平成28年度「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」作品集
はじめに
障害の有無にかかわりなく、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現は、我が国にとって大変重要な課題です。
障害及び障害者に関する関心と理解を深め、障害者があらゆる分野の活動に参加することを促進するため、我が国では、障害者基本法により、毎年十二月三日から九日までの一週間を障害者週間と定めています。この期間を中心に、国及び地方公共団体では、民間団体等とも協力をしながら、障害者の自立や社会参加の支援等に資するための様々な取組を行っています。
内閣府では、障害者週間の取組の一環として、各都道府県・指定都市と協力し、障害又は障害者をテーマとした「体験作文」と「障害者週間のポスター」を募集しました。多くの方々から応募をいただきましたことに、心から感謝を申し上げます。
応募いただいた作品は、いずれも、作者の皆さんが障害や障害者というテーマと真剣に向き合い、自らの体験や思いを率直かつ豊かに表現されたものばかりであり、強く感銘を受けました。そして、将来の我が国を担う若い人たちの「共生社会」の実現に向けた大きな力を感じました。
本作品集は、各都道府県・指定都市から推薦いただいた作品の中から選定した入賞作品を収録したものです。作品の募集及び推薦に御協力いただいた全ての方々に厚く御礼を申し上げます。
本年四月には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が施行され、障害者に対する社会全体の意識や取組が大きく動きつつあります。障害のある人もない人も共に生きる社会の実現に向けて、この作品集が、多くの場で、広く活用されることを念願しています。
平成二十八年十二月
内閣府特命担当大臣 加藤 勝信
心の輪を広げる体験作文 審査講評
この催しはテーマが切実なものだけに、どの作品にも胸を揺さぶられ、その中で作品を取捨選択するのはつらい思いをする。毎年のことだが、今年も委員の皆さんのご協力で、すばらしい作品を選ぶことができた。
小学生部門の益田幸奈さんの「やくそく」は、自閉症の兄へのやさしい思いやりが、小学2年生らしい、ういういしい文章で綴られている。家族全員で協力しながら、障害者を見守っているさまが、家族というものの大切さを伝えてくれる。「お兄ちゃんは生まれる前に困難な人生を選ぶことを神さまと約束した」と語るお母さんの言葉も印象的だが、それでは自分はどんな約束をして生まれてきたのかと考える結びの部分がユーモラスで、読んでいてほっとする作品になっている。
中学生部門の常盤美海さんの「妹」も障害を負った家族へのやさしさがあふれた作品だ。ここでは今年、大きな話題になった障害者施設での殺害事件が取り上げられている。障害者の存在を否定する確信犯的な犯罪に対して、ごく一部だがそれに同情する声がネットなどに見られることに対する、鋭い批判が展開される。正論を理屈だけでもっともらしく語る識者とは違って、家族に障害者がいる中学生の、本当に心の底からわきあがってくる悲しみと怒りをつづったこの作品には、多くの読者が胸をうたれるのではないだろうか。
高校・一般部門の山崎嘉通さんの「文字が読める喜び」は、障害者自身による作品だが、この作者は脳性マヒで、手足を自由に動かせない。それでも口にくわえた棒でパソコンのキーボードを打ち、この作品を書かれた。そのことも感動的だが、この作品ではさらに感動的なことが書かれている。困難を克服した作者が、同じ施設にいる言葉が話せず、足しか使えない重症の患者に、その足でパソコンを操作して文字を書くことを教える。この障害者同士の心の触れ合いもすばらしいが、いままで助けられるばかりだった作者が、人を助けることができたという喜びを語る。その大きな喜びが読者にも確実に伝わってくる。
審査委員長 三田 誠広
心の輪を広げる体験作文入賞作品
小学生部門 | やくそく | 宇部市立川上小学校二年 益田 幸奈(山口県) |
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中学生部門 | 妹 | 学校法人創価学園関西創価中学校三年 常盤 美海(大阪府) |
高校・一般部門 | 文字が読める喜び | 山崎 嘉通(鳥取県) |
