第2章 令和3年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 2)
第2節 分野別の施策の実施の状況(2)
2 健康・福祉
「健康・福祉」については、大綱において、次の方針を示している。
高齢期に健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、長寿を全うできるよう、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する。
今後の高齢化の進展等を踏まえ、地域包括ケアシステムの一層の推進を図るとともに、認知症を有する人が地域において自立した生活を継続できるよう支援体制の整備を更に推進する。また、家族の介護を行う現役世代にとっても働きやすい社会づくりのため、介護の受け皿整備や介護人材の処遇改善等の「介護離職ゼロ」に向けた取組を推進する。
高齢化の進展に伴い医療費・介護費の増加が見込まれる中、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供し、人口構造の変化に対応できる持続可能な医療・介護保険制度を構築する。また、人生の最終段階における医療について国民全体で議論を深める。
(1) 健康づくりの総合的推進
ア 生涯にわたる健康づくりの推進
健康寿命の延伸や生活の質の向上を実現し、健やかで活力ある社会を築くため、平成12年度から、生活習慣病の一次予防に重点を置いた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を開始した。その後平成25年度からは、国民健康づくり運動を推進するため、健康を支え、守るための社会環境の整備に関する具体的な目標も明記した「健康日本21(第二次)」を開始している。平成30年9月に中間評価報告書をまとめ、令和3年6月から最終評価の議論を開始した。
健康日本21(第二次)に基づき、企業、団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施していく。
さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が「健康増進法」(平成14年法律第103号)に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図った。
このほか、国民が生涯にわたり健全な食生活を営むことができるよう、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の発症及び重症化予防の観点から、「日本人の食事摂取基準」を策定し、5年ごとに改定している。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、我が国における更なる高齢化の進展を踏まえ、新たに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定を行った。この改定と合わせて、高齢者やその家族、行政関係者等が、フレイル予防に役立てることができる普及啓発ツール(パンフレットや動画)を作成、公表し、普及啓発ツールを用いた地方公共団体の取組事例を収集した。
また、平成29年3月に策定した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、適切な配食の提供及び栄養管理を行う事業をモデル的に実施した。
さらに、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防・健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等を実施した。
いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進した。
「第4次食育推進基本計画」(令和3年3月食育推進会議決定)に基づき、家庭、学校・保育所、地域等における食育の推進、食育推進運動の全国展開、生産者と消費者の交流促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化、食文化の継承のための活動への支援、食品の安全性の情報提供等を実施した。
また、配食事業の栄養管理に関するガイドラインを踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、事業者及び地方公共団体において、ガイドラインを踏まえて取り組んでいる先行事例を収集し、事業者及び地方公共団体向けの参考事例集を作成し、公表した。
高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、リハビリテーション専門スタッフを配置した。
加えて、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」の推進を図った。
国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等についてユニバーサルデザイン化、情報発信の充実等により、高齢者にも配慮した環境の整備を実施した。
イ 介護予防の推進
介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。平成27年度以降、通いの場の取組を中心とした一般介護予防事業等を推進しており、一部の地方公共団体では、その取組の成果が現れてきているとともに、介護予防に加え、地域づくりの推進という観点からも保険者等の期待の声も大きく、また、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の動向も踏まえ、その期待は更に大きくなっている。
