第2章 令和5年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 2)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(2)

2 健康・福祉

「健康・福祉」については、大綱において、次の方針を示している。

高齢期に健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、長寿を全うできるよう、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する。

今後の高齢化の進展等を踏まえ、地域包括ケアシステムの一層の推進を図るとともに、認知症を有する人が地域において自立した生活を継続できるよう支援体制の整備を更に推進する。また、家族の介護を行う現役世代にとっても働きやすい社会づくりのため、介護の受け皿整備や介護人材の処遇改善等の「介護離職ゼロ」に向けた取組を推進する。

高齢化の進展に伴い医療費・介護費の増加が見込まれる中、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供し、人口構造の変化に対応できる持続可能な医療・介護保険制度を構築する。また、人生の最終段階における医療について国民全体で議論を深める。

(1) 健康づくりの総合的推進

ア 生涯にわたる健康づくりの推進

健康寿命の延伸や生活の質の向上を実現し、健やかで活力ある社会を築くため、平成12年度から、生活習慣病の一次予防に重点を置いた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を開始した。平成25年度からは、更に国民健康づくり運動を推進するため、社会環境の整備に関する具体的な目標も明記した「21世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21)」(以下「健康日本21(第二次)」という。)を開始した。健康日本21(第二次)の最終評価の結果等も踏まえ、令和6年度から開始する「21世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21)」(以下「健康日本21(第三次)」という。)を推進するため、令和5年5月31日に「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(令和5年厚生労働省告示第207号)を告示した。

平成25年4月に開始した健康日本21(第二次)に基づき、企業、団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施した。

さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が「健康増進法」(平成14年法律第103号)に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図った。

このほか、国民が生涯にわたり健全な食生活を営むことができるよう、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の発症及び重症化予防の観点から、「日本人の食事摂取基準」を策定し、5年ごとに改定している。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、我が国における更なる高齢化の進展を踏まえ、新たに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定を行った。この改定と併せて、高齢者やその家族、行政関係者等が、フレイル予防に役立てることができる普及啓発ツール(パンフレットや動画)を作成、公表し、普及啓発ツールを用いた地方公共団体の取組事例を収集した。

また、「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」(平成29年3月策定)を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、適切な配食の提供及び栄養管理を行う事業をモデル的に実施した。

さらに、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防・健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等を実施した。

いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進した。

食育の観点からは、「第4次食育推進基本計画」(令和3年3月31日食育推進会議決定)に基づき、多世代交流等の共食の場の提供や栄養バランスに優れた日本型食生活の実践に向けたセミナーの開催等の食育活動への支援、スマイルケア食の普及促進など、家庭や地域等における食育の推進を図った。

加えて、高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、リハビリテーション専門スタッフを配置した。

そのほか、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」の推進を図った。

国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等についてユニバーサルデザイン化や、利用者の利便性を高めるための情報発信の充実等を推進し、高齢者にも配慮した自然とのふれあいの場を提供した。

イ 介護予防の推進

介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。平成27年度以降、通いの場の取組を中心とした一般介護予防事業等を推進しており、一部の地方公共団体では、その取組の成果が現れてきているとともに、介護予防に加え、地域づくりの推進という観点からも保険者等の期待の声も大きく、また、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の動向も踏まえ、その期待は更に大きくなっている。

令和元年12月に取りまとめられた「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の報告書を踏まえ、第8期介護保険事業(支援)計画の実施及び第9期介護保険事業(支援)計画の策定が円滑に進められるよう、地方公共団体職員等に対する担当者会議や研修会等を実施するとともに、多様な通いの場の展開を図るため、令和3年8月に、通いの場の取組について先進的な事例等を参考に類型化して示した事例集「通いの場の類型化について(Ver.1.0)」を公表・周知し、市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進した。

さらに、特設ウェブサイトを活用した広報や地方公共団体等の好事例の横展開、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターで開発したスマートフォン等用アプリを活用した健康づくりの支援等を実施した。

(2) 持続可能な介護保険制度の運営

介護保険制度については、平成12年4月に施行されてから20年以上を経過したところであるが、介護サービスの利用者数は制度創設時の4倍を超える等、高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として確実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる(表2-2-2)。

表2-2-2 介護サービス利用者と介護給付費の推移
利用者数
平成12年4月 平成21年4月 平成26年4月 平成29年4月 令和2年4月 令和3年4月 令和4年4月 令和5年4月
居宅(介護予防)サービス97万人278万人366万人381万人384万人399万人408万人417万人
地域密着型(介護予防)サービス23万人37万人81万人84万人87万人89万人91万人
施設サービス52万人83万人89万人93万人95万人95万人96万人95万人
合計149万人384万人493万人554万人564万人581万人593万人603万人

