第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第3節 船舶の安全な運航の確保

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第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第3節 船舶の安全な運航の確保

1 旅客船の総合的な安全・安心対策

令和4年4月に発生した知床遊覧船事故を受け,「知床遊覧船事故対策検討委員会」において取りまとめられた「旅客船の総合的な安全・安心対策」について,実施可能なものから速やかに実行するとともに,その進捗についてフォローアップを実施した。また,事業者の安全管理体制の強化や船員の資質の向上などを内容とする「海上運送法等の一部を改正する法律」(令5法24)により,関係法律の改正を行うとともに,同法の施行に向けた政省令等の整備を実施した。

2 ヒューマンエラーによる船舶事故の防止

船舶事故の多くは,見張り不十分,操船不適切といったヒューマンエラーであることから,関係機関と連携の上,各種キャンペーン,海難防止講習会,訪船指導等あらゆる機会を通じて,事業者,操縦者等の安全意識の向上を図った。

また,事故防止に有用なAISの普及を促進するため,関係省庁と連携して,その有用性に係るリーフレットを配布し,普及に取り組んだ。

さらに,AISや海の安全情報等により,船舶交通の安全に必要な情報を提供し,操縦者等に対してこれらの情報の積極的な活用を呼び掛けた。

3 船舶の運航管理等の充実

(1)旅客船事業者等に対する指導監督の充実強化

旅客船事業者等に対する抜き打ち・リモートによる監査の積極的な実施により,事業者の運航実態の的確かつ継続的な把握に努め,事業者に対する監視を強化するとともに,「旅客船の安全に関する通報窓口」を設置し,法令違反や事故のリスクの高い事業者に対する監査を機動的・重点的に実施した。また,船員の過労防止措置の確認を重点的に行い,安全かつ適切な労働環境の実現に努めた。

さらに,大量の輸送需要が発生する年末年始における交通機関の安全性向上を図るため,令和5年12月10日から6年1月10日までの間,「年末年始の輸送等に関する安全総点検」として,海運事業者による自主点検や地方運輸局等による現地確認を行った。この安全総点検では,海運事業者に対し気象海象条件を踏まえた運航の可否判断に係る状況や通信設備等を重点的に点検するよう働き掛けるとともに,事業者による自主点検の実施率向上を図るため,業界団体を通じた周知等を行った。

(2)事故の再発防止策の徹底

船舶事故等が発生した場合には,運航労務監理官による監査等を通じて,事業者に対して事故の原因を踏まえた適切な再発防止策の策定を促すとともに,特に,行政処分等を行った事業者に対しては,改善が確認されるまで継続的・徹底的にフォローアップを行うことにより,再発防止の徹底を図った。

また,事業者の「輸送の安全」に対する意識を高め,海上輸送の安全の確保を図ることを目的として,海上運送法(昭24法187)及び内航海運業法(昭27法151)に基づき,運航労務監理官による立入検査の実施状況及び行政処分並びにその他の輸送の安全に関わる情報を引き続き公表した。

(3)運輸安全マネジメント評価の推進

平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認し評価する取組を,令和5年度は150者に対して実施した。特に令和5年3月の運輸審議会の答申を踏まえ,今後おおむね5年間を目途に,全ての小型旅客船事業者に対する運輸安全マネジメント評価を行うこととし,令和5年度は40者に対して実施した。

また,令和2年7月に策定,公表した,「運輸防災マネジメント指針」を活用し,運輸安全マネジメント評価の中で防災マネジメントに関する評価を実施した。

(4)安全統括管理者及び運航管理者等に対する研修水準の向上

安全統括管理者及び運航管理者に対して,関係省庁等と連携し受講者の運航管理に関する知識,安全意識の向上に資する研修を行っている。令和5年度は,地方運輸局において可能な限り会場開催とウェブ形式の併用を行い,海上運送法等の制度改正,事故の発生状況,管内における主な事故及び再発防止対策等に関する研修を実施した。

(5)安全情報公開の推進

旅客船利用者が適切に事業者の選択を行うことをより一層可能とするため,令和4年8月末より国土交通省ネガティブ情報等検索サイトにおいて,行政処分に加え,行政指導を公表対象に追加するとともに,公表期間を2年間から5年間に変更したところであり,引き続き安全情報の公開を促進した。