令和元年12月に取りまとめられた「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の報告書を踏まえ、令和3年度から開始した第8期介護保険事業(支援)計画が円滑に実施されるよう、地方公共団体職員等に対する担当者会議や研修会等を実施するとともに、多様な通いの場の展開を図るため、令和3年8月に、通いの場の取組について先進的な事例等を参考に類型化して示した事例集「通いの場の類型化について(Ver.1.0)」を公表・周知し、市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進した。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、高齢者の外出自粛による閉じこもりや健康への影響が懸念されたことから、高齢者が居宅で健康に過ごすための情報や感染防止に配慮して通いの場の取組を実施するための留意事項等を紹介する特設ウェブサイトを活用した広報や、地方公共団体等の好事例の横展開、国立長寿医療研究センターで開発しているスマートフォン等用アプリを活用した居宅における健康づくりの支援等を実施した。
(2) 持続可能な介護保険制度の運営
介護保険制度については、平成12年4月に施行されてから20年以上を経過したところであるが、介護サービスの利用者数は制度創設時の3倍を超える等、高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として確実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる(表2-2-2)。
利用者数 | 介護給付費 | |||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成12年4月 | 平成15年4月 | 平成18年4月 | 平成21年4月 | 平成24年4月 | 平成27年4月 | 平成30年4月 | 平成31年4月 | 令和2年4月 | 令和3年4月 | 平成12年4月 | 平成15年4月 | 平成18年4月 | 平成21年4月 | 平成24年4月 | 平成27年4月 | 平成30年4月 | 平成31年4月 | 令和2年4月 | 令和3年4月 | |||||
居宅 (介護予防)サービス |
97万人 | 201万人 | 255万人 | 278万人 | 328万人 | 382万人 | 366万人 | 378万人 | 384万人 | 399万人 | 618億円 | 1,825億円 | 2,144億円 | 2,655億円 | 3,240億円 | 3,795億円 | 3,651億円 | 3,811億円 | 3,817億円 | 4,040億円 | ||||
地域密着型 (介護予防)サービス |
- | - | 14万人 | 23万人 | 31万人 | 39万人 | 84万人 | 87万人 | 84万人 | 87万人 | - | - | 283億円 | 445億円 | 625億円 | 801億円 | 1,245億円 | 1,299億円 | 1,325億円 | 1,369億円 | ||||
施設サービス | 52万人 | 72万人 | 79万人 | 83万人 | 86万人 | 90万人 | 93万人 | 95万人 | 95万人 | 95万人 | 1,571億円 | 2,140億円 | 1,985億円 | 2,141億円 | 2,242億円 | 2,325億円 | 2,436億円 | 2,484億円 | 2,598億円 | 2,598億円 | ||||
合計 | 149万人 | 274万人 | 348万人 | 384万人 | 445万人 | 512万人 | 543万人 | 559万人 | 564万人 | 581万人 | 2,190億円 | 3,965億円 | 4,411億円 | 5,241億円 | 6,107億円 | 6,921億円 | 7,332億円 | 7,594億円 | 7,741億円 | 8,007億円 | ||||
資料:厚生労働省「介護保険事業状況報告」(月報) | ||||||||||||||||||||||||
(注)端数処理の関係で、合計の数字と内訳数が一致しない場合がある。地域密着型(介護予防)サービスは、平成17年の介護保険制度改正に伴って創設された。 |
令和7年や令和22年を見据え、介護保険制度の不断の見直しを進める必要があり、社会保障審議会介護保険部会での議論等を踏まえ、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」を第201回通常国会に提出し、令和2年6月5日に成立した(令和2年法律第52号)。
この法律では、地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進、医療・介護のデータ基盤の整備の推進、介護人材及び業務効率化の取組の強化を盛り込んでおり、これらを踏まえ、保険者等において、第8期介護保険事業計画に基づく取組を進めるとともに地域共生社会の実現に向けた取組を進めている。
(3) 介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)
ア 必要な介護サービスの確保
地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、令和3年度においても地域密着型サービスの充実、サービス付き高齢者向け住宅等の高齢者の住まいや「介護医療院」の整備、特定施設入居者生活介護事業所(有料老人ホーム等)を適切に運用するための支援を進めた。
また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の地方公共団体に「地域ケア会議」の普及・定着を図るため、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行った。
あわせて、介護人材の確保のため、介護現場における多様な働き方導入モデル事業や介護分野就職支援金貸付事業、福祉系高校修学資金貸付事業等を地域医療介護総合確保基金に位置付け、令和2年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援した。さらに、介護福祉士修学資金等貸付事業や再就職準備金貸付事業等により、新規参入の促進や離職した介護人材の呼び戻し対策に取り組んだほか、職場体験の実施等の取組を行った。また、介護職の魅力や社会的評価の向上を図り、介護分野への参入を促進するため、介護を知るための体験型イベントの開催等多様な人材の確保等に向けた取組を行った。介護職員の処遇改善については、これまでに実施してきた処遇改善に加えて、令和元年10月から、経験・技能のある職員に重点化を図りつつ、介護職員の更なる処遇改善を実施している。また、令和3年度補正予算において、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、介護職員について、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置を令和4年2月から実施した。なお、介護福祉士修学資金等貸付事業については、令和3年度補正予算において、貸付原資等の積み増しを行った。
