特集 「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」
第2章 未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策
第1節 子供及び高齢運転者に関する交通安全の取組

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特集 「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」

第2章 未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策

第1節 子供及び高齢運転者に関する交通安全の取組

1 子供の交通安全対策
(1)交通安全基本計画に見る子供の交通安全対策の経緯

(昭和40年代前半の取組)

昭和40年代初め,15歳以下の年少者の交通事故死者が全死者数の約15%を占め,41年には愛知県猿投町(現:豊田市)において,保育園の前で横断歩道を渡ろうとしていた保育園児の列にダンプカーが突っ込み,保育士1人を含む死者11人,重軽傷者22人を出す悲惨な事故が発生したことなどから,幼児等の交通安全の徹底を望む声が高まった。42年2月には「学童園児の交通事故防止の徹底に関する当面の具体的対策について」(昭和42年2月13日交通対策本部決定)が決定され,同年の春の全国交通安全運動では,通学通園路等における学童園児の安全な通行確保が重点施策として取り上げられた。

翌43年には,文部省から都道府県知事,同教育長宛てに,「集団登下校の実施について」が通達され,この中で,「集団登下校は,通学の安全を確保するための有効な方法であるが,反面,大事故を起こす危険もあるので,学校においては,通学路の道路事情および交通事情を具体的に検討したうえで,個々の通学路ごとに集団登下校を実施するかどうか決めること」などが示された。さらに,道路における子供の遊戯が交通事故多発の要因となっていたことから,45年4月に「こどもの遊び場確保のための当面の措置についての申し合わせ」(昭和45年4月16日交通対策本部幹事申し合わせ)がまとめられ,子供の安全な遊び場を確保するため,日曜祝日における車両の通行禁止規制の実施や小・中学校校庭の開放などが進められた。

(交通安全対策基本法と子供の交通安全対策)

昭和45年に制定された交通安全対策基本法(昭45法110)に基づき,46年に作成された第1次交通安全基本計画は,子供と老人の事故防止のための交通安全教育や広報とともに,児童の遊び場の不足を解消し,路上遊戯等による交通事故の防止等に資するため,児童公園等の整備を推進し,「こどもの遊び場の確保」を図る旨について記載した。

昭和47年「幼児の交通安全対策について」(昭和47年4月5日中央交通安全対策会議決定)は,我が国においては,1~4歳の幼児の交通事故による死亡率がそれ以上の年齢の子供に比べて著しく高く,先進諸国と比べても極めて高いことに着目し,その背景として,交通安全施設や遊び場の整備の遅れとともに幼児の安全に関する社会一般の関心が低いことなどを挙げ,幼児に対する心身の発達段階に応じた交通安全教育の強化の必要性を指摘した。

昭和51年度からの第2次基本計画では,子供の通行の安全確保のため,特に通学通園路について配慮した交通安全施設等の整備,スクール・ゾーンについて記載するとともに,学校における交通安全教育の徹底に加え,幼児の交通安全教育の重要性についても記載している。

平成8年度からの第6次基本計画では,児童・幼児の通行の安全を確保するための歩道等の整備等通学路,通園路の整備のほか,ハンプや狭さく等が整備されたコミュニティ道路等面的整備とゾーン規制等の交通規制を適切に組み合わせ,良好なコミュニティ・ゾーンの形成を図り,安心して歩ける生活環境の整備について記載した。

本格的な人口減少と超高齢社会の到来を強く意識した第8次基本計画(平成18~22年度)では,高齢化の進展と同時に少子化の進展に着目し,安心して子供を生み,育てることができる社会を実現するためには,防犯の観点はもちろんのこと,子供を交通事故から守る観点からの交通安全対策が一層求められるとした。その上で,道路交通環境の整備について,従来の取組に加え,子供を事故から守り,高齢者が安全にかつ安心して外出できる交通社会形成を図る観点から,通学路,生活道路,市街地の幹線道路等において歩道を一層積極的に整備するなど,安全・安心な歩行空間が確保された「人優先」の道路交通環境整備の強化を図るなどとした。以降,「人優先」の考え方は,現行の第10次基本計画(平成28~令和2年度)まで受け継がれ,この考え方を基に対策が進められてきている。

(2)近年の取組

近年では,平成24年4月,京都府亀岡市において集団登校中の児童等の列に軽乗用車が突っ込み,死傷者が多数発生した事故を始め,登下校中の児童等が巻き込まれる交通事故が相次いで発生したことを受け,文部科学省,国土交通省,警察庁の3省庁が連携し,通学路における交通安全の確保に向けた諸対策を推進してきた。

