検診等の一体的実施及び追加の健診項目に係る企画・検討
 
(注) 65歳以上の者については、介護予防の観点から別事業を実施している。平成10年度より一般財源化されているがん検診についても、健康増進法に基づく健康増進事業として位置づけられている。

国民の健康の維持・増進、生活習慣病の発症及び重症化予防を目的として、国民が健全な食生活を営むことができるよう、「日本人の食事摂取基準」を策定し、5年ごとに改定している。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、我が国における更なる高齢化の進展を踏まえ、新たにフレイル予防も視野に入れて策定を行うとともに、フレイル予防の啓発ツールを作成した。

また、平成29年3月に策定した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、適切な配食の提供及び栄養管理を行う事業をモデル的に実施した。

また、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等を実施した。

いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進した。

「第3次食育推進基本計画」(平成28年3月食育推進会議決定)に基づき、家庭、学校・保育所、地域等における食育の推進、食育推進運動の全国展開、生産者と消費者の交流促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化、食文化の継承のための活動への支援、食品の安全性の情報提供等を実施した。

また、配食事業の栄養管理に関するガイドラインを踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、事業者及び地方公共団体において、ガイドラインを踏まえて取り組んでいる先行事例を収集し、事業者及び地方公共団体向けの参考事例集を作成し、公表した。

高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、リハビリテーション専門スタッフを配置した。

加えて、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」の推進を図った。

国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等についてユニバーサルデザイン化、情報発信の充実等により、高齢者にも配慮した環境の整備を実施した。

イ 介護予防の推進

介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。平成27年度以降、通いの場の取組を中心とした一般介護予防事業等を推進しており、一部の自治体では、その取組の成果が現れてきているとともに、介護予防に加え、地域づくりの推進という観点からも保険者等の期待の声も大きく、また、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の動向も踏まえ、その期待はさらに大きくなっている。

このような状況を踏まえ、令和元年5月から、「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」を開催し、一般介護予防事業等の今後求められる機能やPDCAサイクルに沿った更なる推進方策等の検討を集中的に実施し、令和元年12月13日に取りまとめを公表した。

また、自治体職員等に対して研修会を実施する等、市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進した。

(2)持続可能な介護保険制度の運営

介護保険制度については、平成12年4月に施行されてから19年以上を経過したところであるが、介護サービスの利用者数はスタート時の3倍を超える等、高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として確実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる(表2-2-7)。

表2-2-7 介護サービス利用者と介護給付費の推移
  利用者数 介護給付費
平成12年4月 平成15年4月 平成18年4月 平成21年4月 平成24年4月 平成25年4月 平成26年4月 平成27年4月 平成28年4月 平成29年4月 平成30年4月 平成31年4月 平成12年4月 平成15年4月 平成18年4月 平成21年4月 平成24年4月 平成25年4月 平成26年4月 平成27年4月 平成28年4月 平成29年4月 平成30年4月 平成31年4月
居宅
(介護予防)サービス
97万人 201万人 255万人 278万人 328万人 348万人 366万人 382万人 390万人 381万人 366万人 378万人 618億円 1,825億円 2,144億円 2,655億円 3,240億円 3,538億円 3,736億円 3,795億円 3,626億円 3,670億円 3,651億円 3,811億円
地域密着型
(介護予防)サービス
- - 14万人 23万人 31万人 34万人 37万人 39万人 72万人 81万人 84万人 87万人 - - 283億円 445億円 625億円 696億円 760億円 801億円 1,120億円 1,181億円 1,245億円 1,299億円
施設サービス 52万人 72万人 79万人 83万人 86万人 89万人 89万人 90万人 92万人 93万人 93万人 95万人 1,571億円 2,140億円 1,985億円 2,141億円 2,242億円 2,296億円 2,327億円 2,325億円 2,336億円 2,379億円 2,436億円 2,484億円
合計 149万人 274万人 348万人 384万人 445万人 471万人 493万人 512万人 523万人 554万人 543万人 559万人 2,190億円 3,965億円 4,411億円 5,241億円 6,107億円 6,530億円 6,823億円 6,921億円 7,082億円 7,230億円 7,332億円 7,594億円
資料:厚生労働省「介護保険事業状況報告」
(注)端数処理の関係で、合計の数字と内訳数が一致しない場合がある。地域密着型(介護予防)サービスは、平成17年の介護保険制度改正に伴って創設された。

