特集 「高齢者に係る交通事故防止」
II 高齢者に係る交通事故防止に向けた取組

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特集 「高齢者に係る交通事故防止」

II 高齢者に係る交通事故防止に向けた取組

高齢者に係る交通事故の発生状況や特徴については前述のとおりであり,高齢者に係る交通事故防止を図るため,政府は,「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」(平成15年3月27日 交通対策本部決定)に基づき,また事故の発生状況等を踏まえ様々な取組を行っている。

1 高齢歩行者等の交通事故防止のための取組

(1)ユニバーサルデザインに対応した道路交通環境等の整備

ア 生活道路対策の推進,交通安全施設の整備等

ビッグデータ等の科学的データや地域の顕在化したニーズ等に基づき抽出したエリアにおいて,国,自治体,地域住民等が連携し,徹底した通過交通の排除や車両速度の抑制等のゾーン対策に取り組み,高齢者等が安心して通行できる道路空間の確保に努めている。

道路管理者においては,歩道の整備等により,安心して移動できる歩行空間ネットワークを整備するとともに,都道府県公安委員会により実施される交通規制及び交通管制との連携を強化し,ハンプやクランク等車両速度を抑制する道路構造等により,歩行者や自転車の通行を優先するゾーンを形成するゾーン対策,外周幹線道路の交通を円滑化するための交差点改良やエリア進入部におけるハンプや狭さくの設置等によるエリア内への通過車両の抑制対策を実施している。

さらに,ビッグデータの活用により潜在的な危険箇所の解消を進め,国,自治体,地域住民等が連携して効果的・効率的に対策を実施している。

また,都道府県公安委員会においては,音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機,信号表示面に青時間までの待ち時間及び青時間の残り時間を表示する経過時間表示機能付き歩行者用灯器,歩行者・自転車と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等のバリアフリー対応型信号機の整備,信号灯器のLED化,道路標識の大型化・高輝度化・自発光化,道路標示の高輝度化等を推進している。

さらに,生活道路において,区域を設定して最高速度30キロメートル毎時の区域規制や路側帯の設置・拡幅,ハンプ設置等を行う「ゾーン30」の整備等,ソフトとハードが連携した高齢歩行者等の安全対策を推進している。

イ 歩道の段差・傾斜・勾配の改善,無電柱化の推進等道路整備の推進

高齢歩行者等の安全な通行を確保するため,幅の広い歩道等の整備,歩道の段差・傾斜・勾配の改善,道路の無電柱化,立体横断施設へのエレベーターや傾斜路の設置等の対策を実施している。

写真左:(音響式信号機)、写真中央:(経過時間表示機能付き歩行者用灯器)、写真右:(区域を設定した最高速度規制の実施)
(2)高齢歩行者等の交通事故防止に資する車両安全対策

ア 安全基準の拡充・強化

高齢者をはじめとする歩行者及び自転車利用者(以下「歩行者等」という。)の交通事故を防止するためには,歩行者等が自動車の接近に気づきやすくする対策を講じることが必要である。このため,国土交通省では,平成28年10月に,前照灯の自動点灯(オートライト)や,走行音が静かなハイブリッド自動車等に備える車両接近通報装置の安全基準を整備した。

イ 先進安全自動車(ASV)推進計画

国土交通省では,ASV推進計画の下で,先進安全技術を活用して運転者の安全運転を支援する自動車の開発・普及・実用化を促進している。第5期ASV推進計画(平成23年度~平成27年度)では,通信を利用して自動車の前方等に歩行者がいることを運転者に伝え,事故回避の支援を行うシステムの開発等を促進するため,本システムの基本的な設計コンセプト等を整理した基本設計書をとりまとめた。

