平成21年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第1節 道路交通環境の整備

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

第1節 道路交通環境の整備

1 道路及び交通安全施設等の現況

(1)道路の現況

 我が国の道路は、平成20年4月1日現在で実延長120万3,777キロメートルである。国土交通省では、安全で円滑な道路交通環境を確保するため、高規格幹線道路を始めとする道路ネットワークの体系的な整備を進めており、道路種別ごとの現況は、以下のとおりである。

高規格幹線道路
高規格幹線道路は、全国的な自動車交通網を形成する自動車専用道路網のうち、道路審議会答申(昭62)に基づき建設大臣が定めたもので、高速自動車国道、本州四国連絡道路、一般国道の自動車専用道路により構成される。
(ア)
高速自動車国道
高速自動車国道については、平成21年度に新たに131キロメートルの供用を開始し、22年3月末現在の供用延長は7,787キロメートルとなっている。
(イ)
一般国道の自動車専用道路
一般国道の自動車専用道路(本州四国連絡道路を含む。)については、平成22年3月末現在の供用延長は1,184キロメートルとなっている。
地域高規格道路
地域高規格道路は、全国的な高規格幹線道路と一体となって規格の高い幹線道路網を形成するものであり、平成6年に路線の指定、10年には路線の追加指定を行い、22年3月末現在、候補路線110路線、計画路線186路線(約6,950キロメートル)、供用延長は1,949キロメートルとなっている。
都市高速道路
都市高速道路は、大都市圏における円滑な道路交通を確保するために建設されているものであり、地域高規格道路の一部を構成するものである。平成22年3月末現在の供用延長は、首都高速道路299キロメートル、阪神高速道路242キロメートル、名古屋高速道路69キロメートル、広島高速道路14キロメートル、福岡高速道路52キロメートル及び北九州高速道路50キロメートルとなっている。
その他の一般道路
一般国道、主要地方道及び一般都道府県道として分類される道路の実延長は、平成20年4月1日現在18万4,129キロメートルとなっており、自動車交通の大部分(全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)によると、総走行台キロの6割程度)を受け持っている。
これに市町村道を加えると119万6,217キロメートルとなり、その改良率(幅員5.5メートル以上。以下同じ。)及び舗装率(簡易舗装を含む。以下同じ。)はそれぞれ58.8%、79.7%である。
(ア)
一般国道
一般国道の道路実延長は5万4,736キロメートル、改良率、舗装率はそれぞれ91.3%、99.4%である。
(イ)
主要地方道等
主要地方道(国土交通大臣の指定する主要な都道府県道又は市道)の道路実延長は5万7,890キロメートル、改良率、舗装率はそれぞれ76.6%、98.0%である。主要地方道以外の一般都道府県道については7万1,503キロメートルで、それぞれ60.2%、95.1%である。一般国道や主要地方道に比して、主要地方道以外の一般都道府県道の整備水準は低くとどまっている。
(ウ)
市町村道
市町村道の道路実延長は101万2,088キロメートル、改良率(幅員5.5メートル未満を含む。)、舗装率は、それぞれ55.9%、76.5%であり、その整備水準は最も低くなっている

(2)交通安全施設等の現況

 交通安全施設等は、都道府県公安委員会及び道路管理者がそれぞれ整備を行っており、平成21年3月末現在の整備状況は次のとおりである。

都道府県公安委員会が整備する施設
(ア)
交通管制センター
交通管制センターは、全国の主要75都市に設置されている。主な業務としては、信号機、道路標識及び道路標示の操作その他道路における交通の規制を広域にわたって総合的に行うとともに、道路交通に関する情報を収集・分析し、運転者等の道路利用者に提供している。また、隣接都府県の交通管制センターと連携し、必要に応じて交通情報の交換を行うことにより、迅速かつ的確な交通情報を提供している。
(イ)
信号機
信号機の設置基数は約19万8千基であり、その35.5%に当たる約7万基が交通管制センターで直接制御されている。なお、信号機のうち、押ボタン式信号機は約3万基であり、音響信号機、高齢者等感応信号機、歩行者感応信号機等のバリアフリー対応型信号機は、約3万2千基である。
※バリアフリー
高齢者や障害者等が社会生活をしていく上で障壁となっているもの(段差等)がない状態。
信号機については、集中制御化、系統化、感応化等の高度化を計画的に推進しており、交通の状況に的確に対応するため、青の時間配分の見直し、調整等を適宜行った。
また、交通実態に応じた信号機の運用等に努めるとともに、常時点検を実施し、故障等を早期に把握し修理を行うなど適正な保全管理に努めた。
(ウ)
交通情報提供装置
安全・快適な道路交通環境の整備を図ることを目的として、新交通管理システム(UTMS)構想に基づき交通管制センターの高度化、光ビーコン、交通情報板等の交通情報提供装置の整備を図った。
※光ビーコン
通過車両を感知して交通量等を測定するとともにカーナビゲーション装置等と交通管制センターとの情報のやりとりをする路上設置型の赤外線通信装置。
(エ)
道路標識及び道路標示
都道府県公安委員会が設置し、管理する規制標識及び指示標識は約1,007万枚で、そのうち主要幹線道路における標識の視認性の向上等を図るための路上式の大型標識(灯火式、反射式又は自発光式)は、約64万枚である。
道路管理者が整備する施設
(ア)
歩道等
歩行者・自転車・自動車の異種交通を分離することにより、歩行者、自転車利用者等の安全と快適性を確保し、併せて、道路交通の円滑化に資するため、歩道等の整備を推進しており、その整備のべ延長は24万5,939キロメートルである。
また、安全で快適な歩行空間の拡大を図るため、歩道等の整備に際しては、高齢者や障害者等が安心して社会参加できるよう、幅が広く使いやすい歩道等の整備、既設歩道の段差の解消、勾配の改善、視覚障害者誘導用ブロックの設置等の措置を講じた。
(イ)
立体横断施設
横断歩道橋及び地下横断歩道は、歩行者等と車両を立体的に分離することにより、歩行者の安全確保とともに、自動車交通の安全かつ円滑な流れを確保するものである。
また、高齢者や障害者等の利用の多い駅やその周辺等において、必要に応じてスロープ付や昇降装置の付いた立体横断施設の整備を行うなど利用者の利便性の向上を図った。
※スロープ
傾斜、勾配などのこと。
(ウ)
道路照明
道路照明は、連続して設置することにより路面を明るくし、自動車を安全に走行させるとともに、道路の線形を明示して交通を誘導する効果があるほか、横断歩道等の交通事故の多発するおそれがある箇所に部分的に設置することにより、特殊な箇所の存在を明示する効果がある。
(エ)
防護さく
車両の路外逸脱を防止するとともに、視線を誘導することにより交通の誘導を行い車両を安全に走行させ、また、歩行者が歩道から路外に転落することを防止するため、防護さくを約19万キロメートル分設置している。
(オ)
道路標識
案内標識については、初めて訪れる観光客や外国人など、すべての道路利用者の安全かつ円滑な移動に資する施設であり、主要な幹線道路の交差点及び交差点付近におけるルート番号等を用いた案内標識の設置や、高齢者、身体障害者等を含む歩行者の安全かつ円滑な移動を確保する地図標識等の整備を図った。
(カ)
道路情報提供装置
道路交通情報をリアルタイム(即時)に提供する道路交通情報通信システム(VICS)については、ビーコンを3,042基設置・運用しており、異常気象時の道路状況に関する情報等(都市間のルート選択に資する情報を含む。)を迅速かつ的確に提供するため、道路情報板2万2,796基を設置・運用している。
また、カーラジオを通してドライバーに道路の状況に関する情報を提供する路側通信システムを全国430区間で設置・運用している。さらに、安全で円滑な道路交通を確保するため、高速道路等に、情報ターミナル等を設置している。
※情報ターミナル
高速道路の休憩室内に設置され、道路交通情報、行先別経路案内等情報を提供する装置。

