平成21年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第5節 小型船舶等の安全対策の充実

第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第5節 小型船舶等の安全対策の充実

1 ボートパーク、フィッシャリーナ等の整備

(1)ボートパーク等の整備

 放置艇問題を解消し、港湾の秩序ある利用を図るために、既存の静穏水域、遊休護岸等を活用し、必要最低限の施設を備えた簡易な係留・保管施設であるボートパークの整備を推進した。

(2)フィッシャリーナ等の整備

 漁港においては、防波堤や航路泊地等の整備を通じ、漁船等の安全の確保を図るとともに、漁船やプレジャーボート等の秩序ある漁港の利用を図るため、周辺水域の管理者と連携し、プレジャーボート等を分離収容するための新たな静穏水域の確保や、既存の静穏水域を活用した収容施設等の整備を行った。

(3)係留・保管能力の向上と放置艇に対する規制措置

 放置艇問題の解消に向け、ボートパーク等の整備による係留・保管能力の向上と併せて、港湾法(昭25法218)・漁港漁場整備法(昭25法137)に基づく船舶の放置等を禁止する区域の指定等、公共水域の性格や地域の実情などに応じた適切な規制措置の実施を推進した。

(4)「海の駅」の設置・推進

 プレジャーボート利用者が気軽に立ち寄れる「海の駅」の設置・推進を支援し、プレジャーボート利用者が安心してマリンレジャーを楽しむための利用環境整備を図った。

2 漁船等の安全対策の推進

(1)漁船等の安全に関する指導等の推進

 漁船の海難船舶隻数は、全海難船舶隻数に占める割合が多く、平成21年は全体の約3割を占めている。また、船舶海難による死者・行方不明者数のうち約6割を漁船の乗組員が占めている。これら漁船による海難の原因をみると、見張り不十分や操船不適切といった人為的要因によるものが全体の約7割を占めている。
 海上保安庁では、漁船の海難を防止するため、関係省庁と連携の下、地域ごとにきめ細かく海難防止講習会や訪船指導等を実施し、安全意識の高揚・啓発を図るとともに、出漁前の船体や機関等の点検、見張りの励行、インターネットや携帯電話等による気象・海象情報や航行警報等の的確な把握などの安全運航に関する留意事項及び海事関係法令の遵守等について指導等を行った。
 また、関係省庁において目標を共有し、連携・融合した海難防止施策の展開を目指して平成20年2月29日に設置された関係省庁海難防止連絡会議において、今後平成22年までの重点対象事項を「漁船の安全対策の推進」とし、海難防止対策の推進と乗組員の安全確保についての対策をより一層連携して、漁船海難の減少、漁船海難及び漁船からの海中転落による死者・行方不明者の減少を目指すことが決定された。
 さらに、漁船の海難や海中転落事故に対する安全対策の強化を図るため、ライフジャケット着用推進のための普及啓発や安全操業に関する講習会を開催するなど、所要の施策を講じた。

(2)漁船の安全性の確保

 漁船の海難船舶隻数のうち転覆事故は約1割を占めており、また、平成12年に発生した沖合底びき網漁船「第五龍寶丸」転覆沈没事故に見られるように重大海難に至る可能性も大きい。
 今般、漁船の転覆・沈没事故対策として、近年の漁船船型の変化、国際的な復原性基準の動向等を踏まえつつ、漁船に関する復原性基準(損傷時を含む。)の改正を行い、平成21年1月1日から施行した。

