第2編 海上交通 第2章 海上交通安全施策の現況
第3節 船舶の安全な運航の確保
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第3節 船舶の安全な運航の確保
1 ヒューマンエラーの防止
船舶事故の多くは,見張り不十分,操船不適切といったヒューマンエラーであることから,関係機関と連携の上,各種キャンペーン,海難防止講習会,訪船指導等あらゆる機会を通じて,事業者,操縦者等の安全意識の向上を図るとともに,海難防止活動時に,運輸安全委員会が作成した,事故防止に係る船舶事故調査事例の紹介と分析を行った情報誌により周知を図った。
また,事故防止に有用なAISの普及を促進するため,関係省庁と連携して,その有用性に係るリーフレットを配布し,普及に取り組んだ。
さらに,AISや海の安全情報等により,船舶交通の安全に必要な情報を提供し,操縦者等に対してこれらの情報の積極的な活用を呼び掛けた。
2 船舶の運航管理等の充実
(1)旅客船事業者等に対する指導監督の充実強化
旅客船事業者等に対して,安全管理規程の遵守状況を重点に監査を行うとともに,事故及びインシデント発生時の監査を通じて安全管理体制の改善を図った。
さらに,大量の輸送需要が発生する年末年始における交通機関の安全性向上を図るため,平成30年12月10日から31年1月10日までの間,「年末年始の輸送等に関する安全総点検」として,海運事業者による自主点検や地方運輸局等による現地確認を行った。この安全総点検では,海運事業者に対し最近の海難等を踏まえた事項を重点的に点検するよう働きかけるとともに,事業者による自主点検の実施率向上を図るため,業界団体を通じた周知等を行った。
(2)事故再発防止対策の徹底
旅客船等の事故が発生した場合には,事故の原因を踏まえた適切な再発防止策を策定し,運航労務監理官による監査,指導を通じて,その対策の徹底を図っている。
最近の事例を挙げると,平成27年7月に北海道苫小牧沖で発生したフェリーの火災事故を受けて,28年3月にフェリー事業者による消火活動の備えを強化するための有効な消火手順,消火設備の特性,訓練の方法などをまとめた手引書を取りまとめて公表し,30年度も引き続き全国のフェリー事業者に対して指導を行った。
また,平成30年9月4日に台風第21号による暴風により関西国際空港沖で錨泊していたタンカーが走錨し,空港の連絡橋に衝突する事故が発生したことを受け,気象・海象の情報を的確に入手し,予想される風速,風向等の気象・海象状況,海域及び底質に応じて,錨鎖の伸出等適切な措置を講じること等について,事業者団体を通じて注意喚起を行った。
(3)運輸安全マネジメント評価の推進
平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,30年度は163者に対して実施した。
(4)安全統括管理者及び運航管理者等に対する研修水準の向上
安全統括管理者及び運航管理者に対して,海上・臨海部におけるテロ対策等受講者の運航管理に関する知識,安全意識の向上に資する研修を全国の地方運輸局等において行った。
(5)安全情報公開の推進
利用者が適切に事業者の選択を行うことを可能とするとともに,事業者に安全対策推進のインセンティブを与えるため,海上運送法(昭24法187)及び内航海運業法(昭27法151)に基づき行政処分を行った事故案件等に関する情報をホームページに公開した。
3 船員の資質の確保
深刻な海難を機に締結された「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)においては,船舶の航行の安全性を担保するための船員の知識・技能に関する国際基準が定められている。同条約に対応し,船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭26法149)に基づく海技士国家試験の際,一定の乗船履歴を求めつつ,最新の航海機器等に対応した知識・技能の確認を行うとともに,5年ごとの海技免状の更新の際,一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより,船舶職員の知識・技能の最新化を図っている。また,新人船員の教育訓練において実践的な訓練を実施するために,練習船における教育・訓練設備を充実させるとともに,学校との連携を図りながら,その充実に努めた。
