平成19年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第7節 損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第7節 損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進
1 自動車損害賠償保障制度の充実等
自動車損害賠償保障制度は、自動車事故による損害賠償の基本保障を担保する強制保険である自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責保険」という。)、ひき逃げ及び無保険車による事故の被害者に対するてん補を行う政府の自動車損害賠償保障事業(以下「保障事業」という。)、保険料の運用益を活用した被害者救済対策事業及び交通事故防止対策事業(以下「被害者救済対策等」という。)により交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。
平成14年度から18年度の自賠責保険の支払件数及び支払額は、それぞれ5.2%減少、10.2%減少している(第1-23表)。
年度 | 死亡 | 傷害 | 後遺障害 | 合計 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数(件) | 平均支払額 (千円) |
件数(件) | 平均支払額 (千円) |
件数(件) | 平均支払額 (千円) |
件数(件) | 総支払額 (百万円) |
|
平成14年度 | 9,080 | 23,759 | 1,203,363 | 399 | 60,821 | 4,514 | 1,273,264 | 970,889 |
15 | 8,567 | 24,092 | 1,212,507 | 397 | 65,397 | 4,343 | 1,286,471 | 972,085 |
16 | 7,986 | 23,882 | 1,190,626 | 399 | 62,190 | 4,322 | 1,260,802 | 935,080 |
17 | 7,491 | 23,761 | 1,192,342 | 400 | 57,637 | 4,439 | 1,257,470 | 910,596 |
18 | 6,776 | 24,233 | 1,144,636 | 399 | 56,089 | 4,480 | 1,207,501 | 871,908 |
|
- (1)自動車損害賠償責任保険(共済)の充実等
- 自賠責保険では、被害者保護の充実が図られるよう、国による死亡等重要事案に関する支払審査のほか、保険会社等による被害者等に対する情報提供措置の義務付け、公正中立な紛争処理機関による紛争処理の仕組みの整備など、被害者を保護する措置がとられている。
これにより、保険金の適正な支払の確保や、保険金支払をめぐる紛争処理の迅速かつ適正な解決による被害者保護の増進を図っているところである。なお、指定紛争処理機関である(財)自賠責保険・共済紛争処理機構による平成18年度の紛争処理件数は574件となっている。
なお、自賠責保険の保険金限度額は、死亡の場合は3,000万円、介護を要する重度後遺障害者について、常時介護を要する者は4,000万円、随時介護を要する者は3,000万円となっている。
また、被害者保護の増進、自動車事故の発生の防止が安定的に行われるよう、自動車損害賠償保障法(昭30法97)による自動車事故対策計画に基づき、補助等を行っている。 - (2)政府の自動車損害賠償保障事業の充実
- 自賠責保険による救済を受けられないひき逃げや無保険車による事故の被害者に対しては、政府の保障事業が被害者に損害のてん補を行い、その救済を図っている。
この保障事業は、自賠責保険料に組み込まれた賦課金等を財源としており、損害てん補の限度額は自賠責保険と同一である。平成18年度の保障事業による保障金の支払額は、ひき逃げ3,065件及び無保険644件(計3,709件)に対し、約51億9,579万円(死亡118人、傷害3,591人に対してそれぞれ25億3,464万円及び26億6,115万円)である。 - (3)無保険(無共済)車両対策の徹底
- 自賠責保険は自動車の保有者等が加入を義務付けられている強制保険であるが、特に車検制度がない原動機付自転車及び軽二輪自動車において、期限切れによる無保険車両が発生している。
このため、国土交通省において、都道府県ごとに無保険車指導員を配置し、街頭で無保険車両の保有者等へ指導を実施することにより、自賠責保険への加入の徹底を図った。
また、かけ忘れを防止するため、自賠責保険契約期限経過後、再契約の締結が確認できない原動機付自転車等の所有者に対し、再契約を促す通知書を発送した。 - (4)任意の自動車保険(自動車共済)の充実等
- ア
- 任意の自動車保険