また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」に基づき、介護福祉機器の導入等を通じて労働者の離職率の低下に取り組んだ事業主への助成措置や介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、事業所の雇用管理改善に係る好事例把握やコンサルティングを実施した。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練について、民間教育訓練実施機関等を活用した職業訓練枠の拡充のため、職場見学・職場体験を組み込むことを要件とした訓練委託費等の上乗せを実施するとともに、全国の主要なハローワークに設置する「人材確保対策コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人充足に向けた助言・指導等を実施することに加え、「人材確保対策コーナー」を設置していないハローワークにおいても、医療・福祉分野の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」の利用勧奨等の支援を実施した。さらに、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報をもとに、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着支援、職業相談、職業紹介等を推進した。
また、在宅・施設を問わず必要となる基本的な介護の知識・技術を修得する「介護職員初任者研修」を各都道府県において実施した。
「11月11日」の「介護の日」に合わせ、都道府県・市町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施した。
また、地域包括ケアの推進等により住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるような体制整備を目指して、引き続き在宅医療・介護の連携推進等、制度、報酬及び予算面から包括的に取組を行っている。
イ 介護サービスの質の向上
介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施した。また、地域包括支援センターにおいて、介護支援専門員に対する助言・支援や関係機関との連絡調整等を行い、地域のケアマネジメント機能の向上を図った。
また、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、地方公共団体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進め、高齢者虐待の未然防止や早期発見に向けた取組を推進した。
平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和3年度においては、引き続き各都道府県と連携のもと、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図った。
高齢化が進展し要介護・要支援認定者が増加する中、介護者(家族)の不安の軽減やケアマネジャー等介護従事者の負担軽減を図る必要があることから、平成31年1月より、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請を可能とする「介護ワンストップサービス」を開始した。
令和2年度においては、マイナポータルぴったりサービスにオンライン申請における標準様式を登録しており、令和3年度においても引き続き地方公共団体への導入促進を図った。
ウ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供
持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。
このため、平成26年6月に施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第83号、以下「医療介護総合確保推進法」という。)に基づき各都道府県に創設された消費税増収分を財源とする地域医療介護総合確保基金を活用し、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のための地域の取組に対して支援を行った。また、医療介護総合確保推進法の下で、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、平成27年度以降、「介護保険法」(平成9年法律第123号)の地域支援事業に位置付け、市町村が主体となって地域の医師会等と連携しながら取り組むこととされた。平成30年度からは、全ての市町村で、地域の実情を踏まえつつ、医療・介護関係者の研修や地域住民への普及啓発等の取組が実施されている。また、令和2年10月には在宅医療・介護が円滑に切れ目なく提供される仕組みを構築できるよう、「介護保険法施行規則」(平成11年厚生省令第36号)の一部改正(令和3年4月1日施行)を行うとともに「在宅医療・介護連携推進事業の手引き(ver.3)」を公開した。
エ 介護と仕事の両立支援
(ア)育児・介護休業法の円滑な施行
介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)について、都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において制度内容が定着し、法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導を行った。
