平成22年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第6節 救助・救急活動の充実
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第6節 救助・救急活動の充実
1 救助活動及び救急業務の実施状況
(1)概要
- ア
- 救助活動の実施状況
平成21年中における全国の救助活動実施状況は、救助活動件数5万3,114件,救助人員5万4,991人であり、前年と比較すると、救助活動件数は181件(0.3%)減少しており、救助人員は760人(1.4%)増加した(第1-21表)。 - イ
- 救急業務の実施状況
平成21年中における全国の救急業務実施状況は、ヘリコプターによる出動件数を含め、512万5,936件で、前年と比較し、2万5,566件(0.5%)増加した。また、搬送人員は、468万6,045人で、前年と比較し、4,598人(0.1%)増加した。
また、救急自動車による出動件数は、全国で1日平均1万4,033件、約6.2秒に1回の割合で救急隊が出動し、国民の約27人に1人が救急隊によって搬送されたことになる。
(2)交通事故に対する活動状況
平成21年中の救助活動件数及び救助人員のうち、交通事故に際して救出困難な者が生じた場合に、消防機関が救助活動に当たったものは1万6,310件で、救助人員は2万2,360人となっており、それぞれ全体の30.7%、40.7%を占めた。
また、平成21年中における救急自動車による救急出動件数512万2,226件、搬送人員468万2,991人のうち、交通事故によるものは、それぞれ54万6,937件(10.7%)、55万5,292人(11.9%)となっている(第1-22表)。
救助活動及び救急業務全体に占める交通事故に起因するものの割合は依然として高い水準にあり、事故の種類・態様の複雑多様化に対処するためにも、引き続き救助・救急体制の一層の拡充が必要である。
2 救助・救急体制の整備
(1)概要
- ア
- 救助隊及び救急隊の設置状況
平成22年4月1日現在、救助隊は全国802消防本部の96.8%に当たる776消防本部に1,488隊設置されており、救助隊員は2万5,313人である。救助隊を設置している消防本部の管轄対象となっている市町村は、全国1,728市町村の95.9%に当たる1,658市町村である。また、救急隊は全国で4,910隊設置されており、救急隊員は5万8,938人であり、救急隊を設置している消防本部の管轄対象となっている市町村は、全国1,728市町村の97.9%に当たる1,692市町村である。
より高度化する救助・救急需要に適切に対処するため、引き続き、高度かつ専門的な教育を受けた救助隊員及び救急隊員の配置を推進している。 - イ
- 救助・救急用資機材等の整備に対する財政措置
救助活動に必要な救助工作車や救助器具、救急救命士による救急救命処置等の実施に必要な高規格救急自動車や高度救命処置用資器材、消防防災ヘリコプター等の整備に対して地方交付税措置等、所要の財政措置を行っている。
(2)集団救助・救急体制の整備
大規模道路交通事故等、多数の負傷者が発生する大事故に対処するため、消防機関と医療機関の連携を始めとする関係機関における連携体制の充実・強化及び救護訓練の実施等、集団救助・救急体制の構築を推進した。
(3)心肺そ生法等の応急手当の普及啓発活動の推進
交通事故による負傷者の救命を図り、また、被害を最小限にとどめるためには、救急救助体制及び救急医療体制の整備・充実に加え、事故現場に居合わせた人による負傷者に対する迅速かつ適切な応急手当の実施が重要であり、広く応急手当の普及を図ることが有効である。
このため、自動車運転者については、大型免許、中型免許、普通免許、大型二輪免許、普通二輪免許、大型第二種免許、中型第二種免許又は普通第二種免許を受けようとする者に対して、応急救護処置(交通事故現場においてその負傷者を救護するため必要な応急の処置)に関する講習の受講が義務付けられている。
なお、大型第二種免許、中型第二種免許又は普通第二種免許を受けようとする者に対して行う応急救護処置に関する講習は、第一種免許に係る講習以上に高度な内容となっている。さらに、指定自動車教習所の教習カリキュラムに応急救護処置に関する内容が盛り込まれている。
消防機関においては、「救急の日」(9月9日)や「救急医療週間」(9月9日を含む一週間)を中心に、「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」に基づいて、応急手当の普及啓発活動を推進するとともに、応急手当指導員等の養成や応急手当普及啓発用資機材の整備を推進している。同要綱に基づいて、平成21年中に行われた応急手当指導員講習(普通救命講習又は上級救命講習の指導にあたる応急手当指導員を養成する講習)の修了者数は8,592名、応急手当普及員講習(事業所又は防災組織等において当該事業所の従業員又は防災組織等の構成員に対して行う普通救命講習の指導にあたる応急手当普及員を養成する講習)の修了者数は1万2,199名であった。
また、地域住民に対する応急手当普及啓発活動については、普通救命講習受講者数が149万246名、上級救命講習受講者数が7万5,926名となっている。
