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交通事故被害者の支援 第1章 総論

II.交通事故をめぐる諸問題

1.交通事故とは何か

 「交通事故」とは、その名のとおり交通に関係する事故の総称であるから、自転車、バイク、自動車、鉄道、航空機、船舶などの交通手段に関係するすべての事故を指すことになる。この意味での交通事故には多種多様なものがあるが、われわれの日常生活に密接に関係し、被害者支援の観点から重要なのはいうまでもなく自動車による交通事故である。
 これらの自動車による交通事故によって、財産上の損害のみが発生する場合もあるが、生命や身体に被害が生じる場合も多い。以下これらを「人身事故」と呼ぶことにする。これらの人身事故の中には「事故」を装いながらも、実際には保険金などを得るために、自動車を用いて故意に人を殺したり、ケガをさせたりするものもある。この場合には当然、殺人や傷害の罪にあたる行為として捜査が行われることになる。
 また、自動車事故の背景として、酒気帯び・酒酔い運転、過労運転、無免許運転、最高速度違反、信号無視などの行為が関わっている場合もある。さらには人身事故を発生させた後、救助や報告をしないで逃げ去ることが伴う場合もある。これらの場合には道路交通法違反に関する事件として、捜査が行われる。
 これらの状況も、交通事故をめぐる問題の一つとして取り上げることもできようが、以下では説明を簡略にし、混乱を避けるために、自動車を運転中に注意を怠ったために人の死傷という被害が発生した場合、および酒気帯び運転または酒酔い運転に伴って発生した人身事故に限定して説明を進めることとする。

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2.人身事故の被害者数

 それでは、自動車による人身事故はどのくらいあるのだろうか。『警察白書』の定義では、「交通事故」とは「道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路上において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)」と定義し、「人身事故」のみについて記述している。
 以下、「交通事故」という場合は、特に注記がない限り「人身事故」を指すものとする(したがって、本章の以下の記述では「交通事故」と「人身事故」は、ほぼ同じものを指すことになる)。
 この交通事故の死者数(交通事故の発生から24時間以内に死亡した死者数)は、2003年では7,702人である。なお、交通事故の発生から30日以内に死亡した死者数は8,877人である。また、交通事故の負傷者数は118万1,431人に上る。
 このように人身事故の数は多いのであるから、社会全体では交通事故をめぐって多種多様な問題も発生していることが容易に想像される。


3.問題の種類およびそれに対応する支援の種類

 人身事故によって発生する問題は多種多様であるが、それらの問題を大きく四つに分けることができる。第一は刑事責任をめぐる問題、第二は民事責任をめぐる問題、第三は行政処分をめぐる問題、第四は被害者に対する支援をめぐる問題である。

(1) 刑事責任をめぐる問題
 まず、第一の「刑事責任」をめぐる問題であるが、人身事故は刑法第211条の業務上過失致死傷罪や第208条の2の危険運転致死傷罪として、刑事裁判で扱われることがある。なお、危険運転致死傷罪は後述する「過失犯」ではなく「故意犯」であるが、この危険運転致死傷罪をめぐる問題については後に詳しく論じる。
 2002年における交通関係の業務上過失致死傷の検挙人員は、87万2,006人となっている。この刑事事件の処理については、被害者側から「処分や量刑が軽すぎる」などの不満がかなり見られる。これは非常に難しい問題であるが、これへの対応は後に論じるように変化しつつある。

(2) 民事責任をめぐる問題
 第二の「民事責任」をめぐる問題については、人身事故の被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができることとなっている。この損害賠償に関しては、損害賠償責任保険の制度がある。この保険制度は、他の分野に比較すると整備されているが、依然としてこの問題に伴うさまざまな問題がある。
 この問題をどのように解決すべきか、損害賠償を求める被害者に対してどのような支援を行うべきかという課題がある。

(3) 行政処分をめぐる問題
 第三は「行政処分」をめぐる問題である。交通事故の加害者は道路交通法に基づき、免許の取り消しや停止といった行政処分を公安委員会から受けることがある。この行政処分をめぐってさまざまな問題が生じることとなる。行政処分の重さなどについて、被害者からの不満もしばしば見られる。しかし、行政処分は基本的には被害者との関わりが少ない部分であるので、以下では論じないこととする。
 なお、一定の行政処分に先立って行われる「意見の聴取」においては、「当該事案の関係人」に出頭を求め、意見を聞くことができるとされており(道路交通法104条3項)、被害者も意見を述べることができると思われるが、実務上行われていないようである。今後、このような手続きに被害者の積極的な関与を検討することも必要と思われる。

(4) 被害者に対する支援をめぐる問題
 第四の「被害者に対する支援」をめぐる問題も多種多様であるが、被害者とりわけ遺族に対する精神的支援をどのように進めるべきかという問題が重要である。遺族に対する精神的支援の問題は、他の犯罪被害にも共通する問題であるが、交通事故については被害者や遺族の数が多いこともあって、従来あまり積極的に行われていなかったように思われる。今後これをどのように進めていくべきか、検討する必要がある。
 本書は、特にこの精神的支援をめぐる問題に対応するために刊行されたものである。

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