I 現況の概要 第1編 陸上交通 第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況

目次]  [前へ]  [次へ

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

1 道路交通環境の整備
●生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備

地域の協力を得ながら,通学路,生活道路,市街地の幹線道路等において,歩道を整備するなど,「人」の視点に立った交通安全対策を推進した。

  1. <1> 市街地等における生活道路の安全を確保するため,通過交通の抑制や走行速度の抑制等が必要な地区に対して,最高速度30キロメートル毎時の区域規制や路側帯の設置・拡幅等の対策を採りつつ,地区の状況に応じて,一方通行等の交通規制やハンプ等の道路整備等を実施する「ゾーン30」を設定し,都道府県公安委員会と道路管理者が連携した歩行者・自転車利用者の交通安全対策を推進した。また,通過交通量の減少や走行速度の低下等を目的とした交通規制,高齢者,障害者等が利用しやすい信号機,道路標識・道路標示の整備,歩道の整備等による安心して移動できる歩行空間ネットワークの整備,進入抑制・速度低減による安全対策を重点的に推進するエリアの登録,地域と協働して効果的・効率的に対策を推進するためのハンプ等の仕様標準化,ETC2.0のビックデータ等を活用した分析や有識者等による技術的助言を行う仕組みの構築,ハンプ・挟さくの設置等による速度抑制と通過交通の進入抑制を図る対策を推進した。
  2. <2> 平成24年度に実施した通学路の緊急合同点検の結果を踏まえ,学校,教育委員会,道路管理者,警察等の関係機関が連携して実施する通学路の交通安全対策を支援するとともに,各地域における通学路交通安全プログラムに基づく定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の継続的な取組を支援するなど,通学路における交通安全の確保に向けた取組を推進した。
     また,緊急合同点検における対策必要箇所を始め,中学校に通う生徒,小学校,幼稚園,保育所及び児童館等に通う児童や幼児の通行の安全を確保するため,通学路等の歩道整備,ハンプ等物理的デバイスの設置,路肩のカラー舗装,防護柵設置,押ボタン式信号機や歩行者用灯器等の整備,立体横断施設の整備,横断歩道等の拡充により,通学路等の安全確保を図った。
  3. <3> 高齢者,障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保するため,高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平18法91)に基づき,駅,官公庁施設,病院等を相互に連絡する道路について,平坦性が確保された幅の広い歩道を積極的に整備した。
     このほか,高齢者,障害者等の通行の安全と円滑を図るとともに,高齢運転者の増加に対応するため,バリアフリー対応型信号機,見やすく分かりやすい道路標識・道路標示,昇降装置付立体横断施設,歩行者用休憩施設,自転車駐車場,移動制約者用の駐車ます等を有する自動車駐車場等を整備するとともに,信号灯器のLED化や無電柱化を推進した。
●幹線道路における交通安全対策の推進
  1. <1> 交通安全に資する道路整備事業の実施に当たって,効果を科学的に検証しつつ,マネジメントサイクルを適用することにより,効率的・効果的な実施に努め,少ない予算で最大の効果を獲得できるよう,幹線道路において,「選択と集中」,「市民参加・市民との協働」により重点的・集中的に交通事故の撲滅を図る『事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)』を推進した。
  2. <2> 平成25年7月に特に事故の発生割合の高い幹線道路の区間等3,490箇所を「事故危険箇所」に指定し,都道府県公安委員会及び道路管理者が連携して,信号機の新設・改良,歩車分離式信号の整備,道路標識の高輝度化等を推進するとともに,歩道等の整備,交差点改良,視距の改良,付加車線等の整備,中央帯の設置,バス路線等における停車帯の設置及び防護柵,区画線等の整備,道路照明・視線誘導標等を設置するなど集中的な交通事故対策を推進した。
●自転車利用環境の総合的整備

クリーンかつエネルギー効率の高い持続可能な都市内交通体系の実現に向け,自転車の役割と位置付けを明確にしつつ,交通状況に応じて,歩行者・自転車・自動車の適切な分離を図り,歩行者と自転車の事故等への対策を講じるなど,安全で快適な自転車利用環境を創出する必要がある。このため,自転車ネットワーク計画の作成やその整備,通行ルールの徹底等を進めるため,平成24年11月に国土交通省と警察庁で策定した「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」に基づき,道路管理者や警察等関係機関が連携して,自転車通行空間の整備を推進した。

●高度道路交通システムの活用

最先端の情報通信技術等を用いて,人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムである「高度道路交通システム」(ITS)を引き続き推進している。そのため,平成25年6月に閣議決定され,26年6月,27年6月に改定された「世界最先端IT国家創造宣言」に基づき,産・官・学が連携を図りながら,研究開発,フィールドテスト,インフラの整備,普及及び標準化に関する検討等の一層の推進を図るとともに,ITS世界会議等における国際情報交換,国際標準化等の国際協力を積極的に進めた。