なお、平成16年7月から非医療従事者によるAED(自動体外式除細動器)の使用が認められたことを受け、「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」が改正され、AEDの内容を取り入れた救命講習の実施が促進されているほか、心肺そ生法については、平成18年6月、(財)日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会より日本版心肺蘇生ガイドラインが示されたことを受け、同要綱が改正されており、当該ガイドラインを踏まえた内容により講習が実施されている。
学校においては、学習指導要領に基づいて、中学校、高等学校の保健体育の中で、生徒に対して心肺そ生法等の応急手当について指導するとともに、教員に対しては、心肺そ生法の実習を含む各種講習会を開催した。
さらに、(社)日本交通福祉協会は、安全運転管理者、運行管理者等を対象に、実技指導を主体とする交通事故救急救命法教育講習会を全国的に実施した。
(4)救急救命士の養成・配置等の促進、ドクターカーの活用促進
- ア
- 救急救命士制度
医師の指示の下に、搬送途上において心肺機能停止状態の傷病者に対して行う気道確保等の救急救命処置を行う救急救命士の資格保有者数は、平成22年12月31日現在で、3万9,677人であり、搬送途上の医療の確保が図られている。
また、救急救命士の処置範囲の拡大により可能となった気管挿管、薬剤投与を円滑に実施するための講習及び実習の実施を推進しており、全国の消防機関における救急自動車に搭乗している救急救命士2万383人のうち、気管挿管を実施可能な救急救命士は8,840人(43.4%)、薬剤投与を実施可能な救急救命士は1万2,529人(61.5%)となった(平成22年4月1日現在)。 - イ
- 救急救命士資格取得救急隊員の養成
救急隊員に救急救命士資格を取得させるための教育訓練は、各都道府県からの出捐金により設立された(財)救急振興財団の救急救命東京研修所等や政令指定都市等が設置している救急救命士養成所において実施されている。 - ウ
- ドクターカーの活用促進
医師等が救急現場及び搬送途上に出動し、応急処置を行うことにより、救命効果の向上を図るため、ドクターカー(医師等が同乗する救急用自動車)の配置と活用を促進した。
(5)消防防災ヘリコプターによる救急業務の推進
消防防災ヘリコプターによる救急搬送等に関しては、昭和41年に東京消防庁でヘリコプターを導入して以来実施してきているが、その一層の推進を図る見地から、平成10年の消防法施行令の一部改正、平成15年6月の消防組織法等の改正により、消防防災ヘリコプターによる救急活動のための救急隊員の配備や装備等の基準の明確化や都道府県の航空消防隊による市町村消防の支援について法的根拠の明確化を図るなど航空消防防災体制の充実を図るとともに、「消防防災ヘリコプターの効果的な活用に関する検討会」において、その積極的な活用方策について検討結果をとりまとめるなど消防防災ヘリコプターの機動性を活かした、より効果的な救急業務の更なる積極的な実施を促進している。
(6)救助隊員及び救急隊員の教育訓練の充実
交通事故等に起因する救急・救助活動の増大及び事故の種類、内容の複雑多様化に対応するため、救助隊員・救急隊員の資質の向上を図った。
また、消防本部においても年間の訓練計画等に基づき職場教育を定期的に実施した。
(7)高速自動車国道等における救急業務実施体制の整備
東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社(以下「高速道路株式会社」という。)並びに関係市町村等は、通信連絡体制等の充実を図るなど連携を強化し、高速自動車国道等における適切かつ効率的な人命救護の実施に努めている。
現在、高速自動車国道のすべての区間について、市町村の消防機関が救急業務を実施しており、沿線市町村においては、インターチェンジ近くに新たに救急隊を設置するなどにより、高速自動車国道における救急業務実施体制の充実を図っている。このため、高速道路株式会社により、インターチェンジ所在市町村等に対し財政措置が講じられているほか、高速道路等に係る救急業務経費として特別交付税が措置されている。
(8)緊急通報システムの拡充及び現場急行支援システムの整備等
交通事故等緊急事態発生時における負傷者の早期救出及び事故処理の迅速化のため、UTMSの構想等に基づき、人工衛星を利用して位置を測定するGPS技術を活用し、自動車乗車中の事故発生時等に車載装置・携帯電話等を通じてその発生場所等の位置情報を通報することなどにより、緊急車両の迅速な現場急行を可能にする緊急通報システム(HELP)の普及を図った。
また、緊急車両が現場に到着するまでの時間の縮減、及び緊急走行時の交通事故防止のため、緊急車両優先の信号制御等を行う現場急行支援システム(FAST)の整備を図った。
3 救急医療体制の整備
(1)救急医療機関等の整備
救急医療機関の整備については、救急隊により搬送される傷病者に関する医療を担当する医療機関としての救急病院及び救急診療所を告示し、医療機関の機能に応じた初期救急、入院救急(二次)及び救命救急(三次)医療機関並びに救急医療情報センターからなる体制の体系的な整備を推進した。
救急病院及び救急診療所は、厚生労働省令に定める基準に基づいて都道府県知事が告示することとなっており、平成22年3月31日現在の救急病院及び救急診療所は、全国で4,299か所である。
平成22年度の予算額は、関連経費を含め総額215億円を計上しており、その主な内容は、次のとおりである。
- ア
- 救急医療機関の整備
- (ア)
- 初期救急医療機関の整備
