平成11年版 交通安全白書の概要

平成11年版交通安全白書概要

交通安全白書について

 交通安全白書は、交通安全対策基本法(昭45年法律第110号)第13条に基づき、政府が毎年国会に報告することとされているものです。今回は29回目であり、国会へは6月4日に報告したところです。

白書の構成について

交通安全白書は、交通安全対策基本法第13条に基づき、次の構成をとっています。

  1. 平成10年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況(現況編)
  2. 平成11年度において実施すべき交通安全施策に関する計画(計画編)

現況編、計画編のいずれも、交通安全基本計画の構成に沿って、陸上(道路及び鉄軌道)、海上及び航空の各分野ごとに、記述しています。

今回の白書の特色について

 これまでの白書においては、なんらかの重点記述を設けることを通例としてきました。
 平成11年版白書においては、道路交通の事故件数及び死傷者数が引き続き増加する中で、死者数が近年減少傾向で推移していることを踏まえて、その要因の分析を行った上で、今後の課題、問題点等について明らかにするため、現況編第1部第1章第3節に「最近の道路交通事故死者数の減少傾向の要因分析」、同章第4節に「第6次交通安全基本計画の目標達成に向けて」として重点的に記述しています。また、(財)交通事故総合分析センター(ITARDA)のデータベース等を活用して分析した内容の詳細を、現況編巻末の「補論」として掲載しています。
 さらに、道路交通事故死者数を集計した統計の特徴を現況編第1編第1部第1章第1節の囲み記事において明らかにするとともに、警察庁交通統計の24時間死者、30日以内死者及び30日死者のデータの対比の結果を現況編巻末の参考3に掲げています。
 また、諸外国の道路交通事故の発生状況との比較についての記載も充実しました(現況編巻末参考2)。
 なお、鉄軌道交通、海上交通及び航空交通では、大きな事故がなかったこと及び長期的にみて事故件数が減少傾向にあること等から、特段の重点的な記述は行っていません。
 ここでは、道路交通の分野について「10年中の交通事故状況」及び上述の重点記述を中心に紹介します。

報告の概要

1 道路交通事故の動向

 平成10年の道路交通事故死傷者数は99万9,886人に達し、28年ぶりに過去最悪の記録を示し、また、道路交通事故の発生件数も6年連続で過去最悪の記録を更新しており、大変厳しい状況が続いています。一方、事故発生から24時間以内に亡くなられた死者の数は、8年から3年連続して1万人を下回り、10年では9,211人となっており、9年までに1万人以下とする第6次交通安全基本計画(8~12年度)の第1段階の目標を達成できました。

(1)平成10年中の交通事故の状況(第1図

平成10年中交通事故の状況
発生件数 80万3,878件 (対前年比 2万3,479件(3.0%)増)
死傷者数 99万9,886人 (対前年比 3万1,321人(3.2%)増)
死者数(24時間) 9,211人 (対前年比 429人(4.5%)減)
30日以内死者数 1万0,805人 (対前年比 449人(4.0%)減)

(2)平成10年の交通事故の特徴

  • 年齢層別死者数では、若者(16~24歳、1,790人)及び高齢者(65歳以上、3,174人)が多く、この二つの年齢層で全死者数の53.9%を占めている。(第2図
  • 年齢層別負傷者数では、若者(24万3,090人)が最も多く、全負傷者数の24.5%を占めている。
  • 状態別死者数では、自動車乗車中(3,972人)が最も多く、全死者数の43.1%を占めている。(第3図
  • 状態別負傷者数でも、自動車乗車中(60万4,725人)が最も多く、全負傷者数の61.0%を占めている。
  • 若者の状態別死者数は、自動車乗車中(1,021人)が、57.0%を占めているが、平成4年以降減少傾向にあり、7年はいったん増加したものの、その後3年連続して減少した。また、自動二輪車乗車中(456人)は、25.5%を占めているが、平成元年以降減少傾向にあり、6年にいったん増加したものの、その後4年連続して減少した。(第4図
  • 高齢者の状態別死者数は、自動車乗車中(653人)が、高齢運転者の増加を背景に増加を続け、4年連続で自転車乗用中を上回り、歩行中に次ぐ多さとなった。また、最も多い歩行中(1,572人)は、平成7年に最多となり、8年、9年と連続して減少したものの、10年ではわずかに増加した。(第5図

