第3章 令和6年度高齢社会対策(第2節 1)

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第2節 分野別の高齢社会対策(1)

1 就業・所得

(1) エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備

ア 多様な形態による就業機会・勤務形態の確保
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

働く意欲がある高年齢者へ多様な働き方を提供するために、70歳までの就業確保を事業主の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月に施行された。従来の定年引上げや継続雇用制度の導入等に加えて、雇用以外で働く機会を提供する創業支援等措置を導入することで働き方の選択肢を増やし、今後も高齢者の就業促進をより一層図っていく。

地域における高年齢者の多様な雇用・就業機会の創出を図るため、地方公共団体を中心とした協議会が行う高年齢者の就労支援の取組と地域福祉・地方創生等の取組を一体的に実施する生涯現役地域づくり環境整備事業を実施し、先駆的なモデル地域の取組の普及を図る。

シルバー人材センター事業について、人手不足の悩みを抱える企業を一層強力に支えるため、シルバー人材センターによるサービス業等の人手不足分野や現役世代を支える分野での就業機会の開拓・マッチング等を推進するとともに、特に、介護分野の人材確保支援及び高年齢者の一層の活躍を促進し高年齢者の生きがいの充実、社会参加への促進等を図る。

また、高齢者を含め多様な人材の能力を最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーション創出等の成果につなげる「ダイバーシティ経営」の推進に向けた普及啓発の取組を行う。

さらに、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に向けて、引き続きパートタイム・有期雇用労働法違反が認められる企業に対しては是正指導を行い、法違反に当たらないものの、改善に向けた取組が望まれる企業に対しては、具体的な助言を行いつつ、支援ツール等を活用し、企業の制度等の見直しを検討するように促し、同法の着実な履行確保を図る。引き続き、労働基準監督署と都道府県労働局が連携し、同一労働同一賃金の更なる遵守の徹底に取り組む。

加えて、企業における非正規雇用労働者の待遇改善等を支援するため、平成30年度より47都道府県に設置している「働き方改革推進支援センター」において、労務管理等の専門家による無料の個別相談支援やセミナー等を引き続き実施するとともに、パートタイム・有期雇用労働者の均等・均衡待遇の確保に向けた職務分析・職務評価の取組支援を行う。

あわせて、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」制度の導入・定着を図るため、引き続き、「多様な正社員」制度導入支援セミナーや「多様な働き方の実現応援サイト」での好事例の周知、企業への社会保険労務士などによる導入支援等を実施する。

そのほか、副業・兼業については、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」等の周知を引き続き実施するとともに、公益財団法人産業雇用安定センターにおいて、副業・兼業を希望する中高年齢者のキャリア等の情報及びその能力の活用を希望する企業の情報を蓄積し、当該中高年齢者に対して企業情報を提供するモデル事業を実施することにより、副業・兼業への取組の拡大を図る。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の普及

テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものであることから、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係府省庁が連携して推進する。

具体的には、適正な労務管理下における良質なテレワークの導入・定着促進を図るため、引き続き、テレワークに関する労務管理とICTの双方についてワンストップで相談できる窓口での相談対応や、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定)の周知、中小企業事業主に対するテレワーク導入経費の助成、情報セキュリティに関するガイドラインの周知を行うとともに、事業主等を対象としたセミナー等の開催、中小企業を支援する団体と連携した全国的なテレワーク導入支援制度の構築、テレワークに先進的に取り組む企業等に対する表彰の実施、「テレワーク月間」等の広報を実施する。

また、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握を行う。

イ 高齢者等の再就職の支援・促進

「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては、公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、ジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。

公共職業安定所において、特に65歳以上の高年齢求職者を対象に、本人の状況に即した職業相談や職業紹介、求人開拓等の支援を行う生涯現役支援窓口を設置するとともに、当窓口において、高年齢求職者を対象とした職場見学、職場体験等を実施する。

また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用した事業主に対する助成措置(トライアル雇用助成金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施する。

さらに、再就職が困難である高年齢者等の円滑な労働移動を実現するため、早期再就職支援等助成金により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主や、高年齢者等を早期に雇い入れた事業主、受け入れて訓練(OJTを含む。)を行った事業主に対して、助成措置を実施し、能力開発支援を含めた労働移動の促進を図る。また、高齢者等の賃金を前職よりも5%以上上昇させた再就職に対して上乗せ助成を実施し、賃金上昇を伴う労働移動の支援を行う。あわせて、早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)により中途採用者の能力評価、賃金、処遇の制度を整備した上で、45歳以上の中高年齢者の中途採用率等を拡大させるとともに、当該45歳以上の中高年齢者の賃金を前職よりも5%以上上昇させた事業主に対して助成額を増額し、中高年齢者の賃金上昇を伴う労働移動の促進を図る。

また、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、その能力の活用を希望する事業者に対してこれを紹介する高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業を公益財団法人産業雇用安定センターにおいて実施し、高年齢者の就業促進を図る。

ウ 高齢期の起業の支援

日本政策金融公庫において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度により開業・創業の支援を行う。

エ 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保

高年齢者雇用安定法は、事業主に対して、高年齢者雇用確保措置を講ずる義務及び高年齢者就業確保措置を講ずる努力義務を定めており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するほか、高年齢者就業確保措置については、適切な措置の実施に向けた事業主への周知啓発を実施する。

また、令和3年4月から高年齢者就業確保措置が努力義務とされたことを踏まえ、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の70歳雇用推進プランナー等により、高年齢者就業確保措置に関する技術的事項についての相談・援助を行う。

労働施策総合推進法第9条に基づき、労働者の一人一人により均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行う。

