第3章 令和2年度高齢社会対策(第2節 2)
第2節 分野別の高齢社会対策(2)
2 健康・福祉
(1)健康づくりの総合的推進
ア 生涯にわたる健康づくりの推進
平成25年4月に開始した健康日本21(第二次)に基づき、企業、関係団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施していく。
さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が健康増進法に基づき実施している健康教育、健康診査、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図る。
また、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等、中長期的な各般の取組を引き続き進めていく。
いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進する。
「第3次食育推進基本計画」(平成28年3月食育推進会議決定)に基づき、家庭、学校・保育所、地域等における食育の推進、食育推進運動の全国展開、生産者と消費者の交流促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化、食文化の継承のための活動への支援、食品の安全性の情報提供等を実施する。
フレイル対策にも資する「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の活用に当たっては、フレイル予防の普及啓発ツールを用いた地方公共団体の取組事例を収集する。
また、平成29年3月に策定した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、引き続き事業者及び地方公共団体向けの参考事例集を拡充するほか、ガイドラインを踏まえた適切な配食の提供及び栄養管理を行う配食事業者に対して、管理栄養士等の専門職が継続的に参画できる体制を構築する事業をモデル的に構築し、そのシステムの検証を行う。
令和2年度から使用する「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高齢者のフレイル予防も視野に入れて検討されていることから、食事摂取基準を活用したフレイル予防について普及啓発や医療・介護関係者向けの研修を実施する。
高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、引き続きリハビリテーション専門スタッフを配置する。
また、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」を推進する。
イ 介護予防の推進
要介護状態等になることを予防し、要介護状態等になった場合でもできるだけ地域において自立した日常生活を営むことができるよう市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進する。
平成27年度から開始された「介護予防・日常生活支援総合事業」は、多様な生活支援の充実、高齢者の社会参加と地域における支え合い体制づくり、介護予防の推進等を図るものであり、引き続き地域包括ケアシステムの構築に向け、市町村の取組を支援していく。
(2)持続可能な介護保険制度の運営
介護保険制度が定着し、サービス利用の大幅な伸びに伴い、介護費用が急速に増大している。このような介護保険制度の状況等を踏まえ、平成29年6月に成立した「地域包括ケア強化法」(平成29年法律第52号)において、地域包括ケアシステムを深化・推進するための取組が盛り込まれており、着実な施行が図られるよう、引き続き市町村の取組等を推進する。
具体的には、①全市町村が保険者機能を発揮し、自立支援・重度化防止等に向けて取り組む仕組みの制度化、②医療・介護の連携を推進するための市町村の取組に対する都道府県による支援、③地域共生社会の実現に向けた市町村の取組の推進、④介護保険制度の持続可能性の確保等を進める。
(3)介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)
ア 必要な介護サービスの確保
地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、訪問介護と訪問看護が密接に連携した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の機能をあわせ持つ「看護小規模多機能型居宅介護」等の地域密着型サービスの充実、サービス付き高齢者向け住宅等の高齢者の住まいや要介護高齢者の長期療養・生活施設として平成30年度に創設した「介護医療院」の整備、特定施設入居者生活介護事業所(有料老人ホーム等)を適切に運用するための支援を進める。
また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の自治体に「地域ケア会議」の普及・定着を図る。
「地域ケア会議」は、地域における高齢者支援の中核機関である地域包括支援センター等において、医療、介護の専門家等多職種が協働して個別事例の支援方針を検討し、この取組を積み重ねることにより地域の共通課題を抽出していく。市町村では、地域包括支援センターから提供された地域課題等に基づき、課題の解決や地域包括ケアの基盤整備に向けた資源開発・政策形成等を行う。国においては、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行う。
あわせて、介護人材の確保のため、介護分野への元気高齢者等の参入促進セミナーの実施、介護職員に対する悩み相談窓口の設置等への支援等を地域医療介護総合確保基金に新たに位置付け、令和元年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」、「労働環境の改善」、「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援する。さらに、介護福祉士修学資金等貸付事業のさらなる活用促進等に取り組む。加えて、介護職の魅力や社会的評価の向上を図り、介護分野への参入を促進するため、介護を知るための体験型イベントの開催等、多様な人材の確保等に向けた取組を推進する。これまでに実施してきた処遇改善に加えて、令和元年10月からの「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)に基づく経験・技能のある職員に重点化した介護職員の更なる処遇改善も引き続き行う。