2 最近の道路交通事故死者数の減少傾向の要因分析

(1)交通事故の発生状況についての分析結果

昭和55年以降のデータをみたところ、平成に入ってから次の傾向が見いだされました。

  1. 年齢層別人口当たりの交通事故死者数をみると、全ての年齢層で減少傾向を示している。(第6図
  2. 交通事故の発生状況を事故の状態別、事故類型別、法令違反別及び通行目的別により多面的に見たところ、交通事故死傷者数が増加する中、交通事故死者数が減少している場合が多く、また、危険性の高い事故については交通事故死傷者数及び交通事故死者数のいずれもが減少しており、かつ死傷者数の減少率より死者数の減少率の方が大きい傾向がみられる。

(2)若者の事故の動向

  • 若者が自動車等に乗車中に第1当事者となった死亡・重傷事故件数及び死亡事故件数が近年大きく減少しているのは、そもそも若者の免許人口が減少していることもあるが、自動二輪車乗車中の事故と、自動車乗車中のドライブ中の事故及び最高速度違反による事故が大きく減少していることによる。(第7図
  • さらに、これらの事故を除いた他の若者の事故についてみても、死亡事故件数が人身事故件数に占める割合(死亡事故率)が、近年、他の年齢層と同程度に低下していることもある。
  • なお、自動車乗車中のドライブ中の事故及び最高速度違反による事故が減少していることについては、若者の置かれている経済状況の変化に影響を受けていることをうかがわせるデータが見られた(15~24歳の失業率の推移と若者のドライブ中の最高速度違反による死亡・重傷事故の普通免許人口当たり件数の推移との間には、高い負の相関関係があった。)。

(3)景気の影響の分析結果

自家用乗用車及び貨物車(自家用及び事業用) の事故の件数の変動が景気の影響を受けていることを示すデータを見いだすことはできませんでした。

  • 自家用乗用車については、買い物途中又は訪問途中の事故という、日常生活の中で発生する事故の増加にみられるように、自家用乗用車の利用が日常の生活の中で不可欠なものとなってきているため、景気の変動の影響を大きく受けていないものと考えられる。(第8図
  • 貨物車(自家用及び事業用)については、走行キロ当たり及び保有台数当たりの事故件数がともに昭和55年以降、平成4年頃までほぼ一貫して減少してきているためである。しかし、それ以降は微増又は横ばいに転じており、この傾向が続くのであれば、今後は貨物車の事故件数も経済の変動にある程度連動していく可能性があるものと考えられる。(第9図

(4)交通安全対策の効果

少なくとも、以下の諸対策が、大きな被害をもたらす危険性の高い事故を未然に防止する対策(大事故未然防止対策)及び事故の発生により被害が生じたとしてもその被害の程度を最小限にとどめるための対策(被害軽減対策)があいまって効を奏し、その複合的な効果が平成5年以降の全国的な交通事故死者数の減少傾向という形に現れたものではないかと考えられます。

  1. シートベルトの着用者率の向上
  2. 交通安全施設等の整備、事故多発地点対策事業等
  3. 車両の安全性能の向上(道路運送車両の保安基準の強化等)
  4. 初心運転者対策の推進 (初心運転者講習等)
  5. 悪質・危険性の高い交通違反の取り締まりの強化
  6. 救助・救急医療体制の進展

3 第6次交通安全基本計画の目標達成に向けて

今後とも交通事故死者数の減少が続くと予測することについては、以下の1.から5.に示すように問題・課題があるので、これらも踏まえて着実に努力を重ねていくことが必要です。