4 船員の資質の確保

深刻な海難を機に締結された「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)においては,船舶の航行の安全性を担保するための船員の知識・技能に関する国際基準が定められている。同条約に対応し,船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭26法149)に基づく海技士国家試験の際,一定の乗船履歴を求めつつ,最新の航海機器等に対応した知識・技能の確認を行うとともに,5年ごとの海技免状の更新の際,一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより,船舶職員の知識・技能の最新化を図っている。また,新人船員の教育訓練において実践的な訓練を実施するために,練習船における教育・訓練設備を充実させるとともに,学校と練習船の連携による効率的・効果的な教育に努めた。

さらに,航海の安全の確保を図るため,船員法(昭22法100)に基づき,発航前検査,操練の実施,航海当直体制の確保,船内巡視制度の確立,救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育・訓練等について指導を行うとともに,これらについての的確な実施を図るため,運航労務監理官による監査を通じて,関係法令の遵守状況等の確認を行い,関係法令に違反していることが判明した事業者等に対しては,行政処分等により再発防止を図った。

5 船員災害防止対策の推進

第12次船員災害防止基本計画(令和5年度から令和9年度までの5か年計画)に基づき,令和5年度船員災害防止実施計画を作成し,安全衛生管理体制の整備とその活動の推進,死傷災害の防止を図るとともに,令和5年9月1日から30日までを船員労働安全衛生月間として,船員を始め関係者の安全衛生意識の高揚,安全衛生に関する訪船指導などの災害防止対策の推進等を目指した取組を集中的に実施した。また,船舶所有者等が自主的に船員災害に係るリスクアセスメントとPDCAサイクルという一連の過程を定めて継続的な改善を行うことにより安全衛生水準の継続的かつ段階的な向上を図る「船内労働安全衛生マネジメントシステム」の普及促進を図った。

6 水先制度による安全の確保

船舶がふくそうする水域等交通の難所とされる水域(全国34か所)においては,これら水域を航行する船舶に免許を受けた水先人が乗り込んで船舶を導くことにより船舶交通の安全が図られている。当該水先人の業務の的確な実施を確保するため,水先人の免許更新時の講習等を通じた知識・技能の最新化や養成教育の充実等を行うことにより,更なる安全レベルの維持・向上を図っている。

7 外国船舶の監督の推進

船員に求められる訓練,資格証明及び当直基準については,STCW条約等の国際条約で定められているが,これを遵守しない船舶(サブスタンダード船)が人命の安全や海洋環境等に多大な影響を及ぼす重大事故を引き起こす可能性がある。このようなサブスタンダード船を排除するため,関係条約に基づき外国船舶の監督(PSC)を推進した。さらに,東京MOUの枠組みに基づき,アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを実施した。

PSC:Port State Control

※東京MOU:Memorandum of Understanding on Port State Control in the Asia-Pacific Region
アジア太平洋地域におけるPSCの協力体制に関する覚書

8 旅客及び船舶の津波避難態勢の改善

平成23年に発生した東日本大震災では,多くの船舶が被災した。また,今後南海トラフ地震等の発生による大規模津波の発生が見込まれており,船舶運航事業者において津波防災対策を行うことが重要である。これを踏まえ,国土交通省では,大規模津波発生時における船舶の適切な避難行動を促進するため,船舶運航事業者による「船舶津波避難マニュアル」等の作成を推進している。具体的にはこれまで,マニュアル作成のための手引き等の公表,関係事業者に対する説明会の開催,津波防災対策の定着のための津波避難訓練実施の呼び掛け等を行った。引き続き津波避難に必要な主要ポイントを選定したマニュアル様式「津波対応シート」及び「津波対応シート」の外国語版を国土交通省ホームページに掲載し,活用を促した。

9 新技術の導入促進

内航を始めとする船舶への新技術の導入促進による労働環境改善・生産性向上,ひいてはそれによる安全性向上を図っている。具体的には,令和3年5月に船舶安全法(昭8法11)を改正し,遠隔監視技術を活用した船舶検査の簡素化制度を創設し,同年11月より運用を開始した。

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