第1章 高齢化の状況(第3節)

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第3節 〈特集〉高齢者の住宅と生活環境をめぐる動向について

我が国の高齢化率は29.1%(令和5年10月1日現在)となっており、今後更に上昇する見込みとなっている中で、安心して高齢期の生活を送るためには、生活の基盤となる住まいの確保や、良好な生活環境の整備が重要である。

一方で、今後、単身高齢者の増加が見込まれるなど、住まいの確保に困難を抱える高齢者の増加も懸念されている。また、コロナ禍も踏まえたライフスタイルの変化や、地方における過疎化の進行、自然災害の激甚化・頻発化等、高齢期の暮らしを取り巻く環境は大きく変化している。

そこで、本節においては、内閣府が令和5年度に実施した以下2調査を基に、高齢者の住宅と生活環境に関する状況や意識、及び、高齢期における住み替えに関する意識について分析を行い、今後求められる施策の方向性を含め、必要な対応について考察を行った。

○住宅や居住地域の満足度と幸福感の程度は相関が大きい

居住している住宅や地域の満足度と幸福感の程度には、強い正の相関関係があり、良好な住宅・生活環境の整備が重要。

図3-1 住宅・地域の満足度と幸福感の程度

○現在の住宅について、老朽化や防災・防犯面での不安等を問題に感じている人が多い

現在の住宅の問題点について、老朽化や防災・防犯面での不安等を挙げた人の割合が特に高い。持家の場合は賃貸住宅の場合と比べ、住宅が広すぎることや部屋数が多すぎること、防災・防犯面での不安を挙げた人の割合が特に高い。賃貸住宅の場合は持家の場合と比べ、家賃等の経済的負担の重さや、台所・浴室等の住宅設備の使いにくさを挙げた人の割合が特に高い。住宅のリフォーム支援や高齢者向け住宅の供給促進等、高齢者の生活上のニーズと住宅のミスマッチの解消が課題となっている。

図3-2 現在の住宅の問題点(全体)
図3-3 現在の住宅の問題点(持家/賃貸住宅の別)

○地震などの災害に備えている人の割合の上昇とひとり暮らし高齢者への配慮

前回調査(平成30年度)と比べて、避難場所の事前決定やハザードマップ等の防災情報の入手等を始め、備えをしている人の割合は大きく上昇した。

一方で、ひとり暮らしの高齢者については、それ以外の高齢者と比べ、「特に何もしていない」と回答した人の割合が高く、また多くの項目において対策している人の割合が低い。家具の転倒防止対策等の高齢者一人での作業が困難な対策へのサポートや災害時の避難支援を始め、今後更なる増加が見込まれるひとり暮らしの高齢者に配慮した対策の推進が重要。

図3-4 地震などの災害への備え(前回調査との比較)
図3-5 地震などの災害への備え(ひとり暮らしとそれ以外の比較)

○人付き合いの変化とそれを踏まえた孤独・孤立対策等の推進

前回調査(平成30年度)と比べて、親しい友人・仲間がたくさん又は普通にいるという人の割合は大幅に低下した。また、毎日人と話をするという人の割合も大幅な低下がみられ、ひとり暮らしの人についてはその傾向が顕著となっている。

コロナ禍による影響等も踏まえつつ、望まない孤独・孤立に陥らないようにするための対策の推進が必要であるとともに、今後更にひとり暮らしの高齢者の増加が見込まれる中で、従来家族等が担ってきた日常生活等における様々なサポート等について、地域や社会においてどのように担っていくかについても更なる検討が必要である。

図3-6 親しくしている友人・仲間がいるか(前回調査との比較)
図3-7 人と話をする頻度(前回調査との比較)
図3-8 人と話をする頻度(ひとり暮らしとそれ以外の比較)

○生活環境について、医療・介護へのアクセスや、移動等の利便性を重視する人の割合が高い

地域の生活環境について重視することとしては、医療・介護へのアクセスや、移動や買い物の利便性を挙げる人の割合が高く、特に女性は男性に比べて、住宅が高齢者向けに設計されていることや、親しい友人や知人が近くに住んでいることを挙げる人の割合が特に高い。

他方で、それらに不便を感じている人の割合も高く、地域で医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの構築や、地域での日常生活における移動ニーズに対応する施策の更なる充実を図っていく必要がある。

図3-9 住まいや地域の環境について重視すること(性別)
図3-10 現在居住している地域における不便や気になること(全体)

○60歳以上の約3割が住み替えの意向を持っている

60歳以上で住み替えの意向がある人(状況次第で将来的に検討したいという人も含む。)の割合は全体の約3割に上る。

図3-11 住み替えの意向の有無(全体)

○健康・体力面での不安や住宅の住みづらさ等が、住み替えを考える契機となっている

住み替えの意向を持つようになった理由について、健康・体力面での不安や現在の住宅の住みづらさ、買い物や交通の不便を挙げる人の割合が高い。

図3-12 住み替えの意向を持つようになった理由(全体)

