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「交通事故で家族を亡くした子供の支援に関するシンポジウム」の開催について
第9次交通安全基本計画(平成23年3月31日中央交通安全対策会議決定)では,「被害者支援」を交通安全対策の柱の一つに掲げ,交通事故被害者とその家族や遺族(以下「交通事故被害者等」という。)への支援を推進することとしており,第10次交通安全基本計画においても同様の内容が盛り込まれたところである。
内閣府においては,交通事故被害者等が深い悲しみや辛い体験から立ち直り,回復に向けて再び歩み出すことができるような土壌を醸成し,交通事故被害者等の権利・利益の保護を図ることを目的として,平成15年度より「交通事故被害者サポート事業」(以下「サポート事業」という。)を行っている。平成25年度からは,その一環として,交通事故で家族を亡くした子供の支援に向けて広く情報発信するために,一般の方も聴講が可能な「交通事故で家族を亡くした子供の支援に関するシンポジウム」を開催している。
平成27年度は福岡県において,様々な悩みや困難を抱える子供や保護者の総合的な相談,支援及び犯罪被害者支援に携わっている専門家による基調講演や子供の頃に交通事故で家族を亡くしたご遺族をパネリストに迎え,パネルディスカッションを実施した。
福岡市こども総合相談センター所長 藤林武史先生による基調講演「家族を亡くした子供の理解とケア」
藤林先生からは,家族を亡くした子供の心理状態や必要な支援のあり方など,次のような貴重なお話をいただいた。
○ 家族の喪失に伴う子供の反応
年齢,亡くなった対象との関係,過去のトラウマの有無等により子供に表れる症状は様々である。一方で,気持ちの変化,行動の変化に表れてこない子供も多い。
○ 家族を亡くした子供の心理状態の特徴
子供にとって,家族を亡くすことは非常に大きな出来事で,条件や環境が整えば,自分の気持ちを言葉にする力を子供は持っているが,言語化できるようになる年齢には個人差もあり,子供が自分の心理状態の違和感やネガティブな感情を言葉にするには,一定の時間が必要となる。
○ 家族を亡くした子供に必要な支援
- 子供は,成長する過程で発達の課題をクリアし,かつ家族を亡くした経験についてどこかで意味づけをしながら,少しずつ回復していくことから,家庭環境の安定などの「安心と安全な環境の整備」が必要である。
- 安定した環境が整ったとしても,依然として養育者に余裕がない場合も多いことから,養育者以外の「寄り添う他者の存在」が必要である。
- 自分の気持ちを安心して言葉にでき,受け止めてもらえる等の共有,共感できる体験をすることは,子供にとって大きな意味を持つことから,「分かち合える他者の存在」が必要である。
- 家族を亡くすという体験は,年齢に関係なくネガティブな意味づけを伴うことから,「意味の変換を支える他者の存在」が必要である。
○ 被害者支援に大切なこと
心理的支援とは直接関係のないところから関係性を構築することが大切で,被害者の声に耳を傾け,共感しニーズに対応していくというような,徹底的に被害者の側に立った支援を丁寧に行うことが重要である。
NPO法人はぁとすぺーす代表 山本美也子氏による講演「突然お兄ちゃんがいなくなって…突然家族を亡くした親として」
山本氏からは,ご次男が学校や家庭で経験したことをお話に交えながら,被害者支援には周りの人たちが普通に接し,寄り添ってくれることが大切とのお話をいただいた。
- 家族を亡くした遺族は立っているだけで精いっぱいだが,周りの人たちはそのことに気づかないことが多く,ちょっとした一言で,子供は悲しみやいろいろな思いが爆発することがある。親自身も自分のことで精いっぱいで子供のことを気遣うことは難しい。
- 次男の周りには,亡くなった長男の同級生や次男の同級生がいつもと変わらず接してくれていたが,これが次男にとっては最高の被害者支援だったように思う。
- 被害者支援とは,近所の人たちが寄り添ってくれるとか,普通に接してくれることだと思う。だからこそ,地域や教育の場が大事で,被害者に最初に接する警察,行政の方に,地域につなげるパイプ役になってほしい。
パネルディスカッション「子供の頃に交通事故で家族を亡くすということ」
コーディネーター:福岡市こども総合相談センター所長 藤林武史氏
パネリスト : 子供の頃に交通事故で家族を亡くされたご遺族 3名, NPO法人はぁとすぺーす代表 山本美也子氏
被害者(子供の頃に交通事故で家族を亡くされた)ご遺族3名の方から,大切な家族を亡くした当時の体験談や辛かったこと,救われた出来事などについてお話しいただき,親側の立場からの感想や意見を山本氏からいただいた。その後,ご遺族3名のお話を踏まえ,藤林先生のコーディネートのもと,ディスカッションが行われた。
子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(男性)
小学校1年生(6歳)のとき,父を交通事故で亡くしました。事故当時,私自身幼く,父の死を受け止め,しっかり見つめられるようになったのは,高校性ぐらいです。周囲から家族構成の話が出たときは,少し居心地の悪さを感じたりしたことがあります。自分は,交通遺児育英会を通じ,同じ境遇の仲間と知りあえ,悩みや辛さを共有できました。また,スキーや野球を通じた他の保護者からの様々なサポートで,父親のいないさみしさを埋めてもらうことができました。子どもの支援のためには,保護者の経済的支援や精神的支援が必要だと思いますし,子供には,辛い時に匿名で話を聞いてもらえるカウセリングのような制度があればいいと思います。
子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(女性)
私は,23歳の時に大学3年生だった妹を交通事故で亡くしました。周囲の方に悪意はないのでしょうが,妹を亡くして悲しいのに,「両親をあなたが支えてあげてね」という声かけがとてもつらかったです。私の悲しい感情,つらい感情を表に出すことは,両親を悲しませることになるかもしれないと思い,自分の気持ちを抑えていました。事故以降,妹と同じ事故で一緒に亡くなった友達のお姉さんと,時々メールで連絡を取り合っていたのですが,親にぶつけられない悲しさ,周囲に感じているモヤモヤ等の同じ気持ちをメールでお互い吐き出すことでとても救われました。ある時,父に「生きていてくれたらそれでいい」と言われ,私はその言葉でずいぶん救われ,改めて自分を認めてもらえることの大切さを実感しています。
子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(男性)
私は,今から34年前,5歳の時に父を交通事故で亡くしました。小学校の時,友達から父のことを聞かれたり,父親参観に母が来たときに困ったり疎外感を感じることがありました。母一人,子一人で気丈に頑張っている母に父のことを聞くことは,母を悲しませることになるのではと思いできませんでした。大学進学時,交通遺児育英会の奨学金や寮のおかげで自分の選択肢を狭めることなく希望通りの大学に進学でき,さらに寮では同じ境遇の仲間と事故で家族を亡くしたことや将来のことなど語り合う機会を得ることができ,自分を大きく成長させてもらうことができました。被害者支援には,共有できる環境,希望する選択肢を減らさないという経済的な支援,そして,思ったことを言えるようになるための時間の3つが必要と考えます。
〔政府ホームページ掲載先〕
「交通事故サポート事業」については,28年4月1日より警察庁に移管されることに伴い、警察庁のホームページに掲載している。