平成10年7月の保険料率の自由化後、人身傷害補償保険を始め多様な保険商品の開発・導入が進み、補償内容・損害時の対応・保険料水準等について、契約者が自身のニーズにあった保険商品を選択することが可能となっている。
対人賠償保険については、平成18年度に契約された契約金額別構成比が、2,000万円までのもの0.2%、2,000万円を超え5,000万円までのもの0.3%、5,000万円を超え1億円までのもの0.8%、1億円を超えるもの98.7%(うち無制限のもの98.7%)となっており、契約金額の高額化が進んでいる。
なお、平成18年度に自動車保険(任意)の保険金が支払われた死亡事故の賠償額は、平均3,642万円となっている。(第1-24表)。 - イ
- 任意の自動車共済
任意の自動車保険の他、消費生活協同組合法(昭23法200)に基づく生活協同組合などで任意の自動車共済を実施している。
年度 | 死者数(人) | 平均賠償額(万円) |
---|---|---|
平成14年度 | 3,848 | 3,679 |
15 | 3,792 | 3,619 |
16 | 3,628 | 3,688 |
17 | 3,590 | 3,675 |
18 | 3,297 | 3,642 |
|
2 損害賠償の請求についての援助等
- (1)交通事故相談活動の推進
- 交通事故被害者救済対策の一環として地方公共団体の交通事故相談活動の推進を図るため、相談員としての基本的な心構えや知識の習得を目的とした「交通事故相談員中央研修会(初任者コース)」を開催した。
さらに、被害者等からの相談に対する相談員の対応能力を向上させるため、弁護士・心理カウンセラー等の専門的な知識・経験を有する者をアドバイザーとして都道府県・政令指定都市の交通事故相談所へ派遣、相談員が直接、指導・助言を受けられる体制を整備することにより、相談者への迅速な対応を可能にする「交通事故相談員支援事業(アドバイザー事業)」及び、相談員に対する民事損害賠償問題等に関する研修会の開催、情報誌の発刊を内容とする「交通事故相談員育成事業」をとおして、都道府県・政令指定都市の交通事故相談活動(平成18年度の相談件数は都道府県8万5,899件、政令指定都市1万6,616件の合計10万2,515件)に対する支援を行い、交通事故被害者等の福祉の向上に寄与した(第1-25表)。
項目 | 平成14年度 | 15年度 | 16年度 | 17年度 | 18年度 |
---|---|---|---|---|---|
都道府県 | 103,949 | 100,562 | 92,384 | 93,981 | 85,899 |
政令指定都市 | 22,402 | 21,826 | 19,748 | 18,150 | 16,616 |
計 | 126,351 | 122,388 | 112,132 | 112,131 | 102,515 |
注 内閣府資料による。 |
- (2)損害賠償請求の援助活動等の強化
- ア
- 警察における交通相談の積極化
交通事故被害者に対する適正かつ迅速な救済の一助とするため、救済制度の教示や交通相談活動の積極的な推進を図った。 - イ
- 法務省における人権相談
法務省は、全国の法務局、地方法務局及びその支局に開設している常設人権相談所並びに市(区)役所、町村役場、デパート、公民館、公会堂等で臨時に開設する特設人権相談所において、人権相談の一環として交通事故に関する相談に応じ、事件解決のための適切な助言や日本司法支援センター(法テラス)への紹介等を行っている(第1-26表)。 - ウ
- 日本司法支援センター(法テラス)による民事法律扶助業務の推進
平成18年10月から業務を開始した日本司法支援センター(愛称:法テラス)では、交通事故を含めた法的トラブル全般について、コールセンター(0570-078374)を始め全国各地に窓口で問い合わせを受け付け、解決に役立つ法制度やトラブルの内容に応じた適切な相談窓口等の情報を広く提供している。
また、示談交渉や調停手続、民事裁判等において必要な弁護士・司法書士の費用を支払う経済的余裕がない人々には、無料法律相談を行うほか、その費用を立替えるといった民事法律扶助業務による援助を行っている。
平成18年度(平成18年10月2日~平成19年3月末日)に、法テラス・コールセンターに寄せられた交通事故に関する問い合わせは4,533件であり(第1-27表)、民事法律扶助業務における交通事故関係の援助開始(扶助)決定件数は(財)法律扶助協会の実績を含め平成18年度で485件である(第1-28表)。 - エ
- (財)日弁連交通事故相談センターによる交通事故相談活動の強化
(財)日弁連交通事故相談センターは、交通事故の損害賠償に関する無料法律相談等のほか、示談あっ旋を行った。
平成18年度の交通事故相談活動は、延べ8,032回相談所を開所し、延べ3万4,884件の相談に応じた(第1-29表)。 - オ
- (財)交通事故紛争処理センターによる交通事故相談活動の強化
交通事故に関する紛争の適正な処理を図るため、嘱託弁護士による無料法律相談及び和解の斡旋、審査会による審査・裁定業務を行った。