前照灯の自動点灯(オートライト)の義務化

高齢歩行者等の死亡事故は,日没前後の薄暮時に集中している。薄暮時は,視力が低下して周囲が見えにくい高齢歩行者等と,まだよく見えるとの思い込みから前照灯を点灯しない運転者が混在することなどにより,接近してくる自動車について,高齢歩行者等がその存在を見落としたり,距離や速度感を誤ったりすることが事故原因の一つと考えられる。このような状況において,薄暮時における自動車の被視認性の向上は,高齢歩行者等の事故防止に有効であると考えられる。これらのことからも,国土交通省では,乗用車及びバス・トラック等の大型車に対し,周囲が一定の暗さになると前照灯が自動で点灯するオートライト機能を義務付ける法令を平成28年10月に公布した。

(3)交通安全教育及び広報啓発の徹底

高齢者に対し,加齢に伴う身体機能の変化が行動に及ぼす影響,交通ルール等を理解させるため,高齢者の事故実態等に基づき,各種教育資機材を積極的に活用した参加・体験・実践型の交通安全教育を実施している。

特に,走行車両の直前直後横断等の法令違反に起因する死亡事故が多いことや横断時における特性に基づいた交通安全教育を実施している。

また,自転車利用者に対しては,「自転車安全利用五則」を活用するなどして,集中的かつ効果的な広報啓発活動を実施し,自転車の通行ルールの周知を図っている。

(4)薄暮時から夜間における交通安全対策

薄暮時から夜間における歩行者等の交通事故防止に効果が期待できる反射材用品等の普及を図るため,各種媒体を活用した積極的な広報啓発活動を推進しており,特に,反射材用品等の視認効果,使用方法等について理解を深めるとともに,自発的な着用を促すため,参加・体験・実践型の交通安全教育の実施及び関係機関・団体と協力した反射材用品等の展示会の開催等を推進している。

また,薄暮時から夜間における歩行者等や対向車の早期発見による交通事故防止対策として,前照灯の早めの点灯や,対向車や先行車がいない状況における走行用前照灯(いわゆるハイビーム)の使用の促進を図っている。

さらに,道路標識の大型化・高輝度化・自発光化及び道路標示の高輝度化を推進している。

(5)電動車いすの安全対策

電動車いすを利用する高齢者に対して,電動車いすの製造メーカーで組織される団体等と連携して,購入時等における安全利用に向けた指導・助言を徹底している。また,高齢者に対して安全に道路を通行させるために必要な技能や知識を習得させるため,運転免許試験場等道路外のコースにおいて,実際に電動車いすを使用して利用方法を指導するなど参加・体験・実践型の教育手法を活用した交通安全教育に努めている。

反射材の活用事例(静岡市)

静岡市では,平成28年に策定した「第10次静岡市交通安全計画」において,高齢者の事故防止対策として,コミュニティ道路の整備やあんしん歩行エリアの整備に加え,自発光式反射材の着用促進を重点的取組事項として取組を進めることとしている。

これは,ここ数年全体の交通事故件数は減少しているなかで,高齢歩行者の事故件数が増加しており,中でも夕方から夜間にかけて事故が多発していることから,高齢者に対し,自発光式反射材効果の周知を図るとともに,静岡市オリジナルの自発光式反射材を作成し身に付けてもらうことで,自ら命を守ることについての意識付けを行い,高齢歩行者の事故防止を図っている。

平成28年には,静岡市自治会連合会において,市内3区がそれぞれイラスト(葵区:静岡市章,駿河区:子供,清水区:区の広報キャラクター)入りのオリジナルの自発光式反射材を作製し,1万5千個を配付した。

オリジナルの自発光式反射材
(6)高齢者等による踏切事故防止対策

我が国社会において高齢化が進む中,高齢者等が踏切を渡りきれずに死傷するなどの踏切事故防止対策が喫緊の課題となっていることから,平成26年度に学識経験者,鉄道事業者,道路管理者,警察庁,国土交通省からなる「高齢者等による踏切事故防止対策検討会」を開催し,高齢者等の踏切事故の実態を把握するとともに,高齢者等が踏切道内に取り残されないための対策や踏切道内に取り残された高齢者等を救済する方策等について検討し,その結果を27年10月に公表した。(第14図及び第15図)

