第3編 航空交通 第2章 航空交通安全施策の現況
第2節 航空機の安全な運航の確保

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第3編 航空交通

第2章 航空交通安全施策の現況

第2節 航空機の安全な運航の確保

1 安全な運航の確保等に係る運航基準等の整備

我が国の航空機の運航の基準について,安全の確保を前提として,近年のめまぐるしく変化する航空業界の運航環境に適切に対応するため,国際標準や諸外国の状況を踏まえ様々な基準改正を実施した。例えば,航空機に装備すべき救急用具の要件の見直し及び感染症の予防に必要な用具の装備の義務化や従来,紙媒体で航空機に搭載していた航空図等を電子的に表示する機器の要件等の見直し,操縦士の疲労に起因する事故を防止するため有識者検討会において乗務時間の上限基準の見直しや必要な休養時間の明確化などを含む詳細な疲労管理基準の考え方を取りまとめるなど,更なる安全確保に向けた基準の制定等を行った。

2 運輸安全マネジメント評価の実施

平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,30年度は20者に対して実施した。

3 乗員政策の推進

安全を確保しつつ航空ネットワークの充実等を図るためには,操縦士の安定的な供給を確保することが必要である。このため,乗員政策等検討合同小委員会とりまとめ(平成26年7月)を踏まえて,即戦力となる操縦士の確保,民間養成機関の供給能力拡充,航空大学校の更なる活用,航空会社による自社養成の促進等,操縦士の養成・確保に向けた各種取組を進めている。

さらに,「明日の日本を支える観光ビジョン」において訪日外国人旅行者数の目標が2020年に4,000万人,2030年に6,000万人とされている等,航空需要の増加に対応した操縦士の養成・確保がますます重要となっていることから,平成30年度からの航空大学校の養成規模拡大(72名→108名)に向けた取組等についても着実に進めたほか,防衛省出身操縦士の民間活躍に必要な資格取得の負担軽減等を行った。

また,航空会社における健康管理体制の強化を図るため,航空機乗組員の身体検査を行う医師(指定医)及び医療機関等に対する講習会の内容の充実,立入検査の強化等により,能力水準の更なる向上・平準化を図るとともに,航空会社の健康管理部門への監査・指導の強化等を行っているところであるが,これに加え平成29年1月からは,航空会社の健康管理部門に乗員健康管理医及び健康管理担当者を配置し,操縦士の日常の健康状態の把握及び操縦士に対する定期的な教育を行わせる等の措置もとっている。

4 飲酒に関する対策の強化

平成30年から31年にかけて,航空会社において飲酒に係る不適切事案が連続して発生したことを受け,航空会社に対し法令遵守の徹底等について指導を行うとともに,30年11月より「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」を開催し,我が国における統一的な飲酒ルールの検討を進め,31年1月に,全ての操縦士を対象としたアルコール濃度の数値基準を設定するとともに,本邦航空運送事業者に対して,アルコール検知器を使用した乗務前後の検査の義務付け,アルコールを検知した操縦士の乗務禁止,経営者を含む社員への定期的なアルコール教育の実施などを内容とする厳格な飲酒基準を策定した。

5 落下物防止対策の強化

平成29年9月に発生した航空機からの落下物事案を踏まえ,29年11月より有職者や実務者等から構成される「落下物防止等に係る総合対策推進会議」を開催し,30年3月に落下物防止対策基準案を含む落下物対策総合パッケージをとりまとめた。これを踏まえ,30年9月に落下物防止対策基準を策定し,本邦航空会社は31年1月から,外国航空会社は31年3月から適用している。

6 外国航空機の安全性の確保

我が国に乗り入れている外国航空機に対する立入検査(ランプ・インスペクション)の充実・強化を図るとともに,外国航空機による我が国内での事故や重大インシデント等が発生した際には,必要に応じて,関係国の航空安全当局に対して原因の究明と再発防止を要請している。また,諸外国の航空安全当局との連携を図るために航空安全に係る情報交換に努めている。なお,平成30年度は,42か国の107社を対象に809回のランプ・インスペクションを実施した。

7 小型航空機等に係る安全対策の推進

小型航空機については従来から操縦士に対する定期的な技能審査制度の構築などの対策を実施してきたが,平成27年7月に東京都調布市で発生した住宅への墜落事故など,近年事故が頻発している状況にある。これを受け,国土交通省は,全国主要空港における安全講習会の開催,小型航空機の整備士を対象とした講習会を新たに開催,自家用機の航空保険加入の促進,調布墜落事故の事故調査報告及び勧告内容を踏まえた安全啓発リーフレットの作成・配布並びに操縦士の理解確認,小型航空機操縦士向けの定期的な安全啓発メールマガジンの配信などの追加対策を講じてきたところである。また,30年4月には我が国における近年の小型航空機の死亡事故傾向の分析結果を踏まえ,技量・知識向上,安全意識の徹底を図るため,ビデオ教材を作成し,航空局ホームページ等掲載し積極的に安全講習会での活用を推進するなどの取組を進めた。また,29年に富山県立山連峰で発生した小型機墜落事故に関する事故調査報告及び勧告内容を踏まえた安全啓発リーフレットの作成・配布並びに操縦士の理解確認,安全講習会での説明等を実施した。加えて,事故調査や訓練・技量審査などへの活用可能性を検証するため,簡易型飛行記録装置(FDM)の実証実験を開始した。今後とも,28年12月から定期的に開催している「小型航空機等に係る安全推進委員会」を通じて,有識者や関係団体等の意見を踏まえながら,小型航空機の総合的な安全対策を一層推進していくこととしている。その他,超軽量動力機,パラグライダー,スカイダイビング,滑空機,熱気球等のスカイレジャーの愛好者に対し,(一財)日本航空協会,関係スポーツ団体等を通じた安全教育の充実,航空安全に係る情報提供など,スカイレジャーに係る安全対策を行っている。

8 危険物輸送安全対策の推進

技術の発展に伴う危険物の航空輸送量の増加・多様化に対応するため, 国際民間航空機関(ICAO)及び国際原子力機関(IAEA)における国際的な危険物輸送に関する安全基準の整備に基づき,所要の国内基準の整備を行った。

また,危険物の安全輸送に関する講習会等を通じて知識の普及を図るとともに,荷主に対して危険物を航空輸送する際のルールを記載したリーフレットを作成し,関係団体等を通じて周知を行い,無申告・誤申告危険物を防ぐための取組を強化した。

さらに,政府広報,航空局のホームページ又は全国の空港にポスターを掲示する等により,旅客の手荷物に含まれる危険物に関するルールの国民への周知・啓蒙を図った。

9 航空交通に関する気象情報等の充実

悪天による航空交通への影響を軽減し,航空機の運航・航空交通流管理を支援する航空気象情報の高度化を図るため,航空機の離着陸に多大な影響を及ぼす低層ウィンドシアー(大気下層の風の急激な変化)を検知する空港気象ドップラーライダーを関西国際空港において,空港気象ドップラーレーダーを那覇空港において,それぞれ更新整備を行った。また,新しいスーパーコンピュータの運用を開始し,精密な数値予報モデルの更なる高精度化を図ることにより,飛行場予報をはじめ,きめ細かな航空気象情報の作成を支援することが可能となった。

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