平成18年度は、東京本部のほか、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、高松及び福岡の各支部並びにさいたま市、金沢市の各相談室で2万2,630件の相談に応じ、示談成立は6,185件、うち審査・裁定手続きを経て示談成立に至った事案は549件であった(第1-30表)。
項目 | 平成15年 | 16年 | 17年 | 18年 | 19年 |
---|---|---|---|---|---|
交通事故関係相談件数 | 1,896 | 1,526 | 1,392 | 1,202 | 891 |
注 法務省資料による |
年度(件) | 全問い合わせ件数(A)(件) | 交通事故に関する問い合わせ件数(B)(件) | 比率(B)/(A)(%) |
---|---|---|---|
18年10月~19年3月 | 128,741 | 4,533 | 3.5 |
注 日本司法支援センター資料による。 |
年度 | 援助開始(扶助)決定全事件数(A)(件) | 援助開始(扶助)決定交通事故関係事件数(B)(件) | 比率(B)/(A)(%) |
---|---|---|---|
14 | 37,690 | 401 | 1.1 |
15 | 42,997 | 348 | 0.8 |
16 | 51,463 | 464 | 0.9 |
17 | 59,957 | 475 | 0.8 |
18 | 65,073 | 485 | 0.7 |
|
項目 | 平成14年度 | 15年度 | 16年度 | 17年度 | 18年度 |
---|---|---|---|---|---|
相談所開設回数(回) | 8,001 | 8,161 | 7,956 | 7,972 | 8,032 |
相談件数(件) | 34,215 | 35,113 | 34,353 | 34,848 | 34,884 |
従事弁護士延べ人員(人) | 8,845 | 8,827 | 8,793 | 8,807 | 8,870 |
注 国土交通省資料による。 |
項目 | 平成14年度 | 15年度 | 16年度 | 17年度 | 18年度 |
---|---|---|---|---|---|
相談件数 | 21,863 | 23,281 | 22,529 | 21,718 | 22,630 |
示談成立件数 | 4,709 | 5,412 | 5,820 | 5,754 | 6,185 |
うち審査手続分 | 497 | 562 | 557 | 580 | 549 |
注 (財)交通事故紛争処理センター資料による。 |
3 交通事故被害者支援の充実強化
- (1)自動車事故被害者等に対する援助措置の充実
- ア
- 独立行政法人自動車事故対策機構
独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は、被害者の救済を図るため、次に掲げる業務等を行った。 - (ア)
- 介護料の支給
自動車事故により重度の後遺障害を負い、常時又は随時介護を要する被害者に介護料の支給を行った。また、在宅介護者に対し、短期入院費用を一部助成した。 - (イ)
- 重度後遺障害者療護施設の運営等
自動車事故による脳損傷の重度後遺障害者に対し適切な治療及び養護を行う専門病院である療護センター(千葉、東北、岡山、中部)の運営を行うとともに、在宅介護を受ける重度後遺障害者に対する短期入院の受入れを実施した。
また、現在、設置されている療護センターの空白地域解消のため、その機能を北海道及び九州の一般病院に対し、その機能の一部を委託し、療護センターに入院できない重度後遺障害者の専門的治療、介護の機会の拡充を図った。 - (ウ)
- 自動車事故被害者への情報提供体制の整備
平成19年10月、全国の自動車事故による被害者及びその家族等への支援の充実・強化を図るため、自動車事故に関する法律、損害保険及び紛争処理等に関する各種相談機関の窓口(都道府県、市区町村及び(財)日弁連交通事故相談センター等)を電話により総合的に案内する相談窓口「NASVA交通事故被害者ホットライン」を開設した。(平成20年3月末現在の相談総数は、1,126件) - (エ)
- 貸付業務の実施
自動車事故により死亡した者の遺族又は重度後遺障害が残った者の子弟である義務教育終了前の児童に対する生活資金の無利子貸付業務等の被害者に対する貸付業務を行った。 - イ
- 交通遺児に対する援助
(財)交通遺児育成基金は、自動車事故によって一家の働き手を失った交通遺児に対し、交通遺児家庭の生活基盤を安定させ、交通遺児の健やかな育成に資するため、交通遺児に支払われた損害賠償金等から拠出された資金に、国の補助金と民間団体の援助金を加えて運用し、これを遺児が満19歳に達するまで、年金方式で育成給付金を支給する交通遺児育成基金事業を実施した。
なお、平成18年度末現在における加入遺児総数は1,480人となっている。 - ウ
- 交通安全活動推進センター