特集-第14図 高齢者等による踏切事故防止対策について ~4つの観点と14の対策~
特集-第15図 「高齢者等による踏切事故防止対策検討会」とりまとめ

その中では,

  • 高齢者等が踏切道内に取り残されないための対策として,踏切道の拡幅やカラー舗装等による歩車道の分離や歩行者の脱出が容易となる遮断かんの設置
  • 踏切道内に取り残された高齢者等を救済する対策として,非常押しボタンの設置及びその設置位置が多方向からわかる表示や,検知能力の高い障害物検知装置の設置
  • 高齢者等が踏切道を通行しない対策として,バリアフリー化された迂回路の活用

など14の対策を提示した。

関係省庁連絡会議の開催(認知症関係)

平成28年3月の認知症高齢者の列車事故における最高裁判決を踏まえ,認知症の方による事件,事故に社会としてどのように備えていくのか,「認知症高齢者等におけるやさしい地域づくりに係る関係省庁連絡会議」においてワーキンググループを開催し,トラブル・事故等の実態把握の方法などについて検討を行った。

ワーキンググループにおける検討結果を踏まえ,事故等の未然防止・早期対応として,

  • 徘徊・見守りの体制整備について,都道府県が未実施市町村の支援や広域での体制整備を推進する事業の新たな実施
  • 認知症サポーターが地域の見守り体制で活躍している事例などを広め,より効果的に活動できる仕組みづくり などを,また,起こりうる損害への備え・事故等が起こった場合の損害への対応として,民間保険の紹介・普及等を,今後進めていくこととしている。

»認知症サポーターとは?

認知症について正しく理解し,認知症の人や家族を温かく見守り,支援する応援者です。市町村や職場などで実施されている「認知症サポーター養成講座」を受講した人が「認知症サポーター」となります。

2 高齢運転者による交通事故防止のための取組

高齢化の進展に伴い,高齢の運転免許保有者数が増加し,高齢運転者が第1当事者となる交通事故件数が増加傾向となった。このような状況を踏まえ,政府では,平成15年に,「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」を策定し,同決定に基づき,自動車運転者としての高齢者による事故防止対策にも取り組んできた。

このような中,平成28年10月,神奈川県内で発生した通学中の小学生が亡くなる交通死亡事故を始め,高齢運転者による交通死亡事故が相次いで発生したことから,11月15日に関係閣僚会議を開催し,同会議における安倍総理の指示を踏まえ,取り得る対策を早急に講じるなど政府一体となって高齢運転者による交通事故防止対策に取り組んでいる。

(1)従来からの取組

ア 高齢運転者に対する講習等の充実

高齢者講習の効果的実施,更新時講習における高齢者学級の拡充等に努めている。特に,認知機能検査に基づく高齢者講習においては,検査の結果に応じたきめ細かな講習を実施しており,より効果的な教育に努めている。

また,高齢運転者に対しては,安全な運転に必要な技能・知識を再確認させるため,通行の態様に応じた参加・体験・実践型の交通安全教育を実施している。

さらに,地域において交通安全指導等を行う者を対象に安全指導に係る知識・技能等の向上を図るため,交通安全指導者養成講座を開催し,実際に自動車等を使用することによる実践的な教育・講習を実施しているほか,地域における高齢運転者の安全思想の普及を促進するため,シルバーリーダーや地域の高齢者に影響力のある者を対象とした参加・体験・実践型の講習会を開催し,必要な知識の習得及び指導力の向上を図っている。

高齢運転者の運転技能について,適切な指導プログラムによるトレーニングの実施により,信号無視や安全不確認等の危険な行為が減少するなど運転技能の向上が認められるとの研究結果※ⅱもあり,引き続きこれらの講習等の充実を図ることにより,高齢運転者による交通事故の減少につながることが期待される。

