【一般区分】 ◆佳作 菅原 ルミ子(すがわら るみこ)

ゆっくりでいいよ菅原 ルミ子(札幌市)

「三才児健診の前に少しお話ししたいことが……。」と保育園の担任の先生に呼ばれたのは六月の晴れた息子の三才の誕生日の一カ月前のこと。あまり良いことではないだろうと思いながら仕事の昼休みに保育園へ向かった。初め保育園での普段の様子を笑顔混じりで話してくれていたが途中から「公園でお友達に砂をかけてしまったり、しかられてストレスがたまると砂を口に入れてしまうことがある。落ち着きがなく集団で何かすることが難しい。

視線が合わないことがあったり、片目でみたりテレビにぴったりくっついてみたりと視力も気になる。一番気になるのが言葉の理解で会話のキャッチボールが上手くいかない。」等など先生達がみて息子の気になる点を伝えられ、最後に「発達の方で何か問題があるかもしれません。三才児健診の時に詳しく聞いてきて下さい。何事も早めに対応することが大切だと思いますので……。」と一時間程の面談が終わった。

自分の子供が発達障害かもしれない……。ショックじゃないと言ったら嘘になるが信じたくない反面、思い当たることも多々ありトボトボと職場に戻った。

その日の午後、今度は「看護部に来て下さい。」と内線が入った。産休明けで現在の病棟に配属になって二年…。〝異動かな?〟と緊張しながら副看護部長と面談。

「異動ですか?」とおそるおそる聞くと「違います。リーダーをお願いしようと思って来てもらいました。」と昇格のありがたいお話だった。

五年前にただの派遣社員で入って、三年前に正社員に上げてもらっただけでも感謝だったのに今度は管理職……。神様は課題とごほうびを同時にくれたんだなぁと複雑な気持ちになったものの「頑張ります!」と二つ返事で快諾した。

今年三十八歳、介護の仕事にたずさわって十七年、バツ二回、シングルマザーになって二年……。人生色々なことが起きるなぁ……本当に。

仕事柄〝個性があって当たり前〟〝みんな違ってみんな良い〟〝障害があろうがなかろうが、生まれながらでも後天的でも関係ない。その人はその人だけ〟と思いながら過ごしてきた。

しかし自分の子供のことになった時、〝個性〟と分かっているつもりでも疲れていたり心が淋しい時だと頭の中では納得していても心が納得できない時があり涙することもあった。

それから一ヵ月して保健センターに健診に行くと受付の人や先生、心理士さんに「お母さん大変そうですねぇ」と言われ〝やっぱり大変だったんだなぁ……〟と思ったらまた涙が出た。

すぐに精神科と眼科に紹介状を書いてもらった。眼科はすぐに見てもらえたが発達の関係で説明しても理解が難しい息子には一つ一つの検査が大変だったが、眼科の先生も理解のある方でゆっくり慣れてもらう所からにしましょうと言ってくれた。

精神科はとても混んでいて一番早くて四ヵ月後に予約した。自分をだましだまし過ごし怖い気持ちとはっきりさせたい気持ちで四ヵ月後精神科のドアをたたいた。

一時間程の生まれた時から現在までの聞き取りと、その日の息子の遊ぶ様子、先生や私とのやりとりをみてすぐに「自閉スペクトラム症」と診断がついた。

もうその時には色々調べたりしていたので点と点が線になる感じがした。

どんな子であろうと私を選んで私の所に生まれてきてくれた息子を沢山の愛情で育てよう!と気持ちはすぐに前を向いた。

それからは精神科の先生の言う通り「成功体験をたくさんさせてほめてできることを増やす」を実現するためにハードルを低くたくさん準備してどんどんほめた。

保育園の先生も息子としっかり向き合ってくれ集団行動が難しい時は別の部屋で絵本を読んだり息子の気持ちが準備できるまで一緒に待ってくれたり個別に対応してくれている。

スローペースではあるものの日々成長を感じられる保育園は頼もしい場所である。息子の通う保育園は母体が病院の院内保育から広がったものなので預けている人も医療人。成長の差が出やすい運動会や学芸会で息子は私の席まで走って来てしまったり演技中も走ったり落ち着かず私だけひやひやしているものの周りは誰も振り返ったりせず〝理解のある無視〟で嬉しい気持ちになった。

息子が成長するということは他の子供達も成長するので新しいクラスに上がった時に着替えボックスにチラチラ見えていた紙オムツが現在は息子の所にしか入っておらず焦りを感じることも時々あるが発達障害のある子はトイレトレーニングもゆっくりめだと聞くので息子のタイミングを待とうと思う。

先日初診から半年経ち2度目の精神科受診に行ってきた。息子の出来るようになってきたこと、家や保育園での様子を伝えると放課後デイサービスでの療育の検討と気持ちが落ち着くようにと漢方薬の抑肝散を処方された。

漢方は苦くて飲みにくいと思い少量のお湯で溶かしコーヒー牛乳に混ぜて朝と夕食時に飲ませているが四歳の小さな子に毎日薬を飲ませることに後ろめたさがないわけではない。

薬でドロドロに息子を抑えこみたいわけではなく、ただただ息子の人生を楽しんでもらいたいだけ。一日の大半を過ごす大好きな保育園でみんなと仲良く交流できて誰かを傷つけたりせず楽しく過ごしてもらいたい。人を好きになって、好きにもなってもらいたい。

いつも優しく全力で愛情を向けてくれる息子。私の所に来てくれてありがとう。親が子の鏡なら、その笑顔が続くよう私も毎日笑顔でいよう。毎日手をつないでゆっくり歩こう。道も人生も。