  1. 今後の高齢者免許保有人口の増加率は、高齢者の人口増加率を上回ることが見込まれる(65歳から69歳までの年齢層に関する予測では、平成10年から12年までの人口増加率は男性3.6%、女性3.4%であるのに対し、免許人口増加率は男性7.3%、女性28.4%である。同様に15年までの5年間では、人口増加率は男性7.0%、女性6.6%であるのにし、免許人口増加率は男性14.0%、女性75.6%である。)。
  2. 安全運転義務違反による人身事故件数、死亡・重傷事故件数、死亡事故件数はいずれも増加傾向を示しており、年齢層によって差異はみられない。
  3. 最高速度違反による事故や正面衝突事故はいったん事故が発生すれば被害が甚大になる危険性の高いものであり、車両の安全性の向上をもって被害の軽減が図られることには限界があると考えられる。
  4. 今後、経済状況の好転が死亡事故件数の増加に影響を与える可能性も否定しきれないと考えられる。
  5. 都道府県別に個別に死者数の推移をみると、全国の死者数が減少してきた傾向と必ずしも同じではないので、交通安全対策を進めていく上では、各地域の実態を十分に踏まえていくことが重要であると考えられる。

4 平成10年度に実施した主な道路交通安全施策等

平成10年度に実施した主な道路交通安全施策は次のとおりです。

  • 交通安全施設等の重点的整備
    • 特定交通安全施設等整備七箇年計画(平成8~14年度)に基づく整備
  • 高度情報通信技術等を活用した道路交通システムの整備
  • 交通需要マネジメント施策等の推進
  • 交通安全教育指針の作成・公表
  • 高齢者に対する交通安全教育等の推進
  • 高齢運転者対策の充実
  • シートベルト及びチャイルドシートの着用等の徹底
  • 自動車運転中の携帯電話使用に関する広報啓発
  • 交通安全総点検の実施
  • 先進安全自動車(ASV)の開発支援・走行支援道路システム(AHS)の開発

5 平成11年度において実施すべき道路交通安全の施策に関する計画(計画編)

平成11年度において実施すべき道路交通安全の主な新規施策は次のとおりです。

  • 道路交通の安全に関する施策
    • スマートウェイ(知能道路)プロジェクトの推進
      VICS(道路交通情報通信システム)、ETC(ノンストップ自動料金収受システム)、AHS(走行支援道路システム)等の先端的なITS技術を統合して組み込んだスマートウェイ(知能道路)の実現に向けて、インフラ整備、研究開発等を推進する。
    • 交通安全教育指針の普及推進
      交通安全教育指針(平成10年9月告示国家公安委員会) が広く活用されるよう、普及活動を積極的に推進する。
    • チャイルドシートの着用推進
      チャイルドシートの着用推進を平成11年度春の全国交通安全運動の重点項目として盛り込む等、重点的に広報啓発・指導を実施する。
    • 自動車アセスメント情報提供の大幅な拡充
      側面衝突試験を追加するとともに、試験台数を増加する等事業規模を大幅に拡大する。
    • 消防・防災ヘリコプターの積極的活用
      消防法施行令の改正(平成10年3月)でヘリコプターによる救急業務が明確に位置づけられたことを踏まえ、救急業務において消防・防災ヘリコプターを積極的に活用する。
    • 被害者対策の推進
      「交通事故被害者連絡制度」の連絡対象者に交通死亡事故の遺族を加え被害者対策を推進する。
    • 自賠責保険制度の検討
      「今後の自賠責保険の在り方に係る懇談会」において自賠責保険制度の検討を行う。

最後に

 政府は、第6次交通安全基本計画に掲げられている「平成12年までに交通事故死者数を9,000人以下にする」という目標の早期達成を目指すため、交通安全白書(計画編)に掲げた各種施策を強力に推進していくことにより、今後よりいっそう交通事故の防止を図っていくこととしております。