※ⅱ島田裕之(研究代表者):国立長寿医療研究センター・トヨタ自動車 運転寿命延伸プロジェクト 第2期中間報告書. 2016年6月発行

高齢運転者のリーダー格となる高齢者等の養成事業の実施状況について

内閣府では,高齢運転者に安全運転を指導する地域のリーダー格となる高齢者等を養成する「高齢者安全運転推進協力者養成事業」を実施している。

平成28年度は,広島県広島市及び鹿児島県志布志市の2地区において,危険予測学習や運転の基本に係る実習などの講習を行った。

〈身体機能診断〉
〈見通しの悪い交差点における通行方法の実技講習〉
〈信号交差点における危険予測学習〉
〈地域のリーダーとしての講習会企画案を班別討議〉

イ 他の世代の運転者に対する働きかけ

高齢者に対しては高齢運転者標識の表示を促すとともに,他の世代の運転者に対しても,高齢運転者の特性を理解し,高齢運転者標識を取り付けた自動車への保護意識を高めるよう,広報啓発に努めている。

ウ 道路交通環境の整備等

高齢者等が安心して自動車を運転して外出できるよう,生活道路における交通規制の見直し,付加車線の整備,道路照明の増設,信号灯器のLED化,道路標識の大型化・高輝度化・自発光化,道路標示の高輝度化等を推進しているほか,最先端の情報通信技術等を用いて,運転者に周辺の交通状況や信号灯火に関する情報等を提供することで注意を促し,ゆとりをもった運転ができる環境を作り出す安全運転支援システム(DSSS)・信号情報活用運転支援システム(TSPS)等のITS(高度道路交通システム)に関する研究開発及びサービス展開を実施している。

エ 事故危険箇所対策の推進

特に事故の発生割合の大きい幹線道路の区間やビッグデータの活用により明らかになった潜在的な危険区間等を事故危険箇所として指定し,都道府県公安委員会と道路管理者が連携して集中的な事故抑止対策を実施している。事故危険箇所においては,信号機の新設・改良,歩車分離式信号の運用,道路標識の高輝度化等,歩道等の整備,交差点改良,視距の改良,付加車線等の整備,中央帯の設置,バス路線等における停車帯の設置及び防護柵,区画線等の整備,道路照明・視線誘導標等の設置等の対策を推進している。

オ 高齢運転者の特性を考慮した車両安全対策

自動ブレーキなどの先進安全技術は,高齢運転者による交通事故の防止や事故時の被害軽減の効果が期待されている。国土交通省では,自動車ユーザーが安全な自動車を選びやすい環境を整えるとともに,自動車メーカーによる安全技術の開発を促進するため,市販車の安全性能を比較・評価し,結果を公表する自動車アセスメントを実施している。平成26年度からは対車両の自動ブレーキ及び車線逸脱警報装置,27年度からは後方視界情報提供装置(バックカメラ),28年度からは対歩行者自動ブレーキの性能評価・公表をそれぞれ行っているところである。

高齢運転者対策の推進

カ 道路交通法の改正

高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(以下「改正道路交通法」という。)が,平成27年6月に公布され,29年3月12日に施行された。

改正道路交通法により,一定の違反行為をした75歳以上の運転者に対して臨時認知機能検査を行い,その結果が直近において受けた認知機能検査の結果と比較して悪くなっている者等について,臨時高齢者講習を実施することとされた。

また,運転免許証の更新時の認知機能検査又は臨時認知機能検査の結果,認知症のおそれがあると判定された者について,その者の違反状況にかかわらず,医師の診断を要することとされた。さらに,改正道路交通法の施行に合わせて,運転免許証の更新時の高齢者講習について,認知機能検査で認知症のおそれがある又は認知機能が低下しているおそれがあると判定された者に対する講習は,ドライブレコーダー等で録画された受講者の運転状況の映像を用いた個人指導を含むこととし,講習時間を3時間として高度化を図る一方,このほかの者に対する講習は,講習時間を2時間として合理化を図った。