都道府県交通安全活動推進センターでは、職員のほか、弁護士、カウンセラー等を相談員として配置し、交通事故の保険請求、損害賠償請求、示談等の経済的被害の回復に関してだけでなく、交通事故による精神的被害の回復に関しても、交通事故被害者、遺族からの相談に応じ、適切な助言を行った。 - (2)交通事故被害者等の心情に配慮した対策の推進
- ア
- 交通事故被害者等の状況
内閣府が平成20年2月及び4月に実施したインターネットモニターに対するアンケート調査では、自分自身または家族が交通事故の被害者になったことがあると答えたものは、どちらも約3割となっており、誰もが交通事故の被害者になりうることが明らかになった(第1-31表)。
選択肢 | 平成20年2月実施 | 同年4月実施 |
---|---|---|
自分自身が被害者になったことがある | 36.00% | 32.10% |
家族が被害者になったことがある | 26.70% | 30.30% |
- また、内閣府が実施した別の調査(注参照。以下の数字は、パネル調査のもの。)では、過去30日間の健康上の問題の有無について、交通事故の被害にあった本人または家族・遺族のうち、64.6%があったと回答しており、そのうち、82.3%は事件が関係していると認識している。過去30日間の精神的な問題や悩みの有無については、78.1%があったと回答しており、そのうち、90.7%は事件が関係していると認識している。
精神的な問題や悩みの解決策については、「自助グループに参加した」が53.3%で最も多く、次いで、「医療機関に通った」が49.3%となっている。
事故直後と比較した状況の変化については、身体的、精神的、経済的な状況のそれぞれについて、悪化傾向にあると回答したものが、42.7%、49.0%、35.4%となっている。
事件から1年以内に受けた二次的被害として、気持ちを傷つけられることが多かったのは、加害者関係者(加害者本人、家族、弁護人等)が77.1%と圧倒的に多く、次いで、捜査や裁判等を担当する機関の職員(警察官、検事、裁判官等)が39.6%となっている。 - (注)「犯罪被害類型等ごとに実施する継続的調査」
平成20年1月から2月にかけて、被害類型別(殺人・傷害等、交通事故、性犯罪)、被害者との関係別(本人、家族、遺族)に、犯罪被害者等の置かれた状況について以下の2種類の方法によりアンケート調査を実施。 - <1> 被害者団体・支援団体を通じて実施するパネル調査
- <2> インターネットモニターを利用したweb調査
- イ
- 交通事故被害者等に対する情報提供の実施
ひき逃げ事件、危険運転致死傷罪に該当する事件、交通死亡事故等の被害者・遺族に対して、事故の概要、捜査状況等についての被害者連絡を適時、適切に実施するとともに、交通事故事件に係る「被害者の手引」、「現場配布用リーフレット」等の配布や各種相談活動によって、被害者等にとって必要な情報の提供に努めた。また、交通死亡事故等を起こした加害者に対する行政処分の結果等について被害者等からの問い合わせがあった場合には、適切に回答するなど、被害者等の心情に配意した行政処分制度の運用に努めた。
なお、被害者等通知制度により、交通事犯を含めた刑事事件の被害者等に対し、検察庁から事件の処理結果、公判期日、裁判結果、加害者の刑の執行終了予定時期及び釈放された年月日等を通知してきたところ、平成19年12月1日からは、検察庁、刑事施設、少年院及び保護観察所等が連携し、被害者等からの希望に応じて、判決確定後の加害者及び保護処分を受けた加害者の処遇状況に関する事項、仮釈放・仮退院審理に関する事項等の通知を実施することとした。
さらに、全国の検察庁に被害者支援員を配置し、被害者からの様々な相談への対応、法廷への案内、付添い、各種手続の手助けをするほか、被害者等の状況に応じて精神面、生活面、経済面等の支援を行っている関係機関や団体等を紹介するなどの支援活動を行うとともに、犯罪被害者保護制度について分かりやすく説明したパンフレットを検察庁等に備え付けるなどの支援業務を行った。
このほか、被害者等に対する不起訴事件記録の開示についても弾力的な運用を図った。 - ウ
- 交通事故被害者等の声を反映した講習等の推進
運転免許に関する各種講習において、被害者等の手記集やビデオを活用するほか、被害者等の講話を取り入れるなどにより、講習において被害者等の声を反映させ、交通事故の悲惨さを受講者に効果的に理解させる施策の推進を図った。また、被害者等の手記を取りまとめた資料等については、交通安全推進団体等にも配布し、交通事故の悲惨さの紹介に努め、交通事故の惨状等に関する国民の理解増進を図った。 - エ
- 交通事故被害者サポート事業の実施
交通事故被害者の自立を支援する立場にある者の技術を向上させるとともに、交通事故被害者の自助グループに対する支援を行う「交通事故被害者サポート事業」を実施した。
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