また、企業における高年齢者の雇用を推進するため、65歳以上の年齢までの定年延長や66歳以上の年齢までの継続雇用制度の導入又は他社による継続雇用制度の導入を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の見直し又は導入等や高年齢の有期雇用労働者を無期雇用労働者に転換する事業主に対する支援を実施する。また、継続雇用延長・定年引上げに係る具体的な制度改善提案を実施し、企業への働きかけを行う。

加えて、日本政策金融公庫(中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては、当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続する。

高年齢労働者が安心して安全に働ける職場づくりや労働災害の防止のため、エイジフレンドリーガイドラインの周知及び労働災害防止団体による個別事業場支援の利用勧奨を行う。また、高年齢労働者の安全・健康確保の取組を行う中小企業等に対し、エイジフレンドリー補助金による支援を行うことで、高年齢労働者の安全衛生対策を推進する。

公務部門における高齢者雇用において、国家公務員については、60歳の定年を段階的に引き上げて65歳とすることとされたところであり、シニア職員の具体的な職務付与等について、引き続き、「国家公務員の定年引上げに向けた取組指針」(令和4年3月25日人事管理運営協議会決定)を踏まえた計画的な取組を進める。また、定年引上げに伴う経過措置として暫定再任用制度を適切に運用することにより、65歳までの雇用確保に引き続き努める。

地方公務員についても、国家公務員と同様に、60歳の定年を段階的に引き上げて65歳とすることとされたところであり、高齢期職員の具体的な職務付与、モチベーション維持のための取組、周囲の職員も含めた職場環境の整備等について、定年引上げの適切かつ円滑な運用に向けて、引き続き必要な助言等を行う。

オ 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

DXGX(グリーントランスフォーメーション)の加速化など、企業・労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化するとともに、労働者の職業人生の長期化も同時に進行する中で、労働者の学び・学び直しの必要性が高まっている。労働者がこうした変化に対応して、自らのスキルを向上させるためには、企業主導型の職業訓練の強化を図るとともに、労働者がその意義を認識しつつ、自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを行うことが必要であり、こうした取組に対する広く継続的な支援が重要となる。このため、職業訓練の実施や職業能力の「見える化」を推進するとともに、職業生涯を通じたキャリア形成・学び直しの支援に向けて、労働者のキャリアプラン再設計や企業内の取組を支援するキャリア形成・リスキリング推進事業を創設し、労働者等及び企業に対しキャリアコンサルティングを中心とした総合的な支援を引き続き実施する。

また、在職中も含めた学びの促進のため、教育訓練休暇制度の普及促進を図るとともに、教育訓練給付制度の活用により、労働者個人の自発的な能力開発・キャリア形成を引き続き支援する。

令和4年10月から施行された改正職業能力開発促進法により法定化された都道府県単位の協議会において、地域の実情やニーズに即した公的職業訓練の設定や実施、職業訓練効果の把握、検証等を引き続き実施する。

カ ゆとりある職業生活の実現等

労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るため、引き続き、労働時間等設定改善指針の周知・啓発や、企業における働き方・休み方の改善に向けた検討を行う際に活用できる「働き方・休み方改善ポータルサイト」による情報発信などにより労使の自主的な取組を支援するほか、年次有給休暇の取得促進や、勤務間インターバル制度の導入促進等を行う。

(2) 誰もが安心できる公的年金制度の構築

ア 働き方の多様化や高齢期の長期化・就労拡大に対応した年金制度の構築

今後、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる。こうした社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、国民年金法等の一部を改正する法律が順次施行されているところである。令和6年10月からは短時間労働者の被用者保険の適用が50人超規模の企業まで拡大されることも含め、その円滑な施行に向けた取組を引き続き進めていく。

また、国民年金法等の一部を改正する法律の検討規定等には、被用者保険の更なる適用拡大や公的年金制度の所得再分配機能の強化等が盛り込まれており、次期制度改正に向けて、社会保障審議会年金部会等において議論を行っているところである。令和6年夏頃に予定されている財政検証を踏まえ、さらなる議論を進めていく。

イ 年金制度等の分かりやすい情報提供

短時間労働者等への被用者保険の適用拡大の円滑な施行のために、制度改正の内容や適用拡大による被保険者のメリット等について、より積極的な周知・広報に努める。また、若い人たちが年金について考えるきっかけにするため「学生との年金対話集会」や、「年金動画・ポスターコンテスト」を開催する。さらに、個々人の就労履歴と将来の年金受取額の見通しを「見える化」する公的年金シミュレーターを運用する。

また、「ねんきん定期便」については、老後の生活設計を支援するため、国民年金法等の一部を改正する法律による年金の繰下げ受給の上限年齢の引上げを踏まえた年金額増額のイメージ等について、引き続き分かりやすい情報提供を行う。

(3) 資産形成等の支援

ア 資産形成等の促進のための環境整備

勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。

企業年金・個人年金制度に関して、「令和3年度税制改正の大綱」において決定されたDCの拠出限度額の引上げや算定方法の見直しについて、令和6年12月からの円滑な施行に向け、引き続き改正内容の周知・啓発に努める。また、「資産所得倍増プラン」等を踏まえ、iDeCoの加入可能年齢の70歳への引上げ、拠出限度額の引上げや各種手続の簡素化等について引き続き社会保障審議会企業年金・個人年金部会において議論を進める。退職金制度については、中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進のための施策を実施する。

NISA制度に関して、更なる普及・活用促進のための施策を実施する。

イ 資産の有効活用のための環境整備

住宅金融支援機構において、高齢者が住み替え等のための住生活関連資金を確保するために、リバースモーゲージ型住宅ローンの普及を促進する。

低所得の高齢者世帯が安定した生活を送れるようにするため、各都道府県社会福祉協議会において、一定の居住用不動産を担保として、世帯の自立に向けた相談支援に併せて必要な資金の貸付けを行う不動産担保型生活資金の貸与制度を実施する。

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