平成13年版 交通安全白書の概要

 交通安全白書は、交通安全対策基本法(昭和45年法律第110号)第13条に基づき,毎年政府が国会に報告しているものである。
 今回の白書(平成13年版交通安全白書)は昭和46年に第1回の報告がなされて以来31回目のものであり、その構成は次のとおりとなっている。

「平成12年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況」
陸上(道路及び鉄軌道)、海上及び航空の各交通分野ごとに、近年の交通事故の状況と平成12年度中の交通安全施策の実施状況を記述するとともに、本年3月16日に作成された交通安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱である第7次交通安全基本計画について、その背景と重点施策を中心に分かりやすく説明している。
「平成13年度において実施すべき交通安全施策に関する計画」
陸上(道路及び鉄軌道)、海上及び航空の各交通分野ごとに、平成13年度の交通安全施策の実施計画について記述している。
この概要は「平成12年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況」の要約である。

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第1章 道路交通事故の動向と交通安全対策の今後の方向

道路交通事故の長期的推移

 道路交通事故死者数は、昭和45年に史上最悪の1万6,765人を記録した。このため、同年に交通安全対策基本法が制定され、同法に基づき46年度以降、交通安全基本計画を5年ごとに策定し、交通安全対策を総合的・計画的に推進してきた。
 交通事故死者数は、46年以降着実に減少を続け、54年には8,466人にまで減少した。しかし,その後増勢に転じ、57年以降9,000人台を続けた後、63年から8年連続して1万人を超えていたが、平成7年を境に減少傾向となり,8年には1万人を下回った。

平成12年中の道路交通事故の状況

  1. 概況

    平成12年の交通事故の発生件数は93万1,934件で、これによる死者数は9,066人、死傷者数は116万4,763人であった。
    死者数は4年連続して1万人を下回ったものの、5年ぶりに増加に転じた。また、事故発生件数は8年連続して最悪の記録を更新し、さらに、死傷者数は3年連続して最悪の記録を更新した。(第1図)

  2. 年齢層別交通事故死者数及び負傷者数

    死者数は、8年連続で65歳以上の高齢者が最も多く(3,166人、34.9%)、次に16~24歳の若者となっており(1,563人、17.2%)、この二つの年齢層で全交通事故死者数の52.1%を占めている。(第2図)
    負傷者数は、16~24歳の若者(26万6,728人)が最も多く、全負傷者数の23.1%を占めている。また、前年と比較してすべての年齢層で増加している。

  3. 状態別交通事故死者数及び負傷者数

    死者数は、自動車乗車中が3,953人と最も多く、全死者数の43.6%を占めている。
    負傷者数は、自動車乗車中が70万8,645人と最も多く、全負傷者数の61.3%を占めている。

  4. シートベルト着用の有無別死者数

    自動車乗車中の死傷者についてシートベルト着用者率(死傷者数中のシートベルトを着用している者の割合)をみると、平成5年以降上昇しており、12年では84.1%となっている。
    着用者の致死率(死傷者数に占める死者数の割合)は、非着用者の致死率の約9分の1程度である。(第3図)

道路交通安全対策の今後の方向

  1. 道路交通を取り巻く状況の展望

    道路交通を取り巻く状況は、以下のように現状よりも更に厳しいものになることが予想される。

    1. 運転免許保有者数は、年々増加しており、平成12年12月末現在7,469万人と、免許取得が可能な国民の1.4人に1人が保有している。また、平成17年の運転免許保有者数は8,122万人、うち、65歳以上の高齢者は1,088万人に達するものと推定される。
    2. 平成12年の自動車保有台数は7,586万台となっている。特に乗用車の増加が著しく、12年には4,254万台となっている。
    3. 自動車走行台キロは、昭和49年に石油危機の影響等により一時的に減少した以外は一貫して増加しており、平成10年には6,139億台キロとなっている。
    4. 我が国の人口の高齢化が急速に進み、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、平成17年には19.6%になると推計されており、高齢運転者数についても増加していくものと考えられる。
  2. 道路交通事故の見通し