介護給付費
平成12年4月 平成21年4月 平成26年4月 平成29年4月 令和2年
4月
令和3年
4月
令和4年
4月
令和5年
4月
居宅(介護予防)サービス618億円2,655億円3,736億円3,670億円3,817億円4,040億円4,155億円4,267億円
地域密着型(介護予防)サービス445億円760億円1,181億円1,325億円1,369億円1,410億円1,438億円
施設サービス1,571億円2,141億円2,327億円2,379億円2,598億円2,598億円2,624億円2,650億円
合計2,190億円5,241億円6,823億円7,230億円7,741億円8,007億円8,189億円8,355億円
資料:厚生労働省「介護保険事業状況報告」
(注)端数処理の関係で、合計の数字と内訳数が一致しない場合がある。
地域密着型(介護予防)サービスは、平成17年の介護保険制度改正に伴って創設された。

令和22年に向けて、高齢化が一層進展し、85歳以上人口の急増や生産年齢人口の急減等が見込まれている中、高齢者ができるだけ住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、「地域包括ケアシステム」を深化・推進すること、介護人材の確保や介護現場の生産性が向上するよう取組を推進することが重要であることから、これらの内容を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」を第211回通常国会に提出し、令和5年5月に成立した(令和5年法律第31号)。

(3) 介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)

ア 必要な介護サービスの確保

地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、令和5年度においても地域医療介護総合確保基金等を活用し、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。

また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の地方公共団体に「地域ケア会議」の普及・定着を図るため、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行った。

あわせて、介護人材の確保のため、介護助手等の普及を通じた介護現場での多様な就労の促進等を地域医療介護総合確保基金に位置付け、令和4年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援した。さらに、介護福祉士修学資金等貸付事業の更なる活用促進等に取り組んだ。加えて、介護職の魅力及び社会的評価の向上や、他業種で働いていた方等が介護・障害福祉分野における介護職に就職する際の支援を行い、更なる介護分野への参入促進に向けた取組を行った。介護職員の処遇改善については、これまでに実施してきた処遇改善に加えて、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に基づき、介護職員を対象に、収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げるための措置を、令和6年2月から実施した。なお、介護福祉士修学資金等貸付事業については、令和5年度補正予算において、貸付原資の積み増しを行った。

また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」(令和3年厚生労働省告示第117号)に基づき、事業所の雇用管理の改善のためのコンサルティング等の実施や介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、事業所の雇用管理改善に係る好事例の公開や助成金の周知を実施した。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練について、民間教育訓練実施機関等を活用した職業訓練枠の拡充のため、職場見学・職場体験を組み込むことを要件とした訓練委託費等の上乗せを実施するとともに、全国の主要な公共職業安定所に設置する「人材確保対策コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人充足に向けた助言・指導等を実施することに加え、「人材確保対策コーナー」を設置していない公共職業安定所においても、医療・福祉分野の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」の利用勧奨等の支援を実施した。さらに、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報を基に、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着支援、職業相談、職業紹介等を推進した。

また、在宅・施設を問わず必要となる基本的な介護の知識・技術を修得する「介護職員初任者研修」を各都道府県において実施した。

また、現場で働く介護職員の職場環境の改善につなげるため、優良事業者の表彰を通じた好事例の普及促進を図る観点から、「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣及び厚生労働大臣表彰」を創設し、令和5年度より実施した。

「11月11日」の「介護の日」に合わせ、都道府県・市町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施した。

また、地域包括ケアの推進等により住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるような体制整備を目指して、引き続き在宅医療・介護の連携推進等、制度、報酬及び予算面から包括的に取組を行っている。

イ 介護サービスの質の向上

介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」という。)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施した。また、地域包括支援センターにおいて、ケアマネジャーに対する助言・支援や関係機関との連絡調整等を行い、地域のケアマネジメント機能の向上を図った。

また、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、地方公共団体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進め、高齢者虐待の未然防止や早期発見に向けた取組を推進した。

平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和5年度においては、引き続き各都道府県と連携の下、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図った。

高齢化が進展し要介護・要支援認定者が増加する中、介護者(家族)の不安の軽減やケアマネジャー等介護従事者の負担軽減を図る必要があることから、平成31年1月より、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請を可能とする「介護ワンストップサービス」を開始した。

令和2年度に、マイナポータルぴったりサービスにオンライン申請における標準様式を登録しており、令和5年度においても引き続き地方公共団体への導入促進を図った。なお、介護保険システム標準仕様書を策定したことを契機として、標準様式の見直しを行った。