介護保険制度が定着し、サービス利用の大幅な伸びに伴い、介護費用が急速に増大している。このような介護保険制度の状況等を踏まえ、高齢者が住み慣れた地域で生活し続けることを可能とするために医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが包括的に確保される地域包括ケアシステムを深化・推進するため、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第52号、以下「地域包括ケア強化法」という。)が平成29年6月に成立した。

具体的には、①全市町村が保険者機能を発揮し、自立支援・重度化防止等に向けて取り組む仕組みの制度化、②医療・介護の連携を推進するための市町村の取組に対する都道府県による支援、③さらに、地域共生社会の実現に向けた市町村の取組の推進、④介護保険制度の持続可能性の確保等を盛り込んだ。

令和元年度においても、介護保険制度に関するリーフレットの作成・周知を行った。

(3)介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)

ア 必要な介護サービスの確保

地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、令和元年度においても訪問介護と訪問看護が密接に連携した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の機能をあわせ持つ「看護小規模多機能型居宅介護」等の地域密着型サービスの充実、サービス付き高齢者向け住宅等の高齢者の住まいや要介護高齢者の長期療養・生活施設として平成30年度に創設した「介護医療院」の整備、特定施設入居者生活介護事業所(有料老人ホーム等)を適切に運用するための支援を進めた。

また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の自治体に「地域ケア会議」の普及・定着を図った。

「地域ケア会議」は、地域における高齢者支援の中核機関である地域包括支援センター等において、医療、介護の専門家等多職種が協働して個別事例の支援方針を検討し、この取組を積み重ねることにより地域の共通課題の抽出を進めている。市町村では、地域包括支援センターから提供された地域課題等に基づき、課題の解決や地域包括ケアの基盤整備に向けた資源開発・政策形成等を進めている。国においては、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行った。

あわせて、介護人材の確保のため、介護に関する入門的研修受講者等に対する職場体験や、介護施設、介護事業所への出前研修の実施に対する支援等を地域医療介護総合確保基金に新たに位置付け、平成30年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援した。さらに、介護福祉士修学資金貸付事業や再就職準備金貸付事業等により、新規参入の促進や離職した介護人材の呼び戻し対策に取り組んだほか、職場体験の実施等の取組を行った。また、介護職の魅力や社会的評価の向上を図り、介護分野への参入を促進するため、介護を知るための体験型イベントの開催等多様な人材の確保等に向けた取組を行った。これまでに実施してきた処遇改善に加えて、令和元年10月より「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)に基づき、経験・技能のある職員に重点化した介護職員の更なる処遇改善を行った。なお、介護福祉士修学資金等貸付事業については、令和元年度補正予算において、貸付原資等の積み増しを行った。

また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」に基づき、従前から実施してきた介護福祉機器を導入した事業主や、賃金制度の整備等を行った事業主への助成措置や、介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、事業所の雇用管理改善に係る好事例把握やコンサルティングを実施した。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練の充実を図るとともに、全国の主要なハローワークに設置する「人材確保対策コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人者への助言・指導等を実施することに加え、「人材確保対策コーナー」を設置していないハローワークにおいても、福祉分野等の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」の利用勧奨等の支援を実施した。さらに、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報をもとに、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着支援、職業相談、職業紹介等を推進した。

また、在宅・施設を問わず必要となる基本的な介護の知識・技術を修得する「介護職員初任者研修」を各都道府県において実施した。

「11月11日」の「介護の日」に合わせ、都道府県・市区町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施した(図2-2-8)。

図2-2-8 介護の日ポスター

さらに、医療・介護従事者不足や医師の診療科偏在・地域偏在の課題等の解決のための取組として、地域医療支援センターの拡充(平成28年度までに全ての都道府県に設置)、チーム医療の推進等を行った。医学部入学定員については、平成20年度から臨時的に定員増を行っており、令和3年度まで、その期限を延長している。また、病床に応じた医療資源の投入を行い、効率的・効果的な質の高い医療サービスを安定的に提供できる体制の構築に向けた取組を進めている。

