平成12年版 交通安全白書の概要

平成12年版交通安全白書概要

今回の交通安全白書の特色

平成12年版交通安全白書では、道路交通、鉄軌道、海上及び航空の分野ごとに社会的関心の高い事案について特集を組み、事故の動向、施策等について重点的に考察を加えました。

道路交通「『交通事故における弱者及び被害者』の視点に立った交通安全対策と今後の方向」
交通事故における弱者のための対策や交通事故における被害者への対応の在り方の重要性を踏まえ、「交通事故における弱者及び被害者」に着目した交通事故の発生状況の特徴及び関連する対策について記述した。
鉄軌道交通「トンネルコンクリート剥落事故及び首都圏における運転阻害事故への対応」
鉄道の安全性に対する国民の信頼を低下させた新幹線トンネルコンクリート剥落事故や、首都圏を中心とした運転阻害事故への対応について記述した。
海上交通「漁船「新生丸」海難事故を踏まえた海難救助体制の強化」
平成11年1月に発生した漁船海難事故を契機に改善強化された救助体制などについて記述した。
航空交通「今後の航空安全の推進」
平成11年6月の航空法改正により、需給調整規制の廃止等の規制緩和とともに、航空技術の発達等に対応して、航空運送事業者等に対する安全規制が見直されたことなどについて記述した。

道路交通事故の動向

1 道路交通事故の長期的推移

平成11年の道路交通事故死者数(24時間)は9,006人で、4年連続して1万人を下回ったものの、死傷者数は1,059,403人と初めて100万人を超えるとともに、2年連続して最悪の記録を更新しました。また、事故発生件数も850,363件で、7年連続して最悪の記録を更新し続けるなど交通事故の実態は大変厳しい状況にあります。(図1)

2 平成11年の道路交通事故の特徴

平成11年の道路交通事故には、以下のような特徴がありました。

  • 年齢層別死者数では、7年連続で65歳以上の高齢者が最も多く(3,143人、34.9%)、次に16~24歳の若者(1,578人、17.5%)となっており、この二つの年齢層で過半数を占める。(図2)
  • 状態別死者数では、自動車乗車中が3,872人と最も多く、全死者数の43.0%を占めている。(図3)
  • 自動車乗車中の死傷者についてシートベルト着用者率(死傷者数中のシートベルトを着用している者の割合)をみると、平成5年以降上昇しており、平成11年では、81.8%となっている。また、着用者の致死率(0.25%)は、非着用者の致死率(2.15%)の8分の1程度であった。(図4)

道路交通の特集「『交通事故における弱者及び被害者』の視点に立った交通安全対策と今後の方向」

自動車交通社会の便益は、自動車を運転している者のみならず社会全体で享受していると言えますが、国民誰しもが交通事故の当事者になってしまう危険と背中合わせの状況にあります。しかも、自分に違反がなくても交通事故の被害者になる場合が多くあります。従って、「交通事故における弱者及び被害者」の視点に立った対策は、万人のためのものと言えます。(なお、「交通事故における弱者」と考えられる者も立場を変えれば「強者」になることがあります。)

このような考え方に立ち、入手可能な既存のデータに基づき、「交通事故における弱者及び被害者」に着目した交通事故の状況の分析を行うとともに、関連する交通安全対策と今後の方向の概略を網羅的にとりまとめました。

1 「交通事故における弱者」に着目した交通事故の発生状況の特徴

「交通事故における弱者」に着目して交通事故の発生状況を分析したところ、以下のような目新しい分析結果が得られました。

  • 0歳から5歳の年齢層の自動車同乗中の死傷者数の80.8%は、チャイルドシート非着用であった。
  • 車いす利用者の交通事故による死傷者数は増加傾向にある。(図5)
  • 横断歩道横断中の事故について、歩行者側の違反である信号無視をしていたものは、横断歩道横断中の死者の31%、死傷者の10%であった。
  • 自転車対歩行者事故は、平成7年から11年の5年間で3,240件あり、そのうち歩行者が死亡又は重傷に至ったものは約2割であった。
  • 自動二輪・原付乗車中に死傷した運転者のうち違反なしとされたのは約3割であり、自動車乗車中に死傷した運転者では約7割が違反なしとされたのに比べ低い割合となっている。
  • 重量の異なる自動車相互の事故において死傷した一方の当事者の被害状況は、相手方当事者が大型の自動車であるほど被害が大きい。(なお、その当事者の乗車していた車種別では、普通乗用車に乗車していた場合の死亡重傷率が最も低い。)(図6)

