平成26年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第3編 航空交通
第2章 航空交通安全施策の現況
第2節 航空交通環境の整備
1 予防的安全対策の推進
空港及び航空官署における安全対策については,航空安全当局において安全に関する方針及び目標を設定するとともに,目標達成のための管理計画の策定及び実施に係る状況の監視等,必要な措置を講じていくことにより,系統だった包括的,継続的な管理手法(安全管理システム(SMS))の定着に取り組み,国際的な責務を果たすよう推進している。また,安全管理体制を監視するため,空港及び航空官署において安全指標及び目標値を設定させた上で,指導,監督,助言等を行っている。
2 航空交通の安全性の向上及びサービスの充実
(1)首都圏空港・空域における容量拡大への取組
東京国際空港の年間発着枠44.7万回への拡大等で交通量が増加しており,今後とも需要増が見込まれる。これにより関東上空空域の更なる交通混雑が見込まれることから,これらに対応するため,飛行経路・空域の詳細検討等,具体的な方策の検討を行っている。
(2)航空交通管理(ATM)センターにおける取組
航空交通量の増大に対応するため,シミュレーションを用いた空域構成の最適化や自衛隊等の訓練空域の弾力的な利用を進めるとともに,交通流や交通量の予測や制御性の向上等,航空交通管理センターの機能を充実・強化し,きめ細やかな交通整理を行うことで全国の航空路の混雑緩和や空中待機等の減少を図っている。
(3)空域の安全性評価・監視体制の強化
航空機間の垂直間隔の最低基準を短縮する運用の安全性に関する評価の精度向上のため,航空機の飛行高度を実測する高度監視装置及び高度維持性能を解析する空域安全性評価システムによる監視を行い,首都圏空港の増枠等により航空交通量が増大する中で,継続して空域の安全性の確保を図っている。
(4)広域航法(RNAV)の整備
航空機の安全で効率的な運航を確保するため,広域航法(RNAV)の導入を促進している。また,飛行距離の短縮や就航率の向上等の効果が期待できる新たな技術の広域航法(RNAV)経路を, 運航者と導入効果などを検討しつつ, 必要な空港に順次展開している。
(5)小型航空機運航環境の整備
ヘリコプター専用の低高度RNAV経路を設定するなど,悪天候下における消防防災活動等を円滑に実施するために,小型航空機の飛行特性に合わせた計器飛行方式(IFR)飛行の実現に向けた環境整備を行っている。
さらに,海上部及び山間部における送電線への接触事故等を未然に防止するため,特定の航空障害物件への航空障害標識の適切な設置を促すとともに,運航者に対して物件情報の提供を実施している。
(6)飛行検査体制の充実
首都圏空港の更なる機能強化の一環として,飛行検査機の拠点を東京国際空港から中部国際空港へ移転するとともに,航空保安システム等の新技術に対する飛行検査体制の充実を図るため,新型飛行検査機の導入を進めている。
(7)将来の航空交通システムの構築に向けた取組
長期的な航空交通需要の増加や,利便性の向上等の多様化するニーズに対応するとともに,世界的に相互運用性のある航空交通システムを実現するため,我が国においては,平成37年を見据えた「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」及びその実現に向けたロードマップを策定し,国際的に協調した航空交通システムの高度化に向けて,産学官が連携した施策の検討・導入を順次実施している。
3 航空交通の安全確保等のための施設整備の推進
(1)航空保安システムの整備
高密度空域における航空機の監視機能の強化を図るため,二次監視レーダーモードS(SSRモードS)の整備を推進している。
また,航空交通管制情報処理システムを統合し,全国の航空機の運航に関する情報を一元的に管理するとともに,現在4管制部にある航空路レーダー情報処理システムを2拠点に統合し,相互のバックアップ機能の強化を進めている。
(2)大都市圏拠点空港等の施設整備
我が国のビジネス・観光両面における国際競争力を強化するため,我が国の成長のけん引車となる首都圏空港(東京国際空港・成田国際空港)の機能強化を図っている。