2 人優先の安全・安心な歩行空間の整備

 地域の協力を得ながら、通学路、生活道路、市街地の幹線道路等において、歩道を積極的に整備するなど、「人」の視点に立った交通安全対策を推進した。

(1)通学路等の歩道整備等の推進

 小学校、幼稚園、保育所及び児童館等に通う児童や幼児の通行の安全を確保するため、通学路等の歩道整備等を積極的に推進した。
 このほか、押ボタン式信号機、歩行者用灯器等の整備、立体横断施設の整備、横断歩道等の拡充により、通学路、通園路の整備を図った。

(2)生活道路における交通安全対策の推進

 平成21年3月に「あんしん歩行エリア」として指定した582地区の歩行者・自転車死傷事故発生割合の高い住居系又は商業系地区において、都道府県公安委員会及び道路管理者が連携して、歩道整備を始めとした面的かつ総合的な事故抑止対策を実施した。
 都道府県公安委員会においては、エリア内の生活道路を中心に、信号灯器のLED化、道路標識・道路標示の高輝度化、路側帯の設置・拡幅等の安全対策を、また、エリアの外周にある幹線道路を中心に信号機の高度化、光ビーコン、交通情報板等によるリアルタイムの交通情報提供等の交通流円滑化対策を実施した。さらに、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平18法91。以下「バリアフリー新法」という。)の重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路を中心に音響信号機、高齢者等感応信号機、歩行者感応信号機、歩行者と車両の通行を時間的に分離して歩行者と自動車との事故を防止する歩車分離式信号機等のバリアフリー対応型信号機の整備等を推進した。
 道路管理者においては、歩道の整備等により、安心して移動できる歩行空間ネットワークを整備する経路対策、ハンプ、シケイン等車両速度を抑制する道路構造等により、歩行者や自転車の通行を優先するゾーンを形成するゾーン対策、交差点の改良等により外周幹線道路の通行を円滑化し、エリア内への通過車両を抑制する外周道路対策を推進した。

※ハンプ

車両の低速走行等を促すための道路に設ける盛り上がり(凸部)のこと。

※シケイン

車両通行領域の線形をジグザグまたは蛇行させて低速走行を促すもの。

 また、「あんしん歩行エリア」以外の生活道路においても、歩道を積極的に整備するほか、「生活道路事故抑止対策マニュアル」を活用するなどして都道府県公安委員会と道路管理者が連携し、自動車の速度の抑制、道路の形状や交差点の存在の運転者への明示、歩車それぞれの通行区分の明示等を進め、歩車が共存する安全で安心な道路空間を創出するための取組を推進するなど、交通事故抑止のための施策を実施した。

※生活道路事故抑止対策マニュアル

生活道路における交通事故抑止対策を効果的に推進することができるようにするため、その手順や道路交通環境の整備手法等を体系的にまとめたもの。

(3)バリアフリー化を始めとする歩行空間等の整備

歩行者及び自転車利用者の安全で快適な通行を確保するため、歩行者等の交通事故が発生する危険性の高い区間等について、改築事業等による整備と併せて歩道及び自転車道等の整備を引き続き重点的に実施した。その際、快適な通行空間を十分確保した幅の広い歩道の整備に努めた。
また、通過車両の進入を抑え、歩行者等の安全確保と生活環境の改善を図るため、コミュニティ道路、歩車共存道路等の整備を推進するとともに、道路標識の高輝度化・大型化・可変化・自発光化、標示板の共架、設置場所の統合・改善、道路標示の高輝度化等(以下「道路標識の高輝度化等」という。)を行い、見やすく分かりやすい道路標識・道路標示とするなど視認性の向上を図った。
※コミュニティ道路
歩車分離を図るとともに自動車の走行速度を低減させる道路構造を採用することで、安全で快適な歩行空間の形成を図った道路。車道をジグザグにする「クランク」や車道の一部を盛り上げる「ハンプ」等を整備する。
※歩車共存道路
歩道等の設置が困難な場所において、ハンプや狭さく等を組み合わせることにより車の速度を抑制し、歩行者等の安全な通行を確保する道路。
高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保するため、バリアフリー新法に基づき、駅、官公庁施設、病院等を相互に連絡する道路について、平坦性が確保された幅の広い歩道を積極的に整備した。
このほか、バリアフリー対応型信号機、昇降装置付立体横断施設、歩行者用休憩施設、自転車駐車場、障害者用の駐車ます等を有する自動車駐車場等を整備するとともに、無電柱化を推進した。併せて、高齢者、障害者等の通行の安全と円滑を図るとともに、高齢運転者の増加に対応するため、信号灯器のLED化、道路標識の高輝度化等を推進した。
また、駅前等の交通結節点において、エレベーター等の設置、スロープ化や建築物との直結化が図られた立体横断施設、交通広場等の整備を推進し、歩きたくなるような安全で快適な歩行空間を積極的に確保した。
特に、バリアフリー新法の重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路においては、公共交通機関等のバリアフリー化と連携しつつ、誰もが歩きやすい幅の広い歩道、バリアフリー対応の立体横断施設、道路横断時の安全を確保する機能を付加したバリアフリー対応型信号機等の整備が面的かつネットワークとして行われるよう配慮した。
また、バリアフリー歩行空間が有効に利用されるよう、高齢者を始めとする歩行者等に対して、視覚障害者誘導用ブロック、歩行者用の案内標識、バリアフリーマップ等により、公共施設の位置や施設までのバリアフリー経路等を適切に案内した。
新たな違法駐車対策法制の下で、横断歩道、バス停留所付近の悪質性、危険性、迷惑性の高い駐車違反に対する取締りを強化した。
また、高齢者、障害者等の円滑な移動を阻害する要因となっている歩道や視覚障害者誘導用ブロック上等の自動二輪車等の違法駐車についても、放置自転車等の撤去を行う市区町村と連携を図りつつ積極的な取締りを推進した。
冬期の安全で快適な歩行空間を確保するため、中心市街地や公共施設周辺等における除雪の充実や消融雪施設の整備等の冬期バリアフリー対策を実施した。