また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」(平成27年5月厚生労働省告示)に基づき、従前から実施してきた介護福祉機器を導入した事業主や、賃金制度の整備等を行った事業主への助成措置や、介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、介護事業所の雇用管理改善に係る好事例把握やコンサルティング等を行う事業を引き続き実施する。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練の充実を引き続き図るとともに、全国の主要なハローワークに福祉分野等のマッチング支援を行う「人材確保対策コーナー」を設置し、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人者への助言・指導等の取組の強化を図る。また、「人材確保対策コーナー」を設置していないハローワークにおいても、福祉分野等の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」への利用勧奨等の支援を実施していく。さらに、令和元年度に引き続き、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報をもとに、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者間双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着促進、職業相談、職業紹介等を推進する。
また、介護の業務に従事する際に、在宅・施設を問わず必要となる基本的な知識・技術を修得する介護職員初任者研修を引き続き各都道府県において実施する。
令和元年度に引き続き、「11月11日」の「介護の日」に合わせ、都道府県・市区町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施する。
医療・介護従事者不足や医師の診療科偏在・地域偏在の課題等の解決のための取組として、令和2年度も引き続き、地域医療支援センターの取組支援、チーム医療の推進等を行っていく。医学部入学定員については、平成20年度から段階的に増員を行い、令和元年度には、9,420人となっている(平成19年度と比べ1,795人の増員)。病床に応じた医療資源の投入を行い、効率的・効果的な質の高い医療サービスを安定的に提供できる体制の構築に向けた取組を進める。
さらに、地域包括ケアの推進等により住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるような体制整備を目指して、引き続き在宅医療・介護の連携推進等、制度、報酬及び予算面から包括的に取組を行う。
イ 介護サービスの質の向上
介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施する。
また、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、自治体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進める等、高齢者虐待の防止に向けた取組を推進していく。
平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和2年度においては、引き続き各都道府県と連携の下、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図っていく。
引き続き、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請の可能な「介護ワンストップサービス」(平成31年1月より開始)を推進する。
ウ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供
持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。このため、平成26年度に創設した地域医療介護総合確保基金を活用し、引き続き、各都道府県が策定した事業計画に基づき、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のために必要な取組を実施していく。また、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、介護保険法の地域支援事業に位置づけ、市区町村が主体となって郡市区医師会等と連携しながら取り組むこととしている。令和2年度においては、在宅医療・介護連携に関する取組の推進・充実を図るために、事業の検証及び充実の検討等を行う。
エ 介護と仕事の両立支援
(ア)育児・介護休業法の円滑な施行
介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた育児・介護休業法(平成3年法律第76号)について、引き続き都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導等を行う。なお、介護休暇の取得単位を半日単位から時間単位にすること等を内容とする改正法令(令和3年1月1日施行)について、その円滑な施行が図られるよう、改正後の内容の周知を図る。
(イ)仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備
育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、「女性の活躍・両立支援総合サイト(両立支援のひろば)」を通じて、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)に基づく一般事業主行動計画の策定等を促進するとともに、企業の環境整備の参考になるよう、好事例を引き続き収集・公表する。
