特集「道路交通における新たな目標への挑戦」
II 近年の道路交通事故の特徴
II 近年の道路交通事故の特徴
1.年齢層別死者数等
高齢者の死者数は,高齢者人口の増加などに伴って,昭和50年代前半から増加傾向を示し,平成5年には若者(16~24歳)を上回り,年齢層別で最多の年齢層となった。その後,平成7年(3,241人)をピークに概ね横ばいで推移し,平成14年以降は,ほぼ毎年減少している。しかしながら,過去10年間の推移をみると,25~29歳(平成17年の0.34倍),若者(同0.38倍)などと比較して,高齢者(同0.76倍)は減少率が少ないことから,全体に占める高齢者の割合は年々増加している。
平成27年中の交通事故死者数を年齢層別にみると,高齢者(2,247人)が最も多く,中でも75歳以上が36.1%を占めている。高齢者の死者数は前年に比べ増加(前年比+54人,+2.5%)し,死者数のうち高齢者の死者数が占める割合は54.6%と過去最高となっている。今後も高齢化が進むことを踏まえると,高齢者の交通事故対策の強化は重要である。
一方,15歳以下の子供の死者数は80人(前年比-4人)と,ほぼ横ばいの傾向にあり構成比は他の年齢層と比較して最も少なくなっているが,登下校中の事故等社会的反響の大きい交通事故がいまだに後を絶たず,子供を交通事故から守る観点からの交通安全対策が一層求められる。
また,交通事故負傷者数を年齢層別にみると,40~44歳(6万6,903人)と35~39歳(6万1,391人)の年齢層が多い。前年と比べると,全ての年齢層で減少し,その中でも20~24歳(5,301人減)と60~64歳(5,220人減)の年齢層が特に減少した。
2.高齢者の状態別交通事故死者数等
高齢者の交通事故死者数について状態別にみると,歩行中がほぼ半数(47.6%)を占め,次いで自動車乗車中(28.4%),自転車乗用中(16.6%)の順に多い。
自動車乗車中の事故死者数については,平成13年が748人と最も多く,以後減少したが,平成24年には増加に転じ,昨年は638人で前年比+38人となっており,高齢者の運転中の事故の対策は重要な課題の一つである。
また,高齢者は,他の年齢層に比べて致死率が約6倍高く,全体の致死率も3年連続で上昇している。他の年齢層の人口が減少していく一方で,高齢者人口は年々増加の一途をたどっている。このことが高齢者の交通事故死者数を減少しにくくさせており,全体の死者数の減少幅の縮小にもつながっていると考えられる。
○近年の事故の紹介
高速道路逆走事故
平成27年10月,80歳代男性の運転する普通乗用車が,新潟県柏崎市内の北陸自動車道下り線を逆走したことにより,追越し車線を順行で走行していた普通乗用車と正面衝突し,同運転者を含む4人が軽傷を負った。
歩道上暴走事故
平成27年10月,70歳代男性の運転する軽乗用車が,宮崎県宮崎市内中心部の交差点からJR宮崎駅前にかけて歩道上を暴走し,歩行者や自転車に乗っていた男女計6人と衝突した結果,女性2人が死亡し,男女4人が重軽傷を負った。
3.法令違反別(第1当事者)死亡事故発生件数
法令違反別(第1当事者(交通事故の当事者のうち,過失が最も重い者又は過失が同程度の場合は被害が最も軽い者を言う。以下同じ。))死亡事故発生件数については,従前は最高速度違反による死亡事故件数が多かったが,近年は当該違反の死亡事故件数は大きく減少している。しかし,漫然運転及び脇見運転についての死亡事故件数については,速度違反に比べ減少率が小さく,その他の発生件数と比較し,その占める割合は高くなっている。
また,高齢運転者について見ると,他の年齢層に比べて,運転操作不適(ブレーキやハンドル操作の不適)による死亡事故の割合が多くなっており,交通事故対策としてこれまでの取締りや安全教育を継続していくほか,先端技術や交通事故に関する様々な情報の積極的な活用などこれまでにない抑止対策が必要である。
○近年の事故の紹介
通学路の事故
平成28年3月,群馬県高崎市内の市道で,集団登校中の小学生の列に運転手(70歳代)の乗用車が突っ込み,男子児童が死亡した。
脇見運転
平成27年11月,愛媛県四国中央市内の国道で,普通自動車が対向車線に進出し,対向車線を進行していた大型貨物車と正面衝突した。普通自動車の同乗者男女3人が死亡し,運転手が軽傷を負った。
4.自転車関連死亡事故の状況について
平成27年の自転車関連事故数は98,700件(交通事故件数全体の18.4%)であり,年々減少傾向にあり,自転車の安全確保に関する施策が事故削減に寄与していることが伺える。しかし,平成27年の自転車関連死亡事故は577件(全体の14.3%)であり,前年に比べ僅かに増加している。
