第3章 令和2年度高齢社会対策(第2節 5)

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第2節 分野別の高齢社会対策(5)

5 研究開発・国際社会への貢献等

(1)先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化

公的保険外の予防・健康管理サービスの振興に向け、ヘルスケアサービスを社会に実装していく取組を需要側・供給側の両面から一体的に進めていく。具体的には需要面においては企業等の健康投資・健康経営を促すため、資本市場が健康経営を適切に評価するために必要な環境整備について検討するとともに、健康経営顕彰制度を通じた中小企業への健康経営の普及促進の拡大等を図っていく。供給面においては、品質評価の向上に向けた業界自主ガイドライン等の策定支援や、「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」の活動促進等の推進を図る。また、令和元年7月に開設した「Healthcare Innovation Hub」というワンストップ窓口を通じて、ヘルスケア分野のベンチャー企業や革新的な事業のネットワーキングを支援していく。

健康立国に向けて、認知症、虚弱(フレイル)等の健康課題や生活環境等に起因・関連する課題に対し、「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)で提唱したSociety 5.0の構築を目指した、最先端科学技術の活用、実装等を通して、これらの課題の解決に向け引き続き取り組む。

具体的には、高齢者等が安全で快適に移動できるよう、最先端の情報通信技術等を用いて、運転者に周辺の交通状況や信号灯火に関する情報等を提供することで注意を促し、ゆとりをもった運転ができる環境を作り出す信号情報活用運転支援システム(TSPS)やETC2.0等のITS(高度道路交通システム)のサービス展開を実施する。

高齢者事故対策や移動支援等の諸課題の解決に関して、「国土交通省自動運転戦略本部」の下、高齢者事故防止を目的とした安全運転支援機能の普及啓発及び導入促進や、中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実験・実装を推進する。

また、自動車の自動運転の実用化に向けて、路側インフラやクラウド等を活用した信号情報や合流支援情報の提供等のITSに関する研究開発を実施する。

平成30年4月に策定された「自動運転に係る制度整備大綱」では、無人自動運転移動サービスについては、当面は、遠隔型自動運転システムを使用した現在の実証実験の枠組みを事業化の際にも利用可能とすることとされているところ、引き続き、公道実証実験の安全な推進を支援する。また、自動運転車のために縁石等により構造的に分離された専用空間、道路に敷設する電磁誘導線など、自動運転に対応した道路空間の基準等を整備する。

さらに、介護事業所におけるICT化を全国的に普及促進するため、介護事業所間の情報連携に関して、今後求められる情報の内容やセキュリティ等のあり方を検討する等、ICTの標準仕様の作成に向けた取組を実施する。

加えて、介護ロボットについては、開発企業と介護現場の協議を通じ着想段階から現場ニーズの開発内容への反映、試作機へのアドバイス、開発された機器を用いた効果的な介護技術の構築等、各段階で必要な支援を行う。併せて、①ニーズ側・シーズ側の一元的な相談窓口の設置、②開発実証のアドバイス等を行うリビングラボのネットワークの構築、③介護現場における大規模実証フィールドの整備により、介護ロボットの開発実証・普及のプラットフォームを構築し、介護ロボット等の開発・普及の加速化を図る。

(2)研究開発等の推進と基盤整備

ア 高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等

高齢者の健康保持等に向けた取組を一層推進するため、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)、要介護状態になる要因の一つである認知症等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を行う。

高齢者の主要な死因であるがんの対策は、「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」の3つを柱とした第3期の「がん対策推進基本計画」(平成30年3月9日閣議決定)に基づき、がんゲノム医療の実現や希少がん、難治性がん対策の充実、がん患者の就労支援の推進等、総合的ながん対策を進めている。がん研究については、平成30年度に中間評価を行った「がん研究10か年戦略」(平成26年3月策定)に基づき、がん対策推進基本計画に明記されている政策課題の解決に向けた政策提言に資することを目的とした調査研究等に加えて、革新的な診断法や治療法を創出するため、低侵襲性診断技術や早期診断技術の開発、新たな免疫療法に係る研究等について、戦略的に研究開発を推進する。また、QOLの観点を含めた高齢のがん患者に適した治療法等を確立する研究を進める。

さらに、次世代のがん医療の実用化に向けて、がんの生物学的な本態解明に迫る研究、がんゲノム情報等患者の臨床データに基づいた研究及びこれらの融合研究を推進する。

イ 医療・リハビリ・介護関連機器等に関する研究開発

高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。

福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、短期間で開発可能な福祉用具・医療機器の民間による開発の支援等を行う。

「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(平成5年法律第38号)に基づき、福祉用具の実用化開発を行う事業者に対する助成や、研究開発及び普及のために必要な情報の収集・分析及び提供を実施する。

さらに、開発の前段階から介護現場のニーズの伝達、試作機器について介護現場での実証(モニター調査)等を行い、福祉用具・介護ロボットの実用化を支援する。

日本が強みを持つロボット技術や診断技術等を活用して、低侵襲の治療装置や早期に疾患を発見する診断装置等、世界最先端の革新的な医療機器・システムの開発・実用化を推進する。また、関係各省や関連機関、企業、地域支援機関が連携し、開発初期段階から事業化に至るまで、切れ目なく支援する「医療機器開発支援ネットワーク」を通じて、異業種参入も念頭に、ものづくり中小企業と医療機関等との医工連携により、医療現場が抱える課題を解決する医療機器の開発・事業化を推進する。さらに、日本で生み出された基礎研究の成果等を活用し、高齢者に特徴的な疾病等の治療や検査用の医療機器、在宅でも操作しやすい医療機器の研究開発・実用化を推進する。こうした事業を国立研究開発法人日本医療研究開発機構を通じて実施する。

