第1章 栄典の意義

  1. 栄典とは、国家や社会への長年の功労、あるいは社会の各分野における優れた行いを国家が顕彰する制度であり、このような栄誉を称える制度は洋の東西を問わず広く世界各国に存在している。
    国家には、それぞれ固有の栄誉に関する制度があり、英国のガーター勲章、フランスのレジョン・ド・ヌール勲章をはじめとして、栄典制度は単に表彰のための制度にとどまらず、多くの国においてその国の歴史と文化を象徴するものとなっている。
    我が国の栄典制度もまた、120年余の長い歴史と伝統を有しており、我が国固有の文化としての意義を有するものと言える。現在栄典制度の中核をなしている勲章、褒章の制度はいずれも明治初期に創設されたものであるが、以来、我が国が歩んできた歴史及び国家・社会の発展に尽くした多くの先人たちとともに、栄典制度もまた歩みを重ねてきた。栄典を受章するということには、単に現代において褒められるという意味だけではなく、こうした歴史と伝統を背景としているということに重要な意味がある。
  2. およそ国家というものは、国家・社会に対する人々の無数の貢献により成り立っているものであるが、そのような貢献の中でも特に際立った功労を国家が評価し、顕彰するということは各国共通の制度であり、これを名誉とする伝統的な感覚は世界中の多くの人々に共有されている。 また、勲章制度は、元首等の訪問の機会に相互儀礼叙勲が行われるなど外国との交際儀礼としても重要な役割を果たしている。
    栄誉の体系は国家があれば必ず存在するものであるが、我が国においては、栄典の授与は天皇の国事行為として行われることとされ、天皇と国民を結ぶ役割を果たしている。
  3. そもそも栄典は、国家・公共への功労を国が評価し、その栄誉を称えるものであり、社会に対して、国家・公共の観点から評価されるべきものは何かを示すという役割を果たしている。
    国民の価値観が多様化している現代において、個人が、自律・自助、自己責任の意識とともに他者の存在を認めて思いやる心を持ち、そして社会の構成員としての権利・義務・責任の意識を持つことは、健全な社会が成り立つ上で不可欠である。このような公の精神が広く国民に行きわたる上で、国家・公共への貢献に対し国家がこれにふさわしい評価を行うことには大きな意義がある。
  4. 現在、我が国においては、栄典制度は、毎年行われる春秋の叙勲、褒章の実施等を通じて広く国民の間に定着している。
    多くの受章者が自らの功績が評価されたことに、感激と喜びを感じている。日々公共のために努力を重ねている人々、地域において高い志をもって公共のための活動を行っている人々にとっては、栄典は大きな励みになっており、期待も非常に高い。

栄典は、このような意義を有する制度として、存続させることが望ましいと考える。

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