3 プレジャーボート等の安全対策の推進

(1)プレジャーボート等の安全に関する指導等の推進

 プレジャーボート等の海難船舶隻数は、全海難船舶隻数に占める割合が最も多く、平成21年は約4割を占めている。プレジャーボート等の海難を防止するためには、マリンレジャー愛好者自らが安全意識を十分に持つことが重要であるため、海上保安庁では海難防止講習会や訪船指導の実施等のあらゆる機会を通じて海難防止思想の普及を図るとともに、小型船安全協会等の民間組織や海上安全指導員などのボランティアの活動に対する支援を行い、啓発活動を主体とした海難防止活動を行うほか、衝突、転覆といった死者・行方不明者及び負傷者を伴うことが多い海難については、現場指導を含めた関係機関等と連携した効果的な海難防止活動を推進した。
 さらに、海上交通ルールの励行、インターネットや携帯電話等による気象・海象や航行警報等の安全に資する情報の早期入手、その他安全運航のための基本的事項の励行等についても、パンフレット等を活用して広く指導を行った。
 警察では、港内その他の船舶交通の多い水域、遊泳客の多い海水浴場、マリンレジャースポーツの利用が盛んな水域等に重点を置いて、警察用船舶により安全指導を行うとともに、警察用航空機との連携によるパトロールや関係団体との協力、連携を図り、マリンレジャー環境の整備、マリンレジャー提供業者に対する安全対策の指導、マリンレジャー利用者等の安全意識の啓発活動等を通じて、水上安全の確保を図った。

(2)プレジャーボート等の建造に関する技術者講習の推進

 プレジャーボート等の建造技術の適正な水準を維持し、船舶の安全性を確保するため、建造技術者を対象とした各種講習会の開催等を推進し、市場ニーズや技術革新等に対応し得る技術者を養成し、その資質の向上を図った。

(3)プレジャーボート等の安全基準、検査体制の整備

 総トン数20トン未満の船舶の検査を実施している日本小型船舶検査機構と連携して、適切な検査の実施に努めるとともに、平成20年度に行ったプレジャーボート等の国際規格となる国際標準化機構(ISO)規格と、国内規則との整合化について関係者に周知を図った。

(4)プレジャーボート等の安全に対する情報提供の充実

 一般船舶やプレジャーボート等に対して、気象・海象の情報、船舶交通の安全に必要な情報等を携帯電話のインターネットや携帯電話等を通じて提供する沿岸域情報提供システムの整備・運用を行った。
 そのほか、マリンレジャー情報提供の窓口としての「海の相談室」及び「マリンレジャー行事相談室」の利用促進を図るとともに、安全に楽しむための情報をホームページ上で提供できるよう情報提供体制の充実・強化を図った。

(5)免許取得者の知識・技能の確保及び小型船舶操縦者の遵守事項の周知・啓発

 簡素・合理化された新小型船舶操縦士免許制度の下で、免許取得者が小型船舶を的確・安全に操縦できるような一定の知識・技能の習得が継続的に図れるように努めた。
 また、船舶職員及び小型船舶操縦者法に基づく小型船舶操縦者の遵守すべき事項(酒酔い等操縦の禁止、危険操縦の禁止、ライフジャケットの着用等)の周知・啓発、違反事項の調査・取締を実施し、マリンレジャー愛好者のマナー意識・安全意識の向上に努めた。

4 ライフジャケット着用率の向上

 救命胴衣の着用が海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者の減少に大きく寄与していることから、救命胴衣着用推進モデル漁協、同マリーナの指定拡充等により救命胴衣着用率の向上を図った。また、海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者の半数以上を漁船が占めていることから、漁協女性部等によるライフジャケット着用推進員(LGL:ライフィガードレディース)の活動支援を実施するなど、漁業関係者自らが主体的にライフジャケット着用推進に取組むよう働きかけ、ライフジャケット着用率の向上を図った。加えて、救命胴衣の常時着用のほか、携帯電話等の連絡手段の確保、緊急通報用電話番号「118番」の有効活用を3つの基本とする「自己救命策確保キャンペーン」を新聞、テレビ、ラジオ等の媒体その他あらゆる機会を通じて強力に推進した。

5 海難等の情報の早期入手

 海難等が発生してから海上保安庁が認知するまでに時間を要すること、また、第三者機関を経由するなどにより、情報内容の正確性が低下することがあるため、緊急通報用電話番号「118番」の周知・啓発活動を引き続き推進し、海上保安庁へ直接、早期に通報を行えるように努めるとともに、警察、消防等の行政機関や民間救助組織の協力を得て、海難等の情報の早期入手に努めた。

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