    「交通事故の長期予測及び効果的な交通安全計画策定に関する調査研究」等によると、今後の死者数は次のように予測される。

    1. 平成10年までの実績を基に予測すると、新たな対策を実施しない場合、平成17年の道路交通事故死者数は9,000~1万800人程度になる。(第4図)
    2. 平成11年及び12年の実際の交通事故死者数を踏まえると、今後高位に推移する蓋然性が高い。
    3. 年齢層別にみると、75歳以上の後期高齢者と25歳~64歳の年齢層の死者数が大きく増加する。
    4. 状態別では、自動車乗車中の死者数が最も大きく、また、今後は、歩行中、自転車乗用中の死者数が増加する。
  3. 道路交通安全対策の今後の方向

    道路交通を取り巻く環境は今後もますます厳しくなるものと予想され、それに伴い、交通事故の状況もより一層憂慮される事態となることが懸念される。このような状況に対処するため、政府は、平成13年3月16日に中央交通安全対策会議を開催し、13年度から17年度の5年間において国及び地方公共団体が実施すべき交通安全施策の大綱を定めた第7次交通安全基本計画を作成したところである。
    この交通安全基本計画においては、各般の交通安全対策を充実し、関係機関・団体の緊密な連携の下に、総合的かつ計画的に推進することにより、自動車保有台数当たりの死傷者数を可能な限り減少させるとともに、平成17年までに、年間の24時間死者数を交通安全対策基本法施行以降の最低であった昭和54年の8,466人以下とすることを目指すこととしている。
    以下、第7次交通安全基本計画における施策のうち、特に重点となる施策について、その概要を紹介していくこととする。