また、中高年を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、全国各地での企業向けセミナーの開催や仕事と家庭の両立支援プランナーによる個別支援を通じて、「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」及び「介護支援プラン」の普及促進を図り、労働者の仕事と介護の両立を支援し、継続就業を促進する。ケアマネジャーなど家族介護者を支援する者が仕事と介護の両立について学習できる「仕事と介護の両立に関する研修カリキュラム」の策定等を行う。
そして、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組む中小企業事業主や、その他の仕事と介護との両立に資する制度(介護両立支援制度)を労働者が利用した中小企業事業主を助成金により支援する。なお、令和2年度から、介護両立支援制度については、要件緩和を行うこととしている。
(4)持続可能な高齢者医療制度の運営
後期高齢者の保健事業について、高齢者の心身の多様な課題に対応し、きめ細かな支援を実施するため、広域連合のみならず、市民に身近な市町村が中心となって、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に後期高齢者の保健事業を実施する「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」が、令和2年4月に本格実施となる。
このため、広域連合から市町村へ高齢者保健事業を委託し、市町村において、一体的実施を推進するため、①事業全体のコーディネートや企画調整・分析、②高齢者に対する個別的支援や通いの場等への関与等を行うために医療専門職を配置する費用を国が特別調整交付金により支援する。
この医療専門職が高齢者一人ひとりの医療・介護等の情報を一括把握し、地域の健康課題の整理・分析を行った上で、多様な課題を抱える高齢者や、閉じこもりがちで健康状態の不明な高齢者を把握し、アウトリーチ支援等を通じて、必要な医療サービスに接続することが望まれる。また、通いの場に、保健医療の視点から積極的に関与し、健康教室や健康相談などの取組も実施することとしている。
また、後期高齢者の保険料均等割の軽減特例措置について、令和元年度から段階的な見直しを行っており、令和2年度においても引き続き見直しを行う。
(5)認知症施策の推進
認知症はだれもがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になること等を含め、多くの人にとって身近なものとなっている。認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望をもって日常生活を過ごせる社会を目指すため、令和元年6月にとりまとめられた「認知症施策推進大綱」には、①普及啓発・本人発信支援、②予防、③医療・ケア・介護サービス・介護者への支援、④認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援、⑤研究開発・産業促進・国際展開の5つの柱に沿った施策が盛り込まれているところである。
「認知症施策推進大綱」の対象期間は令和7年までとなっており、施策ごとに設けられたKPI/目標の達成に向けて、施策を推進していく。
(6)人生の最終段階における医療の在り方
人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要である。
そのため、人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業として、平成29年度に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づき、全国の主要都市で医療従事者等に向けて、研修を行っていく。
また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組(愛称:人生会議)の普及・啓発を図るため、今後、国民に対しさらに普及・啓発していく。
(7)住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進
(ア)地域の支え合いによる生活支援の推進
年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、自治体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「地域における生活困窮者支援等のための共助の基盤づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図る。
また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施する。
住民に身近な圏域で、地域住民等が主体的に地域生活課題を把握し解決を試みることができる体制や、地域生活課題を包括的に受け止める体制の整備等を支援する事業を実施する。
地域における共生社会の実現に向けた課題(高齢者、障害者及び青少年の3分野)について、内外の実務者の派遣・招へいを通じて解決の担い手を育成することを目的に、地域課題対応人材育成事業「地域コアリーダープログラム」を実施する。このうち高齢者関連分野については、令和2年度は、日本青年9名(団長含む)をオランダへ派遣するとともに、オランダ、ニュージーランド及びデンマークの青年リーダー9名を日本に招へいする。
(イ)地域福祉計画の策定の支援
福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉の各分野における共通して取り組むべき事項や福祉サービスの適切な利用の推進、社会福祉を目的とする事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進、要援護者に係る情報の把握・共有・安否確認等の方法等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行う。
(ウ)地域における高齢者の安心な暮らしの実現
地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図っていく。そのため、医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組や、情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築していく。
新たなシニア向けサービスの需要の創造、高齢者の起業や雇用の促進、高齢者が有する技術・知識等の次世代への継承等の好循環を可能とする環境を整備していく。