小学生部門 | 入院生活で得たこと | 大阪市立高殿小学校六年 村田 亜聡(大阪市) |
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未来への一歩をふみ出そう | 千葉市立おゆみ野南小学校三年 川嶋 碧(千葉市) | |
みんなでいっしょにくらしていこう | 神戸市立渦が森小学校二年 田内 湧心(神戸市) | |
中学生部門 | 私=私+障がい | 倉吉市立東中学校三年 石賀 美月(鳥取県) |
「日本では肩身が狭いのよ。」 | 土浦市立土浦第一中学校二年 宮代 和騎(茨城県) | |
希望になりたい~金さんがくれた人の輪 | 学校法人盈進学園盈進中学高等学校二年 北原 匠(広島県) | |
高校・一般部門 | 見えること、見えないこと | 栃木県立盲学校(高等部)一年 八染 まどか(栃木県) |
あの時の思い…そしてこれから | 鈴木 志保(仙台市) | |
私の夢 | 富山県立南砺福野高等学校三年 中村 未来(富山県) |
小学生部門 | 心の声が聞こえる人に | 今治市立立花小学校六年 松川 心優(愛媛県) |
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大ちゃんはスマイルレンジャー | 静岡市立清水岡小学校一年 村松 由唯(静岡市) | |
みんななかよし | 鹿児島市立谷山小学校二年 七菜(鹿児島県) | |
人を救うまほうの言葉 | 加古川市立野口小学校六年 中村 晴菜(兵庫県) | |
お兄ちゃんのこと大好きだから | 熊本市立碩台小学校六年 古川 理絢(熊本市) | |
中学生部門 | 雨が私に教えてくれたこと | 学校法人九州ルーテル学院ルーテル学院中学校二年 岩下 唯愛(熊本市) |
伝わるやさしさ | 大阪教育大学附属平野中学校三年 井上 佳音(大阪市) | |
繋がる | 川口市立南中学校三年 増田 たま(埼玉県) | |
声かけは心がけ | 豊橋市立南陽中学校二年 細谷 泰志(愛知県) | |
私のお父さん | 高松市立国分寺中学校二年 小早川 奈緒(香川県) | |
高校・一般部門 | 後悔の先 | 長崎県立諫早農業高等学校二年 上田 ケイ(長崎県) |
仕事のプロになるために | 愛媛県立宇和特別支援学校高等部一年 田口 裕佑也(愛媛県) | |
頼りにしてくれてありがとう | 青木 寛明(横浜市) | |
夢を諦めない | 元山 歩栞(神戸市) | |
老人ホームのおばあちゃん | 矢野 英希(名古屋市) |
障害者週間のポスター 審査講評
毎年の事ながら、小・中学生の皆さんの創意工夫された作品に出会える期待感と選出する緊張感を胸に審査会場に向えます。
まず、小学生部門の審査から始めます。エーゼルの上に並べられた作品の中に瞬間的に目を引きつけられた作品がありました。それは、本年度の最優秀賞に選ばれた、岡本彩佐さんの作品でした。全体的にソフトなタッチで底抜に明るく、ユーモラスに描かれた、人物や花々の表現が、ポスターの素材として大きな効果をあげていました。優秀賞の久間田奏さんの作品は、的確な線と赤と白の色彩を、効果的に生かしたなかなかの秀作です。
佳作の小泉芽絵さんの作品は、元気のいいタッチで描かれた人物像がとてもいいリアル感を出しています。伏見佳乃さんの作品は、点字ブロックを中央に、そこに置かれた障害物がカラフルに表現され楽しい作品に仕上げています。秋田直輝君の作品は、シンプルな構図と色使いがうまくマッチしたとてもいい効果をあげています。柴里桜さんの作品から、ランナーの躍動感と多彩に色どられた色調からグランドの歓声が伝わってきそうな作品です。明さんの作品はランナーのゴールインをのびやかな線と色彩がユニークです。
中学生部門の最優秀賞の榎本雛さんの作品は、バスケットをモチーフにした、迫力のある構図と洗練された色使いが効果的で、完成度の高い作品です。優秀賞の小山田航佑君の作品は、車椅子を思い切ったアングルでトリミングした図柄と色使いと共に迫力あるポスターに仕上げています。佳作の平石美衣奈さんの作品は、対角線にランナーを入れ、ダイナミックな効果をあげた力強い作品です。那須功政君の作品は、グリーンの太い枠にかこまれた画面の中に表現された、ユーモラスな人物と可愛い花が不思議なコントラストの興味深い作品です。中島のぞみさんの作品はデジタルで制作された作品だと思います。球体を効果的に生かしています。清水佳歩さんの作品は、画面を大きく分けて、ふたつのモチーフを、こまやかに表現しています。菅花音さんの作品は伴走者とのゴールインする選手を明るい色調で生々と表現しています。