(1)高齢者の交通安全対策の推進
65歳以上の高齢者の交通事故の状況をみると、死者数は平成5年に若者(16~24歳)の死者数を上回り、その後ほぼ横ばいで推移しており、死者数全体に占める割合は年々増加しているなど深刻な状態となっている。また、高齢化の進行に伴い、高齢者の交通事故は今後とも増加することが懸念されている。
このため、第7次交通安全基本計画においては、高齢者の交通安全対策の大幅な充実を図ることとし、交通安全意識の普及徹底を図るための参加・体験・実践型の交通安全教育などの推進、高齢者が安心して暮らせる道路交通環境の整備、高齢運転者の安全運転対策の推進などを図っていくこととしている。
参加・体験・実践型交通安全教育の推進
高齢者が各種の道路交通環境や事故の発生する危険のある状況や夜間における反射材の効果等について実際に体験したり、危険な状況における対応を自ら考える参加・体験・実践型の交通安全教育を積極的に推進するとともに、家庭訪問による個別指導、高齢者と日常的に接する機会を利用した助言等が地域ぐるみで行われるよう努めることとしている。
さらに、高齢者交通安全指導員(シルバーリーダー)の養成等高齢者の自主的な交通安全活動を展開し、地域・家庭における交通安全活動の主導的役割を果たすよう指導・援助を行うこととしている。
高齢者が安心して暮らせる道路交通環境の整備
高齢者、身体障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保するため、駅、公共施設等の周辺を中心に「平坦性が確保された幅の広い歩道」、高齢者等感応信号機、道路標識の高輝度化・大型化・可変化、道路標示の高輝度化等を推進することとしている。
また、交通バリアフリー法に基づき、公共交通機関等のバリアフリー化と連携しつつ、誰もが歩きやすい幅の広い歩道等の整備が面的かつネットワークとして行われるよう配慮することとしている。
高齢者の安全運転対策の推進
高齢者講習の充実及び更新時講習における高齢者学級(高齢者を対象とする、高齢運転者の運転の特性、交通事故の特徴等を重点に取り上げた講習)の拡充に努めるなど高齢者の身体的な機能の変化を踏まえた適切な指導等を行うこととしている。
(2)シートベルト及びチャイルドシート着用の徹底
シートベルト及びチャイルドシートの着用効果及び正しい着用方法についての理解を求め、正しい着用の徹底を図るとともに、あわせて、後部座席におけるシートベルトの着用推進を図る必要があることから、地方公共団体、関係機関・団体等との協力の下、あらゆる機会・媒体を通じて積極的に普及啓発活動を展開するとともに、シートベルト及びチャイルドシート着用義務違反に対する指導取締りの充実を図ることとしているほか、特に、チャイルドシートについては、正しい着用を指導する指導員の養成、利用しやすい環境づくり等を推進することとしている。
(3)安全かつ円滑な道路交通環境の整備
事故多発地点のうち緊急度の高い場所について、詳細な事故分析に基づく交差点改良、視距の改良、付加車線等の整備を重点的に実施することとしている。また、対策実施後は、その効果を評価し、対策効果が不十分な箇所における追加的な対策の実施等を行うこととしている。
さらに、コミュニティ・ゾーンの形成、高度道路交通システムの研究開発等の推進、輸送効率の向上や交通量の時間的・区間的平準化を図る交通需要マネジメント施策の推進等を図ることとしている。
(4)交通安全教育の推進
交通安全教育指針等を活用し、幼児から成人に至るまでの段階的かつ体系的な交通安全教育及び高齢者、身体障害者等に対する適切な交通安全教育を、国、地方公共団体、警察、学校、関係民間団体及び家庭が互いに連携して実施する。特に、指導者の養成・確保、参加・体験・実践型の教育の普及を図ることとしている。また、免許取得前、取得時、取得後の運転者教育の充実を図ることとしている。
(5)車両の安全性の確保
先進安全自動車の開発・普及を図るほか、自動車アセスメント事業を推進するとともに、リコール制度の充実を図ることとしている。
(6)効果的な指導取締りの実施
交通事故実態等を的確に分析し、死亡事故等重大事故に直結する悪質・危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いた交通指導取締りを推進するとともに、初動捜査及び科学的捜査の充実強化等を図ることとしている。
また、凶悪化する暴走族に対しては、関係機関・団体が連携し、暴走族追放気運の高揚及び家庭、学校等における青少年の指導の充実、暴走行為をさせないための環境づくり、指導取締りの強化、暴走族関係事犯者の再犯防止、車両の不正改造の防止等の対策を強力に推進することとしている。
(7)救助・救急体制の整備
救急救命士の養成・配置等の促進、ドクターカーの活用の推進を図るとともに、消防・防災ヘリコプターによる救急業務、ドクターヘリによる救命医療の実施、高速自動車国道のサービスエリア等における緊急離着陸用ヘリポートの整備の推進等を図ることとしている。
(8)被害者対策の充実
重度後遺障害者に対する介護料の支給及び重度後遺障害者の治療・看護を専門に行う療護センターの設置・運営に対する援助措置の充実を図ることとしている。
また、交通事故被害者の心情に配慮した相談業務を、警察署の交通相談係、交通安全活動推進センター、検察庁の被害者支援員等により推進することとしている。
さらに、被害者等に対して、交通事故の概要、捜査経過、事件処理結果、不起訴記録等の情報を提供するほか、ひき逃げ事件、死亡事故等の被害者等に被疑者の検挙、送致状況、裁判結果を連絡する被害者連絡制度の充実等を図ることとしている。
(9)交通事故調査・分析の充実
事故調査・分析の充実強化を図る観点から、交通事故総合分析センターの充実・活用を図るとともに、官民の保有する交通事故調査・分析に係る情報を国民に対して積極的に提供することとしている。
(10)市民参加型の交通安全活動の推進
交通安全対策に関して住民が計画段階から実施全般にわたり積極的に参加できる仕組みづくり、住民や道路利用者が主体的に行う「ヒヤリ地図」の作成、交通安全総点検等により市民参加型の交通安全活動を推進することとしている。

第2章 道路交通に対する主な安全施策

  1. 交通安全施設等の重点的整備

    平成12年度は、交通安全施設等整備事業七箇年計画の第5年度として、次のような事業を実施した。

    (1)
    幅の広い歩道等の整備、住居系地区等におけるコミュニティ・ゾーンの形成、信号機の高齢者感応化等の高性能化、道路照明灯、道路標識等の整備等を行った。
    (2)
    通学路における交通事故防止のために、歩道等の整備を始め、信号機、立体横断施設、道路標識等を整備した。
    (3)
    幹線道路における事故多発地点について、事故の要因を分析し、これに応じた交差点改良、道路照明・信号機の設置、交通規制の見直し等の事故削減策を推進した。
    (4)
    車両の事故防止のために、信号機の高度化改良、交差点等の改良や付加車線等の整備を行うとともに、夜間の事故防止のために、道路照明灯、高速走行抑止システム等を整備した。
    (5)
    新交通管理システム(UTMS)としての中央装置や交通情報提供装置を整備するなど交通管制システム機能を充実・高度化した。
  2. 高度情報通信技術等を活用した道路交通システムの整備