また、地域包括ケアの推進等により住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるような体制整備を目指して、引き続き在宅医療・介護の連携推進等、制度、報酬及び予算面から包括的に取組を行っている。

イ 介護サービスの質の向上

介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施した。また、地域包括支援センターにおいて、介護支援専門員に対する助言・支援や関係機関との連絡調整等を行い、地域のケアマネジメント機能の向上を図った。

また、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、自治体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進め、高齢者虐待の未然防止や早期発見に向けた取組を推進した。

平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和元年度においては、引き続き各都道府県と連携のもと、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図った。

高齢化が進展し要介護・要支援認定者が増加する中、介護者(家族)の不安の軽減やケアマネージャー等介護従事者の負担軽減を図る必要があることから、平成31年1月より、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請を可能とする「介護ワンストップサービス」を開始した。

ウ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供

持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。

このため、平成26年6月に施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第83号、以下「医療介護総合確保推進法」という。)に基づき各都道府県に創設された消費税増収分を財源とする地域医療介護総合確保基金を活用し、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のための地域の取組に対して支援を行った。また、医療介護総合確保推進法の下で、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、平成27年度以降、「介護保険法」(平成9年法律第123号)の地域支援事業に位置づけ、市区町村が主体となって郡市区医師会等と連携しながら取り組むこととされ、平成30年4月には全ての市区町村で実施することとされた。令和元年度においても、在宅医療・介護連携推進事業の取組推進を担う自治体職員等を育成するための研修事業等を実施した。

エ 介護と仕事の両立支援
(ア)育児・介護休業法の円滑な施行

介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)について、都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において制度内容が定着し、法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導を行った。

また、介護休暇(介護を必要とする家族1人につき年5日(2人以上の場合は年10日)取得可能)をより柔軟に利用できるよう、介護休暇の時間単位での取得を可能とすること等を内容とする法令の改正(令和元年12月公布、令和3年1月1日施行)を行い、リーフレット等により改正内容の周知を図った。

(イ)仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備

育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、「女性の活躍・両立支援総合サイト(両立支援のひろば)」を通じて、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)に基づく一般事業主行動計画の策定等を促進するとともに、企業の環境整備の参考になるよう、仕事と介護の両立に関する好事例集を収集・公表した。

また、中高年を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、全国各地での企業向けセミナーの開催や介護プランナーによる個別支援を通じて、事業主が従業員の仕事と介護の両立を支援する際の具体的取組方法・支援メニューである「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、介護に直面した労働者の介護休業の取得及び職場復帰等を円滑に行うためのツールである「介護支援プラン」の普及促進に取り組んだ。

そして、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主や、その他の仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を導入した中小企業事業主に対し助成することを通じて、企業の積極的な取組の促進を図った。

(4)持続可能な高齢者医療制度の運営

市町村が中心となって高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施を推進するための体制の整備等に関する規定を盛り込んだ医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案が、第198回国会において可決・成立し、公布された。

令和元年5月からは、令和2年4月からの高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の円滑な施行に向けて、広域連合、市町村等の関係機関による連携体制及び事業内容に関する具体的なプログラム検討のために学識経験者、自治体等の実務者による検討班を設置し、その検討内容を反映した「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」を令和元年10月に公表した。

また、後期高齢者の保険料均等割の軽減特例措置について、本則の7割軽減に上乗せして行っている軽減部分の見直しについて、「低所得者に対する介護保険料軽減の拡充や年金生活者支援給付金の支給とあわせて実施する」(「今後の社会保障改革の実施について」(平成28年12月22日社会保障制度改革推進本部決定))とされていたこと等を踏まえ、更なる高齢化が進展する中、世代間の負担の公平を図る観点等から、低所得者に対する介護保険料軽減の拡充や年金生活者支援給付金の支給が開始されることと合わせて、令和元年度から段階的な見直しを行っている。

(5)認知症施策の推進

政府全体で認知症施策を更に強力に推進するため、平成30年12月、認知症施策推進関係閣僚会議が設置された。認知症に関する有識者からの意見聴取に加え、認知症の人や家族等の関係者からの意見聴取等や関係省庁における協議を行いながら議論を深め、令和元年6月、同関係閣僚会議において、「認知症施策推進大綱」がとりまとめられた。