さらに,登下校等に限らず,子供の交通安全全体について,文部科学省及び警察庁では,小学生及び中学生に対し,「学校安全の推進に関する計画」(平成24年4月27日閣議決定)や「交通安全教育指針」(平10国家公安委員会告示15)を基に,その発達段階に応じた歩行者及び自転車の利用者等として必要な知識・技能等を習得させるため,指導参考資料の作成や効果的な交通安全教育の実施を推進するなど,通学路を始めとする道路を安全に通行する意識及び能力の向上を図っている。

なお,自動車乗車中の事故防止に関しても,平成12年4月1日からチャイルドシートの使用が義務付けられ,その普及が図られている。また,自転車乗車中の事故防止についても,「自転車安全利用五則」(平成19年7月10日交通対策本部決定)の普及を始め自転車の正しい乗り方に関する普及啓発の強化を図る中で,自転車に同乗する幼児の安全確保を図ってきた。例えば,保護者に対して幼児の同乗が運転操作に与える影響等を体感できる参加・体験・実践型の交通安全教育を実施するほか,幼児を同乗させる場合において安全性に優れた幼児二人同乗用自転車の普及促進,自転車乗車時の頭部保護の重要性とヘルメット着用による被害軽減効果について理解促進を図るなど,幼児や子供の生活の様々な場面における交通安全の取組が進められてきた。

こうした取組の成果も相まって,子供の交通事故死者数は大きく減少してきた。

2 高齢運転者の交通安全対策

子供の交通事故死者数の減少と対照的に,高齢化の進展に伴い,昭和57年頃から高齢者の交通事故死者数が増加し,特に,56年から61年までの5年間に70歳以上の死者数が40%も増加(1,162人→1,627人)したこと,歩行中・自転車乗用中の事故が多いことなどから,高齢者に対する交通安全教育とともに,シルバーゾーンの設定等高齢者等の利用に配慮した道路交通環境整備が進められた。また,交通弱者としての高齢者を事故から守ることを基本としつつ,高齢者の活動の活発化,高齢の運転免許保有者の増加などを背景に,高齢者が加害者となる運転中の事故防止対策も重視されるようになった。63年には,「高齢者の交通安全総合対策」(昭和63年9月9日交通対策本部決定)が決定され,また,「高齢者交通安全対策推進会議」が開催され(昭和63年9月27日交通対策本部長決定),平成2年には「高齢者交通安全教育指導指針」(平成2年2月13日高齢者交通安全対策推進会議決定),平成4年には「今後の高齢者の交通安全対策の推進について」(平成4年9月10日高齢者交通安全対策推進会議決定)が決定された。これらの中では,歩行者としての高齢者に係る対策とともに,高齢運転者に関わる対策等もまとめられている。

また,この頃,特に75歳以上の後期高齢者の死亡事故,歩行中,自転車乗車中の事故が多いことなどが指摘されるようになった。

昭和61年度からの第4次基本計画は,初めて高齢運転者対策について取り上げ,「高齢化社会の進展に伴い,増加傾向にある高齢運転者の交通事故防止を図るため,高齢運転者の事故実態,運転の特性等に関する調査研究を進め,高齢運転者の運転適性診断の希望者に対する実施等の効果的な対策を検討するとともに,更新時講習を始めとする各種の講習の機会を通じて,高齢運転者に自らの運転特性を理解した安全な運転をさせるための指導を推進する」ことなどを記載した。

平成8年度からの第6次基本計画においては,交通事故発生状況の特徴として,16歳から24歳の若者と65歳以上高齢者で死者数の過半数を占めること,高齢化の進行により,死亡事故の当事者となる比率の高い高齢者人口が増加するとともに,社会参加の拡大等による高齢者の交通行動の機会が増大し,高齢運転者が増加していることをあげ,高齢者の交通安全対策として,運転免許証更新時等における適性検査や運転実技講習の充実,高齢者が乗りやすい自動車の開発促進等の安全運転対策に触れた。運転免許制度については,道路交通法(昭35法105)が改正され,10年10月から,75歳以上の者が運転免許証を更新する際には,高齢者講習を受講しなければならないこととされた。