キ 運転免許証の自主返納制度の周知

高齢運転者が身体機能の低下等を理由に自動車等の運転をやめる際には,本人の申請により運転免許を取り消し,運転免許証を返納することができる。

また,運転免許証の返納後5年以内に申請すれば,運転経歴証明書の交付を受けることができ,金融機関の窓口等で本人確認書類として使用することができる。

警察では,申請による運転免許の取消し及び運転経歴証明書制度の周知を図るとともに,運転免許証を返納した者への支援について,地方公共団体を始めとする関係機関・団体等に働き掛けるなど,自動車等の運転に不安を有する高齢者等が運転免許証を返納しやすい環境の整備に向けた取組を進めている。

「運転経歴証明書」とは

「運転経歴証明書」は過去の運転経歴を証明するものです。

  • 有効期限内に運転免許証を返納し,その日から5年以内であれば,運転免許試験場等へ申請することにより「運転経歴証明書」の交付を受けることができます。
  • 平成24年4月1日以後に交付された運転経歴証明書は,交付後6か月を超えても,運転免許証と同様に身分証明書として用いることができます(例 銀行口座の開設)。
運転経歴証明書

高齢者運転免許自主返納ロゴマーク(警視庁)

青山学院女子短期大学芸術科の田島俊雄教授がデザインしたもので,運転免許の返納を促すため,わかりやすく親しみの持てる形にしています。

高齢者運転免許自主返納ロゴマーク

ク 高速道路等における逆走対策等の取組

平成28年3月に策定した「高速道路での今後の逆走対策に関するロードマップ」に基づき,「2020年までに高速道路での逆走事故ゼロを目指す」との目標を達成するため,インターチェンジやジャンクション部等でラバーポールや大型矢印路面標示の設置といった物理的・視覚的対策等を進めている。

警察では,逆走事案を起こした運転者への指導取締りを実施しているほか,高速道路の沿線に居住する高齢者をパーキングエリアに招き,逆走の形態や原因等について現場指導を行うなど高齢者に対する参加・体験・実践型の交通安全教育を実施している。

また,各季の交通安全運動の機会に各サービスエリア等で逆走防止に関するチラシを配布するなど広報啓発活動を実施している。

高速道路における年齢層別逆走事案の発生状況及びその対策等

○逆走件数は70~74歳で年間20件を越え,75~79歳が年間約40件と最も多い。
○免許人口当たりでは,75歳以上の逆走の発生する割合が高く,85歳以上の割合が最も高い。

左図:運転者の年齢別逆走件数(年換算)、右図:免許人口当たりの逆走件数(年換算)

○ 逆走発生の約4割を占める「分合流部・出入口部」で,物理的・視覚的な対策を実施。

〈分合流部・出入口部の対策〉

コミュニティバス・デマンドタクシーに関する取組等

人口減少や少子高齢化に伴い地域の生活交通の維持が困難となる中で,地域の足を確保する手段として,コミュニティバス(交通空白地域・不便地域の解消等を図るため,市町村等が主体的に計画し運行するバス)やデマンド交通(利用者の要望に応じて,機動的にルートを迂回したり,利用希望のある地点まで送迎したりするバスや乗合タクシー等)の導入が進んでいる。

国土交通省では,「地域公共交通確保維持改善事業」により,デマンド交通の運行や,幹線バス,ノンステップバス・福祉タクシーの導入などに対する補助を実施しており,平成27年度には,全国で1,260市町村においてコミュニティバス,362市町村においてデマンドタクシーが導入されている。

左:コミュニティバス、右:乗合タクシー

ケ 公共交通機関の確保に向けた取組

バス,タクシー等の公共輸送サービスが不十分である過疎地域・交通不便地域においては,自家用有償旅客運送制度を活用し,安全・安心を十分に図りつつ,地域住民の足の確保を行っている。

コ 地域運営組織による地域での取組

地域運営組織は,地域の生活や暮らしを守るため,地域で暮らす人々が中心となって形成され,地域課題の解決に向けた取り組みを持続的に実践する組織で,全国の4分の1の市町村に1,600を超える組織がある。

