第3編 航空交通
第2章 航空交通安全施策の現況
第2節 航空機の安全な運航の確保
第3編 航空交通
第2章 航空交通安全施策の現況
第2節 航空機の安全な運航の確保
1 安全な運航の確保等に係る乗員資格基準や運航基準等の整備
近年の目まぐるしく変化する航空業界の運航環境に適切に対応するため,国際標準の改正や諸外国の状況を踏まえ,安全の確保を前提として我が国の航空機の運航基準の改正を実施している。令和5年度中には,脱炭素化に資する広域航法の実施に係る航空機乗組員に対する訓練要件を改正したほか,令和4年に発生した知床遊覧船事故を踏まえて主に小型航空機により運送事業を行う航空運送事業者に運航管理担当者の定期訓練・復帰訓練の義務化等を実施した。
2 危険物輸送安全対策の推進
技術の発展に伴う危険物の航空輸送量の増加・多様化に対応するため,ICAO及び国際原子力機関(IAEA)における国際的な危険物輸送に関する安全基準の整備に基づき,これらを遅滞なく国内基準に反映した。
また,危険物の安全輸送に関する講習会及び関係荷主団体等への説明会を開催することにより,危険物輸送基準の理解を図った。
さらに,旅客の手荷物に含まれる危険物に関する最新ルールの遵守を徹底させるため,政府広報及び航空局のホームページでの公表並びに全国の空港へのポスター掲示により,国民への周知・啓蒙活動を実施した。
3 小型航空機等に係る安全対策の推進
小型航空機の安全対策として,メールマガジンやSNSによる安全情報の発出,安全啓発動画の配信等による「安全情報の発信強化」を実施したほか,操縦技能審査員に対して特定操縦技能審査口述ガイダンスを改正したことにより「操縦士に対する指導・監督の強化」を図った。また,「新技術の活用」として小型航空機用に開発・販売されている簡易型飛行記録装置(FDM機器)に係る実証実験から得られた活用策の検討結果を踏まえて「小型航空機用FDM導入ガイドライン」を策定し,同ガイドラインによりFDMの普及促進に向け取り組んでいる。
4 運輸安全マネジメント評価の実施
平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認し評価する取組を,令和5年度は10者に対して実施した。
また,令和2年7月に策定,公表した,「運輸防災マネジメント指針」を活用し,運輸安全マネジメント評価の中で防災マネジメントに関する評価を実施した。
5 乗員政策の推進
安全を確保しつつ航空ネットワークの充実等を図るためには,操縦士の安定的な供給を確保することが必要である。
現在,操縦士等が航空会社において第一線で活躍するまでには長い時間を要することから,今後の航空需要の回復・増加の局面に対応するため,中長期的な視点で計画的に操縦士の養成を継続する必要がある。このため,航空大学校における操縦士の養成を着実に進めているほか,自衛隊操縦士の民間活躍等にも取り組んでいる。
また,航空会社における健康管理体制の強化を図るため,操縦士の身体検査を行う医師(指定医)及び医療機関等に対し,その能力水準の維持・平準化が図られるよう,講習会,立入検査を着実に実施する。
さらに,航空会社が操縦士の日常の健康状態の把握及び操縦士に対する健康管理に関する定期的な教育などの措置を適切に講じるよう,健康管理部門への監査等を通じて指導・監督を実施した。
6 飲酒に関する対策の強化
平成30年10月末以降,航空従事者の飲酒に係る不適切事案が相次いで発生したことを踏まえ,平成31年1月から令和元年7月にかけて厳格な飲酒基準を策定した。令和5年度においては,前年度に引き続き基準が適切に遵守されるよう,監査等を通じて指導・監督を実施するとともに,操縦士の日常の健康管理(アルコール摂取に関する適切な教育を含む。)の充実や身体検査の適正な運用に資する知識(航空業務に影響を及ぼす疾患や医薬品に関する知識を含む。)の普及啓発が図られるよう,航空会社の健康管理担当者に対する講習会等を通じて指導を実施した。また,令和3年度から2か年度にわたり,客室乗務員による飲酒検査での不正,アルコール検知,飲酒事実の虚偽報告事案が発生したことを踏まえ,飲酒検査体制の強化,アルコール教育の適切な実施(効果測定含む。)及び組織的な飲酒傾向の把握等が図られるよう,引き続き指導・監督を実施している。
7 落下物防止対策の強化
平成29年9月に航空機からの落下物事案が続けて発生したことを踏まえ,30年3月に「落下物対策総合パッケージ」を策定した。同パッケージに基づき,同年9月に「落下物防止対策基準」を策定し,本邦航空会社のみならず,日本に乗り入れる外国航空会社にも対策の実施を義務付けており,本邦航空会社は31年1月から,外国航空会社は同年3月から適用している。また,29年11月より,国際線が多く就航する空港を離着陸する航空機に部品欠落が発生した場合,外国航空会社を含む全ての航空会社等から報告を求めている。報告された部品欠落情報については,原因究明の結果等を踏まえて国として航空会社への情報共有や指示,必要に応じて落下物防止対策基準への対策追加等を実施しており,再発防止に活用している。
8 外国航空機の安全性の確保
我が国に乗り入れている外国航空機に対する立入検査(ランプ・インスペクション)の充実・強化を図るとともに,外国航空機による我が国内での事故や重大インシデント等が発生した際には,必要に応じて,関係国の航空安全当局に対して原因の究明と再発防止を要請している。また,諸外国の航空安全当局との連携を図るために航空安全に係る情報交換に努めている。なお,令和5年度については,新型コロナウイルス感染症に対する水際対策の緩和等により外国航空機の我が国への乗り入れも徐々に増加していることも踏まえ,ランプ・インスペクションの実施回数を増やし,40か国の99社に対し316回実施した。
9 航空交通に関する気象情報等の充実
悪天による航空交通への影響を軽減し,航空交通の安全に寄与するとともに,航空機の運航・航空交通流管理を支援するため,航空気象情報を提供している。航空気象情報の高度化を図るため,令和5年度は,航空機の離着陸に多大な影響を及ぼす低層ウィンドシアー(大気下層の風の急激な変化)を検知する空港気象ドップラーレーダーを鹿児島空港において,空港気象ドップラーライダーを東京国際空港において,それぞれ更新整備を行った。また,航空気象情報の作成に資する数値予報モデルの更なる高度化のため,新しいスーパーコンピュータシステムの運用を開始した。加えて,火山灰に対する航空交通の安全の確保及び効率的な航空機運航に資するよう, 火山上空の風の状況を報じる推定噴煙流向報の提供を令和5年3月から開始した。