東京国際空港については,国際線旅客ターミナルビルの拡張や駐機場等の整備を行うことで,平成26年3月に国際線の発着枠を増枠し,年間発着枠が44.7万回へ拡大した。これによりアジア長距離や欧米を含む高需要・ビジネス路線を24時間展開している。また,26年12月にC滑走路延伸部分の供用を開始し,長距離国際線の輸送能力を増強した。引き続き,際内トンネルの整備を進め,国際・国内乗継機能の強化を図っていく。
成田国際空港については, LCCターミナル(第3ターミナル)の整備等により,平成27年3月に年間発着枠30万回化を実現した。今後とも,LCCを含む国際・国内ネットワークの充実を図り,アジア有数のハブ空港としての地位の確立を図っていく。
これらの取り組みにより,平成26年度末までに東京国際空港・成田国際空港両空港の年間合計発着枠を75万回に拡大した。また,首都圏の国際競争力の強化,地方への世界の成長力の波及,訪日外国人旅行者2,000万人の政府目標や2020年オリンピック・パラリンピック東京大会への万全な対応のため,75万回化達成以降の首都圏空港の更なる機能強化に向けた取り組みを行っており,羽田空港における飛行経路の見直し等の具体化に向け,関係自治体等と協議を進めている。
4 空港の安全対策の推進
(1)滑走路誤進入対策の推進
滑走路誤進入対策として,管制指示に対するパイロットの復唱のルール化等,管制官とパイロットのコミュニケーションの齟齬の防止や,滑走路占有状態等を管制官やパイロットへ視覚的に表示・伝達するシステムの整備等,ソフト・ハード両面にわたる対策を推進している。
(2)空港の維持管理の推進,安全技術の強化
航空機の安全な運航を確保するためには,滑走路等の施設が定められた基準に適合するように維持管理されることが極めて重要である。このため,平成26年4月から公共用の空港において,空港毎に策定した長期的視点に立った維持管理・更新計画に基づき,定期的に点検,診断を行い,予防保全的維持管理を着実に実施している。また,積雪地における迅速な除雪・融雪等,航空機運航の安全に直接関わる空港安全技術の強化を図っている。
5 航空保安職員の教育の充実
更なる航空交通需要の増大に伴う空域の容量拡大やシステムの高度化に的確に対応するため,航空保安職員に対し高度な知識及び技量を確実に修得させることを目的として,航空保安大学校等における基礎研修及び専門研修について,研修効率を上げるための研修カリキュラム及び訓練機材の見直しに着手するとともに,国際的に標準化された研修への移行を進めている。
6 空港・航空保安システムの災害対策の強化
(1)空港の災害対策の強化
新潟県中越地震・東日本大震災等において明らかなとおり,空港は救急・救命活動や緊急物資輸送の拠点として役割を果たすことが求められる。また,空港は,災害時においても航空ネットワークを維持し背後圏経済活動を継続させる役割が求められている。このことから,空港について災害対策の強化を図っている。
ア 空港施設の耐震性の向上
平成19年4月に策定した「地震に強い空港のあり方検討委員会報告」に基づき,発災早期の段階から救急・救命活動等を行うことができるよう,また,発災後3日以内に緊急物資・人員輸送の拠点として機能するよう,航空輸送上重要な13空港から優先的に滑走路等の耐震化を進めている。
イ 空港の津波対策
東日本大震災において,仙台空港が大津波により甚大な被害を受けたことを踏まえ,空港の津波対策の基本的考え方となる「空港の津波対策の方針」を平成23年10月に取りまとめた。当該方針に基づき,津波リスクの高い空港において,津波襲来時に人命保護を図るための津波避難計画を策定済みであり,本計画に基づく津波避難訓練等の取組みを実施している。また,津波被災後における空港機能を早期に回復させるための津波早期復旧計画の策定を進めており,本計画に基づく関係機関との協力体制構築等の取組みを実施している。
(2)航空保安システムの災害対策の強化
大規模災害時に東京航空交通管制部が被災しても,システム開発評価・危機管理センター(SDECC)及び隣接管制部にて代替業務を実施できる体制に加え,航空交通管理センターの代替業務体制を構築し,危機管理能力の向上を進めている。また,航空保安施設及び局舎等の耐震診断やそれに基づく耐震補強による耐震性の向上等を適切に実施し,災害対策の強化を図っている。