3 道路ネットワークの整備と規格の高い道路の利用促進

 基本的な交通の安全を確保するため、高規格幹線道路から居住地域内道路に至るネットワークによって適切に機能が分担されるよう道路の体系的整備を推進するとともに、他の交通機関との連携強化を図る道路整備を推進した。また、一般道路に比べ安全性が高い高規格幹線道路の利用促進を図った。

(1)適切に機能分担された道路網の整備

自動車、自転車、歩行者の異種交通を分離し、交通流の純化を促進するため、高規格幹線道路から居住地域内道路に至るネットワークを体系的に整備するとともに、歩道や自転車走行空間の整備を積極的に推進した。
一般道路に比較して死傷事故率が低く安全性の高い高規格幹線道路、地域高規格道路等の整備を推進し、より多くの交通量を分担させることによって道路ネットワーク全体の安全性を向上させた。
通過交通の排除と交通の効果的な分散により、都市部における道路の著しい混雑、交通事故の多発等の防止を図るため、バイパス及び環状道路等の整備を推進した。
「あんしん歩行エリア」等においては、通過交通をできる限り幹線道路に転換させるなど道路機能の分化により生活環境を向上させるため、補助的な幹線道路、区画道路、歩行者専用道路等の系統的な整備、区画道路におけるコミュニティ道路や歩車共存道路等の整備などを総合的に実施した。
国民のニーズに応じた効率的な輸送体系を確立し、道路混雑の解消等円滑な交通流が確保された良好な交通環境を形成するため、道路交通、鉄道、海運、航空等複数の交通機関の連携を図るマルチモーダル施策を推進し、鉄道駅等の交通結節点、空港、港湾の交通拠点へのアクセス道路の整備等を実施した。

(2)改築による道路環境の整備

 交通事故の多発等を防止し、安全かつ円滑・快適な交通を確保するため、次の方針により道路の改築事業を強力に推進した。

歩行者及び自転車利用者の安全と生活環境の改善を図るため、歩道等を設置するための既存道路の拡幅、小規模バイパスの建設と併せた道路空間の再配分、自転車の通行を歩行者や車両と分離するための自転車道の設置などの道路交通の安全に寄与する道路の改築事業を積極的に推進した。
交差点及びその付近における交通事故の防止と交通渋滞の解消を図るため、交差点のコンパクト化、立体交差化等を推進した。
一般道路の新設・改築に当たっては、交通安全施設についても併せて整備することとし、道路標識、中央帯、停車帯、道路照明、防護さく等の整備を図った。また、歩行者の安全を確保するため必要がある場合には、スロープや昇降装置の付いた立体横断施設の整備を図った。
道路の機能と沿道の土地利用を含めた道路の利用実態との調和を図ることが交通の安全の確保に資することから、交通流の実態を踏まえつつ、沿道からのアクセスを考慮した副道等の整備、植樹帯の設置、路上駐停車対策等の推進を図った。
商業系地区等における歩行者及び自転車利用者の安全で快適な通行空間を確保するため、これらの者の交通量や通行の状況に即して、幅の広い歩道、自転車道、コミュニティ道路、歩車共存道路、車両の通行を禁止又は制限したショッピングモール等の整備を推進した。
交通混雑が著しい都心地区、鉄道駅周辺地区等において、人と車の交通を体系的に分離するとともに、歩行者空間の拡大を図るため、地区周辺の幹線道路、ペデストリアンデッキ、交通広場等の総合的な整備を推進した。
※ペデストリアンデッキ
歩行者を保護するために車道と分離し立体的に設置した歩行者道。
歴史的街並みや史跡等卓越した歴史的環境の残る地区において、自動車交通の迂回を主目的とする幹線道路、地区に集中する観光交通等と歩行者等を分離する歩行者系道路の体系的な整備を推進することにより、歩行者・自転車利用者の安全・快適性の確保を図った。

(3)高規格幹線道路等の利用促進

 一般道路に比べて安全性が高い高規格幹線道路等へ交通の転換を促進し、死傷事故の減少を図った。そのため、高規格幹線道路等のネットワークの整備の推進、インターチェンジの増設等を実施し、高規格幹線道路等をより利用しやすい環境の整備を推進した。

4 交通安全施設等整備事業の推進

 平成21年度は、社会資本整備重点計画に基づき、都道府県公安委員会及び道路管理者が連携し、事故実態の調査・分析を行いつつ、次の方針により計画的かつ重点的に歩道整備を始めとした交通安全施設等整備事業を推進することにより、交通環境を改善し、交通事故の防止と交通の円滑化を図った。
 特定交通安全施設等整備事業としては、公安委員会所管分約451億円、道路管理者所管分約2,770億円を計上し事業を推進した。
 さらに、地方単独事業についても、交通安全対策特別交付金(約738億円)を活用するなどして交通安全対策等の一層の充実を図った。
 なお、事業の実施に当たっては、事故データの客観的な分析による事故原因の検証に基づき、効果的な交通安全対策の実施に努めた。

(1)歩行者等の安全通行の確保

 「あんしん歩行エリア」では、歩道整備を始めとした面的かつ総合的な事故抑止対策を実施し、エリア内の死傷事故の抑止を図った。また、バリアフリー新法に基づき、駅、官公庁施設、病院等を相互に連絡する道路について、バリアフリー対応型信号機の整備や歩道の段差解消、勾配の改善等歩行空間のバリアフリー化を推進した。

(2)幹線道路等における交通の安全と円滑の確保

 平成21年3月に「事故危険箇所」として指定された特に事故の発生割合の高い幹線道路の区間等3,396箇所において、交差点改良や歩道を含めた交通安全施設等を集中的に整備することにより、対策実施箇所の死傷事故の抑止を図った。また、大都市圏等の特に違法駐車が著しい幹線道路において、カラー舗装による駐停車禁止区域の明示、違法駐車抑止システム等の運用等による総合的な駐車対策を推進した。

(3)IT化の推進による安全で快適な道路交通環境の実現

 信号機の高度化等により、死傷事故の抑止、対策実施箇所における通過時間の短縮等を図った。また、光ビーコンの整備拡充、交通管制センターの高度化等のUTMSの推進を図るとともに、情報収集・提供環境の拡充等により、道路交通情報提供の充実等を推進した。

5 効果的な交通規制の推進

 道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路網全体の中でそれぞれの道路の社会的機能、道路の構造、交通安全施設の整備状況、交通流・量の状況等地域の実態等に応じ、既存の交通規制を見直すなど、規制内容をより合理的なものにするよう努め、効果的な交通規制を推進した。

