佳作 【中学生部門】 岩下 唯愛
雨が私に教えてくれたこと
学校法人 九州ルーテル学院 ルーテル学院中学校 二年 |
それは、中学と隣接した大学のチャペルで行われたワークショップ授業の帰り道でのことだった。行き道は、そうでもなかった雨が、地面にバシバシと叩きつけて跳ね返るように降っていた。車椅子ごとレインコートに身を包んだ私と、傘を差した二人の友達は、自分達の教室を目指して、大きくため息ついて出発した。
大学から中学までは、迷路のようになっているので、何回も外と中を出たり入ったりしなければならない。そのため、一人の友達は私の車椅子を押してくれ、もう一人は外から中へ通じるドアを開けて待っていてくれるといった具合に、役割分担をしながら、二人で協力して私の移動を手伝ってくれた。
最初のハプニングは、車椅子にレインコートの裾が巻き込んだことで始まった。私が着用しているのは普通より裾が長いので、動いていると、どうしてもひっかかる。止まる、またひっかかる。その頻度があまりにも多いので、なんだかおかしくなって、前を向いたまま三人で大笑いした。はじけるような笑い声が重なりあって響くのがとても楽しかった。
二度目のハプニングは、保健室を過ぎたところで起こった。
「あ!タイヤがつぶれてる!」
と、一人の友達が叫んだのだ。私は体をねじり、下を見ると、見事にぺちゃんこになっていた。そして、なんと反対側もつぶれていた。これまでパンクしたことは何回もある。でも、両輪は初めてだ。こんな非常事態でさえ、友達が一緒だと笑いが止まらなかった。全然不安にならなかった。とりあえず、自転車用の空気入れ置き場まで行き、空気を入れてみようと試みた。二人が交代交代で、肩を揺らしながら、必死で入れてくれた。すぐに空気は抜けそうになく、パンクではないかも、と教室へ急いだ。その後も、私の心は晴れた日のように明るかった。二人が私のために奮闘してくれたのが、とても嬉しかった。
私には、中学までこのような経験が全くなかった。小学校の時は、特別支援学級に在籍していたので、常に先生に見守られていた。そのような環境は、意地悪されることも、困ることもなく私にとって安心できるものだったが、それ故に、なかなか「友達のような友達」しかできずに悩んでいた。だから、特別支援学級のない中学に入る時、「今度こそ、友達ができるかな」という期待に胸を膨らませていたのだった。
今まで、「一致団結」という言葉は、運動会などで度々耳にしていたが、こんな小さな出来事で、うわべだけで捉えていた言葉の本当の意味が、実感として理解できた。雨の日のハプニングを友達と一緒に乗り越えた私の心は、喜びでいっぱいだった。こんなに小さいけれど楽しい世界があるなんて、小学校時代の私は想像することさえできなかった。
しかし、先生に守られていない分、一つのことに集中していると周りが見えなくなる私の悪い癖が出て、次は移動教室なのに、気が付いたら一人きりになって困ったこともあった。みんなと違う自分を突きつけられたようで、その時は、とても落ち込んだ。でも、そういうことがないと気付けないことも多い。だから、またそれも貴重な学びの機会なのだと、今の私は思うことができるようになった。 私は、雨が大嫌いだった。車椅子を使っている私にとって、雨は、楽しみにしていた外出を諦めさせることもある悪者でしかなかった。しかし、今回の雨の日の出来事で、悪者は私が勝手に作り出したものだったのだと気付いた。もしかしたら、障害も自分で作り出している部分があるかもしれない。それに気付くために、これからも私は自分から人と関わって、どんどん自分の知らない世界に飛び出してゆく。