平成13年度からの第7次基本計画は,冒頭で高齢者が第一当事者となった自動車運転中の死亡事故件数が急増したことに触れ,対策として,高齢者講習の充実,更新時講習における高齢者学級の拡充のほか,高齢運転者の増加に対応した道路標識の高輝度化・大型化等についても記載した。14年6月には,運転免許制度については,運転免許証更新時の高齢者講習受講対象年齢が,70歳以上に拡大された。平成15年には,多様なライフスタイルを可能とする高齢期の自立支援その他への取組を推進することとした「高齢社会対策大綱」(平成13年12月28日閣議決定)を踏まえた交通安全対策の一層の充実を図るため,「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策」(平成15年3月27日交通対策本部決定)が決定された。また,21年6月からは,75歳以上の者が運転免許証を更新する際には,認知機能検査を受けなければならず,検査の結果,認知症の恐れがあると判定され,その後に特定の違反を行った場合などには,認知症であるかどうかについて医師の診断を義務付けられることとされた。

「人優先」を理念に掲げた第8次基本計画(平成18~22年度)は,高齢者が主として歩行及び自転車等を交通手段として利用する場合と,自動車を運転する場合の相違に着目し,それぞれの特性を理解した対策を構築すべきであるとし,高齢運転者については,その大幅な増加が予想されることから,対策の強化を喫緊の課題と位置付けた。

道路交通法はさらに見直され,平成29年3月からは,認知機能検査結果のみで医師の診断が義務付けられることとなったほか,臨時認知機能検査が導入された。これに相前後して,28年10月,神奈川県内で発生した通学中の小学生が亡くなる交通死亡事故を始め,高齢運転者による交通死亡事故が相次いで発生したことから,11月15日に関係閣僚会議を開催し,同会議における総理の指示を踏まえ,翌年6月に,局長級の「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」において,運転免許証の自主返納の促進を始め,高齢者の移動手段の確保等社会全体で生活を支える体制の整備,安全運転サポート車の普及啓発等を盛り込んだ「高齢運転者による交通事故防止に向けて」が取りまとめられた(「高齢運転者による交通事故防止対策について」(平成29年7月7日交通対策本部決定))。この中で,80歳以上の高齢運転者による交通事故死者数を令和2年までに200人以下とするとの数値目標を掲げ,政府一体となって高齢運転者による交通事故防止対策に取り組んできたところである。

特集-第45図 高齢運転者に関わる主な道路交通法改正)
運転免許制度 その他
平成9年
10月30日
高齢運転者標識新設(75歳以上)
平成10年
4月1日
申請による運転免許の取り消しが可能に
平成10年
10月1日
75歳以上の者が運転免許証を更新する際,高齢者講習の受講を義務付け
平成14年
6月1日
高齢者講習の受講対象年齢を,75歳以上から70歳以上に拡大 高齢運転者標識年齢が,75歳から70歳に
平成20年
6月1日
高齢運転者標識の表示義務化(75歳以上)
平成21年
6月1日
75歳以上の者が運転免許証を更新する際,認知機能検査の受検が義務付けられ,検査の結果,認知症のおそれがあると判定され,かつ,一定期間内に特定の違反を行った場合には,臨時認知機能検査として認知症の専門医の診断を義務付け
平成22年
4月19日
高齢運転者等専用駐車区間制度の導入
平成26年
6月1日
免許を受けようとする者等に対する病気の症状に関する質問制度,一定の症状を呈する病気等に該当する者を診断した医師による任意の届出制度等を導入
平成29年
3月12日
75歳以上高齢運転者対策強化(臨時認知機能検査,臨時高齢者講習新設)
認知症のおそれがあると判断された場合には医師の診断書提出等
(医師診断の結果,認知症と診断された場合は運転免許取消しまたは停止。更新時高齢者講習が認知機能検査結果から2区分)
特集-第46図 平成28年関係閣僚会議における総理指示に基づく高齢運転者の交通事故防止対策の経緯
平成28年
11月15日 高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議・総理指示
11月24日 交通対策本部決定「高齢運転者の交通事故防止対策の推進について」
交通対策本部長決定「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチームの設置について」
「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第1回開催
平成29年
1月18日 「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第2回開催
3月28日 「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第3回開催
6月30日 「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第4回開催(取りまとめ)
7月7日 交通対策本部決定「高齢運転者による交通事故防止対策について」
平成30年
4月26日 「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第5回開催(フォローアップ)
平成31年
4月24日 「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」第6回開催(フォローアップ)
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