ウ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供

持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。

このため、平成26年6月に施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第83号。以下「医療介護総合確保推進法」という。)に基づき各都道府県に創設された消費税増収分を財源とする地域医療介護総合確保基金を活用し、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のための地域の取組に対して支援を行った。また、医療介護総合確保推進法の下で、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、平成27年度以降、「介護保険法」(平成9年法律第123号)の地域支援事業に位置付け、市町村が主体となって地域の医師会等と連携しながら取り組むこととされた。平成30年度からは、全ての市町村で、地域の実情を踏まえつつ、医療・介護関係者の研修や地域住民への普及啓発等の取組が実施されている。また、令和2年10月には在宅医療・介護が円滑に切れ目なく提供される仕組みを構築できるよう、「介護保険法施行規則」(平成11年厚生省令第36号)の一部改正(令和3年4月施行)を行うとともに「在宅医療・介護連携推進事業の手引き(ver.3)」(令和2年9月策定)を公開した。

また、第8次医療計画等に関する検討会における議論を踏まえて、令和6年度からの第8次医療計画においては、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」及び「在宅医療に必要な連携を担う拠点」を医療計画に位置づけ、適切な在宅医療の圏域を設定する等、今後見込まれる在宅医療の需要の増加に向け、地域の実情に応じた在宅医療の体制整備を進めることとした。

エ 介護と仕事の両立支援
(ア)育児・介護休業法の円滑な施行

介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)について、都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導等を行った。

また、介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の周知の強化等を内容とする「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案」を第213回国会(令和6年)に提出した。

(イ)仕事と介護を両立しやすい職場環境整備

中高年齢者を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、仕事と介護の両立支援制度について周知を行うとともに、全国各地での企業向けセミナーの開催や仕事と家庭の両立支援プランナーによる個別支援を通じて、事業主が従業員の仕事と介護の両立を支援する際の具体的取組方法・支援メニューである「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、介護に直面した労働者の介護休業の取得及び職場復帰等を円滑に行うためのツールである「介護支援プラン」の普及促進に取り組んだ。

また、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主や、その他の仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を労働者が利用した中小企業事業主、新型コロナウイルス感染症への対応として家族を介護するための有給の休暇制度を設け、労働者が利用した中小企業事業主に対し助成金により支援することを通じて、企業の積極的な取組の促進を図った。

(4) 持続可能な高齢者医療制度の運営

全世代型社会保障制度の構築のため、第204回通常国会において、後期高齢者(3割負担である現役並み所得者を除く。)のうち、課税所得28万円以上かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、年収合計が320万円以上)の方について窓口負担割合を2割とする改正法が成立し、令和4年10月から施行された。また、2割負担への変更による影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増が、最大でも3,000円に収まるような配慮措置を実施している。

さらに、令和7年までに全ての団塊の世代が後期高齢者となる中、現役世代の負担上昇の抑制を図り、負担能力に応じて、増加する医療費を全ての世代で公平に支え合う観点から、第211回通常国会において、後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じとなるよう後期高齢者の保険料負担割合を見直すこと、その際、低所得の方々の負担増が生じないようにする等の激変緩和措置を講じること等を内容とする改正法が成立した。

後期高齢者の保健事業について、高齢者の心身の多様な課題に対応し、きめ細かな支援を実施するため、後期高齢者医療広域連合のみならず、市民に身近な市町村が中心となって、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に後期高齢者の保健事業を実施する「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」の法的な枠組みが、令和2年度から開始されている。

この取組を推進するため、後期高齢者医療広域連合から市町村へ高齢者保健事業を委託し、①事業全体のコーディネートや企画調整・分析等を行う医療専門職、②高齢者に対する個別的支援や通いの場等への関与等を行う医療専門職について配置する費用等を、国が後期高齢者医療調整交付金のうち特別調整交付金により支援した。加えて、後期高齢者医療広域連合や市町村の職員を対象とする保健事業実施に関する研修や市町村の取組状況の把握等を行う「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の全国的な横展開事業」等を通じて、取組の推進を支援した。

(5) 認知症施策の推進

ア 認知症施策推進大綱の基本的な考え方

「認知症施策推進大綱」(令和元年6月認知症施策推進関係閣僚会議決定)では、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪とした施策を推進していくことを基本的な考え方としている。なお、ここでいう「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」、「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味である。

イ 「認知症施策推進大綱」の5つの柱

こうした基本的な考え方の下、「認知症施策推進大綱」は5つの柱に沿って施策を推進することとされており、令和5年度もこれらの施策等について取組を推進した。

  • ① 普及啓発・本人発信支援

    認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域などで認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする人である「認知症サポーター」の養成や、認知症の人ご本人が務める「希望大使」による普及啓発活動等。

  • ② 予防

    高齢者等が身近に通うことができる「通いの場」の拡充等。

  • ③ 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援

    複数の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメントした上で家族支援などの初期の支援を包括的・集中的に行い、自立生活のサポートを行う「認知症初期集中支援チーム」の整備や、家族等の負担軽減を図るため、認知症の人とその家族などが集まる「認知症カフェ」の設置促進等。