認知症施策推進大綱では、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪とした施策を推進していくことを基本的な考え方としている。なお、認知症施策推進大綱上の「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」、「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味である。

こうした基本的な考え方のもと、施策の強化を図りつつ、平成27年1月に策定した「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」(以下「新オレンジプラン」という。)における取組を再編し、①普及啓発・本人発信支援、②予防、③医療・ケア・介護サービス・介護者への支援、④認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援、⑤研究開発・産業促進・国際展開、の5つの柱に沿って施策を推進していくこととしている。

具体的には、新オレンジプランで推進してきた施策に加え、チームオレンジ(認知症サポーターの更なる活動の場の推進)やピアサポート活動(本人発信支援)といった新規・拡充施策が盛り込まれた。対象期間は令和7年までとなり、施策ごとにKPI/目標を設定している。

(6)人生の最終段階における医療の在り方

人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要であり、国民全体への一層の普及・啓発が必要である。

そのため、人生の最終段階における医療体制整備事業として、平成29年度に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づき、全国の主要都市で医療従事者等に向けて、研修を行った。

また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組(愛称:人生会議)の普及・啓発を図るため、人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の国民向け普及啓発事業として、国民向けイベントを開催した。

(7)住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進

(ア)地域の支え合いによる生活支援の推進

年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、自治体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「地域における生活困窮者支援等のための共助の基盤づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図った。

また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施した。

住民に身近な圏域で、地域住民等が主体的に地域生活課題を把握し解決を試みることができる体制や、地域生活課題を包括的に受け止める体制の整備等を支援する事業を実施した。

そして、地域における共生社会の実現に向けた課題(高齢者、障害者及び青少年の3分野)について、内外の実務者の派遣・招へいを通じて解決の担い手を育成することを目的に、地域課題対応人材育成事業「地域コアリーダープログラム」を実施した。このうち高齢者関連分野については、令和元年度は、11月に日本青年9名(団長含む)をオランダへ派遣し、11~12月にオランダ、イタリア及びフィンランドの青年リーダー9名を日本に招へいした。

(イ)地域福祉計画の策定の支援

福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉サービスの適切な利用の推進や福祉事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行った。

(ウ)地域における高齢者の安心な暮らしの実現

令和元年度においても、地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図った。医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組の推進や、情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会の構築を進めた。

また、高齢者が地域での生活を継続していくためには、多様な生活支援や社会参加の場の提供が求められている。そのため、市町村が実施する地域支援事業を推進するとともに、各市町村が効果的かつ計画的に生活支援・介護予防サービスの基盤整備を行うことができるよう、市町村に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)を配置し、その取組を推進した。

高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行等、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境の整備を行った。

(8)新型コロナウイルス感染症への対応

(ア)新型コロナウイルス感染症の拡大

令和元年12月に中国で初めて感染者が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、その後短期間に全世界へ拡大した。

日本でも、令和2年1月に国内で初めての感染者が確認されて以降、感染者数が増加した。同感染症は、高齢者や基礎疾患を有する者で重症化するリスクが高いとされている。

(イ)政府の新型コロナウイルス感染症対策

政府は、令和2年1月30日、内閣総理大臣を本部長とする新型コロナウイルス感染症対策本部を設置し、同本部において同年2月13日、当面緊急に措置すべき対応策として「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」を決定した。

同対応策では、①帰国者等への支援、②国内感染対策の強化、③水際対策の強化、④影響を受ける産業等への緊急対応、⑤国際連携の強化等を主な内容としている。

また、同年2月25日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を同本部で決定し、①国民・企業・地域等に対する情報提供、②国内での感染状況の把握、③感染拡大防止策、④医療提供体制、⑤水際対策等についての重要事項を定めた。

さらに、同年3月10日、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第2弾-」を決定し、国内の感染拡大を防止するとともに現下の諸課題に対応するため、①感染拡大防止策と医療提供体制の整備、②学校の臨時休業に伴って生じる諸課題への対応、③事業活動の縮小や雇用への対応、④事態の変化に即応した緊急措置等を行うこととした。

3月18日には、同本部で「生活不安に対応するための緊急措置」を決定し、公共料金の支払や税・社会保険料の納付の猶予措置等を講ずることとした。

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