(1)地域の特性に応じた交通規制

 主として通過交通の用に供される道路については、駐停車禁止、転回禁止、指定方向外進行禁止、進行方向別通行区分等交通流を整序化するための交通規制を、また、主として地域交通の用に供される道路については、一方通行、指定方向外進行禁止等を組み合わせ、通過交通を抑制するなど、良好な生活環境を維持するための交通規制を、さらに、主として歩行者及び自転車利用者の用に供される道路については、歩行者用道路、車両通行止め、路側帯の設置・拡幅等歩行者及び自転車利用者の安全を確保するための交通規制を強化した。

(2)安全で機能的な都市交通確保のための交通規制

 安全で機能的な都市交通を確保するため、計画的に都市部における交通規制を推進し、交通流・量の適切な配分・誘導を図った。また、路線バス、路面電車等大量公共輸送機関の安全・優先通行を確保するための交通規制を積極的に推進した。

(3)幹線道路における交通規制

 幹線道路については、交通の安全と円滑化を図るため、道路の構造、交通安全施設の整備状況、交通の状況等を勘案しつつ、速度規制及び追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制等について見直しを行い、その適正化を図った。

(4)高速自動車国道等における交通規制

 高速自動車国道等においては、平成21年中に新たに供用された路線(185.0キロメートル)について、交通安全施設の整備状況、既供用道路における交通規制との斉一性や一般道路との関連性を考慮し、最高速度規制等所要の交通規制を実施した。特に、道路構造上往復の方向に分離されていない二車線の区間(暫定供用区間)については、対向車線へのはみ出しによる正面衝突事故を防止するため、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制等の交通規制を実施した。また、既に供用中の高速道路における交通規制についても、交通実態や交通安全施設の整備状況に応じて見直しを行った(第1-2表)。

第1-2表 高速自動車国道本線の最高速度規制状況

 このほか、天候不良時や交通事故、交通渋滞及び道路工事等の場合にも、高速道路の交通の安全と円滑を確保するため、最高速度規制、通行止め規制等の臨時交通規制を迅速かつ的確に実施した。また、大規模交通障害発生時においては、迅速的確な交通規制の実施、交通情報の提供等により、派生事故の抑止やう回誘導に努めた(第1-3表)。

第1-3表 高速自動車国道等における臨時交通規制実施状況

6 地域住民等と一体となった道路交通環境の整備

 道路交通の安全は道路利用者の生活、経済・社会活動に密接に関係するため、対策の立案に当たって地域住民や道路利用者の意見を十分反映させる必要がある。
 また、地域によって道路環境や道路利用の実態及び交通の状況が異なることから、地域の実情を踏まえた道路交通環境の整備を行った。

(1)道路交通環境整備への住民参加の促進

 安全な道路交通環境の整備に当たっては、道路を利用する人の視点を生かすことが重要であることから、地域住民や道路利用者の主体的な参加の下に交通安全施設等の点検を行う交通安全総点検を積極的に推進し、また、道路利用者等が日常感じている意見を受け付ける「標識BOX」、「信号機BOX」、「道の相談室」等を活用することにより、交通安全施設等の適切な維持管理等の道路交通環境の整備に反映した。

※標識BOX

はがき、インターネット等を利用して、運転者等から道路標識等に関する意見を受け付けるもの。

※信号機BOX

はがき、インターネット等を利用して、運転者等から信号機に関する意見を受け付けるもの。

 また、交通の安全は、住民の安全意識により支えられることから、安全で良好なコミュニティの形成を図るために、交通安全対策に関して住民が計画段階から実施全般にわたり積極的に参加できるような仕組みをつくり、行政と市民の連携による交通安全対策を推進した。
 さらに、安全な道路交通環境の整備に係る住民の理解と協力を得るため、事業の進ちょく状況、効果等について積極的に公表した。

(2)総合的・集中的な対策の実施

 外周を幹線道路に囲まれているなど、まとまりのある住区や中心市街地、商店街の街区などにおいて、地域住民の主体的参加の下、地域の課題について創意工夫や合意形成を図りながら、歩道の整備、一般車両の地区内への流入抑制、無電柱化や緑化等の総合的な取組を実施し、人優先の安全・安心な賑わいのあるまちやみちを実現するため、意欲のある市町村や自ら実践しようとする住民団体等に対し、合意形成支援等のソフト面を含めた支援を行った。
 また、歩行者優先の道路、歩行空間のバリアフリー化、無電柱化、自転車利用環境の整備などの施策を展開していくため、人にやさしい街・みちづくりのためのモデル地区を構築した。

7 効果的で重点的な事故対策の推進

 特に交通の安全を確保する必要がある道路について、社会資本整備重点計画に基づき、交通安全施設等を重点的に整備し、安全かつ円滑・快適な交通環境の確立を図った。また、交通事故対策の重点化を図るとともに、事故データの客観的な分析による事故原因の検証に基づき、歩道整備等の事故対策の立案を推進した。

(1)交通事故対策の重点実施

 幹線道路では交通事故が特定の区間に集中していることから、より効果的・効率的に交通事故を削減するため、「優先度明示方式」により、事故の発生割合の高い区間において、歩道整備等の交通事故対策を重点的に実施した。

※優先度明示方式

効果的・効率的に事業を進めるため、対策の必要性を示す客観的データを課題の高い順に並べて優先的に対策を実施すべき箇所を明示する方式。

(2)事故危険箇所対策の推進

 事故危険箇所について、都道府県公安委員会及び道路管理者が連携して、信号機の新設・高度化、歩者分離式信号の運用、道路標識の高輝度化等、歩道等の整備、交差点改良、視距の改良、付加車線等の整備、中央帯の設置、バス路線等における停車帯の設置及び防護さく、区画線等の整備、道路照明・視線誘導標等の設置等による集中的な事故抑止対策を推進した。

(3)科学的分析に基づく事故対策の推進

 事故危険箇所等において、科学的分析に基づく事故対策を推進するため、「交通事故対策・評価マニュアル」及び「交通事故対策事例集」を個別の事故対策の立案・実施及び評価に活用するとともに、実施された事故対策の情報を蓄積し、「交通事故対策・評価マニュアル」及び「交通事故対策事例集」にフィードバックし、その充実を図った。

※交通事故対策・評価マニュアル

事故多発地点緊急対策事業等これまでの事故対策の結果を基に、対策の立案から評価までの手順や留意点等を体系的にまとめたもの。

※交通事故対策事例集

事故多発地点のうち557か所における事故要因分析結果、事故対策事例を収集し、道路特性や事故類型ごとに、事故要因並びにそれに対応した事故対策について分析し、その結果を事例集としてまとめたもの。

(4)連絡会議等の活用

 「道路交通環境安全推進連絡会議」やその下で開催される「アドバイザー会議」を活用し、学識経験者のアドバイスを受けつつ施策の企画、評価、進行管理等に関して協議を行い、的確かつ着実に安全な道路交通環境の実現を図った。