ウ 情報通信の活用等に関する研究開発

高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、引き続き、高齢者等向けの通信・放送サービスに関する技術の研究開発を行う者に対する助成等を行う。

エ 医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進

認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の発症について、IoT機器を活用し、AIで事前に予測し介護者に通知するシステムの開発といった医療等分野における先導的なICT利活用の研究開発を実施する。

オ 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析
(ア)高齢社会対策総合調査・研究等

高齢社会対策総合調査として、高齢社会対策の施策分野別にテーマを設定し、高齢者の意識やその変化を把握している。令和2年度は、高齢者の生活と意識に関する国際比較調査を実施する。

また、国立研究開発法人科学技術振興機構が実施する戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)において、少子高齢化を始めとする人口・社会構造の変化を踏まえた高齢者の安全・安心な生活の実現のための地域連携モデルの開発等、研究者と関与者との協働による社会実験を含む研究開発を推進する。

カ データ等活用のための環境整備

急速な人口構造の変化等に伴う諸課題に対応するため、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和元年6月閣議決定)に基づき、官民データの利活用を推進する。

「統計等データの提供等の判断のためのガイドライン」(平成30年4月27日EBPM推進委員会決定)に基づき、各府省による統計等データの提供等が円滑に行われるようEBPM推進委員会において必要な調整を行うとともに、統計等データの提供等に関するユーザーからの要望・提案募集及び受領した要望・提案への対応を引き続き実施する等、ユーザー視点に立った統計システムの再構築と利活用の促進を図る。

(3)諸外国との知見や課題の共有

ア 日本の知見の国際社会への展開

我が国は、G7、G20、TICAD、国連総会等の国際的な議論の場において、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進を積極的に主張してきた。UHCにおける基礎的な保健サービスには、母子保健、感染症対策、高齢者の地域包括ケアや介護等すべてのサービスが含まれている。今後も、開発途上国における高齢化対策や社会保障制度整備の支援、専門家の派遣、研修等の取組を通じて、日本の経験・技術・知見を活用した協力を引き続き行っていく。

アジア健康構想の進捗に伴い顕在化した新しいテーマや課題に対応するため、平成30年7月、「アジア健康構想に向けた基本方針」(平成28年7月29日健康・医療戦略推進本部決定)を改定した。これまで軸足を置いていたアジアの高齢化社会に必要な介護産業の振興、人材の育成等に加え、アジア諸国の互恵的な協力による、医療・介護を中心とした疾病の予防、健康な食事等のヘルスケアサービス、健康な生活のための街づくり等、アジアにおける裾野の広い「富士山型のヘルスケア」の実現を目指すため、アジア各国との「アジア健康構想に係る政府間覚書」の作成を通じ、事業ベースでの一層の協力に向けた環境整備の推進に引き続き取り組んでいく。さらに、今後、人口が増加するとともに、アジアとの関係がより強化されることが期待されるアフリカに関し、令和元年6月、健康・医療戦略推進本部において「アフリカ健康構想に向けた基本方針」を決定した。同基本方針においても、アジア健康構想と同様、裾野の広い「富士山型のヘルスケア」の実現を理念として掲げているところ、アフリカ固有の課題を念頭に置いた持続可能なヘルスケアの構築するため、引き続き具体的な検討及び取り組みを進めていく。

イ 国際社会での課題の共有及び連携強化

WHO主導によって2020年に開始されたDecade of Healthy Ageing (2020-2030)(健康的な高齢化に関する10カ年(2020-2030))は、全ての人がより長く、より健康に生きることができる世界を目指し、高齢者・家族・コミュニティに焦点を当て、ライフコースアプローチによって取り組むものである。各国政府のリーダーシップのもと、多分野、マルチステイクホルダーの関与、連携を進めることが期待される中、我が国はWHOやUNFPAなどの国際機関とも協働しながら、その知見を共有し、国際社会の連携強化を目指していく。

平成31年2月にはフィリピン保健省と、令和元年7月にはベトナム保健省と、令和元年8月にはウガンダ保健省、セネガル保健・社会活動省、タンザニア連合保健・村落開発・ジェンダー・高齢者・児童省、ガーナ保健省、ザンビア保健省との間でヘルスケア分野における協力覚書を交換し、各国とのそれぞれの覚書に基づきヘルスケア分野における協力の深化及び民間事業の振興を図ることを確認した。また、令和元年10月には、インド保健家族福祉省との間でヘルスケアと健康分野における協力覚書に基づく合同委員会を開催し、同覚書に基づく協力を行うモデルプロジェクト候補の考え方等を確認した。今後も左記国々とは覚書及び覚書に基づく合同委員会によって確認した事項を一層深化・推進していくこととし、またその他の国々とも、このようなアジア健康構想・アフリカ健康構想に基づく協力の推進に向けた取組を行っていく。

引き続き、国際会議等の二国間・多国間の枠組みを通じて、高齢化に関する日本の経験や知見及び課題を発信するとともに、高齢社会に伴う課題の解決に向けて諸外国と政策対話や取組を進めていく。

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