    平成8年に策定したITS全体構想に基づき、研究開発、フィールドテスト、インフラの整備等を推進している。

  3. 交通需要マネジメント施策等の推進

    輸送効率の向上や交通量の時間的・空間的平準化を図る「交通需要マネジメント(TDM)施策」を総合的に推進した。
    また、交通容量拡大策、TDM施策、マルチモーダル施策の支援措置を講じた。
    さらに、バスの利用促進を図るための施策を関係省庁が連携して総合的に実施するオムニバスタウン構想を推進している。

  4. 安全な道路交通環境整備の推進体制の拡充

    今後の安全な道路交通環境整備の基本的な考え方等について「安全な道路交通環境の整備に関する推進方針」として定めるとともに、この方針に基づき、コミュニティ・ゾーン形成事業、事故多発地点緊急対策事業等の各施策を推進した。

  5. チャイルドシートの着用の徹底

    平成12年4月から6歳未満の幼児についてチャイルドシートの着用が義務化されたことから、春・秋の全国交通安全運動で普及促進キャンペーン等を実施するとともに、チャイルドシートの無料貸出し制度の活動を支援する等着用促進のための施策を推進した。

  6. 交通安全総点検の実施

    地域の人々や道路利用者の主体的な参加の下、「交通安全総点検」を実施し、その結果を歩道の補修、信号機の設置等に反映した。

  7. 車両の安全対策の推進

    「車両安全対策総合検討会」において、対策の事前効果予測・事後効果評価等を検討し、車両安全対策の長期計画等を策定した。

  8. 自動車アセスメント情報の提供等

    自動車の衝突安全性能等の比較試験の結果を公表する自動車アセスメント事業において、オフセット前面衝突試験を追加し、24車種の比較試験の結果を公表するとともに、エアバッグ等の安全装置の正しい使い方をユーザーに提供した。

  9. 交通事故被害者の心情に配慮した対策の推進

    ひき逃げ事件、交通死亡事故等の被害者・遺族に対して、事故の概要、捜査状況等の被害者連絡を適時、適切に実施するとともに、「交通事故被害者の手引」の配布や各種相談活動等被害者等の心情に配意した対策を実施している。

第2部 鉄軌道交通

第1章 鉄軌道交通事故の動向と交通安全対策の今後の方向

鉄軌道交通事故の状況

 踏切事故防止対策の推進、各種の運転保安設備の整備の充実、制御装置の改善、乗務員等の資質の向上など総合的な安全対策を実施してきた結果、運転事故は、長期にわたり減少傾向が続いており、平成12年の運転事故件数は936件、運転事故による死傷者749人(うち死亡者309人)であった。(第5図)
 運転事故の種類別の発生件数では、踏切障害(47.4%)、人身障害(37.3%)、道路障害(11.3%)となっている。

鉄軌道交通安全対策の今後の方向

  1. 事故調査体制の充実

    より安全な鉄軌道を目指すためには、事故の原因を調査し、事故等の教訓をいかして、同種事故を未然に防止することが極めて重要であることから、鉄軌道事故調査・分析体制の強化・充実を図るため、常設の鉄軌道事故調査機関を設置し、必要な事故調査体制の整備を進める。
    なお、第151回国会において航空事故調査委員会を改組し、航空・鉄道事故調査委員会を設置すること等を内容とする「航空事故調査委員会設置法等の一部を改正する法律」が成立し、公布された。

  2. 事故の未然防止体制の推進

    鉄軌道事業者からの事故等の報告制度について、事故報告の内容及び事故速報の対象範囲の見直し等を行い、重大インシデント分析の充実を図り、事故等の未然防止に有効な対策を推進する。
    さらに、事故等に関する情報公開を積極的に推進する。