(5)交通安全施設等の整備

道路の構造及び交通の実態を勘案して、交通事故が発生する危険性が高い場所等に信号機を設置した。また、既存の信号機については、交通状況の変化に合理的に対応できるように、集中制御化、系統化、速度感応化、多現示化、右折感応化等の高度化を推進した。特に、幹線道路で夜間等横断交通が極めて少なくなる場所については、信号機の閑散時半感応化、閑散時押ボタン化を推進した。
道路の構造、交通の状況等に応じた交通の安全を確保するために、道路標識の高輝度化等の交通安全施設等の整備を推進したほか、交通事故発生地点を容易に把握し、速やかな事故処理及び的確な事故調査が行えるようにするとともに、自動車の位置や目的地までの距離を容易に確認できるようにするためのキロポスト(地点標)の整備を推進した。また、見通しの悪いカーブで、対向車が接近してくることを知らせる対向車接近システムの整備を推進するとともに、幹線道路の単路における速度超過による事故を防止するための高速走行抑止システムを整備した。さらに、依然として多発している夜間死亡事故に対処するため、道路照明・視線誘導標等の設置による夜間事故対策を推進した。

(6)地域に応じた安全の確保

 交通の安全は、地域に根ざした課題であることから、沿道の地域の人々のニーズや道路の利用実態、交通流の実態等を把握し、その特性に応じた道路交通環境の整備を行った。
 また、積雪寒冷特別地域においては、冬期の安全な道路交通を確保するため、冬期積雪・凍結路面対策として適時適切な除雪や凍結防止剤散布の実施、交差点等における消融雪施設等の整備、流雪溝、チェーン着脱場等の整備を実施した。
 さらに、安全な道路交通の確保に資するため、気象、路面状況等を収集し、道路利用者に提供する道路情報提供装置等の整備を推進した。

(7)交通事故多発地域における重点的交通規制

 交通事故の多発する地域、路線等においては、最高速度の指定、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止等の効果的な交通規制を重点的に実施した。

(8)重大事故の再発防止

 社会的に大きな影響を与える重大事故が発生した際には、速やかに当該箇所の道路交通環境等事故発生の要因について調査するとともに、発生要因に即した所要の対策を早急に講ずることにより、当該事故と同様な事故の再発防止を図った。

8 高速自動車国道等における事故防止対策の推進

 高速自動車国道等においては、緊急に対処すべき交通安全対策を総合的に実施する観点から、交通安全施設等の整備を計画的に進めるとともに、渋滞区間における道路の拡幅等の改築事業、適切な道路の維持管理、道路交通情報の提供等を積極的に推進し、安全水準の維持、向上を図った。

(1)事故削減に向けた総合的施策の集中的実施

 安全で円滑な自動車交通を確保するため、事故の多い地点等、対策を実施すべき箇所について事故の特徴や要因を分析し、箇所ごとの事故発生状況に対応した交通安全施設等の整備を実施した。
 中央分離帯の突破による重大事故のおそれがある箇所について中央分離帯強化型防護さくの設置の推進を図るとともに、雨天時の事故を防止するための高機能舗装、夜間の事故を防止するための高視認性区画線の整備等の各種交通安全施設の整備を実施した。また、道路構造上往復の方向に分離されていない二車線の区間(暫定供用区間)については、対向車線へのはみ出しによる重大事故を防止するため、高視認性ポストコーン、高視認性区画線の設置による簡易分離施設の視認性を向上させたほか、凹凸型路面標示の設置、簡易分離施設の高度化や四車線化に伴う中央分離帯の設置等分離対策の強化を行うなどの交通安全対策を実施した。また、近年、高齢者等による逆走事故が多発していることから、道路管理者と協力して道路標識・標示の改良、逆走防止装置の設置などを行ったほか、関係機関・団体と協力して広報啓発活動や参加・体験・実践型の交通安全教育を推進した。
 さらに、事故発生後の救助・救急活動を支援する緊急開口部の整備等も併せて実施するとともに、高速自動車国道におけるヘリコプターによる救助・救急活動を支援した。

(2)安全で快適な交通環境づくり

 過労運転やイライラ運転を防止し、安全で快適な自動車走行に資するより良い走行環境の確保を図るため、本線拡幅、事故や故障による停車車両の早期撤去、上り坂での速度低下に対する注意喚起などの情報提供等による渋滞対策、休憩施設の混雑緩和等を推進した。あわせて、多様化する道路利用者のニーズにこたえるため、携帯電話、インターネット等広く普及している情報通信を活用してリアルタイムに道路交通情報提供を行う利用者サービスの向上等を推進した。

(3)高度情報技術を活用したシステムの構築

 道路利用者の多様なニーズにこたえ、道路利用者へ適切な道路交通情報等を提供する道路交通情報通信システム(VICS)等の整備・拡充を図るなど、高度道路交通システム(ITS)の整備を推進した。

9 高度道路交通システムの活用

 最先端の情報通信技術(IT)等を用いて、人と道路と車とを一体のシステムとして構築し、安全性、輸送効率及び快適性の向上を実現するとともに、渋滞の軽減等の交通の円滑化を通じて環境保全に大きく寄与することを目的としたITSを推進している。そのため、平成8年に策定されたITS全体構想に基づき、産・官・学が連携を図りながら、研究開発、フィールドテスト、インフラ(社会基盤)の整備、普及及び標準化に関する検討等の一層の推進を図るとともに、ITS世界会議等における国際情報交換、国際標準化等の国際協力を積極的に進めた。

※フィールドテスト

実地試験、屋外試験等のこと。

(1)道路交通情報通信システムの整備

 安全で快適な移動を支援するため、渋滞情報、所要時間情報及び規制情報等の道路交通情報をリアルタイムにカーナビゲーション装置へ提供するVICSについて、サービスエリアの拡大、道路交通情報提供の内容の充実、システムの高度化等に向け、ビーコン・通信情報基盤の整備を全国の高速道路や主要都市等において推進した。こうした結果、VICS対応の車載機は、平成21年12月末現在で2,598万台を超えた((財)道路交通情報通信システムセンター調べ)。
 また、より高精度な道路交通情報の収集・提供のため、光ビーコン、スポット通信(5.8GHz帯DSRC)等のインフラの整備を推進するとともに、インフラからの情報を補完するものとして、ITS車載機を活用した自動車からのプローブ情報の収集等について産・官・学の連携の下、検討を進めた。