初期救急医療体制は、地方公共団体等に設置する休日夜間急患センター及び地域医師会で実施している在宅当番医制からなり、休日夜間急患センターについては、平成21年度末までに、539か所整備されており、在宅当番医制については、636地区の整備を行った。 - (イ)
- 入院救急(二次)医療機関の整備
入院治療を必要とする重症救急患者を受け入れる救急医療体制は、二次医療圏(おおむね都道府県を数地区に分割した区域)を単位とする病院群輪番制及び共同利用型病院方式からなり、平成21年度末までに、それぞれ407地区、9地区の整備を行った。
また、入院を要する小児救急医療体制を構築するため、輪番制方式等により夜間・休日に小児救急患者を受け入れる医療機関について、平成21年9月1日現在で、151の小児救急医療圏で整備を行うとともに(小児救急医療支援事業)、小児救急医療支援事業の実施が困難な複数の二次医療圏から小児重症救急患者を受け入れる小児救急医療拠点病院について、平成21年9月1日現在で、31か所(64地区)の整備を行った。 - (ウ)
- 救命救急(三次)医療機関の整備
重症及び複数の診療科領域にわたるすべての重篤救急患者の救命医療を担当する24時間診療体制の救命救急センターについては、平成23年2月1日現在で、235か所の整備を行った。
また、救命救急センターのうち広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病患者に対応する高度救命救急センターについては、平成23年2月1日現在で、25か所の整備を行った。 - イ
- 救急医療情報システムの整備
救急医療機関の応需体制を常時、的確に把握し、医療機関、消防本部等へ必要な情報の提供を行う救急医療情報センターについては、平成22年3月31日現在で、43か所の整備を行った。 - ウ
- 救急医療設備の整備
自動車事故による被害者救済の充実強化を図るため、全国の医療機関の救急医療機器の整備に関し、自動車安全特別会計から補助を行っている。平成21年度は7施設に対し、1億9,490万円の補助金を交付した。
(2)救急医療担当医師・看護師の養成等
救急医療を担当する人材を確保するため、救急医療を担当する医師及び看護師を対象に、救急医療に関する講習及び実習を関係団体に委託して実施した。
また、医師の卒業前の教育・臨床教育において救急医療に関する教育研修の充実に努めるとともに、看護系大学に対しては、「学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標」(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会報告)において、「救命救急時の処置」に関する実践能力の卒業時の到達度を示した。
(3)ドクターヘリ事業の推進
緊急現場、搬送途上における医療の充実を図るため、ドクターヘリについては、平成19年6月27日に成立・施行された「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」に基づき、普及推進を図っているところであり、平成22年度末現在で、24道府県(共同運航府県を含む)の27病院で26機のドクターヘリが運航されている。
4 消防機関と医療機関等の連携体制の充実
(1)搬送及び受入れの実施に関する実施基準の策定
近年119番通報から傷病者を病院に収容するまでに要する時間が長時間化する傾向にあり、また、傷病者を受け入れる医療機関を速やかに選定することが困難な事案が発生している。このような状況を受けて、平成21年に消防法が改正され、都道府県は、消防機関による救急業務としての傷病者の搬送及び医療機関による当該傷病者の受入れの迅速かつ適切な実施を図るため、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)を定めるとともに、実施基準に関する協議等を行うための消防機関、医療機関等を構成員とする協議会を設置することとなった。
平成23年4月1日現在、40都道府県において実施基準が策定済みである。実施基準が有効なものとして継続するため、策定された後に実施基準のPDCAサイクルを通じて、消防機関・医療機関・住民が、それぞれの地域における医療提供体制の現状、受入医療機関の選定困難事案の発生状況、傷病者の搬送及び受入れの状況等の地域の実情に対する共通理解を深めつつ、地域における現状の医療資源を前提に、都道府県ごとに消防機関と医療機関の連携体制を強化し、受入医療機関の選定困難事案の発生をなくすとともに、医学的観点から質の高い、傷病者の状況に応じた適切な搬送及び受入体制を構築することが期待される。
(2)メディカルコントロール体制の強化
救急業務の円滑な実施や救急隊員への教育訓練体制の整備等を図り、消防機関と医療機関の連携を強化するため、<1>救急隊が現場からいつでも迅速に医師に指示、指導、助言が要請でき、<2>実施した救急活動の医学的判断、処置の適切性について医師による事後検証が行われ、その結果が再教育に活用され、<3>救急救命士の資格取得後の再教育として、医療機関において定期的に病院実習が行われ、医学的な観点から救急業務の質を担保する体制(メディカルコントロール体制)の充実強化を推進した。特に、都道府県単位、各地域単位におけるメディカルコントロール協議会の意見交換・情報交換の場として、毎年全国メディカルコントロール協議会連絡会を開催し、メディカルコントロール体制の質の向上に努めている。