優秀賞 【中学生部門】 宮代 和騎

「日本では肩身が狭いのよ。」

 

土浦市立土浦第一中学校 二年
みやしろ かずき
宮代  和騎 (茨城県)

僕はこの夏、両親とカナダに住む友人家族を訪ねた。バンクーバーとカルガリー、そしてバンフという町でロッキー山脈を見に行った。アメリカはもちろん、ヨーロッパやアフリカ、アジアの人たちが集まり、僕は少し、怖いと感じてしまった。いろいろな人種の人が、いろいろな言葉を話し、ジェスチャーも大きくて、表情も激しく変わるし、大声を出す人も多かったからだ。

しかし、バスに乗ろうとした時に、その印象が一変したのだ。十人くらいの行列ができていた。杖をついていた女性が行列の後ろに立っていて、遠慮しているように見えた。僕はそれに気づいたけれど、自分の番になったら乗り込もう、運転手さんに英語で挨拶しなくちゃ…と考えながら待っていただけだった。すると、ガムをクチャクチャかんでいた黒人の若い男性が、僕をいきなり後ろへ引っぱった。その手には大きな指輪や入れずみがありてっきり乱暴なことをされると思ってしまった。助けて欲しくてまわりを見ると、金髪の派手な服装の女性や、かなり高齢に見える白人男性も、僕を引っぱった。驚いていると、バスの入口の前の人ごみがスッと分かれて、みんなが一番後ろの女性を支えて、バスのステップに上がれるようにしてあげていた。その女性は、何度も「サンキュー」と言って、笑顔でバスに乗り込んだ。その後に僕も乗り込み、さっき、自分が人を『見かけ』で判断してしまったことを後悔していた。そして、バスがなかなか発車しないことを不思議に思い、奧の方を見回した。

バスの中は混んでいたが、その女性が進んだ先が、またスーッと道が開いて、折りたたまれた座席を、近くの黒人の人や白人の人が女性が座れるように準備していた。僕は思わずそれに手を貸していた。その女性がその席に座れるまで、バスは動かずに待ってから、静かに出発した。

バスが動き出すと、その、杖をついた女性が僕に話しかけた。

「日本では、肩身が狭いのよ。」

僕が日本人だとわかったようだ。その女性も日本人だった。

「日本って急いでる人が多いのかな。私みたいな者は、迷惑そうな目を向けられて、早くしてよ、と言われているみたいで。電車やバスに乗るのは用事の時だけ。旅に出るなら海外の方が逆に気楽。急かす人も少ないし。」

僕は恥ずかしい気持ちになった。確かに僕も、杖をついた人を自然に支えようとか、スマートな行動はできずにいた。全員乗ったバスは、すぐに扉を閉めて急な発進をすることに慣れていた。その気持ちが伝わったのか、その女性は、

「でも、周りの人が助けてくれていた時、手伝ってくれたね。」

と、笑ってくれた。少し救われた気がした。

この初めての海外旅行を通して、僕は、自分自身もいろいろな偏見を持ってしまっていたことに気づいた。『この国の人はこんな人』…と、イメージを持ってしまっていた。そして、『国内より海外の方が旅行しやすい』と思う、障がいを持つ日本の方がいることにも初めて気づいた。そういえば、この旅行中、高山にも氷河にも滝の近くにも、たくさんの車いすの方が旅していたことも印象的だった。

日本は平和で便利で優しい国だと信じきっていたので、ショックだった。でも、あの女性が、最後に、

「でも、三十年前より、バリアフリーは進んでいるよ、確実に。」

と、話してくれた。この旅で感じたことや、体験したことを、いろいろなところで、いろいろな人に伝えていこう。すぐに大きなことはできなくても、伝えていくことで、何かにつながるかも知れないのだ。