また、有期雇用労働者の介護休業取得要件の緩和等を内容とする法令の改正(令和3年6月公布、令和4年4月1日施行)を行い、改正内容の周知を図った。
(イ)仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備
育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、「女性の活躍・両立支援総合サイト(両立支援のひろば)」を通じて、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)に基づく一般事業主行動計画の策定等を促進するとともに、企業の環境整備の参考になるよう、仕事と介護の両立に関する好事例集を収集・公表した。
また、中高年を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、全国各地での企業向けセミナーの開催や仕事と家庭の両立支援プランナーによる個別支援を通じて、事業主が従業員の仕事と介護の両立を支援する際の具体的取組方法・支援メニューである「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、介護に直面した労働者の介護休業の取得及び職場復帰等を円滑に行うためのツールである「介護支援プラン」の普及促進に取り組んだ。加えて、ケアマネジャーなど家族介護者を支援する者が仕事と介護の両立について学習できる「仕事と介護の両立支援カリキュラム」を用いた研修の実施等により、当該カリキュラムの普及促進を図った。
そして、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主や、その他の仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を労働者が利用した中小企業事業主、新型コロナウイルス感染症への対応として家族を介護するための有給の休暇制度を設け、労働者が利用した中小企業事業主に対し助成金により支援することを通じて、企業の積極的な取組の促進を図った。
(4) 持続可能な高齢者医療制度の運営
全世代型社会保障制度の構築のため、令和3年の通常国会において、後期高齢者(現行で3割負担となっている現役並み所得者を除く。)のうち、課税所得28万円以上(所得上位30%)かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)の方について医療の窓口負担割合を2割とすることを内容とする改正法が成立した。また、施行に当たっては、2割負担への変更により影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増が、最大でも3,000円に収まるような配慮措置を実施することとされた。
後期高齢者の保健事業について、高齢者の心身の多様な課題に対応し、きめ細かな支援を実施するため、後期高齢者医療広域連合のみならず、市民に身近な市町村が中心となって、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に後期高齢者の保健事業を実施する「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」の法的な枠組みが、令和2年度から開始されている。
この取組を推進するため、後期高齢者医療広域連合から市町村へ高齢者保健事業を委託し、1. 事業全体のコーディネートや企画調整・分析等を行う医療専門職、2. 高齢者に対する個別的支援や通いの場等への関与等を行う医療専門職について配置する費用等を、国が後期高齢者医療調整交付金のうち特別調整交付金により支援した。加えて、後期高齢者医療広域連合や市町村の職員を対象とする保健事業実施に関する研修や市町村の取組状況の把握等を行う「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の全国的な横展開事業」等を通じて、取組の推進を支援した。
後期高齢者医療の保険料均等割の軽減特例措置(本則の7割軽減に上乗せして、9割又は8.5割を軽減)について、令和元年度から段階的な見直しを行い、令和3年度に本則(7割軽減)とした。
(5) 認知症施策の推進
令和元年6月、認知症施策推進関係閣僚会議において取りまとめられた「認知症施策推進大綱」を踏まえ、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪とした施策を推進していくことを基本的な考え方としている。なお、「認知症施策推進大綱」上の「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」、「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味である。
こうした基本的な考え方のもと、1普及啓発・本人発信支援、2予防、3医療・ケア・介護サービス・介護者への支援、4認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援、5研究開発・産業促進・国際展開、の5つの柱に沿って施策を推進していくこととしている。
具体的には、「共生」の取組として、認知症サポーターなどが支援チームを作り、見守りや外出支援などを行う仕組みである「チームオレンジ」の取組推進や、認知症の人ご本人による「希望大使」等の普及啓発活動などを進めるとともに、「予防」の取組として、高齢者が身近に参加できる「通いの場」の拡充や認知症に関する研究開発等を推進している。対象期間は令和7年までとなり、施策ごとにKPI/目標を設定しているが、令和2年及び3年において、施策ごとの進捗確認を行い、実施状況を首相官邸ホームページに掲載した。
また、「認知症施策推進大綱」等を踏まえ、令和2年の介護保険法の改正において、地域社会における認知症施策の総合的な推進に向けて、地域における認知症の人への支援体制の整備等、国及び地方公共団体の努力義務等を規定したほか、他府省庁所管の分野を含めた総合的な取組を進めていく必要があることから、市町村介護保険事業計画の記載事項として、教育等の他分野との連携など認知症施策の総合的な推進に関する事項が追加された。
(6) 人生の最終段階における医療の在り方