我が国の状態別交通事故死者数構成率については,欧米諸国に比べ歩行中及び自転車乗用中の割合が高くなっている。我が国と欧米諸国とは交通環境,生活環境等も異なり,単純な比較はできないが,我が国としても自転車利用者の交通事故防止対策として自転車交通環境整備や交通安全教育等の対策が一層必要である。
なお,自転車については,歩行者等に衝突した場合には加害者となる場合があり,中には被害者に重傷を負わせて高額な賠償が求められるケースも出ている。
○近年の事故の紹介
自転車高額賠償
【判例】平成20年9月,少年が神戸市の住宅街の坂道をマウンテンバイクで下り,散歩をしていた女性と正面衝突し,女性は頭を強打。一命は取り留めたが,4年半経っても寝たきりのままの状態が続いている。
判決で少年が時速20~30キロで走行し,少年の前方不注視が事故の原因と認定。事故時はヘルメット未着用だったことなどを挙げ,「指導や注意が功を奏しておらず,監督義務を果たしていない」として,母親に計約9,500万円の賠償を命じた。
イヤホン装着自転車事故
平成27年6月,千葉県の県道を両耳にイヤホンを装着して音楽を聴きながら自転車で走っていた大学生が,横断歩道を歩いて渡っていた70歳代の女性にぶつかり,死亡させた。8月に千葉県警は自転車を運転していた大学生を,重過失致死の疑いで書類送検した。平成28年2月千葉地裁で「高速度で進行し,被害者に気付くのが遅れるなど過失の程度は大きい。」とし禁錮2年6月,執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。
5.生活道路
地域住民の日常生活に利用される生活道路において,交通の安全を確保することは重要な課題である。しかし,車道幅員別の死亡事故件数についてみると,死亡事故件数全体のうち,車道幅員5.5メートル未満の道路で死亡事故が発生する割合は,やや増加の傾向を示している。また,車道幅員5.5メートル以上の道路については一貫して死亡事故件数が減少しているのに対し,車道幅員5.5メートル未満の道路については増減しながら変動しており,安定した減少傾向となっていない。また,高齢者の歩行中及び自転車乗用中の死者数を自宅からの距離別に見てみると,どちらも自宅を出てから近距離での事故による死者数が多い。こうしたことからも,地域住民が日常利用する生活道路における安全の一層の確保が重要である。
6.公共交通機関等
国民の日常生活を支え,ひとたび交通事故等が発生した場合には大きな被害となるバスなどの公共交通機関等の一層の安全の確保も重要な課題である。
これまで関越バス事故を踏まえ,高速乗合バスなどの旅客自動車運送事業者に対する指導等各種対策に取り組んできたところであるが,本年1月に軽井沢スキーバス事故が発生した。
公共交通機関等の安全は,国民の安心,安全のため大変重要であることから,事故原因の究明とともに再発防止対策に向けての取組が必要である。
○近年の事故の紹介
軽井沢バス事故
平成28年1月,長野県北佐久郡軽井沢町内の国道18号碓氷バイパスの入山峠付近で,乗車定員54人の大型観光バスが道路脇に転落した。乗員・乗客41人(運転手(60歳代),交代運転手,乗客39人)中15人が死亡(うち乗員は2人とも死亡)し,生存者も全員が負傷した。少なくとも,交通事故統計データが存在する平成2年以降では,最多の死者数となる交通事故となった。
国土交通省では,事故直後に国土交通大臣を本部長とする対策本部の設置,被害者相談窓口を通じた相談・要望への対応,事業用自動車事故調査委員会に調査の要請,事故を起こした貸切バス事業者に対しては特別監査を実施し,全国の貸切バス事業者に対しては,安全運行の徹底等を指示するとともに,街頭監査・集中監査を緊急実施した。
また,バス輸送の安全確保の徹底を図り,安全・安心の回復を図るため,以下の緊急対策を講じた。
- 乗客へのシートベルトの着用の注意喚起,発車前の乗客のシートベルトの着用状況の目視等による確認等の徹底を業界団体へ要請するとともに,シートベルトの着用励行リーフレットを作成し,インターネット等を活用し周知。
- 運転者の運転経験を車種ごとに確認し,乗務させようとする車種区分にかかる運転経験が十分でない場合には,実技訓練を実施するよう業界団体へ要請。
- 街頭監査の結果を捉え,法令違反が多い事項をチェックリスト化し,運行前に事業者に記入,確認を行わせる。
さらに,この事故を踏まえ,抜本的な安全対策について検討するため,「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」を設置した。