第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第7節 救助・救急活動の充実

目次]   [前へ]   [次へ

第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第7節 救助・救急活動の充実

1 海難情報の早期入手体制の強化

海上保安庁では,海難情報を早期に入手し,迅速かつ的確な救助活動を行うため,全国12か所の陸上通信所や行動中の巡視船艇により,海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)に対応した遭難周波数を24時間聴守するとともに,コスパス・サーサットシステムにより衛星経由で遭難信号を入手するなど,遭難情報への即応体制を整えている。

また,広く一般国民や船舶等から海上における事件・事故に関する情報を入手するため,緊急通報用電話番号「118番」や「NET118」の有効活用及び緊急通報時に携帯電話のGPS機能を「ON」にすることで緊急通報位置情報システムにより遭難位置を早期に把握することができ,迅速な救助につながることを周知し,啓発を行った。

海難発生から海上保安庁が2時間以内に情報を入手する割合(関知率)を85%以上とすることを目指し,上記活動を推進した結果,令和4年の関知率は約80.9%となり,徐々に向上している。

防衛省は,海上保安庁との電気通信の協力に関する協定に基づき,相互の連絡体制の強化を図っている。また,艦艇・航空機では状況の許す限り,遭難周波数を聴守した。

2 迅速的確な救助勢力の体制充実・強化

(1)救助勢力の早期投入

海難等の発生に備え即応体制を確保するとともに,大型台風の接近等により大規模な海難の発生が予想される場合には,非常配備を発令し,海難等が発生した際の救助勢力の早期投入を図った。

実際に海難等が発生した場合には,巡視船艇,航空機を現場に急行させるとともに,精度の高い漂流予測を実施し,関連する情報を速やかに収集・分析して捜索区域,救助方法等を決定するなど,迅速かつ的確な救助活動の実施を図った。

事案即応体制及び業務執行体制の一層の強化のため,巡視船艇・航空機の代替整備等を行い,速力,夜間捜索能力等の向上に努め,現場海域への到達時間や捜索に要する時間を短縮するなど救助勢力の充実・強化を図った。

令和4年4月に発生した北海道知床沖の遊覧船事故を受け,関係機関における捜索救助に係る調整機能の強化や自衛隊への災害派遣要請の迅速化を図った。

防衛省・自衛隊は,災害派遣による救助等を迅速に行うため,FAST-Force(初動対処部隊)として,航空機及び艦艇を常時即応できる態勢を整えている。

(2)海難救助体制の充実強化

船舶交通のふくそう状況,気象・海象の状況等を勘案し,海難の発生のおそれがある海域において,巡視船艇・航空機を効率的に運用した。

また,転覆船や火災船からの人命救助等,専門的な救助技術・知識が要求される海難に適切に対応するため,救助・救急資器材の充実に努めるとともに,特殊救難隊を始め機動救難士や潜水士の訓練・研修を行うなど,救助・救急体制の充実強化を図った。

このほか,全国各地で実施されている民間救助組織の救助訓練への指導・協力を行うなど,民間救助組織との連携体制の強化を図った。

(3)救急救命体制の充実強化

海上保安庁では,救急救命士について,実施できる救急救命処置範囲の拡大・高度化が進められている中,救急救命士の知識・技能を向上させ,かつ,実施する救急救命処置の質を医学的・管理的観点から保障するため,海上保安庁メディカルコントロール協議会において事後検証や救急処置基準の見直し等を行い,救急救命処置の更なる質的向上を推進した。

また,所定の講習等を修了した特殊救難隊及び機動救難士等を応急処置が実施可能な「救急員」として指名するなど,「救急員制度」を適切に運用し,洋上における救急救命体制の充実強化を図った。

(4)洋上救急体制の充実

洋上の船舶上で傷病者が発生し,医師による緊急の加療が必要な場合に,海上保安庁の巡視船艇・航空機等で医師等を輸送し,傷病者を引き取り,陸上の病院に搬送する洋上救急制度により,令和4年は12件の要請を受け,巡視船艇4隻,航空機12機,特殊救難隊等14人を派遣した。

また,医師等が騒音・振動のある巡視船艇・航空機内でも適切に医療活動ができるよう,洋上救急制度の事業主体である(公社)日本水難救済会,協力医療機関と連携し,全国2の拠点で慣熟訓練を実施した。

(5)海難救助体制の連携

「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)に基づき,北西太平洋の広大な海域における捜索救助活動を迅速かつ的確に行うため,国際会議や合同訓練等への参加を通じて捜索救助機関との連携・協力を深めた。さらに,東南アジア諸国等を対象にオンライン研修を実施するなど,海上における捜索救助体制整備のための知見の共有を図るとともに,相互理解の促進を図った。

また,SAR条約に基づいた任意の相互救助システムである「日本の船位通報制度(JASREP)」を運用し,令和4年には,2,132隻の船舶が参加した。

沿岸部での小型船舶等に対する海難救助については,水難救済会等と連携協力し,海難救助活動を行った。

目次]   [前へ]   [次へ