2「交通事故の被害者」に着目した交通事故の状況

(1)
交通事故による身体障害者は全国で13万人、その中で重い傷害を有する者は約3万3千人いると推計されます。また、自賠責保険の重度後遺障害に係る支払い件数は、最近10年間で約2倍に増加しています(平成元年度973件、10年度1,944件)。
(参考)
厚生統計による死者数(交通事故を原死因として当該年に死亡した者)
平成元年14,512人→10年13,176人▲1,336人
(2)
第2当事者以下の当事者(第1当事者1以外の当事者)に着目した交通事故の発生状況を分析したところ、以下のような結果が得られました。
  • 交通事故の死傷者数の推移をみると、第1当事者はほぼ横ばいであるのに対して、第2以下の当事者は男性、女性とも増加している。(図7)
  • 交通事故による死傷者数の87%(925,700人)は第2以下の当事者であり、第1当事者の約7倍である。また、事故時に違反がなく死傷した第2以下の当事者(いわゆる「もらい事故」に遭った人)は、全死傷者数の61%を占めている。(図8)
  • 交通事故による死者数の55%(4,967人)は第2以下の当事者である。また、いわゆる「もらい事故」に遭った人は、全死者数の26%を占めている。(図9)

3「交通事故の弱者及び被害者」の視点に立った交通安全対策と今後の方向

  • 「交通事故における弱者」に関する対策として、「交通事故における弱者」に対して優しい道路交通環境の整備、幼児、児童、高齢者等に対する交通安全教育、自転車利用者対策、シートベルト・チャイルドシート着用の徹底、「交通事故における弱者」を保護するための車両関連対策の推進、自動車を運転しない人や高齢者等の安全なモビリティの確保などに取り組んでいます。
  • 「交通事故における被害者」に対する救済対策として、救助・救急体制の整備、「交通事故における被害者」に対する援助措置、「交通事故被害者の声」をいかした対策の推進等を行っております。

平成11年度に実施した主な道路交通安全施策

平成11年度に実施した主な道路交通安全施策は次のとおりです。

  • 交通安全施設等の重点的整備、高度情報通信技術等を活用した道路交通システムの整備、交通需要マネジメント施策等の推進、安全な道路交通環境整備の推進体制の拡充等
  • チャイルドシートの着用の徹底、自動車運転中の携帯電話使用禁止に関する広報啓発、交通安全総点検の実施等による交通安全思想の普及徹底
  • 自動車アセスメント情報の提供、車両の安全対策の推進体制の拡充等
  • ドクターヘリ試行的事業の実施等による救助・救急体制の整備

平成12年度おいて実施すべき道路交通安全の主な新規施策

平成12年度おいて実施すべき道路交通安全の主な新規施策は次のとおりです。

  • バリアフリーの歩行空間ネットワークの整備、スマートウェイ・スマートゲートウェイ・スマートカープロジェクトの推進、自転車利用環境の整備等
  • チャイルドシートの着用の徹底等の交通安全思想の普及徹底
  • 自動車アセスメント事業の大幅な拡充等による車両の安全性の確保
  • 緊急通報システム(HELP)の推進等による救助・救急体制の整備

最後に

平成12年度は、第六次交通安全基本計画の最終年度であり、政府は、交通安全白書に掲げられた各種施策を積極的に推進していくことにより、「平成12年までに交通事故死者数を9,000人以下にする」という同計画の目標の達成を目指します。

1「第1当事者」とは、交通事故の当事者のうち、過失が最も重い者又は過失が同程度の場合は被害が最も軽い者。

◆交通安全白書は、全国各地の政府刊行物サービス・センター、政府刊行物サービス・ステーション(官報販売所)及び政府刊行物常備寄託書店で、定価2,500円(税別)で販売取扱いしています。

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