※プローブ情報

車両の位置・速度や渋滞情報等に関するアップリンクデータ

(2)新交通管理システムの推進

 高度化された交通管制センターを中心に、個々の車両等との双方向通信が可能な光ビーコンを媒体として、交通流・量を積極的かつ総合的に管理することにより、高度な交通情報提供、車両の運行管理、公共車両の優先通行、交通公害の減少、安全運転の支援、歩行者の安全確保等を図り、交通の安全及び快適性を確保しようとするUTMSの構想に基づき、システムの充実、キーインフラである光ビーコンの整備等の施策の推進を図った。
 また、高度な交通情報の提供、信号制御等を行うため、自動車からのプローブ情報を光ビーコンを活用して収集して分析、活用するモデル事業を実施した。
 平成21年9月21日から25日の間にスウェーデン・ストックホルムで開催された「第16回ITS世界会議」において、安全運転支援システム(DSSS)について発表するなど、UTMSの推進状況について紹介した。

(3)交通事故防止のための運転支援システムの推進

 ITSの高度化により交通の安全を高めるため、自動車単体では対応できない事故への対策として、IT新改革戦略に基づき、インフラ協調による安全運転支援システムの実現に向けて、技術開発、実証実験を実施するなど、官民が一体となって推進した。
 具体的には、主要都市の一般道において、路側インフラからの情報に加えて自車の位置、速度等の情報に基づき、車載機が運転者への情報提供の要否及びタイミングを判断し、音声や画像等で運転者に注意を促すDSSSの実用化に向けた取組みを実施した。
 また、首都高速道路及び三大都市圏等の一般道及び高速道路において、ITを活用し、道路と車両が連携してドライバーへ適切に情報を提供することによる注意喚起等により、交通事故を低減し、安全で快適な自動車の走行を支援する走行支援道路システム(AHS)の実証実験を行うなど、交通流の円滑化や安全運転の支援を図るスマートウェイサービスの実用化の推進を行った。
 さらに、平成18年度より産・学・官連携で行っている第4期先進安全自動車(ASV)推進計画において、通信利用型安全運転支援システムの実用化に向け、20年度に実施した安全運転支援システムの公道実証実験等の結果をもとに、システムの効果評価や同システムの課題の整理・検討を行った。
 加えて、この実証実験の一環として、安全運転支援システムに係るこれまでの取組や実験の内容、結果等を広く一般国民に周知するために、安全運転支援システムを体験できる一般ユーザー向けの展示会等を実施した。

(4)スマートウェイの推進

 スポット通信を用いて、これまでカーナビ、VICS、ETCなど個別の車載器により提供されてきた機能に加え、広域化・拡充された交通情報の提供や安全運転支援、観光情報、物流車両の管理などを可能とする新たな機能を1つの車載器で実現するスマートウェイサービスについて、高速道路上を中心に路側機の配備に着手し、本格的なサービスを開始するなど、スマートウェイの推進を積極的に行ってきた。

(5)道路運送事業に係る高度情報化の推進

 環境に配慮した安全で円滑な自動車の運行を実現するため、道路運送事業においてITS技術を活用し、公共交通機関の利用促進に資するバスロケーションシステム・ICカードシステムの導入を推進した。さらに、ITを活用したトラック事業者の運行効率化による環境負荷の低減及び省エネルギー化のための実証実験を積雪地域の札幌市において実施して、道路運送事業に係る高度情報化の推進を図った。

10 円滑・快適で安全な道路交通環境の整備

 安全な道路交通環境の実現に当たっては、道路を円滑・快適に利用できることが必要である。このため、交通管制システムの充実・高度化、信号機の高度化等により、交通の円滑化を図るとともに、休憩場所の提供や分かりやすい道路標識等の整備を進めるほか、道路の使用及び占用の適正化等によって、道路交通の円滑化を図った。

(1)円滑・快適で安全な道路交通環境の整備

交通に関する情報の収集、分析及び伝達並びに信号機の運用等による交通管理を広域的かつ総合的に行うため、交通管制エリアの拡大等交通管制システムの充実・高度化を図った。
幹線道路において、交通の変動実態を的確に把握し、予想される変動に対応した信号制御を行うため、系統化、閑散時押ボタン化・半感応化、多現示化、右折感応化等の信号機の高度化を図った。また、交通流の変動にきめ細かに対応した信号制御等を可能とする交通管制システムの推進を図った。
過労運転による事故防止や近年の高齢運転者等の増加に対応して、都市間の一般道路において追越しのための付加車線や「道の駅」などの休憩施設等の整備を積極的に推進した。
分かりやすく使いやすい道路交通環境を整備し、安全で円滑な交通の確保を図るため、交通監視カメラ、各種車両感知器等の整備、道路・交通等に関する情報(異常気象に関する情報や都市間のルート選択に資する情報を含む。)を迅速かつ的確に提供する道路情報提供装置、交通情報板、路側通信設備等の整備、時間別・車種別等の交通規制の実効を図るための視認性・耐久性に優れた大型固定標識及び路側可変標識の整備並びに利用者のニーズに即した系統的で分かりやすい案内標識及び中央線変移システムの整備を推進した。特に、主要な幹線道路の交差点及び交差点付近において、ルート番号等を用いた案内標識の設置を推進するとともに、地図を活用した多言語表記の実施などにより、国際化の進展への対応に努めた。
また、VICSの整備・拡充を積極的に推進した。

(2)道路の使用及び占用の適正化等

道路の使用及び占用の適正化
工作物の設置、工事等のための道路の使用及び占用の許可に当たっては、道路の構造を保全し、安全かつ円滑な道路交通を確保するために適正な運用を行うとともに、道路使用許可条件の履行、占用物件等の維持管理の適正化について指導した。
不法占用物件の排除等
道路交通に支障を与える不法占用物件等については、実態把握、強力な指導取締りによりその排除を行い、特に市街地について重点的にその是正を実施した。
さらに、道路上から不法占用物件等を一掃するためには、地域における道路の適正な利用についての認識を高める必要があることから、沿道住民等に対して道路占用制度の周知を行った。
なお、道路工事調整等を効果的に行うため、図面を基礎として、デジタル地図を活用し、データ処理を行うコンピュータ・マッピング・システムの段階的な活用の拡大を図った。
道路の掘り返しの規制等
道路の掘り返しを伴う占用工事について、工事時期の平準化及び工事に伴う事故・渋滞の防止のため、関係者間の工事調整による共同施工、年末年始及び年度末の工事抑制等の取組を実施した。
さらに、掘り返しを防止する抜本的対策として共同溝等の整備を推進した。

