平成15年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第9節 科学技術の振興等

第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第9節 科学技術の振興等

1 海上交通の安全に関する研究開発の推進

(1)総務省関係の研究
総務省本省の研究
船舶の航行の安全性向上や海上物流の効率化を実現するため、高度海上交通システムの実現に向けた取組を行った。具体的には海上通信システムをデジタル化し、高速化・高信頼化するための要素技術の研究開発を行った。
独立行政法人通信総合研究所の研究
海上交通の安全に寄与するため、天候や昼夜の別に関係なく沿岸の海流速度、波浪等を計測する高時間分解能短波海洋レーダと遠距離海洋レーダの研究開発を行うと同時に、これまでに開発した短波海洋レーダを用いた応用観測を行った。また、高分解能3次元マイクロ波映像レーダ技術の研究開発を推進した。
(2)水産庁関係の研究
 独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所では、転覆防止、耐航性能向上等により漁船の安全操業及び安全航行の確立を図るため、「人的影響を考慮した漁船船体の安全性評価手法の開発」等の研究を実施した。
 また、漁船等の安全航行を目的として「高逸散型杭式防波堤の開発」に関する研究を他機関と共同で実施した。
(3)国土交通省関係の研究
国土交通省本省の研究
海上交通における安全性を飛躍的に向上させるため、「ITを活用した船舶の運航支援のための技術開発」や「高度船舶安全管理システムの研究開発」等を実施した。
国土技術政策総合研究所の研究
(ア)
船舶諸元の現状・動向に関する研究
航路の幅員、水深、保留施設等の整備諸元の決定要素となる船舶規模の現状を把握するとともに、特に大型化の視点からの将来動向及び地域特性動向に関する研究を実施した。
(イ)
航路の基準・運用に関する研究
現在の経験則等に基づく航路基準に対して、新たな概念及び指標に基づく次世代航路計画基準を航海学会規格委員会と共同で作成し中間報告を実施した。さらに、港内操船及び離着桟をより安全に、より効率的に行うため、船舶自動認識装置(AIS)を用いた支援システムのプロトタイプを開発し、実船実験、シミュレーション実験を実施し、その効果を確認した。
海上保安庁海洋情報部海洋研究室の研究
船舶の安全を確保するための測量・観測技術及び解析技術の開発研究、漂流予測手法の高度化等に関する研究を行った。
気象庁気象研究所等の研究
気象情報等の精度向上を図り、海上交通の安全に寄与するため、気象研究所を中心に気象・地象・水象に関する基礎的及び応用的研究を行った。これらの研究のうち、主なものは以下のとおりである。
(ア)
高分解能非静力学モデルの高度化とメソスケール擾乱の構造・メカニズムの解明
 真夏の雷雲による短時間強雨や地形性強風などを再現・予測するため、より高分解能の非静力学モデルの開発・改良に関する研究を行った。
(イ)
数値モデルによる台風の予測の研究
台風の強度予報や強雨、強風の分布予測の精度を向上するため、高精度台風モデルの開発に関する研究を行った。
独立行政法人海上技術安全研究所の研究
海難事故の防止及びその発生後の被害拡大の防止を目的として「フェールセーフとしての衝突・座礁回避システムの研究」、「有害液体物質流出時の環境汚染モニタリングに関する研究」等を行うとともに、最近のタンカーによる油流出事故の発生を踏まえ、タンカーの安全性向上を図るための対策等に関する研究を行った。
※メソスケール擾乱
水平規模が数百㎞の規模の気象現象で、雷雨や集中豪雨などがこれに当てはまる。
※フェールセーフ(フェイルセーフ)
システムの一部が故障しても全体として安全な方向に働き大事故を防ぐ仕組み
※モニタリング
継続的に観測して監視すること
独立行政法人港湾空港技術研究所の研究
(ア)
船舶安全航行のための航路整備等に関する研究
(1)
全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)
海上交通の安全や海上工事の計画・設計・施工の各段階で必要不可欠である沿岸波浪の出現特性を把握するため、全国の港湾工事事務所等で観測された波浪観測データを収集・整理・解析し、平成15年の1年分について速報処理を行うとともに、14年の1年分の速報処理済のデータを統計解析し波浪観測年報を取りまとめた。
(2)
漂砂に関する研究
漂砂による港湾・航路の埋没を防止するために、現地データ等を基にした埋没機構の解明とその対策工法の検討を行った。また、波崎海洋研究施設では、荒天時における砕波帯内での漂砂機構の解明のための現地観測を行った。
(3)
シルテーションに関する研究
浮泥の堆積による港湾・航路の埋没(シルテーション)の解明のため現地観測を行った。また、数値シミュレーションによる浮泥の堆積特性の把握並びに対策効果に関する検討を行った。
(イ)
港湾における安全確保に関する研究
(1)
海の波に関する研究
港湾における荷役活動の安全と船舶の航行の安全性を確保するために、港内における波と流れを高精度で予測できる数値計算法(NOWT‐PARI)を開発し、関係機関への活用を図った。
また、共振現象によって、大型船の動揺を励起する周期数分の長周期波については、メカニズムを明らかにするとともに、その対策として、港内での長周期波反射率を低減できる「長周期波吸収護岸」を提案した。
高潮については、港湾における高潮の即時的な予測手法に関する検討を行うとともに、台風の気圧分布形状の変形や波浪の影響を考慮できる高潮推算モデルの開発を行って高潮推算をより精度高く行えるようにした。また、台風10号による瀬戸内海における高潮・高波被害や台風14号による大韓民国における甚大な高潮災害の現地調査を行った。
津波については、3次元モデルを組み込んだ数値モデルの開発を行って、構造物周辺における複雑な流れや構造物に作用する津波力を直接的に計算できるようにした。これは、津波防災を考えるときに大切になる沿岸構造物の防護能力を評価する際に必要になる技術である。また、2003年十勝沖地震津波に関して、被災や遡上に関する現地調査、数値計算及びナウファスで観測された沖合津波波形記録を基に津波の伝播過程や沖合から沿岸への増幅の状況を明らかにし、津波のメカニズム解明に貢献した。
(2)
船舶及び浮体構造物の係留に関する研究
港湾内における船舶及び浮体構造物について荒天時の安全な係留や利用時の快適性及び利用性の確保を検討するために動揺シミュレーション手法の改善の検討を行った。特に外洋に面した港湾における長周期波に対する係留船舶の長周期動揺の予測精度の向上及び動揺低減システムの開発の検討を実施した。
独立行政法人電子航法研究所の研究
船舶の航行の安全性向上のため、視界不良時に衝突の危険のある船舶を検知、識別、追跡する「赤外線センサ等による船舶の検知追跡技術に関する研究」を実施した。また、国土交通省から委託を受け、「高度船舶交通管制システムに関する研究」を実施した。

2 海難原因究明のための総合的な調査研究の推進

 海難審判庁では、海難の発生防止に寄与するため、多様なテーマについてより深度化した分析を行っている。平成15年には、「GPSの取扱いが海難発生にかかわった事件の分析」を、また、各管轄区域では、「千葉港「市川水路」における乗揚海難の分析」、「平戸瀬戸における防波堤等衝突海難の分析」、「八重山列島海域の乗揚海難の分析」、「大分県周辺海域で発生した海難の分析」、「視界制限状態における旅客船が関連した衝突海難の分析」、「小型漁船(総トン数20トン未満)転覆海難の分析」を発表した。

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