同組織では,高齢者交流,声かけ・見守り,外出支援,配食支援,買い物支援といった高齢者の生活を支える様々な取組など幅広い活動を行っている。

(2)高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議以降の取組

高齢運転者による交通死亡事故が相次いで発生したことを踏まえ,平成28年11月15日,関係閣僚会議を開催した。

同会議では,安倍総理から,このような大変痛ましい事故を防止するため,

  • 認知症対策を強化した改正道路交通法が29年3月から施行されることから,その円滑な施行に万全を期すこと
  • 自動車の運転に不安を感じる高齢者の移動手段の確保など社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備を進めること
  • 更なる対策の必要性について,専門家の意見を聞きながら,検討を進めること

の3点について,取り得る対策を早急に講じるとともに,政府一丸となって対策に取り組むよう指示があった。

これを受け,高齢運転者による交通事故防止について,関係行政機関における更なる対策の検討を促進し,その成果等に基づき早急に対策を講じるため,平成28年11月24日,交通対策本部の下に関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」を設置して検討を進め,29年6月を目途に全体的な取りまとめを行い,交通対策本部に報告するとともに、引き続き検討が必要なテーマについては検討を継続し,適切な時期にワーキングチームを開催していくこととしている。

<ワーキングチームの名簿>

(議長) 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)

警察庁交通局長

総務省大臣官房地域力創造審議官

厚生労働省老健局長

経済産業省製造産業局長

国土交通省総合政策局長

ア 改正道路交通法の円滑な施行

大幅な増加が見込まれる臨時適性検査・診断書提出命令を適切に実施するため,医師会等関係団体と連携して,医師の診断体制の確保※ⅲに努めるとともに,主治医の診断書の様式のモデル及び診断書記載ガイドラインを作成するなど,診断書の正確性・信頼性の担保を図っている。 

また,都道府県警察において連絡責任者及び連絡担当者を指定し,都道府県医師会等との連携強化に努めている。

さらに,高齢者講習等については,認知機能検査で認知機能が低下しているおそれがないと判定された者及び75歳未満の者に対する講習が合理化されたことを踏まえ,当該講習を効率的に実施するとともに,警察施設において講習等を実施するなどの取組により,実施体制の充実に努めている。 

※ⅲ平成29年3月末現在,診断への協力に加え,診断を必要とする者への紹介まで了承した医師は4,011人に上っている。

イ 社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備

今後更に高齢化が進む中,自動車の運転に不安を感じる高齢者が,自家用車に依存しなくとも生活の質を維持していくことが課題となっていることから,国土交通省では,平成29年3月から,地域交通や高齢者の移動特性に対して知見を有する学識者,福祉輸送や運輸事業の関係団体の代表者等からなる「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」を開催している。高齢者が安心して移動できる環境の整備について,その方策を幅広く検討し,同年6月を目途に中間取りまとめを行うとともに,必要な検討を継続することとしている。

ウ 高齢者の特性が関係する事故を防止するために,専門家の意見を聞きながら更なる対策の必要性についての検討

(ア)高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の開催

「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」が設置されたことを受け,警察庁では,平成29年1月16日,行政法,社会学,自動車工学,交通心理学等の学識者や医療・福祉等の関係団体の代表者等から成る「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」を開催。高齢運転者に係る詳細な事故分析を行い,専門家の意見を聞きながら,高齢者の特性が関係する事故を防止するために必要な方策を幅広く検討し,同年6月を目途に検討の方向性について提言を取りまとめるとともに,必要な検討を継続することとしている。 

(イ)自動車メーカーへの「高齢運転者事故防止対策プログラム」策定要請

国土交通省では,相次ぐ高齢運転者による交通事故を受けて,国内乗用車メーカー8社に対し「高齢運転者事故防止対策プログラム」の策定を要請した。これを受けてメーカー各社は,平成29年2月末までにプログラムを策定し,それに基づき,自動ブレーキ及びペダル踏み間違い時加速抑制装置などの先進安全技術について,研究開発の促進,機能向上及び搭載拡大,ディーラー等における普及啓発等に取り組むこととしている。