  3. 踏切事故防止対策の推進

    平成13年3月に改正された踏切道改良促進法及び13年度を初年度とする第7次踏切事故防止総合対策に基づき、踏切道の立体交差化、構造の改良、踏切保安設備の整備、交通規制の実施、統廃合の促進その他踏切道における交通の安全と円滑化を図るための措置を総合的かつ積極的に推進する。

第2章 鉄軌道交通に対する主な安全施策

  1. 線路施設、運転保安設備等の整備

    線路施設、信号保安設備等の整備を促進するとともに、乗務員の教育の充実等により乗務員等の資質の向上を図っている。また、迅速かつ的確な運転指令体制づくりに努めるよう鉄軌道事業者を指導している。

  2. 鉄道構造物の耐震性の強化

    鉄道施設耐震構造検討委員会が平成10年11月に取りまとめた耐震設計基準に基づき、新設構造物の設計を行うよう、鉄道事業者等を指導している。

  3. 営団日比谷線事故を踏まえた再発防止対策の実施

    営団日比谷線中目黒駅構内での列車脱線衝突事故については、事故の発生原因等の検討を行い、静止輪重の管理や脱線防止ガードの設置など5項目にわたる再発防止対策を取りまとめたところであり、全国の鉄軌道事業者に対し、同対策の徹底を図っている。

  4. 踏切事故防止対策

    第6次踏切事故防止総合対策に基づき、踏切道の立体交差化、構造改良及び保安設備等の整備を推進している。また、踏切道の統廃合についても併せて実施している。

第2編 海上交通

第1章 海難の動向と海上交通安全対策の今後の方向

海難の動向

  1. 救助を必要とする海難に遭遇した船舶(要救助船舶)の隻数は、平成12年は前年に比べ281隻増(15%)の2,201隻となった。
  2. 近年のマリンレジャー活動の活発化に伴い、プレジャーボート等の海難の全要救助船舶隻数に占める割合が高くなってきており、平成9年には漁船を上回り、12年は、47%と過去最高となった。
  3. 要救助船舶の乗船者(8,230人)のうち死亡・行方不明者数は、平成12年は163人であった。(第6図)

海上交通安全対策の今後の方向

 海上交通を取り巻く環境は、厳しさを増しており、総合的な海上交通安全対策を推進する必要がある。
 このため、第7次交通安全基本計画では、海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数について、平成17年までに200人以下にするという目標値を設定した上で、特に、以下の重点施策及び新規施策を推進することとしている。

  1. ふくそう海域における海上交通安全の確保

    東京湾等の海上交通のふくそうする海域における管制対象船舶のノンストップ航行及び港湾EDIシステム等による港湾諸手続きのワンストップ化を実現する航行管制制御システムの確立等を行う。
    さらに、「海上ハイウェイネットワーク」の構築を推進するなど、海上交通の安全確保に必要な施策を総合的かつ積極的に推進し、ふくそう海域における海上交通の安全を図ることとしている。

  2. プレジャーボート等の安全対策の推進

    プレジャーボート等の海難の増加傾向に歯止めをかけるためには、マリンレジャー愛好者自らが安全意識を十分に持つことが重要であることから、海難防止講習会や訪船指導等を通じ、レジャーの目的に応じたきめ細かな海難防止指導を実施するほか、安全にクルージングができる環境を整備するためマリンロード構想を推進することとしている。

  3. 漁船の安全対策の推進

    漁船の海難を防止するため、海難防止講習会の開催や訪船指導の実施等により、乗組員の安全運航の意識向上に努めるとともに、見張りの励行等について、積極的に指導・啓発を図ることとしている。

  4. 救命胴衣の着用率の向上及び救助体制の強化

    海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者を減少させるためには、救命胴衣の着用率を高めるとともに、落水しても救助を要請できるよう連絡手段を確保しておくことが極めて有効であることから、常時着用型救命胴衣の導入等の対策を講ずるとともに、漁船、プレジャーボート等の乗組員を対象とした、救命胴衣常時着用の徹底、携帯電話等の連絡手段の確保、緊急用電話番号「118」の有効利用を基本とする「自己救命策確保」キャンペーンを強力に推進することとしている。
    さらに、事故情報入手後、直ちに巡視船艇を現場に急行させる体制を構築するほか、ヘリコプターの高速性、捜索能力、吊り上げ救助能力等の積極的な活用等を図ることとしている。