  1. <1> 最先端の情報通信技術等を用いて交通管理の最適化を図るため,光ビーコンの機能を活用して公共車両優先システム(PTPS),現場急行支援システム(FAST),安全運転支援システム(DSSS)を始めとする新交通管理システム(UTMS)の開発・整備を行うことにより,ITSを推進し,安全・円滑かつ快適で環境負荷の低い交通社会の実現を図った。
  2. <2> ETCの通信技術をベースとしたETC2.0サービスの普及・促進を官民一体となって実施していく。ETC2.0対応カーナビ及びETC2.0対応車載器により,ETCに加え,渋滞回避支援,安全運転支援といった情報提供サービスを提供する。また,ETC2.0により収集した,速度データや,利用経路・時間データなど,多種多様できめ細かいビッグデータを活用して,渋滞と事故を減らす賢い料金や,生産性の高い賢い物流管理など,道路を賢く使う取組を推進していく。

※ フィールドテスト
実地試験,屋外試験等のこと。

2 交通安全思想の普及徹底
●高齢者に対する交通安全教育の推進

高齢者同士の相互啓発等により交通安全意識の高揚を図るため,老人クラブ,老人ホーム等における交通安全部会の設置,高齢者交通安全指導員(シルバーリーダー)の養成等を促進し,老人クラブ等が関係団体と連携して,「ヒヤリ地図」の作成等自主的な交通安全活動を展開し,地域・家庭における交通安全活動の主導的役割を果たすよう指導・援助を行った。

●自転車の安全利用の推進

自転車利用者に対し,自転車は車両であり,道路を通行する場合は車両としてのルールを遵守するとともに交通マナーを実践しなければならないことを理解させるよう,交通対策本部決定で示された「自転車安全利用五則」等を活用した広報啓発活動を推進した。特に平成27年6月1日から施行された自転車運転者講習制度の周知及び同制度の適正な運用を図り,自転車利用者のルールに対する遵守意識の醸成に努めたほか,歩行者や他の車両に配慮した通行等自転車の正しい乗り方について幅広い利用者層を対象とし,自動車教習所等の練習コース,視聴覚教材,シミュレーター,スケアード・ストレイト方式(恐怖を直視する体験型教育手法。スタントマンによる交通事故再現等がある。)等を活用した参加・体験・実践型の自転車教室等の交通安全教育を推進した

3 安全運転の確保
●高齢運転者対策の充実

高齢者講習は,受講者に実際に自動車等の運転をしてもらうことや運転適性検査器材を用いた検査を行うことにより,運転に必要な適性に関する調査を行い,受講者に自らの身体的な機能の変化を自覚してもらうとともに,その結果に基づいて助言・指導を行うことを内容としており,この講習を受講した者は,更新時講習を受講する必要がないこととされている。平成27年中の高齢者講習の受講者は258万9,265人であった。

また,更新時講習では,65歳以上70歳未満の者を対象とした高齢者学級を編成し,高齢運転者の運転特性や交通事故の特徴等を内容とする講習を行うよう努めた。

●自動車運送事業者等に対する指導監督の充実

平成26年3月に発生した北陸自動車道における高速乗合バス事故を受けて,26年4月に改訂した,「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」の周知徹底を図るとともに,同マニュアルで推奨している,睡眠呼吸障害,脳疾患,心疾患等の主要疾病の早期発見に寄与する各種スクリーニング検査をより効果的なものとして普及させるため,27年9月に,「事業用自動車健康起因事故対策協議会」を立ち上げ,普及促進方策等の検討を開始した。

また自動車運送事業者については,法令違反等を行う悪質な事業者に対し,重点的かつ優先的に監査を行う等,効率的・効果的な監査を実施するとともに,28年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を受け,貸切バス事業者に対する街頭監査及び集中的な監査を緊急実施した。

●運輸安全マネジメント制度の充実

平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,27年において146者に対して実施した。

4 車両の安全性の確保
●先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進,自動走行システムの安全確保

先進技術を利用してドライバーの安全運転を支援する先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及を促進すべく,平成23年度より開始した第5期先進安全自動車(ASV)推進計画をとりまとめ,産学官連携の下,ドライバー異常時対応システムや次世代の通信利用型安全運転支援システムに関するガイドラインを策定した。

また,衝突被害軽減ブレーキ,車両安定性制御装置,車線逸脱警報装置等ASV装置に対する補助を継続して実施するとともに,平成24年度より実施している衝突被害軽減ブレーキ搭載車両に対する税制特例措置について,27年度税制改正において対象車両の拡充を行った他,車両安定性制御装置搭載車両に対する特例措置を新たに講じた。

5 救助・救急体制等の整備
●ドクターヘリ事業の推進

救急現場や搬送途上における医療の充実を図るため,ドクターヘリについては,平成19年6月27日に施行された「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平19法103)」に基づき,普及推進を図っているところであり,27年8月現在で,38道府県,46機のドクターヘリが運航されている。

●消防機関と医療機関等の連携体制の充実

119番通報から傷病者を病院に収容するまでに要する時間が年々延伸化する傾向にあり,傷病者を受け入れる医療機関が速やかに決まらない事案も多数発生している。このような状況を受けて,平成21年に消防法(昭23法186)が改正され,都道府県においては,消防機関による傷病者の搬送及び医療機関による当該傷病者の受入れの迅速かつ適切な実施を図るため,傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)を定めるとともに,実施基準に関する協議等を行うための消防機関・医療機関等を構成員とする協議会を設置することが義務付けられ,現在,全都道府県において実施基準が策定済みである。

目次]  [前へ]  [次へ