【中学生区分】 ◆優秀賞 服部 嵯介(はっとり さすけ)

兄ちゃんの想いと役目服部 嵯介(大村市立西大村中学校2年 長崎県)

四年前「心の輪を広げる作文」に出会った。小学五年だった僕は中学二年となり、障害を持つ妹は年長から小学三年になった。

今日も、いつものように僕は妹と登校している。中学校と小学校が近いので、中学を卒業するまで妹を見守り続けたい想いの一つである。妹は登校中も周りの人に「おはよう」と挨拶する。中学生の女子といきなり手をつないだり話しかけたりもする。皆、最初は驚くが、いつの間にか友達のようにおしゃべりする。この積極的なコミュニケーションは、誰にも真似できない特技であり、周りを笑顔にするパワーにもなる。妹と学校生活を送った事がある生徒達は、妹の特徴を理解してくれて仲良く接してくれるので、これからも変わらないでほしいと願う一つである。

しかし、妹のことをまだよく知らない低学年生の中には、妹を避けようとする生徒もいる。ある日、登校中いつものように妹が周りの子に「おはよう」と声をかけると逃げ出す子達に会った。「もしかして、妹はいじめにあってるのか。」と気になり、逃げていた子達に近づくとやはり、「逃げろ」と言って妹から離れていく。その瞬間、僕達と一緒に登校している友達が追いかけていき、その低学年生に「なんで逃げるとさ」と問いかけてくれた。残念ながら、その低学年生達はバッグで僕の友達を思いっきり叩いて逃げていった。「大丈夫?」と声をかけると友達は「さっちゃんをいじめたら許さん。」と真剣に怒っていてその姿に嬉しさを感じながらも少し笑えた。なぜかというと、その友達も妹と出会ったばかりの頃は、妹の積極的な態度に圧倒され一言も話さず体が固まっていたことを思い出したからだ。僕と妹の周りにいる友達は、ほとんどこんな感じで変わっていった。それは、僕達兄妹と一緒の時間を過ごしてくれたことにより、妹の障害も理解してくれて、それが特別ではない事を日々の生活の中で浸透していったのだと感じる。彼らは、きっと妹以外の障害者に出会っても障害者という偏見や壁を作らないで普通に接してくれるだろう。

やはり、僕は逃げていった低学年生にも妹の事を知ってほしいと思い追いかけた。「妹は、皆と仲良くなりたいだけ。もし、仲良くなりたいと思う人が自分から逃げていったら、どんな気持ちになるか考えてみて。」低学年生にとって中学生に言われたら怖いだろうなと思いながらも、どうしても伝えたかった。それが障害を持つ人の側にいる僕の役目だと思ったからだ。相手の気持ちを思いやることに低学年も大人も関係ないし、障害があるないも関係ないだろう。この低学年生も妹と一緒の時間を過ごしてくれたら、障害の事も妹の事も特別ではないとわかってくれると信じたい。ある日、この低学年生達は「さっちゃん、おはよう」と声をかけ照れくさそうに走り去っていった。妹も追いかけた。少しずつ心の距離を縮めてくれて、僕の役目も少し意味あるものになっているかな・・・。

障害を持つ人が特別であるという偏見がなくなれば、過ごしやすい社会に近づくだろう。障害を持つ人に歩み寄ってくれたら、言葉では表現できない感じる気づきがあるだろう。

きっと、妹と関わり合ってくれた人達は、どこかで障害を持つ人と出会っても「皆、違って皆いい。」と自然に感じてくれるだろう。

「妹へ」兄ちゃんが一緒に登校できるのは、残り一年と少し。さっちゃんと離れる日が一日一日近づいている。だから、兄ちゃんは一人でも多くの人に「皆、違って皆いい」を伝えていくから。妹は、変わらず人とつながる笑顔で挨拶し続けてほしい。四年前、ここで誓った「皆の思いやりが集まったら、大きな一つの輪になる。その輪は、どんな人でも優しく包んでくれる。」そんな社会になるように、この輪をもっと広げていこう。兄ちゃんの役目は、まだスタートしたばかりだ。