さらに,船舶の安全な運航を確保し海難事故の未然防止等を図るため,船員法(昭22法100)に基づき,発航前検査の励行,操練の実施,航海当直体制の確保,救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育・訓練等について指導を行うとともに,これらの的確な実施を徹底するため,運航労務監理官による監査を行った。
4 船員災害防止対策の推進
第11次船員災害防止基本計画(5か年計画)に基づき,平成30年度船員災害防止実施計画を作成し,安全衛生管理体制の整備とその活動の推進,死傷災害の防止を図るとともに,生活習慣病を中心とした疾病予防対策及び健康増進対策の推進を図るなど,船舶所有者,船員及び国の三者が一体となって船員災害防止対策を強力に推進した。また,船舶所有者等が自主的に船員災害に係るリスクアセスメントとPDCAサイクルという一連の過程を定めて継続的な改善を行うことにより安全衛生水準の継続的かつ段階的な向上を図る「船内労働安全衛生マネジメントシステム」や,中小船舶所有者を主な対象とした「船内向け自主改善活動(WIB)」の普及促進を図った。
5 水先制度による安全の確保
船舶がふくそうする水域等交通の難所とされる水域(全国35か所)においては,これら水域を航行する船舶に免許を受けた水先人が乗り込んで船舶を導くことにより船舶交通の安全が図られている。当該水先人の業務の的確な実施を確保するため,水先人の免許更新時の講習等を通じた知識・技能の最新化や養成教育の充実等を行うことにより,更なる安全レベルの維持・向上を図っている。
6 外国船舶の監督の推進
船員に求められる訓練,資格証明及び当直基準については,STCW条約等の国際条約で定められているが,これを遵守しない船舶(サブスタンダード船)が人命の安全や海洋環境等に多大な影響を及ぼす重大事故を引き起こす可能性がある。このようなサブスタンダード船を排除するため,関係条約に基づき外国船舶の監督(PSC)を推進した。さらに,東京MOUの枠組みに基づき,アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを実施した。なお,近年の東京MOUにおけるサブスタンダード船の拘留率は年平均3%まで減少した。
7 大規模災害への対応の強化
(1)船舶の津波防災対策の推進
平成23年に発生した東日本大震災では,多くの船舶が被災した。また,今後南海トラフ沿いの大規模地震等の発生による大規模津波の発生が見込まれており,船舶運航事業者において津波防災対策を行うことが重要である。これを踏まえ,津波発生時に船舶が適切な避難行動をとるために船舶運航事業者において作成するマニュアル「船舶津波避難マニュアル」の作成促進に取り組んでいる。これまでの取組として,25年度に「船舶津波避難マニュアル作成の手引書」を公表したことを皮切りに,「モデル的マニュアル(簡易マニュアル様式)」,「津波対応シート」及び同シートの外国語版を公表するなど,「船舶津波避難マニュアル」の作成等に必要な各船舶運航事業者への協力・支援等を実施してきた。30年度においては,前年度に引き続き船舶運航事業者に対し「津波避難マニュアル」の作成及び作成したマニュアルに基づく津波避難訓練の実施を呼びかけた。特に日本に寄港する外国船舶に対しては,船舶代理店事業者等を介して「津波対応シート」の外国語版の周知を行った。
(2)大規模災害時の船舶の有効活用
国土交通省は,警察庁,消防庁,防衛省,及び民間フェリー事業者と連携し,南海トラフ地震及び首都直下地震発生時に民間フェリーで広域応援部隊を迅速に輸送するため,「広域応援部隊進出における海上輸送対策」を講じることとし,人命救助のために重要な発災から72時間を考慮した迅速な広域応援部隊の輸送を実現させるため,平成28年12月に国土交通大臣より旅客船事業者団体等に対して発災時の広域応援部隊の優先的輸送への協力の事前要請を行うなど,災害時における迅速な海上輸送の実現に向けた体制の強化を図っている。また,地方公共団体向け「大規模災害時における船舶活用セミナー」の実施や災害時のニーズに応じて迅速に船舶を抽出する「船舶マッチングプログラム」の運用改善を図る等,地方公共団体と事業者等が連携して,緊急輸送活動等に船舶を活用するための環境整備を進めている。