(3)自転車利用環境の総合的整備

都市構造に応じた都市交通としての自転車の役割と位置付けを明確にしつつ、自転車を歩行者、自動車と並ぶ交通手段の一つとして、安全かつ円滑に利用できる自転車走行空間をネットワークとして整備して自転車と歩行者の安全を確保するなど、総合的な自転車利用環境を整備する必要がある。このため、平成20年1月に国土交通省と警察庁が全国98地区に指定した「自転車通行環境整備モデル地区」において、自転車道、自転車専用レーン等の整備を行い、各種課題とその改善策の検討を進めた。
また、民間有識者による研究会において、将来の自転車走行空間の整備や自転車利用の在り方を検討するとともに、全国5都市においてコミュニティサイクルの導入可能性に関する実証調査を行った。
自転車等の駐車対策については、その総合的かつ計画的な推進を図ることを目的として、自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律(昭55法87)による施策を総合的に推進しており、自転車等駐車対策協議会の設置、総合計画の策定を促進するとともに、自転車等の駐車需要の多い地域及び今後駐車需要が著しく多くなることが予想される地域を中心に、交通安全施設等整備事業、街路事業等による自転車等の駐車場整備事業を推進した。また、大量の自転車等の駐車需要を生じさせる施設について自転車駐車場の設置を義務付ける条例の制定の促進を図っている。
鉄道の駅周辺等における放置自転車等の問題の解決を図るため、自転車等駐車対策協議会の積極的な運営と総合計画の策定の促進を図ること等を通じて、地方公共団体、道路管理者、都道府県警察、鉄道事業者等が適切な協力関係を保持した。また、効率的・総合的な自転車駐車場の整備を推進するとともに、地域の状況に応じ、条例の制定等による駅前広場及び道路に放置されている自転車等の整理・撤去等の推進を図った。
特に、バリアフリー新法に基づき、市町村が定める重点整備地区内における生活関連経路を構成する道路においては、高齢者、障害者等の移動等の円滑化に資するため、自転車の違法駐車に対する取締りの強化、広報啓発活動等の違法駐車を防止する取組及び自転車駐車場の整備を重点的に推進した。
交通の安全を確保し、併せて余暇活動の増大に対応した歴史や自然に親しめる大規模自転車道の整備を推進した。
自転車利用に対する新たなニーズに対応するため、都市内に複数配置されたサイクルポートで自由に自転車を貸出・返却できるコミュニティサイクルの導入を推進した。

11 交通需要マネジメントの推進

 依然として厳しい道路交通渋滞を緩和し、道路交通の円滑化を図るため、バイパス・環状道路の整備や交差点の改良等の交通容量の拡大策、交通管制の高度化等に加えて、パークアンドライドの推進、情報提供の充実、相乗りの促進、時差通勤・通学、フレックスタイム(自由勤務時間)制の導入等により、道路利用の仕方に工夫を求め、輸送効率の向上や交通量の時間的・空間的平準化を図る交通需要マネジメント(TDM)を推進した。併せて広報・啓発活動を行い、その定着化を図った。

※パークアンドライド

都心部へ乗り入れる自家用自動車による交通混雑を緩和するため、郊外の鉄道駅・バスターミナル等の周辺に駐車場を整備し、自動車を駐車(パーク)させ、鉄道・バス等公共交通機関への乗換え(ライド)を促すシステム。

(1)公共交通機関利用の促進

 道路交通混雑が著しい一部の道路について、バス専用・優先通行帯規制の実施、ハイグレードバス停やバス感応式信号機、公共車両優先システム(PTPS)の整備、パークアンドバスライドの導入等バスの利用促進を図るとともに、これらの施策を関係省庁が連携して総合的に実施するオムニバスタウン構想を推進した。

※ハイグレードバス停

バス停の機能を高度化したもので、バス接近表示器(バスロケーションシステム)や上屋、ベンチ等を整備したもの。

※オムニバスタウン構想

バスが有する社会的意義を最大限に発揮した「バスを中心とするまちづくり」に向けた市町村の取組を促進し、安全で暮らしやすい地域の実現を図ろうとするもの。

 また、路面電車、モノレール等の公共交通機関の整備を支援し、鉄道、バス等の公共交通機関への転換による円滑な道路交通の実現を図った。
 さらに、鉄道、バス事業者による運行頻度・運行時間の見直し、乗り継ぎ改善等によるシームレスな公共交通の実現を図ること等により、利用者の利便性の向上を図るとともに、鉄道駅・バス停までのアクセス(交通手段)確保のために、パークアンドライド駐車場、自転車道、駅前広場等の整備を促進し、交通結節機能を強化した。

※シームレス

「継ぎ目のない」の意味。公共交通分野におけるシームレス化とは、乗り継ぎ等の交通機関の「継ぎ目」の交通ターミナル内の歩行や乗降に際しての「継ぎ目」をハード・ソフト両面にわたって解消することにより、出発地から目的地までの移動を全体として円滑かつ利便性の高いものとすること。

(2)自動車利用の効率化

 乗用車の平均乗車人数の増加及び貨物自動車の積載率向上等により効率的な自動車利用を促進するため、自動車相乗りの促進、共同配送システムの構築、車両運行管理システム(MOCS)の運用等による物流効率化等の促進を図った。

(3)交通需要の平準化

 交通需要のピーク時間帯の交通を分散するため、時差通勤・通学及びフレックスタイム(自由勤務時間)制の導入を促進するとともに、道路交通情報の充実を図った。

12 総合的な駐車対策の推進

 違法駐車は、幹線道路等における交通渋滞を悪化させる要因となるだけでなく、交通事故の原因ともなっており、また、歩行者や自転車等の安全な通行の障害となるほか、緊急自動車の活動に支障を及ぼすなど住民の生活環境を害し、国民生活全般に大きな影響を及ぼしている。
 平成21年中の駐車車両への衝突事故の発生件数は、1,513件で、45人が死亡したほか、110番通報された要望・苦情・相談のうち、駐車問題に関するものが18.2%を占めた。

(1)秩序ある駐車の推進

地域住民等の意見・要望を踏まえつつ、道路環境、交通実態、駐車需要等の変化に対応したきめ細かな駐車規制の見直しを図った。また、短時間駐車の需要が高いと認められる道路の部分については、必要に応じて時間制限駐車区間規制を実施した。
違法な駐停車が交通渋滞等交通に著しい迷惑を及ぼす交差点においては、違法駐車抑止システムを活用し、駐停車をしようとしている自動車運転者に対して音声で警告を与えることなどにより、違法な駐停車を抑制して交通の安全と円滑化を図った。
都市部の交通渋滞を緩和するため、特に違法駐車が著しい幹線道路において、きめ細かな駐車規制の実施や駐車対策のための各種システムを運用したほか、違法駐車防止指導員や広報啓発指導員を配置して指導・広報・啓発を行い、悪質性、危険性、迷惑性の高い違法駐車に対する取締りを強化した。

(2)違法駐車対策法制の適切な運用による駐車取締りの推進

 新たな違法駐車対策法制の下、取締り活動ガイドラインに沿ったメリハリのある取締りの推進、駐車監視員による放置車両の確認等に関する事務の円滑な運用、放置違反金制度による使用者責任の追及、悪質な運転者の責任追及の徹底等により、地域の駐車秩序の確立を図った。平成21年中の違法駐車の取締り件数は251万8,006件(告知・送致件数と放置違反金納付命令件数の合計)であった。

(3)駐車場等の確保

 路上における無秩序な駐車を抑制し、安全かつ円滑な道路交通を確保するため、駐車規制及び違法駐車の取締りの推進と併せ、次の施策により駐車環境の整備と有効利用を推進した。