  • ④ 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援

    認知症サポーターなどが認知症の人の支援チームを作り、見守りや外出支援などを行う仕組みである「チームオレンジ」の取組推進や、行政のみならず経済団体や医療・福祉団体等により設置された「日本認知症官民協議会」による、買い物、金融手続きなどの局面での認知症の人への接遇方法に関する「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」の作成・普及等。

  • ⑤ 研究開発・産業促進・国際展開

    認知症の予防、診断、治療、ケア等を進めるためにも、認知症の危険因子と認知症発症の関連解明など、様々な病態やステージを対象にした研究開発の推進等。

ウ 共生社会の実現を推進するための認知症基本法について

認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができること、認知症の人を含めた全ての国民がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(以下「共生社会」という。)の実現を推進することを目的とする「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(令和5年法律第65号。以下「認知症基本法」という。)が令和5年6月に成立し、令和6年1月に施行された。

また、認知症基本法の施行に先立ち、令和5年9月からは「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」を内閣総理大臣主宰のもと開催し、同年末には認知症の人やその家族、有識者等からなる構成員の意見のとりまとめを行い、認知症と共に希望をもって生きるという「新しい認知症観」の理解促進を認知症の人の発信等を通じて進めることや、認知症の人やその家族の参画の下で施策を進めること等の重要性が示された。

認知症基本法の施行後、政府においては、認知症基本法に基づき、内閣総理大臣を本部長に、全閣僚が本部員となる「認知症施策推進本部」を立ち上げるとともに、認知症の人やその家族、保健医療福祉従事者等から構成される「認知症施策推進関係者会議」を開催し、「認知症施策推進基本計画」の策定に向け検討を開始した。

(6) 人生の最終段階における医療・ケアの在り方

人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要であり、国民全体への一層の普及・啓発が必要である。

そのため、人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業として、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)に基づき、医療従事者等に向けて、研修を行った。

また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組(人生会議)の普及・啓発を図るため、人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の国民向け普及啓発事業として、国民向けにシンポジウム開催等を行った。

(7) 住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進

ア 地域の支え合いによる生活支援の推進

年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、地方公共団体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「生活困窮者支援等のための地域づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図った。

また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施した。

市町村において、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を整備するため、対象者の属性を問わない相談支援、多様な参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業の推進を図った。

イ 地域福祉計画の策定の支援

福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉サービスの適切な利用の推進や福祉事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行った。

ウ 地域における高齢者の安心な暮らしの実現

令和5年度においても、地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図った。医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組の推進や、ICTの活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会の構築を進めた。

また、高齢者が地域での生活を継続していくためには、多様な生活支援や社会参加の場の提供が求められている。そのため、市町村が実施する地域支援事業を推進するとともに、各市町村が効果的かつ計画的に生活支援・介護予防サービスの基盤整備を行うことができるよう、市町村に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)を配置するとともに、就労的活動をコーディネートする人材の配置を可能とするなど、その取組を推進した。

高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行等、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境の整備を行った。

(8) 新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルス感染症については、令和5年1月に決定した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について」(令和5年1月27日新型コロナウイルス感染症対策本部決定。以下「本部決定」という。)を踏まえ、同年2月には、「マスク着用の考え方の見直し等について」(同年2月10日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を決定した。この中で、マスクの着用は個人の判断に委ねることを基本とするとともに、感染防止対策としてマスクの着用が効果的である場面などを示した。

さらに、本部決定に基づき、令和5年5月8日以降は、「5類感染症」に位置付けを変更し、それまでの法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の皆様の自主的な取組を基本とする対応に転換した。

また、介護サービス事業所・施設等に対しては、感染者等が生じた場合において、必要なサービスを継続して提供できるよう、通常の介護サービスの提供時では想定されない、職員の確保に関する費用や消毒費用などのかかり増し経費等に対して支援を行うとともに、緊急時の応援派遣に係る体制整備を構築する取組について補助を行った。さらに、令和3年度介護報酬改定において、全ての介護サービス事業者に対し、一定の経過措置期間を設け、BCP(業務継続計画)の策定やシミュレーションの実施を運営基準で義務付けた。

このように、新型コロナウイルス感染症への対応を進めた一方で、中長期的な観点からの課題の整理等を行うため立ち上げた「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」での取りまとめを踏まえ、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」(令和4年9月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を決定し、政府の司令塔機能を強化し、次の感染症危機に迅速・的確に対応できる体制を整えるため「内閣感染症危機管理統括庁」を令和5年度中に内閣官房に設置する方針が決定され、新型インフルエンザ等対策特別措置法及び内閣法の一部を改正する法律案を第211回通常国会に提出した。同法案は、令和5年4月21日に成立し、同年9月1日、内閣官房に「内閣感染症危機管理統括庁」が設置された。

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