【高校生区分】 ◆佳作 徳山 幸恵(とくやま さちえ)

相手の気持ちを考える徳山 幸恵(関西創価高等学校2年 大阪市)

私の中学校の体育大会では、毎年、2年生は学年種目として男女別の「筏流し」をやることになっています。「筏流し」とは、人が一列に馬跳びのような体勢で筏として並び、その上を一人の船頭役が渡り、その速さを競います。筏が並ぶスピード、船頭と船頭の手を取りながら誘導する人とのコミュニケーションが重要なポイントです。

私は、体育委員として船頭役の人を決めることになりました。船頭は背中の上を走るため、小柄な人にしなければなりません。クラスの皆と相談した結果、船頭役はクラスで一番小柄な子に決まりました。知的障がいの女の子です。その子は明るくかわいらしい子ですが、たまに精神が不安定になると、大きな声で騒いで物に八つ当たりしたり、触ると「やめて!」と叫んだりします。不安もありましたが基本的には何でもできる子なので、私が誘導をするという条件で決まりました。

いざ練習になると、つきものですが、体勢のきつさから何度も筏が崩れてしまいました。その上を渡る船頭も落ちてしまい、始めは「頑張るよ!」と意気込んでいたその子もやる気を失くし、ついには泣きながら「もうやりたくない!」と言って練習をやめてしまいました。他のクラスが練習する中、私のクラスだけ強制終了。練習を再開しても、その子の為に何度も中断してしまいます。クラスの雰囲気も悪くなってしまいました。私も正直、少し転ぶだけで拗ねて泣いてしまうその子にイライラしていました。結果、船頭は別の人へ交代。私は、その子と腕を組んで二人一組で筏をやることになりました。「いち、に」と声掛けしながら練習を重ねていくうち、その子が疲れてきて、また転けてしまいました。私が「もう休む?」と聞くとその子は「皆の為にもまだ頑張るよ!」と答えました。その時、私は、はっとしました。その子は今までなら泣いてしまう所をぐっと我慢し、その子なりに必死に頑張っていたのです。なのに私はその努力に気付かず、今まで皆のペースに合わせようと無理矢理に引っ張り、その子の気持ちを考えていませんでした。本当に申し訳なく思いました。それからは、一番にその子を応援し、より添う存在であろうと決意し「めっちゃ良い感じやで!」とか「よう頑張ってるよ!」などの声掛けを始めました。

また、普通は順番通りに並んでいくのを、その子が落ち着いたタイミングで列に入れるようにしました。不規則なので、スムーズに筏の列ができるようになるまでかなりの時間が掛かりました。しかし、クラスの皆の理解と協力もあって、練習を重ねていくうちにどんどん良くなっていき、その子も笑顔で楽しんで取り組めるようになっていきました。

迎えた本番、私のクラスは、様々な苦難を乗り越え、なんと2位に輝くことができました。クラス皆で一致団結して得た結果は、最高に誇らしいものでした。

一番嬉しかったことは、その子が私の方へ真っ直ぐに走ってきて、ハイタッチしてくれたことです。その時の笑顔は今でも忘れられません。「嬉しいね!徳山さんのおかげで今まで頑張れたよ!本当にありがとう!」と言われた時は本当に嬉しかったし、一緒に頑張ってくれて、私に大切なことを教えてくれたその子に感謝の思いでいっぱいになりました。

この体験から私は、障がいを持つ方の気持ちを真剣に考え、受け止めることの大切さを知りました。自分の基準で考えるのではなく、その人なりに伝えようとしていること、思いを理解することです。これは簡単であるが故に、実践するのが難しいことだと思います。だからこそ、全ての人が少しでもこれを意識していくことで心の壁、差別は無くなると思います。障がい者といっても人間と人間であることは変わらないからです。だから私は、障がい者の方はもちろん、障がいの有無に関わらず、人の気持ちを真剣に考えるという根本を忘れず、人生を生きていきます。