この取組により,自動ブレーキ及びペダル踏み間違い時加速抑制装置については,32年までに,ほぼすべての車種(新車乗用車)に標準装備又はオプション設定され,また,このうち自動ブレーキについては,そのほとんどが歩行者を検知可能となる見通しとなった。

(ウ)「安全運転サポート車」の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議の開催

国土交通省,経済産業省,金融庁及び警察庁は,高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ,高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車)の普及啓発を図るべく,平成29年1月25日に「安全運転サポート車の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議」を開催した。同会議において,安全運転サポート車のコンセプトや当面の普及啓発策,先進安全技術の一層の普及促進のための環境整備等について検討を進め,同年3月に中間取りまとめを行った。

中間取りまとめでは,高齢運転者による事故実態を踏まえた「安全運転サポート車」(ver.1.0)のコンセプトを定義し,同車の愛称を「セーフティ・サポートカーS(サポカーS)」と定めた上で,官民をあげた普及啓発に取り組むほか,自動車アセスメントの拡充や一定の安全効果が見込まれる水準に達した先進安全技術の基準の策定等について検討することとしている。

また,新車への対策に加え,既販車への装着が可能な後付けの安全装置についても,安全性を担保しつつ,普及促進を図ることとしている。

(エ)高速道路における逆走対策の一層の推進

高速道路における逆走対策のより一層の推進を図るため,民間企業等から逆走車両を検知,警告,誘導する技術を募集し,平成30年度からの実用化を目指して実道での検証等を行う技術を選定した。

エ 全国交通安全運動における取組

平成29年春の全国交通安全運動では,「子供と高齢者の交通事故防止~事故にあわない,おこさない~」を運動の基本とし,高齢者やその家族に対して,改正道路交通法の概要,運転免許証の自主返納制度や返納者に対する支援措置等についての普及啓発等にも取り組んだ。

平成29年春の全国交通安全運動の初日(4月6日),加藤内閣府特命担当大臣も街頭で交通安全を呼びかけた。

「安全運転サポート車」(サポカーS)の普及啓発

国土交通省,経済産業省,金融庁及び警察庁は,高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ,高齢運転者の安全運転を支援する自動ブレーキなどの先進安全技術を搭載した自動車(「安全運転サポート車」)の普及啓発を図ることとし,平成29年1月に「安全運転サポート車の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議」を設置し,先進安全技術の一層の普及促進のための環境整備等について検討を進め,同年3月に今後の取組について中間取りまとめを行った。

中間取りまとめでは,高齢運転者の事故実態を踏まえた「安全運転サポート車」(ver.1.0)のコンセプトを自動ブレーキ及びペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載された自動車と定義するとともに,同車の愛称を「セーフティ・サポートカーS」(サポカーS)と定めている。また,自動ブレーキ等の先進安全技術は,高齢運転者に限らず,全ての運転者の交通事故防止・被害軽減に資するため,自動ブレーキを搭載した自動車全般についても,「セーフティ・サポートカー」(サポカー)を愛称として,併せて普及啓発に取り組むこととしている。今後,「自動ブレーキの新車乗用車搭載率を2020年までに9割以上とする」普及率目標を設定し,官民で様々な取組を進めることとしている。

セーフティ・サポートカーS

自動ブレーキは,高齢運転者に限らず,全ての運転者の交通事故防止等に資するため,その搭載自動車についても,セーフティ・サポートカー(略称:サポカー)を愛称として,運転者全般に向けた普及啓発の対象とする。

具体的には,平成29年度・30年度を重点期間と位置付け,官民を挙げて普及啓発活動を行うとともに,高齢運転者による事故の防止等に効果がある先進安全技術を対象に追加するなどの自動車アセスメントの拡充,自動ブレーキ等の一定の安全効果が見込まれる水準に達した先進安全技術から国際基準化を主導し,安全基準の策定の検討などに取り組み,安全運転サポート車の普及を促進することとしている。

自動ブレーキの例
ペダル踏み間違い時加速抑制装置の例
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