○住み替えに向けたサポートとしては、費用面での支援や物件・支援制度等の情報提供に関する支援のニーズが大きい

住み替えに向けた望ましいサポートとしては、住み替え費用の支援、物件や支援制度の情報提供に関する支援、住宅の確保に関する支援等を挙げた人の割合が高く、地域の実情に応じて、転居費用の補助や、住み替えに係る相談窓口の整備、高齢者向けの住宅の供給等の施策の更なる充実が求められる。一方で、例えば、75歳以上の人は見守りや買い物等の身の回りの生活支援のニーズが大きい、持家に居住している人は現住居の処分に関する支援のニーズが大きいなど、属性によって状況やニーズは様々であり、きめ細やかな支援の充実が必要。

図3-13 住み替えに向けた望ましいサポート(全体)
表3-14 住み替えに向けた望ましいサポート(年代別)
住み替えにかかる費用の支援 情報の提供支援(住み替え先の物件や支援制度の情報提供等) 住宅の確保に関する支援(住宅への優先入居等) 住み替え先での仕事・活動の紹介 住居を賃貸する場合等における身元保証・家賃保証等 住居の処分に関する支援(賃貸・売却等) 見守り、買い物など身の回りの生活支援 地域活動等の場の充実 その他
60~64歳
(総ポイント数:1,069)
28817015511810092864218
65~69歳
(総ポイント数:847)
22512612179829689209
70~74歳
(総ポイント数:932)
22619012030731221163619
75歳以上
(総ポイント数:1,432)
31227518542661982457534
資料:内閣府「高齢社会に関する意識調査」(令和5年度)
(注1)住み替えの意向を持っている人のうち、いずれかのサポートを選択した人の回答を掲載。
(注2)上位3つまでの回答を点数化(点数化の方法は、図3-13を参照)。
表3-15 住み替えに向けた望ましいサポート(持家/賃貸住宅の別)
住み替えにかかる費用の支援 情報の提供支援(住み替え先の物件や支援制度の情報提供等) 住居の処分に関する支援(賃貸・売却等) 見守り、買い物など身の回りの生活支援 住宅の確保に関する支援(住宅への優先入居等) 住み替え先での仕事・活動の紹介 住居を賃貸する場合等における身元保証・家賃保証等 地域活動等の場の充実 その他
持家
(総ポイント数:3,112)
72358047043040816515513249
賃貸住宅
(総ポイント数:1,103)
31816430100168961623827
資料:内閣府「高齢社会に関する意識調査」(令和5年度)
(注1)住み替えの意向を持っている人のうち、いずれかのサポートを選択した人の回答を掲載。
(注2)上位3つまでの回答を点数化(点数化の方法は、図3-13を参照)。

<トピックス>

(事例1)福岡県大牟田市~住宅施策と福祉施策のコラボによる課題解決~

福岡県大牟田市では大牟田市居住支援協議会を設立し、空き家所有者に対し、住まい探しや空き家活用の相談対応を行うことに加えて、身よりのない高齢者については連帯保証人や身元保証人等の確保といった支援を居住支援法人であるNPO法人大牟田ライフサポートセンターが行うことにより、入居の支援と入居後の支援が可能となる体制を構築し、住まいの確保と暮らしの支援を行っている。この取組により、それまでは入居が難しかった人も入居が可能となったほか、居住支援法人の支援があることで空き家所有者や不動産事業者の不安も軽減され、円滑なマッチングにつながっている。

(事例2)奈良県生駒市~官民連携で取り組むオーダーメイドの空き家対策~

奈良県生駒市では、空き家の流通促進のため、市と民間団体が連携して対応する「いこま空き家流通促進プラットホーム」を設立した。市は空き家所有者との調整を行い、毎月開催する空き家流通促進検討会議に空き家情報を提供し、検討会議では、専門家が空き家一つ一つの物件について流通阻害要因を特定し、それに応じた対応方針を提案し支援している。支援の内容はマッチングだけでなく、場合によっては除却や防災面での改善に向けたものなど幅広い。プラットホームの設立以降、取扱件数及び成約率は順調に増加し、空き家の数も減少している。

(事例3)愛知県春日井市~自動運転ラストマイル送迎サービス~

愛知県春日井市では運転免許返納後などの移動手段の確保が問題となっており、これらの課題を地域で解決するために、NPO法人が主体となって行政、大学、民間などが連携をし、運行ルート上であれば停留所に関係なくどこでも乗降することができるドアツードアのオンデマンド型自動運転送迎サービスを行っている。サービスの利用者からは多くの感謝の声が寄せられており、また、本サービスによって利用者と運転手、利用者間のコミュニケーションが生まれ、利用者の些細な変化に運転手が気づき、それを地域包括支援センターなどの福祉サービスにつなぐといったハブ的な役割も果たしている。

(事例4)神奈川県横須賀市~市民の尊厳を守りたい、2つの終活支援~

神奈川県横須賀市では、死後対応について本人の意思が反映されないという課題に着目し、あらかじめ終活情報を市に登録することで、本人に万一のことがあった場合でも市が本人に代わって病院、警察、消防、福祉事務所や本人が指定した者からの問い合わせに対応できる事業を実施している。市民であれば誰でも無料で登録でき、登録できる内容も緊急連絡先のほか葬儀等生前の契約先、リビングウィル、墓の所在地など多岐にわたる。また、頼れる親族のいない人(所得等の制限あり)については、生前に葬儀会社と死後事務委任契約を結び、本人の死後は市がその履行を確認する事業も別に実施することで、本人の意思の実現について効果を発揮している。

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