人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要であり、国民全体への一層の普及・啓発が必要である。
そのため、人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業として、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づき、医療従事者等に向けて、研修を行った。
また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組(人生会議)の普及・啓発を図るため、人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の国民向け普及啓発事業として、国民向けに映像配信を行った。
(7) 住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進
ア 地域の支え合いによる生活支援の推進
年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、地方公共団体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「地域における生活困窮者支援等のための共助の基盤づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図った。
また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施した。
市町村において、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を整備するため、対象者の属性を問わない相談支援、多様な参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業の推進を図った。
イ 地域福祉計画の策定の支援
福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉サービスの適切な利用の推進や福祉事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行った。
ウ 地域における高齢者の安心な暮らしの実現
令和3年度においても、地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図った。医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組の推進や、情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会の構築を進めた。
また、高齢者が地域での生活を継続していくためには、多様な生活支援や社会参加の場の提供が求められている。そのため、市町村が実施する地域支援事業を推進するとともに、各市町村が効果的かつ計画的に生活支援・介護予防サービスの基盤整備を行うことができるよう、市町村に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)を配置するとともに、令和2年度からは、就労的活動をコーディネートする人材の配置を可能とするなど、その取組を推進した。
高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行等、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境の整備を行った。
(8) 新型コロナウイルス感染症への対応
これまでの感染対策においては、基本的な感染対策を推進することに加え、専門家の分析等で感染リスクが高いとされた飲食の場面を極力回避するため、飲食店の時短営業及び酒類提供の停止の措置を講じてきた。同時に、人流や人との接触機会を削減する観点から、外出・移動の自粛、イベント及び大規模集客施設への時短要請等の取組を進めてきた。また、検査・サーベイランスの強化、積極的疫学調査等によるクラスター対策、水際対策を含む変異株対策等の取組を実施してきた。
特に、令和3年3月下旬以降は、より感染力の強い変異株の出現による急速な感染拡大に対し、令和3年2月3日に成立した「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第5号)による改正後の法で創設されたまん延防止等重点措置区域における機動的な対策、ゴールデンウィーク期間中のイベントの無観客開催、大規模集客施設の休業等の集中的な対策を始め、緊急事態宣言等の下で、全国的に度重なる強い措置を講じてきた。また、強い感染力を持つ変異株が出現し、それまでの飲食への対策、人流抑制の取組のほか、再度の感染拡大の予兆や感染源を早期に探知するため、検査を大幅に強化するとともに、高齢者施設等における感染対策を強化する観点から、軽症であっても症状が現れた場合に、早期に陽性者を発見することができるよう、抗原定性検査キットの配布を行ってきた。加えて、緊急事態措置区域等に指定された都道府県等に対し、高齢者施設等の従事者等に対する検査の集中的実施計画を策定し、定期的な検査を実施することを要請してきた。さらに、令和4年1月以降のオミクロン株の発生と感染拡大を受け、学校、保育所、高齢者施設等におけるオミクロン株の特徴を踏まえた感染防止策の強化を行った。
令和3年11月に閣議決定した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」に基づく補正予算により、新型コロナウイルス対応の病床確保等を支援することを決定したほか、介護サービス事業所・施設等に対しては、感染者等が生じた場合において、必要なサービスを継続して提供できるよう、通常の介護サービスの提供時では想定されない、職員の確保に関する費用や消毒費用などのかかり増し経費等に対して支援を行うとともに、緊急時の応援派遣に係る体制整備を構築する取組について補助を行った。さらに、令和3年度介護報酬改定において、全ての介護サービス事業者に対し、一定の経過措置期間を設け、BCP(業務継続計画)の策定やシミュレーションの実施を運営基準で義務付けた。