以上佳作までの作品を短評させていただきましたが、ここに掲載されなかった作品の中にも数多くの卓越したものを見受けられ、選出の難しさを改めて感じさせられました。
本年度は、昨年度より応募総数がアップしたとのこと、私共にとっても嬉しい限りです。
更に来年度に期待を込めて「障害者週間」にすこしでも関心が高まることを願って。
審査委員会委員 篠崎 三朗
障害者週間のポスター入賞作品
最優秀賞
小学生部門 | 中学生部門 |
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(徳島県) 徳島市加茂名南小学校1年 おかもと ささ 岡本 彩佐 |
(さいたま市) さいたま市立大成中学校一年 えのもと ひな 榎本 雛 |
優秀賞
小学生部門 | 中学生部門 |
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(群馬県) 太田市立沢野小学校四年 くまだ かなで 久間田 奏 |
(山形県) 河北町立河北中学校三年 おやまだ こうすけ 小山田 航佑 |
佳作
小学生部門 | ||
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(千葉市) 千葉市立蘇我小学校四年 こいずみ めえ 小泉 芽絵 |
(福岡市)学校法人福岡雙葉学園福岡雙葉小学校四年 ふしみ よしの 伏見 佳乃 |
(堺市) 堺市立東深井小学校二年 あきた なおき 秋田 直輝 |
小学生部門 | |
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(浜松市) 浜松市立葵西小学校六年 しば りお 柴 里桜 |
(大阪府) 河内長野市立長野小学校五年 わたなべ あかり 明 |
佳作
中学生部門 | ||
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(神奈川県) 二宮町立二宮西中学校三年 ひらいし みいな 平石 美衣奈 |
(宮崎県) 宮崎県立明星視覚支援学校三年 なす こうせい 那須 功政 |
(徳島県) 徳島市徳島中学校三年 なかしま のぞみ 中島 のぞみ |
中学生部門 | |
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(奈良県) 奈良県立ろう学校二年 しみず かほ 清水 佳歩 |
(香川県) 三豊市立豊中中学校一年 すが かのん 菅 花音 |
編集後記
内閣府では、障害者施策における啓発広報の一環として、毎年、都道府県・指定都市との共催で「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」の募集を行っています。今年は、作文では小学生部門六二四編、中学生部門二、五二七編、高校生・一般部門五九五編の合計三、七四六編、また、ポスターでは小学生部門五六〇点、中学生部門九〇八点の合計一、四六八点の応募があり、作文とポスターの応募者数を合わせると延べ人数で五、二一四名の方に応募していただきました。各都道府県・指定都市をはじめ、関係機関・関係者の方々に積極的に取り組んでいただき、御協力いただいた結果であり、厚く御礼申し上げます。
応募作品のうち、各都道府県・指定都市から推薦のあった作文及びポスターについて、審査委員会(三田誠広委員長)において審査いただいた結果、全体で最優秀賞五作品、優秀賞十一作品、佳作二十五作品の計四十一作品を入賞作品として決定いたしました。
本作品集は、これら四十一(作文二十七編、ポスター十四点)の作品を掲載したものであり、推薦のあった作品については、参考資料の中で作者・学校名等を一覧表で掲載しました。
障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会の実現を図るためには、各種施策の進展とともに一人一人の「心の壁」を取り除いていくことが極めて重要です。
本作品集が学校、職場、地域など様々な場において多くの方々にご覧いただき、「心の輪」を広げ、障害のある人への理解と関心がさらに深められることの一助になることを念願しています。
内閣府 政策統括官(共生社会政策担当)付
障害者施策担当