【中学生区分】 ◆優秀賞 椎原 温人(しいはら はると)

「少しずつ、ゆっくりと」椎原 温人(神戸市立湊翔楠中学校3年 神戸市)

僕の兄は、高校三年生で特別支援学校に通っています。自分では学校に行けないので、毎朝お母さんが連れて行っています。三歳の頃、病院で「重度の知的を伴う自閉症」と診断されたそうです。兄は、見た目だけでは、障がいがあるなど全く分からないけど、一つひとつ何をするにも行動が大きく、体を前後に動かしたり、手をパチパチと叩いて大きな音を出したり、声がとても大きいので目立ちます。そのため、家族で出かけたとき、みんなから注目されます。その度に、
「そりゃ大声出したらみんなびっくりして見てくるに決まっとるわ。気にしたらあかん。」と両親が言っています。僕は、それが嫌なので、人目を気にして離れて歩いてしまっているときがあります。

僕が小さい頃は、兄がみんなとは違うなんて全く分からなかったし、気にもなっていませんでした。しかし、だんだん大きくなって両親に聞いたりしていくうちに、その意味が分かってくるようになりました。だけど未だになかなか受け入れることができずにいる自分がいます。突然パニックになって、泣き出したり怒ったりするときがあるので、僕にはどうしたらいいのか分かりません。しばらくすると落ち着き、何が嬉しいのか急に笑ったりする兄です。

ある日、僕は友達とお祭りに行く約束をしていて、両親に、「お兄ちゃんも行くん?連れて来んといて。」と言いました。すると、お母さんは悲しそうに笑って、「わかった。行かへんから楽しんでおいで。」と話してくれました。僕はその時のお母さんの顔が忘れられません。障がいのある兄のことが恥ずかしい、隠しておきたいという気持ちが強かったので、その時は何も考えずに言ってしまったのです。今思えば、どうしてそんな酷いことを言ってしまったんだと後悔しています。

小学五年生の弟は、僕とは違って特に気にしていないのか、「お兄ちゃんは頑張ってるねんで。」とよく笑顔で話しています。本当に優しい弟です。なのに僕は、きついことを言ってしまったり、理解することができないなんて情けないです。

兄は言葉は話せないけど、自分の気持ちを伝えようと一生懸命頑張っています。少しずつ、ゆっくりだけど、できることが増えたりしています。この先も、家族全員で支えていかなければいけません。今回、この作文を書くことを、正直とても悩みました。しかし、書くことによって僕自身の気持ちを変えないといけないと思ったのです。兄もきっと辛いはずです。そんな時は、僕がちゃんと目を見て、ゆっくり優しく話そうと思います。だって、僕はお兄ちゃんの弟だから。

世の中には、兄のような障がいを持つ人や、他にも様々な障がいを持つ人がいます。家族の僕ですらそうだったのだから、周りからはもっともっと理解されないことでしょう。しかし、僕たちがそうであるように、みんなそれぞれのペースで、それぞれの人生を頑張って生きています。僕は、そのことをもっとたくさんの人たちに分かってほしいと思っています。