  5. 外国船舶の監督の強化

    海上人命安全条約、海洋汚染防止条約等の国際条約に基づき、我が国に寄港する外国船舶に対する監督を実施し、国際基準に適合していない船舶の排除に努めることとしている。

第2章 海上交通に対する主な安全施策

  1. 巡視船艇・航空機による救助体制の強化、海難情報の入手体制の整備及び民間救助体制の整備を行い、プレジャーボート等の救助体制の充実強化を図っている。
  2. 漁船やプレジャーボート等に対し、海難防止講習会や訪船指導等を通じて、海難防止思想の普及徹底、安全指導を実施している。
  3. 港湾及び航路の整備の進展、船舶の高速化等により変化する海上交通環境に適応した航路標識の整備を実施している。
  4. 船舶交通のふくそうする海域においては、特別な交通ルールを定めるとともに、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構等の整備・運用を行っている。また、海図・水路書誌等の整備及び水路通報、気象情報等の充実を図っている。
  5. タンカーの事故による油濁損害は損害額が巨額に上ることから、油濁損害賠償保障法に基づき、油濁損害の被害者に対する適正な補償を確保している。
  6. 国際条約の基準に適合していない船舶を排除するため、我が国に入港する外国船舶の監督を実施している。
  7. 国際海事機関での国際条約等の検討結果を踏まえ、国内法令の整備を行うとともに、交通バリアフリー法に基づくバリアフリー義務化に対して説明会等必要な対策を講じた。また、「船舶の総合的安全評価」を実施するとともに、漁船「第五龍寶丸」事故を踏まえ、同種漁船事故の再発防止対策を取りまとめた。

第3編 航空交通

第1章 航空交通事故の動向と交通安全対策の今後の方向

航空交通事故の動向

 我が国における民間航空機の事故の発生件数は、航空輸送が急速に拡大したにもかかわらず、ここ数年多少の変動はあるものの、ほぼ横ばいの傾向を示しており、平成12年の事故件数は30件であった。(第1表)

航空交通安全対策の今後の方向

  1. 重大インシデント分析に基づく安全対策の推進

    平成12年2月より機長に重大インシデント(結果的には事故に至らないものの、事故が発生するおそれがあると認められる事態)の報告義務を課し、重大インシデントの調査を開始したところである。

  2. 外国航空機の安全の確保

    近年、外国航空機の事故が我が国において発生していること、外国航空機を利用する我が国の利用者が多いこと等から、外国航空機の安全性についても関心が高まってきており、平成11年12月から新東京国際空港において、外国航空機に係る立入検査(ランプ・インスペクション)を開始し、13年2月までに9空港において検査を実施した。

  3. 次世代航空保安システム

    航空交通の増大や多様化に対応して、航空機の安全運航の確保を最優先としつつ、空域の有効利用方策の充実等による航空交通容量の増大を図るため、運輸多目的衛星(MTSAT)を中核とした「次世代航空保安システム」の整備を着実に推進する。

第2章 航空交通に対する主な安全施策

  1. 第7次空港整備七箇年計画(平成8~14年度)に基づき、空港、航空保安施設等の整備を計画的に推進している。
  2. 空港、航空保安施設の耐震性の強化については、既存施設の耐震補強(庁舎等の点検・改修等)及び管制施設の多重化(管制機能の代替等の整備)等を推進した。
  3. 空港内の工事に伴う安全確保、飛行場標識施設等の高規格化、オーバーラン等した航空機に対する安全対策等、航空機運航の安全に直接関わる空港安全技術について基準等の強化を図った。
  4. 小型航空機の事故を防止するため、法令及び安全関係諸規定の遵守、無理のない飛行計画による運航の実施、的確な気象情報の把握、操縦士の社内教育訓練の充実等を内容とする事故防止の徹底を指導している。
  5. スカイレジャーについては、愛好者に対する安全知識の普及や技能の向上訓練等について関係航空団体を指導するとともに、安全対策に関する調査の実施等により安全確保を図っている。

交通安全白書は、全国各地の政府刊行物サービス・センター、政府刊行物サービス・ステーション(官報販売所)及び政府刊行物常備寄託書店で、定価2,200円(税別)で販売取扱いしています。