【中学生区分】 ◆佳作 藤咲 葉月(ふじさく はづき)
理解と勇気と思いやり藤咲 葉月(水戸市立内原中学校2年 茨城県)
私はある日、一人のおじいさんと出会った。春休みの東京で、電車に乗っていたときだった。車内はとても混んでいたが、空いている席を見つけたので、母と弟と一緒にそこに座っていた。
何駅か先で止まると、おじいさんが乗ってきた。おじいさんに気がつくと、母は「ここ、座ってください。」と言って、そのおじいさんに席を譲った。おじいさんは、「ありがとうね。」と笑って私の隣に座ると、「実は私、心臓の病気があるんだ。」と言った。一見元気な人と全く変わらないので、全然気がつかなかった。おじいさんは、「見た目だと分からないから、これ持ってるんだ。」と言って、赤地に白い十字とハートが描かれたカードを見せてくれた。それはヘルプカードというもので、私もこのマークに関するニュースを目にしたことがあった。その後、私達とおじいさんは仲良くなり、短い時間だったが、いろいろな話をして楽しく過ごすことができた。
家に帰ってから、ヘルプカードのことについてもっと詳しく調べてみた。ヘルプカードは、東京都によって作成されたヘルプマークのデザインを用いて作られていて、おじいさんのように障害や病気で援助や配慮を必要としていることが外見では分かりにくい人が援助を得やすくするためのマークである。配布場所は市町村によって異なるが、主に役所などで無料で配布されている。茨城県では県としては配布していないが、一部の市町村では配布されているところもあるそうだ。
ヘルプマークを持っている人を見かけた場合、私達はどうすれば良いのだろう。配布している市町村のホームページを見てみると、『電車やバスで席を譲る、駅や商業施設での配慮、災害時の声かけなどをして欲しい』と書かれていた。私の弟は自閉症で、急なスケジュールの変更があったときなどに大声を出してしまうことがある。外出先で弟が騒ぎ出してしまったとき、両親が弟を落ち着かせたり、周りの人に事情を説明したりしているのを見ると、
「弟が一人でいるときにこんなことになったら、どうするんだろう。」
と思っていた。弟がヘルプカードを持っていれば配慮が必要なことを周りに知らせることができる。また、内側には緊急連絡先や必要な支援内容を書くことができるので、周りの人に対処方法を伝えることができて便利だな、と思った。
しかし、便利な反面、ヘルプカードを利用した問題も起こっている。例えば、妊娠初期でヘルプカードをもらったが、出産して必要なくなった人がフリマアプリやオークションサイトで高額で転売していることがある。東京都は、ヘルプカードの販売を認めていない。ヘルプカードは、自分が楽をしたり利益を得たりするために使うものではない。ヘルプカードを持っている人を見かけたらどうする、ということに目が行き過ぎて、何のために作られて、どんな人がどういう理由で使っているのかを忘れている人も多いのではないだろうか。
世の中には、支援が必要な人が周りの人からの配慮を得るために作られたマークがたくさんある。そういったものの意味だけでなく、その人は何のためにそのマークを使っているのかを理解する必要があると思う。そして何よりも大切なのは、マークを使っている人に思いやりと手を差し伸べる勇気をもつことだ。私達とおじいさんのように、お互いが気持ちよく過ごせる瞬間が増えれば、マークを使っている人にとってもっと過ごしやすい世の中になるのではないだろうか。