駐車場整備計画の調査を推進し、自動車交通がふくそうする地区等において、駐車場整備地区の指定を促進するとともに、当該地区において計画的、総合的な駐車対策を行うため、駐車場整備計画の策定を推進した。
大規模な建築物に対し駐車場の整備を義務付ける附置義務条例の制定の促進等を行うとともに、戦略的中心市街地商業等活性化支援事業及び中小商業活力向上事業による助成により、商店街等において商店街振興組合等が行う駐車場の整備を促進した(第1-4表)。
第1-4表 駐車場整備状況(平成21年3月末現在)
郊外部からの過剰な自動車流入を抑止し、都心部での交通のふくそうを回避するため、パークアンドライドの普及のための駐車場等の環境整備を推進した。

(4)違法駐車締め出し気運の醸成・高揚

 違法駐車の排除及び自動車の保管場所の確保等に関し、国民への広報・啓発活動を行うとともに、関係機関・団体との密接な連携を図り、地域交通安全活動推進委員の積極的な活用等により、住民の理解と協力を得ながら違法駐車締め出し気運の醸成・高揚を図った。

(5)ハード・ソフト一体となった駐車対策の推進

 特に違法駐車が著しく安全で円滑な道路交通が阻害されている都市内の道路において、駐車場、路上駐車施設、荷さばき停車帯、駐車場案内システム、駐車誘導システム、違法駐車抑止システムの整備やカラー舗装による駐停車禁止区域の明示、きめ細かな駐車規制の実施、重点を指向した違法駐車の取締り、積極的な広報・啓発活動等の駐車対策を推進した。

13 災害に備えた道路交通環境の整備

(1)災害に備えた道路の整備

 地震、津波、豪雨・豪雪等の自然災害が発生した場合において、安全で信頼性の高い道路ネットワークを確保する必要がある。
 このため、大規模地震発生時に被災地の救援活動や緊急物資輸送に不可欠な緊急輸送道路等の橋梁の耐震補強を実施した。
 津波に対しては、津波発生時などにおいて人命の安全確保を図るため、避難に必要な道路の整備を推進した。
 豪雨等の異常気象時においても安全で信頼性の高い道路ネットワークを確保するため、道路の斜面対策や災害のおそれのある区間を回避する道路を整備するとともに、道路の冠水による事故を未然に防ぐため、関係機関等との連携等を図り、適切な道路管理を実施した。また、冬期の安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、道路の除雪・防雪・凍雪害防止事業を実施した。
 さらに、地震等の災害発生時に、避難場所や復旧活動等に活用できる「道の駅」の防災拠点化を推進した。

(2)災害に強い交通安全施設等の整備

 地震、豪雨、豪雪等による災害が発生した場合においても安全な道路交通を確保するため、交通管制センター、交通監視カメラ、各種車両感知器、交通情報板等の交通安全施設の整備及び通行止め等の交通規制を迅速かつ効果的に実施するための道路災害の監視システムの開発・導入、交通規制資機材の整備を推進するとともに、災害発生時の停電に起因する信号機の機能停止による混乱を防止するため、予備電源として自動起動型信号機電源付加装置の整備を推進した。また、オンライン接続された各都道府県警察の交通管制センターからの詳細な交通情報をリアルタイムに警察庁に集約し、それを災害時の広域的な交通管理に活用できるよう警察庁において広域交通管制システムの運用を的確に行った。

(3)災害発生時における交通規制

 災害対策基本法(昭36法223)による通行禁止等の交通規制を的確かつ迅速に行うため、災害の状況や交通規制等に関する情報を提供する交通情報板等の整備を推進した。

(4)災害発生時における情報提供の充実

 災害発生時において、道路の被災状況や道路交通状況を迅速かつ的確に収集・分析・提供し、復旧対策の早期立案や緊急交通路、緊急輸送路等の確保及び道路利用者等への道路交通情報の提供等に資するため、地震計、交通監視カメラ、道路監視カメラ、車両感知器、道路交通に関する情報提供装置・通信施設、道路管理情報システム等の整備を推進するとともに、大規模な地震や火山噴火、豪雨・豪雪等の災害に関し、インターネット等のITを活用した道路の点検結果や被災状況等の災害情報等の提供を推進した。

14 交通安全に寄与する道路交通環境の整備

(1)道路法に基づく通行の禁止又は制限

 道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路の破損、欠壊又は異常気象等により交通が危険であると認められる場合及び道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合には、道路法(昭27法180)に基づき、迅速かつ的確に通行の禁止又は制限を実施した。
 また、危険物を積載する車両の水底トンネル等の通行の禁止又は制限及び道路との関係において必要とされる車両の寸法、重量等の最高限度を超える車両の通行の禁止又は制限に対する違反を防止するため、警察等関係機関と連携し、違反車両の取締りを実施した。

※水底トンネル等

水際にあるトンネルで当該トンネルの路面の高さが水面の高さ以下のもの又は長さ5,000メートル以上のトンネル。

(2)子どもの遊び場等の確保

都市公園の整備
都市における児童の遊び場が不足していることから、路上における遊びや運動による交通事故防止のため、都市公園法(昭31法79)に基づき、街区公園、近隣公園、運動公園等の都市公園の整備を実施している。平成20年度は、都市公園のうち近隣公園等の基幹公園及び緑道の緊急かつ計画的な整備を実施した(第1-5表)。
第1-5表 都市公園の整備状況
交通公園の整備
児童が遊びながら交通知識等を体得できるような各種の施設を設置した交通公園は、全国で開設されており、一般の利用に供されている。
児童館、児童遊園等の整備
児童館及び児童遊園は、児童福祉法(昭22法164)による児童厚生施設であり、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操を豊かにすることを目的としているが、児童の交通事故防止にも資するものである。平成20年10月1日現在、児童館が4,689か所、児童遊園が3,455か所それぞれ設置されている。児童遊園は、児童の居住するすべての地域を対象に、その生活圏に見合った設置が進められており、特に児童の遊び場が不足している場所に優先的に設置されている。
このほか、幼児等が身近に利用できる小規模な遊び場(いわゆる「ちびっ子広場」)等が地方公共団体等により設置されている。
学校等の開放
子どもの安全な遊び場の確保のために、小学校、中学校等の校庭、体育施設等の開放を促進した。

(3)無電柱化の推進

 無電柱化は、これまでの市街地の幹線道路に加えて、安全で快適な通行空間の確保、災害の防止、情報通信ネットワークの信頼性の向上に資する箇所等で推進している。
 また、無電柱化の一層の推進を図るために、従来からの電線共同溝方式に加え、道路の新設や拡幅と一体的に整備を行う同時整備方式や軒下・裏配線方式等の地域の実情に応じたコスト縮減手法を活用し、効率的な整備を推進している。

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